スカイ島を歩く : Quiraing ― 風の日
日曜日、バスは走らない。
前日に Quiraing の近くに宿をとった。
車はない。
一時間かけて、入り口にたどり着いた。
歩きはじめたところで、三人組に出会った。
アメリカから来たのだろうか。
多くの観光客と同じように、
駐車場に車を止め、
「ちょっと眺めに来た」感じだった。
右か左か迷っているようだったので、
ループだからどちらでも大丈夫、と
画面の地図を見せた。
そのときは、それだけのことだった。
二年越しの Quiraing —
計画は周到でも、天気は思うようにいかない。
三十分ほど歩いたところで
突如として暴風が噴き上がり、
崖の縁で足が止まった。
風に押し戻され、足元が定まらない。
かがまなければ、吹き飛ばされてしまう。
袋のように、いとも簡単に。
しばらく岩陰に身を寄せていると、
あの三人組があらわれた。
声は風にかき消される。
手招きして、一緒に風が弱まるのを待った。
だが一向に弱まりそうにない。
それなのに、普通に歩いていく人たちがいる。
身体のつくりも、歩くことへの慣れも、
まるで違って見えた。
私たちは風に逆らえずにいた。
八月最後の日に、先走って冬のgaleが吹いていた。
一人が、風を見計らうように立ち上がった。
二人も続き、私もそのあとに続いた。
身体を低くし、ゆっくりと歩を進める。
しばらくして、空気が揺れたような気がした。
—— ガラガラと、遠くの崖肌から
割れた岩が転がり落ちる音が響き渡った。
思わず、顔を見合わせた。
気が抜けない日だった。
折り返し地点で一緒に写真を撮ることにした。
風が邪魔して、髪が顔を隠してしまったけれど、
めずらしく、なぜか、そんな気分だった。
彼らは帰路に、
私はもう少し先まで歩くことにした。
挨拶を交わし、
それぞれ風の中へ散っていった。

霧と横雨の中を
独りで歩きはじめる。
丘の上は遮るものがなく、
強風に身体が流され、
通り過ぎる人に Are you okay?
と声をかけられた。
Quiraing の周回が終わる頃には、
風が霧と雨を連れ去り、
静けさが戻っていた。
あとは宿に帰るだけだった。
トレッキングポールをぶらぶらと持ち、
ゆるい下りの道路を歩いていると、
速度を出した車が走ってきた。
突然、そろった声が、
風とともに私を追い越していった。
ENJOY YOUR TRIP!!
一瞬、何が起ったのかわからなかった。
あ、あの三人だ。
気づくと、声を出して笑っていた。
可笑しくて、嬉しかった。
見えなくなっていく車に、大きく手を振り続ける。
Quiraing
あの明るい声が風に乗って、
ふと耳の奥によみがえる。
Quiraing Loop


※ 同じ旅の別の断片として、「道は終わらない」と「サフォークの空から」も書いています。
