【読書記録 -77】斎藤孝が読む カーネギー「人を動かす」
権威ではなく「影響力」で組織を牽引する技術
中小企業の経営において、社長の「正論」が必ずしも社員を動かすとは限らない。むしろ、正論を突きつけるほど組織が硬直化する。
そんな現象に悩むリーダーは多いだろう…
デール・カーネギーの『人を動かす』の帯には、「社会人として身につけるべき人間関係の原則を具体的に明示して、あらゆる自己啓発本の原点となった不朽の名著」と書かれているが、ボクはこの本を「自己啓発本」のカテゴリーに入れていない。
この本に書かれているのは「リーダーシップ論」だ。
ボクはそう思っている。

しかし、カーネギーの『人を動かす』は、90年も前に書かれた本だ。この本の内容は当時のアメリカ社会を背景にしており、人名や地名を引用しながら物語のような語り口で進んでいく。だから現代の日本人にスッと入ってこない部分が多い。
そこで、ボクがお勧めしたいのが、
『斎藤孝が読む カーネギー「人を動かす」』だ。

現代版『人を動かす』の読み解き方
本書の著者 齋藤孝は、1960年静岡生まれ。
東京大学法学部卒で現在は明治大学文学部の教授だ。
『身体感覚を取り戻す』(NHK出版)で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』(毎日出版文化賞特別賞、2002年新語・流行語大賞ベスト10、草思社)がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームをつくった人物である。
著者の手によって、難解な古典的名著『人を動かす』は現代のビジネス現場に即した行動原則へと翻訳されているが、それは決して目新しいものではない。原書と本書を比較してみれば、いつの時代も最良なリーダーシップは「支配型」ではなく「共感型」なんだと気付くだろう。
リーダーの一言が一気に組織の士気を向上させることもあれば、一瞬で場が冷え込むこともある。カーネギーが説くリーダーシップの原則は、相手を操作する術ではない。相手が自らの意思で「この人のために働きたい」と思わせる環境構築の術なのだ。
リーダーシップを支える30の原則
本書の核心は30に上る原則だ。
カーネギーはその30の原則を4つの目的に分類し、整理している。
1. 人を動かす3原則(リーダーの基本姿勢)
批判、非難もしない。苦情も言わない。:批判は相手の防御本能を呼び起こし、自尊心を傷つける。改善を望むなら、非難ではなく現状分析に徹するべきである。
率直で、誠実な感謝を伝える。:社員は給与のためだけに働くのではない。経営者からの心からの「ありがとう」という言葉が、金銭以上の報酬となる。
強い欲求を起させる。:会社の目標を押し付けるのではなく、社員自身の夢や欲求と、会社の成長がどうリンクするかを説く。
2. 人に好かれる6原則(信頼基盤の構築)
誠実な関心を寄せる。:社員の家族、趣味、価値観に関心を持つ。人は「自分に関心を持ってくれる人」を信頼する。
笑顔を忘れない。:リーダーの表情は組織の温度を決める。困難な時こそ、包容力のある笑顔が安心感を生む。
名前を覚える。:名前はその人にとって最も神聖な響きである。現場で一人ひとりの名を呼ぶ行為は、究極の個人承認である。
聞き手にまわる。:経営者は語りすぎる。まずは社員の不満や提案を最後まで聞くことで、心の鬱積を取り除く。
関心のありかを見抜く。:相手が誇りに思っていること(技術、経験、貢献)を話題の中心に据える。
心から褒める。:お世辞はすぐに見破られる。些細なことでも、事実に基づいた具体的な称賛を惜しまない。
3. 人を説得する12原則(組織の合意形成)
議論を避ける。:議論で相手を言い負かしても、相手の心は変わらない。経営者は「勝ち」ではなく「協力」を目指すべきである。
誤りを指摘しない。:面子を潰された人間は、正しい意見であっても拒絶する。
誤りを認める。:トップが自らの非を認める姿勢は、組織に誠実さと潔さの文化を根付かせる。
穏やかに話す。:威圧的な態度は沈黙を生む。友好的な語り口こそが、建設的な対話を引き出す。
「イエス」と答えられる問題を選ぶ。:まずは共通の目的を確認し、肯定的な流れを作ってから本題に入る。
しゃべらせる。:自分のアイデアを話させることで、社員に「自分が主役である」という感覚を持たせる。
思いつかせる。:命令するより「どうすればいいと思う?」と問いかけ、社員自身の答えとして実行させる。
人の身になる。:なぜ彼らは動かないのか。相手の置かれた環境や恐怖を理解しようと努める。
同情を持つ。:相手の考えや希望に対して、心からの同情(共感)を寄せる。
美しい心情に呼びかける。:相手の道徳心や理想など、より高潔な動機に訴える。
演出を考える。:ビジョンを語る際は、数字だけでなく、ストーリーや視覚的なイメージを用いて印象付ける。
対抗心を刺激する。:仕事が面白いと感じさせるため、適度な競争心や挑戦意欲を刺激する。
4. 人を変える9原則(育成とコーチング)
まず褒める。:指導の入り口は必ず肯定から始める。
遠まわしに注意を与える。:直接的な非難を避け、気づきを与える。
自分の過ちを話す。:完璧な上司よりも、失敗を共有してくれるリーダーに親近感と信頼を覚える。
命令をしない。:自発的な行動を促すため、命令を質問に変える。
顔をつぶさない。:失敗した社員に逃げ道を用意し、再起のチャンスを与える。
わずかな進歩も褒める。:結果だけでなく、プロセスや小さな変化を具体的に称賛する。
期待をかける。:人は期待された通りの人間になろうとする。高い評価を前提として接する。
激励する。:改善が容易であると信じ込ませ、一歩を踏み出す勇気を与える。
喜んで協力させる。:その仕事を引き受けることが、相手の成長や利益にどう直結するかを明示する。
デール・カーネギーの経歴
デール・カーネギー(1888-1955)は、貧しい農家出身の叩き上げの教育者である。トラック販売や石鹸の営業で成功を収めた後、1912年にニューヨークのYMCAで「話し方教室」を開始。現場のビジネスマンが切実に求める「対人スキルの即効性」を追求し、15年に及ぶ試行錯誤を経て本書を完成させた。
人的リソースを扱う会社に必要なスキルは「マネジメント」と「リーダーシップ」だ。それを原則から学べるのが、ドラッカーの『マネジメント』と、デール・カーネギーの『人を動かす』の2冊だとボクは思っている。
ただ、どちらも「古典」と呼ばれるだけあって表現が難解だ。だから途中で挫折してしまう人が多いのも仕方ないと思う。それでもこの2冊は読む価値があると思っている。なぜなら、何年経っても人間の心理や行動の原則は変わらないからだ。
もし、あなたが「原書はハードルが高い…」と感じているなら、こういった現代版に翻訳された本を手に取ってみるのが良いかもしれない。
参考まで…
ドラッカーの『マネジメント』で挫折したなら、ボクは『もしドラ」あたりから入り直してみることをお勧めする。
