離職率を徹底的に考える(1)定義・計算・分類の基本
今回から、人事の最重要テーマのひとつである離職率について取り上げます。
離職率が伝えるメッセージを、しっかりと考えてみましょう。
離職(率)の基本
離職率(Turnover Rate)の前に、離職とは何かを整理しましょう。
離職とは、文字通り「会社(職)を離れる」ことを意味し、あらゆる理由による退職が含まれます。目的に応じて、「離職率(定年退職を除く)」のように除外される対象が明記されることもあります。
会社を離れる理由はさまざま
・本人の都合による退職
・解雇(普通解雇 / 懲戒解雇 / 諭旨解雇 / 整理解雇)
・定年退職
・死亡退職
・海外のエンティティへの異動(アサインメントを除く)
このほか、No show(採用したものの、入社日になっても人が現れないこと)もありますが、今回は対象から外します。
離職率の定義
離職率は、特定の期間内に離職した人の割合を指しますが、法律による計算方法の定義などはありません。
一般に次の計算方法が使われますが、目的や監修によって異なる計算方法がとられることもあります。特に分母の取り方については、毎月の平均だけでなく、期初と期末の平均、期初の人数、期末の人数などを使う場合もあります。
一般的な離職率の計算方法
離職率=
計算期間の合計離職者数 / 計算期間の平均在籍人数 x 12 / 計算期間の月数
Excelであれば、SUMとAVERAGEだけで計算できます。
離職率=SUM(離職者) / AVERAGE(在籍人数) x 12 / 計算期間
平均して100人在籍している会社で、1年間に10人退職した場合、離職率=10/100 = 10%です。
逆に離職率が10%と聞けば、100人の会社では年間10人が辞めているんだなとイメージできます。
Q. 離職率が100%を超えることはある?
A. あります。10人の会社で、採用した人がすぐに辞めるのを繰り返すと、在籍人数の平均は10人でも離職者数の合計が10人を超える可能性は十分あります。10人の会社が、毎月1人退職してすぐに採用を繰り返した場合、離職率 = 12 ÷ 10 = 120%になります。
Q. 離職率10%とは、「1年間で社員の10人に1人の割合で退職する状態であるから、10年経てば全てのメンバーが入れ替わる。」は、正しいか?
A. 正しくありません。実際には順に辞めていくわけではなく、たとえば入社した人はすぐに辞めるが、残っている人はずっと辞めない場合などもあります。
なぜ離職率を把握するのか
離職率を把握するのは、離職率が会社の利益と効率に大きく関わっているからです。また、離職率を分析することで、会社の問題点を特定し、現在の状況を評価することが可能になります。
会社という組織は(今のところ)、人が動かすことを前提につくられています。会社として機能するために必要な人数をある程度決めて計画的に運営されます。人が全員いなくなったら会社としては存続できません。社員を採用することでコストがかかりますが、必要な社員がいないことで、もっと大きな損失や機会を失ってしまいます。離職率は、経営に欠かせない指標のひとつなのです。そして離職率は、会社の内外の状況に応じて非常に敏感に変動します。
離職率の評価
離職率は高くてもダメ、ゼロでもダメ
ヘッドカウントは組織の規模を示すので、基本的には良いも悪いもなく、会社が目指す方向に向かって「変化させる」ものであるのに対し、もうひとつの人事の最重要指標である離職率は、会社を去る社員の割合を示す「変化する」指標です。社内外の要因や個人の事情によるものであり、完全にコントロールすることは当然不可能です。
離職率が高すぎると、採用コストの増加や知識の流出につながります。逆に、極端に低すぎる場合も、実は長期的には大きな問題です。特に現時点で定年退職者がほとんどいない場合、平均年齢が毎年ほぼ1歳ずつ上昇していきます。平均年齢は最もわかりやすい組織の指標で、社員の高齢化は会社経営の課題として認識されています。新しい視点や技術が入らず、組織の成長が鈍化する原因となりますが、それは数値で評価することが難しいので、ここでは触れません。
積極的に目指す離職率とは何か
適切な離職率とは何かという明確な指標はありません。もしあなたが外資系企業にお勤めであれば、マーサーやタワーズワトソンなどの人事コンサルティングファームが提供するレポートを参考に、競合他社や業界の平均値のようなデータをベンチマークとすると良いでしょう。
年代、職務グレード、職種、性別といった属性ごとに目指すべき離職率を持つべきだと私は考えています。これは、別の記事で紹介するStrategic Workforce Planningとも密接に関係してきますが、どういった社員がこれから必要・不要になってくるのかに基づいて、将来の人員構成を考えなければなりません。どこで離職率を下げるための施策を打たなければいけないのか、あるいは離職率を下げない方が戦略に沿っている、という状況もありえます。
人事担当者が取り組むべきは、全社の合計値に惑わされることではなく、カテゴリー別の離職率の推移を把握することです。
離職率分析のゴールは、(1)適切な水準に保つための施策(2)急激な変化が現れた場合の要因の考察を行うことです。
離職率の計算条件
離職率の計算期間は過去12ヶ月(1年間)が一般的だが
離職者数は発生ベースで数えるものなので、ある程度の計算対象期間(通称「窓」とも呼ばれる)を決める必要があります。その計算期間の長さは任意に設定できますが、実際の計算では、過去12ヶ月間と定められることが一般的です。その場合、冒頭に書いた一般的な離職率の計算方法は、さらに単純に次のようになります。
離職率(過去12か月)の計算方法
離職率 = [過去12ヶ月の離職者数の合計] ÷ [過去12ヶ月の平均在籍人数]
まずは実際に自分の組織について、頭の中で計算してみてください。会社全体でも良いですし、あなたが所属するチームや部署で構いません。
チームの人数が10人で一定だったとすると、分母は10です。過去1年間で退職した人が5人いたとすると、5 ÷ 10 で50%の退職率です。時々あることですが、採用してすぐに人が辞めてしまうことが何回か続くと、それらの人が全員カウントされるので、退職率が100%を超えてしまう、などということもありえます。そんな職場にいたことはありませんか?
最近の急速に変化する世の中で、もっと敏感にトレンドを見る必要があれば、計算期間は1年間ではなく、3ヶ月や6ヶ月といったもっと短い計算期間を使うことで、直近の離職率の変化を表現できるようになります。
逆に、人数の少ない部署や、安定していて変化の少ない部署では離職が少なすぎて適当なデータが出せません。2年や3年といったもっと長い計算期間でを使うことで、比較的安定した離職率のトレンドを見ることができるようになります。
離職率(過去6か月)の計算方法
離職率 = [過去6ヶ月の離職者数の合計] / [過去6ヶ月の平均在籍人数] x 12 / 6
離職率(過去24か月)の計算方法
離職率 = [過去24ヶ月の離職者数の合計] / [過去24ヶ月の平均在籍人数] x 12 / 24
人によっては、上昇・下降トレンドさえわかればそれで十分だと、1年間の離職者数に換算しない結果を使うこともあるようですが、私は反対です。「1年間に何人辞めたのか」という共通の指標で表現できるメリットが大きいので、必ず年率に換算するようにしましょう。
離職者数で表現する場合
離職率とあわせて、離職者数で表現した方が、より伝わる場合もあります。特に、毎月の離職者数が数人規模の会社や組織の場合は、個人レベルで退職について分析することもあるので、離職率よりも離職者数が重宝します。その際は毎月の離職者数(棒グラフ)に加えて、移動平均(折れ線)を重ねることで、ブレの大きさとトレンドの両方を一度に伝えられます。移動平均については別記事「移動平均とYear to date」を参照してください。

「自己都合」と「会社都合」での区分
離職率を分析する上で、「離職の理由」の扱いは、最も重要な視点のひとつです。一般的には広義に「自己都合」と「会社都合」の2つに分けられることが多いです。ただ、定年退職、死亡退職、海外異動の扱いについては注意が必要です。
自己都合(Voluntary)
社員自身の意思による退職。報酬の競争力、組織の魅力、評価の納得感などに課題がある可能性がある。
会社都合(Involuntary)
人員整理や解雇など、会社側の判断による退職。
定年退職は自己都合?会社都合?
定年退職を広義の「自己都合」とするか、「会社都合」とするか、実は両方の考え方が存在します。年齢という属性は従業員に属するものなので「自己都合」とする考えがある一方で、定年による退職は社員本人の意思に関わらず発生するので「自己都合」ではなく「会社都合」だとする整理もあります。各国の制度や慣習を考慮する必要があります。
離職率分析の目的が、報酬の競争力などの社内の課題を発見して解決することにあるのであれば、定年退職は社内の課題と関わらずに発生するので「会社都合」とすべきだと私は考えます。一方で、社員数の増減傾向を分析することを目的とすれば、定年退職や死亡退職も自己都合に含めた方が目的にあっていると考えられます。
実務的には、「自己都合」と「会社都合」の2つの分類ではなく、「自己都合」「解雇」「定年退職」「死亡退職」「海外異動」の5つに分けるのがもっとも解像度が高く、スペースが許すのであれば無理に分けずに注意書きとして何が含まれるのか含まれないのかを記載するのが良いでしょう。
まずは、定年年齢(その直前を含む)で退職した人と、今後数年以内に定年を迎える人の人数を把握してください。該当者がほとんどいない場合、分析結果に与える影響は非常に限定的なので、どちらに含めようとも結果への影響は限定的です。この場合、定年退職が限定的であるという事実の把握が大切になります。
さまざまな「切り口」による要因考察
全社的な離職率はあくまでも全社の平均値であり、課題があるのはその中の一部分に過ぎません。真の課題を見つけるためには、適切な「切り口(データカット)」を見つけられるかにかかっています。
詳しくは、次回の記事で紹介します。
まとめ
離職率は「計算期間内の離職者数 ÷ 計算期間の平均在籍人数 × 12 ÷ 計算期間月数 」で計算します。
計算期間は12ヶ月(1年)が標準ですが、目的に応じて3〜6ヶ月の短期や2〜3年の長期とすることもできます。
離職率は高すぎても低すぎても問題です。
毎月の離職者数が数名の組織の場合、離職率とあわせて離職者数のグラフを用いると効果的です。
離職は「自己都合/会社都合」に分類しますが、定年退職/死亡退職/海外異動については扱いに注意が必要です。
