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【母のこと|ep46】ありがとうの三万円に、私は吐き気を覚えた

前回の話はこちら



私は、ほとんど眠ることができませんでした。

叔父の住む関東までは、車で
五時間ほどかかります。

朝のラッシュを避けるため、
早めに出発しました。

途中、朝食と飲み物を買うために、
コンビニへ立ち寄ります。

駐車場につくと、それまで
静かにしていた母が、
夫に向かって唐突に言いました。

「夫くん、今日はありがとうね。
これ、バイト代だから」

そう言って、私たちの目の前で
三万円を夫に差し出しました。


(はぁ……まただ)
嫌な予感が、現実になった。

私は足早に車外に出ました。

同じ光景を見ていた妹も、
「また始まったね」とあきれたように呟きます。

出発早々、先が思いやられる。

そのまま、車は高速道路に入りました。

しばらくすると、母が亡くなった
叔母の思い出話を始めました。

「最後に会ったのはいつだったかねぇ。なんで亡くなったのか聞いた?」

返事を待たず、母は言葉を続けます。

「お父さんと私は、あの人たちにいろいろ援助してあげたから。
あちらも、私たちのことを一目置いているはずだわ」

私と妹がほとんど返事をしないでいると、
母はひとりで、際限なく話し続けました。

見かねた夫が、時折相槌を打つほどに。

運転してくれている夫には申し訳ないけれど、
母の口から出る言葉に、私は吐き気すら感じていました。

どんな言葉も返したくない。
反応することすら、拒絶したかった。

しばらく話し続けると、空気を察したのか、母は「はぁ」と溜息をつきながら呟きました。

「何時間かかるのかねぇ。
イタタタ、お尻がもう痛いわ」


(……もう、いないものとしよう)


そう心に決めて、私は母を無視するように、夫と別の話をしてやり過ごしました。

途中、サービスエリアで休憩を取ったときのこと。

一緒に連れてきていた甥っ子に、
母が大きな声で詰め寄りました。

「寒いから上着を着なさいよ。
言うこと聞かないねぇ。
ほら、着て行きなさいって」

「本人がいいって言ってるんだから、放っておきなよ」

私が口を挟むと、甥っ子は妹の
後ろに隠れ、チラッと私を窺いました。

甥っ子は、人とのやりとりが苦手で、
いつもどこか怯えたようにしている子でした。

彼は小さい頃から、何かあるたびに
母や妹から
「softlyに怒ってもらうよ!」と
言われ続けてきました。

私は一度も彼を怒ったことなどないのに、そんなふうに名前を使われてきたせいで、彼は私を怖がっています。

甥っ子が私に怯える姿を見て、
妹は言います。

「大丈夫、大丈夫。怖くないよ」


……出発して、まだ二時間。
私はすでに、もう帰りたくて仕方がありませんでした。

そんな状況のまま、ようやく
叔父の家へ到着しました。

その頃には、私の頭はガンガンと
痛み、吐き気が込み上げていました。

もし、これを電車で行っていたらどうなっていたか。

仕事を休んでまで運転を引き受けてくれた夫に、心から感謝しました。

けれど、
不安はそれで終わることはありませんでした。





ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

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