【読書記録 -115】知識創造企業
プロローグ
ああ、そうだ。
この分厚い本…『知識創造企業』を買った理由を思い出した。

以前、入山章栄氏の『世界標準の経営理論』を読んで、その中に書かれていた「SECI(セキ)モデル」がめっちゃ気になったのだ。その「SECIモデル」を深堀りしようと思って本書をAmazonでポチったのだが、435ページの分量に気後れして3か月ほど書棚の飾りになっていたのさ。
SECIモデルとは、共同化:Socialization、表出化:Externalization、連結化(Combination、内面化(Internalization、の英単語の頭文字を取ったもので、この4つのプロセスを循環させることによって「暗黙知」を「形式知」に変換させ、組織の知識レベルを向上させようという理論だ。
著者紹介
野中郁次郎: 一橋大学名誉教授。カリフォルニア大学バークレー校特別名誉教授。日本学士院会員。元組織学会会長。知識経営の生みの親として知られる。
竹内弘高: ハーバード・ビジネス・スクール教授。マーケティングと知識経営の接点を追究し、日本企業の強みをグローバルに発信し続けている。
日本企業の強さの本質とは
遡ることおよそ60年。
日本企業は輸出競争力で強みを発揮していた。
その原動力となったのは、個人の経験や勘に基づく「暗黙知(言葉や図解で説明しにくい主観的な知識)」を、組織全体で共有可能な「形式知(言葉や図解で説明可能な客観的な知識)」へと絶えず変換し、新たな「知」を創造し続けるプロセスだった。
当時、この「知識創造(ナレッジ・クリエイション)」のメカニズムが、世界を相手に戦える武器だった。新たな「知」を創造することによって、過去の成功体験を引きずらず、組織を継続的に自己更新させることができたのだ。
SECIモデルと日本型イノベーション
日本型イノベーションの再定義
欧米型の経営学では、組織を「情報を処理する機械」と捉える傾向が強い。一方、SECIモデルでは組織を「知識を創造する実体」と再定義している。
いわば、SECIモデルは「日本企業特有の現場力や人間関係を強みに変える理論的枠組み」なのだ。
SECI(セキ)モデル:知識変換の4つのモード
組織的な知識創造は、以下の4つのモードが連鎖するスパイラルによって実現される。
共同化(Socialization): 暗黙知から暗黙知へ。→ OJT(On-the-Job Training:職場内訓練)などを通じて、身体感覚や経験を直接共有する。
表出化(Externalization): 暗黙知から形式知へ。→ 比喩やコンセプトを用いて、言葉にできない主観的イメージを客観的な言葉や図解にする。
連結化(Combination): 形式知から形式知へ。→ 異なる形式知を組み合わせて、より体系的な知識(ナレッジベース)を構築する。
内面化(Internalization): 形式知から暗黙知へ。→ マニュアルや理論を実践することで、個人のスキルとして体得する「行動による学習」を指す。
松下電器の「ホームベーカリー」開発の事例
本書の中には、このSECIモデルの好例として「松下電器産業(現パナソニック)のホームベーカリー開発」のエピソードが掲載されている。
ホームベーカリー開発チームは、当初プロの職人が作るパンの質を再現できなかったそうだ。そこで、開発のメンバーがホテルのチーフベーカーに弟子入りすることによって、職人の「こね」の技術を共同化(Socialization:暗黙知から暗黙知へ)すること成功した。そして、その動きを機械の仕様へと表出化(Externalization:暗黙知から形式知へ)させることができた。
さらに、その「共同化」→「表出化」を元に製造されたプロトタイプに、連結化(Combination:形式知から形式知へ)による新しい技術体系が追加投入され、製品として発売されることになった。そして、この困難な開発をやり遂げたエンジニアたちは、その経験を内面化(Internalization:形式知から暗黙知へ)することによって、自信を持って次のプロジェクトに取り組むことができたそうだ。
SECIモデルの最大の強みは「個人の暗黙知(言葉にならない技術や思い)を抽出し、それを形式知(具体的な製品や資料)に変換するということだけでなく、そこから得た成功体験を組織全体の新たな知識として波及させ、イノベーションの連鎖(知識のスパイラル)を生み出せることなのだ。
組織の知識的構造とマネジメントの役割
知を加速させる「ハイパーテキスト型組織」
著者は、組織が新しい知識を効率的に「獲得」→「創造」→「活用」→「蓄積」する能力を最大化する方法として「ハイパーテキスト型組織」を構築することを提唱している。
ハイパーテキスト型組織とは、知識を連続的かつ効率的に創造・蓄積するために、伝統的な「ビューロクラシー(階層型組織)」の効率性と、「タスクフォース(任務組織)」の柔軟性を統合した新しい組織構造のことだ。
この組織は、以下の異なる役割を持つ3つのレイヤーで構成される。
プロジェクトチーム・レイヤー(最上層) 複数の部署から集められたメンバーが(製品開発などの)知識創造活動に集中的に従事するタスクフォースの層。ここでは、対話や経験の共有といった「共同化」と「表出化」によって新しい知識を創造する。
ビジネスシステム・レイヤー(中間層) 日常のオペレーション業務を効率的に行うための、伝統的なピラミッド型の組織構造の層。ここでは「連結化」と「内面化」によって知識を効率的に実践・活用・蓄積する。
知識ベース・レイヤー(最下層) 上の2つのレイヤーで創出された知識を再分類・再構成し、蓄積をする層。このレイヤーは現実の組織実体ではなく、企業の組織ビジョン、組織文化、技術などのナレッジといった形で存在する。
メンバーは、通常はビジネスシステム・レイヤーでオペレーション業務に従事し、必要に応じてプロジェクトチーム・レイヤーに招集される。プロジェクトが完了すると、メンバーは知識ベース・レイヤーで成果を文書化・分析し、新たな知識として蓄積したのちに、再びビジネスシステム・レイヤーへと戻ることが理想だ。
それによって、ビューロクラシーの持つ「安定性」とタスクフォースの持つ「機動性」のいいとこどりができ、且つダイナミックに知識創造のサイクルを作り出せる。
「情報処理」から「知識創造」へ
欧米型の知識共有(=組織編制)に対するアプローチは「形式知・個人・精神(分析)」を重視する傾向があるが、日本では「暗黙知・グループ・身体(体験)」を重視する傾向がある。
現代の日本は、その2つの潮流が程よいバランスでミックスしているように感じる。今こそ日本企業は「形式知」と「暗黙知」の2つを(二項対立として排除し合うのではなく)相互補完的なものとして統合することを目指すべきなんだろう。
参考リンク集
・一橋大学ビジネススクール:著者プロフィールページ
・Amazon『知識創造企業』書籍紹介ページ
