【母のこと|ep48】母のつくった物語の中で、私は悪者になった
前回のお話
亡くなった叔母に、
最後のご挨拶を済ませ、
ふと振り返ると、
母が叔母夫婦のもとで、何やら熱心に話していました。
近くにいた妹が、目で合図を送ってきます。
嫌な予感がして、そばに歩み寄り、
会話に耳を傾けました。
「突然のことで大変だったわね。
電話をもらった時、咄嗟のことで
変なことを言っちゃってごめんね。
電話を切ったあと、softlyにひどく怒られたんだわ。
『何を勝手に一人で決めてるんだ』って。
もう、歳をとるといけないね。
娘に怒られてばっかりで……。
ここにも来たかったんだけど、
softlyがなんて言うかわからなかったものだから」
私は母に怒ったことが、ほとんどありません。
数えるほどしかないその中で、
あのときは、確かに強く言いました。
だからこそ、わかってしまったのです。
母は、
この話をするために、ここへ来たのだと。
親族の前で、
そう見えるように振る舞っているのだと。
謝罪の形を借りて、
私を悪者に仕立てるために。
一度だけではありませんでした。
母は帰るまでのあいだ、
何度も、何度も、
「怒られた」と言い続けていました。
私がどんな環境で育ってきたのか、
親戚たちは知るはずもありません。
ここで何を言っても、
母のつくった「物語」を補強するだけ。
言葉にならない感情が込み上げて、
けれど、すぐに冷めていきました。
私はただ、
その光景を、
どこか遠くから眺めているような
気持ちで、見ていました。
そのとき。
妹が、口を開きました。
「八日も火葬を待つなんてびっくりだね。
腐っちゃいそうで怖いよね」
思わず、目で「やめて」と合図を送りました。
けれど、届きません。
もう、止めることをやめました。
私は叔母夫婦に向き直り、
「葬儀には出られないけれど、
供花を出したい」と
手配の相談を始めました。
その横で、母は
妻を亡くしたばかりの叔父に向かって、
「私の時もそうだったけど、日にち薬だから。大丈夫、大丈夫。
お父さんは生前、こんなことを話していたわよね……
お父さんは……。」
と、言葉を重ねていました。
恥ずかしい。
ただ、それだけでした。
これが自分の身内なのだと、
認めるしかないことが、
どうしようもなく、恥ずかしかった。
そのとき、
そっと、夫が隣に来て言いました。
「早めに帰ったほうが良さそうだね」
その一言に、
救われました。
私は叔父に、
「心配だから、LINEを交換しよう」と伝え、
「少しでも休んでね」と声をかけて、
その場を後にしました。
五時間かけて来て、
滞在時間は、わずか40分。
それ以上、あの場に留まることは、
私にはできませんでした。
再び、五時間の帰路。
車内の空気は、
来るときよりもさらに重く、
澱んでいました。
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