移動平均とYear to dateの使い分け - 単月では読めないデータの扱い方
人事データを扱っていると、単純にグラフ化できないようなケースも出てきます。そんなとき、移動平均やYear to date (イヤートゥデート,YTD: 期初からの累計)を使うことで、本来の目的を達成できる場合があります。
月ごとの変化が大きいデータをどう扱うか
社員の男女比率のような基本的なデータは、先月と今月を単純に比較するだけでも十分意味があります。一方、「退職者数」や「退職者のうち女性の割合」(退職した女性/すべての退職者)のように、月ごとに大きく変動しやすい指標を分析する場合、月ごとに計算してもブレが大きすぎて傾向を読み取れません。そうした場面での基本的な分析方法を説明します。
たとえば、「退職者に占める女性比率」を考えてみましょう。社員数が少ない組織では、女性の比率が極端に高くなったり低くなったりします。
1ヶ月目: 退職者5名中、女性1名 (20%)
2ヶ月目: 退職者1名中、女性1名 (100%)
3ヶ月目: 退職者2名中、女性0名 (0%)
退職者数が5→1→2(人)と推移し、退職者のうち女性の割合が20→100→0(%)となりますが、この数字からは傾向が読み取れません。退職者に占める女性の割合は増えているのか、減っているのか?
このようなときには、計算対象期間を広げることで問題を解決できます。それが「移動平均」と「YTD」です。
1. 移動平均(Rolling Average)
移動平均は、データを「広い範囲で見る」ことで、凹凸をならして扱う方法です。月々の変動が大きいものや、季節的な要因や突発的な事象による一時的なブレを吸収します。
計算対象
退職、採用、残業時間、事故発生など
計算方法
過去一定期間(一般的には12ヶ月)のデータを平均します。6ヶ月の移動平均であれば、過去6ヶ月間の平均値を使います。最新の月のデータが加わったら、最も古い月を外し、再計算を繰り返します。

Excelで作業する場合、絶対参照ではなく相対参照で =AVERAGE(C5:C10)
のように書いて下段までコピーします。
AVERAGEIFS関数(またはSUMIFS関数)とEDATE関数(基準日のXヶ月後を返す関数)を使って書くこともできます。
比較のため、単月の退職者数を棒グラフに、移動平均を折れ線グラフにしました。移動平均からは、平均的に5人の退職者が出ていて、横ばいになっていることがわかります。

さらに、退職者のうちの女性比率を出してみましょう。単月だと月によっては0%の時もあり激しく変動しますが、6か月の移動平均で見ることで安定した数字を示すようになります。

メリット
特に人事の場合、季節による変動パターンがあるものが多いです。
たとえば、「賞与が支給された後に退職が増える」「4月に新卒社員が入社する」などは典型です。計算期間を12か月にした移動平均を使うことで、年に1度の賞与の支給タイミングや新卒の入社による月の変動の影響を受けずに分析ができます。
デメリット
(1)組織に大きな変化があると適さない
集計期間中に社員数が大きく増えるなど、組織に大きな変化がある場合には平均をとることが適切ではなくなります。(そもそも統計値を出すことに適さない。)
(2)データの最初の期間のデータが出せない
また、12か月移動平均の場合、データ開始月から最初の11ヶ月はデータが足りないので結果を出すことができません。
2. Year to date(YTD)
YTDは、会計年度や事業年度の始まり(期初。1月や4月など、会社により異なる)を起点とし、起点から現在までのデータをすべて合計または平均する方法です。
12か月移動平均との違いは、期初においては計算対象期間が短いことで、期末(12ヶ月目)には、YTDの対象期間が12ヶ月になり、平均で計算する場合は12ヶ月移動平均と一致します。
YTDは特に、年間目標の進捗を表現するときに役立ちます。過年度と比較することで、目標達成の確率や必要な施策を検討するのに役立つでしょう。
計算対象
年間採用数、年間休暇取得、研修受講率など
人事領域では主に、目標の進捗状況を確認するために使われます。実際の数でもいいですし、目標達成率で表すこともできます。
計算方法
期初から現在までのデータの合計、または平均。
Excelでは、SUMIFS関数を使って、同じ年度内で、過去の月のデータの合計を取ってきます。
=SUMIFS([採用数],[年度],[@年度],[月番号],"<="&[@月番号])

このように、達成率をYTDで表示すると大抵は右肩上がりのグラフが描かれることになります。この場合、2026年は、2025年を上回るペースでの採用をしたものの、10か月目で前年度と並んでおり、昨年度並みで最終的に落ち着く可能性もあることを示唆しています。

メリット
企業の活動は1年間のサイクルで行われることが多いため、YTDはそのサイクル内での進捗状況や目標達成度を測るのに有効です。たとえば、年間の採用目標に対する進捗や、年間予算に対する支出状況などを確認するのに適しています。個別の採用タイミングは多少前後にずれるので、毎月の採用数は上下しますが、一年を通じた採用数の合計は目標値付近に落ち着くものです。また、過年度のデータと比較することで、「今年は例年よりもペースが遅い」といった客観的な事実をもとに、期末ギリギリになって慌てる前に対策を取ることができるようになります。
デメリット
YTDは期初(例:4月)においてはたった1ヶ月分のデータしか含まれていないため、ブレが大きい(あるいはデータが無い)ので、まだあまり見る意味がありません。期が進むにつれて計算対象となる期間が十分になり、安定した数字を得られるようになります。特に「合計」よりも「割合」を求める場合は、期が進むまではデータの共有は控えたほうが良いでしょう。
まとめ
次の例に該当する場合は、単月の分析ではなく、移動平均やYear-to-dateを使うことを検討しましょう。
「大きく変動するデータ」には12ヶ月移動平均
代表例:離職率、退職者数、採用人数、残業時間
目的:月次・季節変動や突発的な影響をならして、安定した傾向を把握すること
「目標進捗」にはYear-to-date (YTD)
代表例:年間研修受講人数(受講率)、採用目標数(達成率)、売上高(達成率)
目的:期初から期末までの進捗状況を追跡すること
