小説:「女戦士カリーナの旅路」第二話
山登り中に転移魔法陣に巻き込まれ、見知らぬ草原で目覚めたカリーナ。そこで出会った自称案内人のキールは、最初こそ変態的な行動を取ったものの、この地域の転移魔法陣に詳しく、仲間を探す手がかりを持っていた。パーティーの仲間、剣士リオンと僧侶エリカは別々の場所に転移された可能性が高い。キールの助言により、カリーナは翌朝、リオンがいると思われる北の廃墟へ向かうことを決意する。果たして、仲間との再会は叶うのか――。
夜明けとともに、カリーナとキールは廃墟への道を歩き始めた。朝霧が立ち込める森を抜けると、崩れかけた石造りの建造物が姿を現す。かつては要塞だったのだろうか。今は蔦に覆われ、不気味な静寂に包まれている。
「ここが北の廃墟。魔物の巣だ。気をつけろ」
キールの警告に、カリーナは短剣を抜いた。廃墟の奥から、何かの気配がする。
そして――剣戟の音が響いた。
そのときー
「誰?」
「敵?仲間?」
この声はー
「リオン?リオンじゃない?」
カリーナは声を大きく張り上げた。
しかし、その瞬間静寂な空間が広がる。
「リオン!どこにいるの、リオン!」
キールが口走る。
「まずいな、これ。魔物の戦闘モードじゃないか…」
キールは続ける。
「おそらく、リオンという君のパーティにいた剣士は魔族に連れ去られている。廃墟にいる魔物がリオンを連れ去ったのかもしれない。最初は魔物も様子を見る。それは何度も経験しているからわかっている。リオンは剣をもって戦ったのかもしれない。それが魔物の怒りを買った。」
カリーナは叫ぶ。
「状況はどうでもいいの!リオンを助けるためにはどうすればいいの?何かあったらどうすればいいというの?私は小さいころからの幼馴染なのよ!」
「落ち着け、カリーナ。まずは廃墟にいる魔物を探さなくてはならない。カリーナ、魔物が出てきても剣は抜くな。そして表情だけでもいい、穏やかな顔でこれを出せ。」
「これは、何?」
「我が一族の秘宝の一つ、カルシカだ。猫で言うマタタビみたいなものさ。カルシカを出せば魔物は落ち着く。そしてなつかせてリオンの場所を探る。」
「リオンは無事なの?」
キールはいつになく真剣な顔で語る。
「それは…わからない。あいつらは戦う女を食い物にする。温和な女性には手を出さず懐き、そのような女性には花を授けることや木の実を与える。ただそれは温和な女性だ。戦おうと必死で抵抗する相手には容赦しない。リオンがそれに気づいていればいいんだが…。」
「リオンはどんな女性なんだい?それにより廃墟をどう歩いていくかが決まる。」
カリーナは答える。
「リオンは剣士として優秀な人物よ。剣術では私の恩師と互角の勝負をしたわ。気は強いけどいい子よ。何も起きていなければいいのだけど…私どうしよう…。」
キールは少し穏やかな表情になった。
「いい子なのか。それならまだ救いの道はある。魔物とはいえ悪さをするばかりではなく、相手の女性によっては花束の飾り物を送り合う者もいる。ケンカさえしていなければいいがな…あいつらガタイはでかいから、相手によっては食い物にするんだ。一刻の猶予も許されない、行くぞ!」
キールが先導し、カリーナはその後ろを慎重についていく。短剣は鞘に収めたままだが、いつでも抜けるように手を添えている。
廃墟の奥へ進むにつれ、獣の匂いが濃くなってきた。そして、低い唸り声が聞こえる。
「いるな…」
キールが立ち止まり、手でカリーナに合図を送る。前方の暗がりに、巨大な影が三つ、ゆっくりと動いていた。
魔物だ。
体長は優に二メートルを超え、筋肉質な体に黒い毛が生えている。狼のような頭部に、人間のような二足歩行。その手には鋭い爪が光っている。
「ウルフマンか…厄介だな」
キールが小声で呟く。
その時、廃墟の奥からまた別の声が聞こえた。
「離しなさい!私は戦士よ、こんなところで終わるわけにはいかないの!」
「リオン!」
カリーナは思わず声を上げそうになったが、キールが素早く口を塞いだ。
「待て!今叫んだら全員に囲まれる。まずは状況を確認するんだ」
二人は物陰に隠れながら、奥の部屋を覗き込んだ。
そこには、柱に縄で縛られたリオンの姿があった。長い黒髪を振り乱し、鎧は所々破れているが、怪我はしていないようだ。その周りを、さらに二体のウルフマンが取り囲んでいる。
一体が、リオンに何かを差し出している。木の実だ。
「食べろ」
低い声でウルフマンが言う。
「いらないわ!私を解放しなさい!」
リオンは激しく抵抗している。
「やはり…戦闘モードに入っている」
キールが額に手を当てた。
「あのままだと、魔物たちの我慢が限界に達する。そうなったら…」
「そうなったら、どうなるの?」
カリーナの問いに、キールは答えた。
「食われる。あいつらは戦う女を『獲物』と見なす。でも、まだ木の実を差し出しているということは、最後のチャンスを与えているんだ。リオンがそれを受け取れば、態度が変わるかもしれない」
「でも、リオンは受け取らないわ。あの子は誇り高い剣士だもの」
「だから、俺たちが動くんだ」
キールはカルシカを取り出した。小さな紫色の結晶が、微かに光を放っている。
「カリーナ、いいか。俺がカルシカを使って魔物たちの注意を引く。その隙に、お前はリオンのところへ行って縄を切れ。ただし、絶対に剣を抜くな。笑顔で、穏やかに近づくんだ。わかったな?」
「でも、あなたは大丈夫なの?」
「俺は慣れてる。それに、カルシカがあれば大丈夫だ。問題は、リオンをどう説得するかだ。あの子が暴れたら、全てが台無しになる」
カリーナは深呼吸をした。
「わかったわ。リオンは私の言うことなら聞いてくれるはず」
「よし、行くぞ。三つ数えたら動く。一、二、三!」
キールが物陰から飛び出し、カルシカを高く掲げた。
「おい、お前ら!こっちだ!」
紫色の光が廃墟内に広がる。ウルフマンたちが一斉にキールの方を向いた。
その瞬間、カリーナは走り出した。
魔物がキールに気付く。
カルシカを手にしたキールに魔物が走りながら近寄っていく。
魔物の一体が声を出した。
「キールじゃないか、お前どうしたんだ?」
「この女を食いに来たのか?」
キールは魔物と小さな声で話している、リオンから魔物は少し離れた。
キールはカルシカを見せながら少し話す。
魔物の一体がリオンに近づき「こいつは俺たちの仲間だ」と耳打ちする。
リオンは真っ赤になっている。
自分が魔族の食い物になるなんて思わなかった。それもこんな廃墟で。
そのときリオンにカリーナが近づく。
「(もしかしたらキールの罠なのか…)」
しかしひと時でも疑う時間はない。
リオンの近くにいた魔族がカリーナに気付いた。
「おやお嬢さん、あなたはなぜここに?」
カリーナは罠にかかったかのような感覚を受けた。
確かに魔族と呼ばれたウルフマンも友好的だ。もしかしたら木の実を食べれば助かるのかもしれない。しかしもし木の実に何かがあるとしたら。食い物にされる運命になるー。
この時選択肢は一つしかなかった。
カリーナは深呼吸をして、キールの言葉を思い出した。
「穏やかに。笑顔で」
カリーナは口元に微笑みを浮かべ、ゆっくりとウルフマンに向き直った。
「私は…この子の仲間なの。探しに来たのよ」
ウルフマンはカリーナをじっと見つめた。その目には敵意はなく、むしろ好奇心が宿っている。
「仲間…か。お前は戦士の匂いがするが、剣を抜いていないな」
「ええ。あなたたちと戦うつもりはないわ。ただ、この子を連れて帰りたいの」
カリーナは一歩ずつ、リオンに近づいていく。心臓が激しく鳴っているが、表情は穏やかに保つ。
リオンが小声で囁いた。
「カリーナ…何してるの…逃げて…」
「黙ってて、リオン。今助けるから」
ウルフマンがカリーナの前に木の実を差し出した。
「ならば、これを食べろ。我々の友好の証だ。これを食べれば、お前たちを解放しよう」
カリーナは木の実を見つめた。小さな赤い実で、甘い香りがする。毒のようには見えない。
「(キールは何も言っていなかった…でも、これを食べなければリオンを助けられない)」
カリーナは決断した。
「わかったわ」
カリーナは木の実を手に取り、口に運んだ。甘酸っぱい味が口の中に広がる。特に変わった感覚はない。
ウルフマンたちが頷き合った。
「良い。お前は賢い女だ」
一体がリオンの縄を解き始めた。リオンは驚いた表情でカリーナを見つめている。
「カリーナ…あなた…」
「大丈夫よ、リオン。もう安全だから」
縄が解かれ、リオンは自由になった。しかし、まだ警戒を解いていない。
その時、キールが魔物たちと共に近づいてきた。
「よくやった、カリーナ。お前は本当に賢い」
キールはウルフマンたちに向かって言った。
「ガルム、久しぶりだな。相変わらず女性に厳しいな」
ガルムと呼ばれたウルフマンが笑った。
「キール、お前の連れか。この剣士の女は我々に剣を向けた。だから試したのだ」
「試した?」
リオンが声を上げた。
「そうだ。我々は戦う女を嫌う。だが、仲間のために勇気を出せる女は尊敬する。お前の仲間は、お前を救うために木の実を食べた。それは信頼の証だ」
ガルムはリオンに木の実を差し出した。
「今度はお前の番だ。これを食べれば、我々はお前を許そう。そして、お前たちの旅を助けよう」
リオンは木の実を見つめ、それからカリーナを見た。カリーナは優しく頷いた。
「大丈夫よ、リオン。信じて」
リオンは深く息を吸い、木の実を受け取った。そして、ゆっくりと口に運んだ。
ウルフマンたちが一斉に吠えた。それは喜びの声だった。
「良い!お前たちは我々の友だ!」
ガルムがキールに向かって言った。
「キール、お前の連れは勇敢だ。我々は彼女たちを助けよう。何を探している?」
キールが答えた。
「もう一人、仲間がいるんだ。僧侶の女性だ。おそらく東の湖畔か南の洞窟に転移されている」
ガルムは考え込んだ。
「湖畔には我々の仲間がいる。洞窟は…危険だ。あそこには別の種族が住んでいる」
「別の種族?」
「ああ。ドラゴニュートだ。あいつらは我々よりも気難しい。特に魔法使いには厳しい」
カリーナとリオンは顔を見合わせた。
「エリカ…」
リオンが呟いた。
「エリカは僧侶だけど、魔法を使う。もし洞窟にいたら…」
キールが言った。
「まずは湖畔を確認しよう。そこにいなければ、洞窟に向かう。ガルム、湖畔への道を教えてくれ」
「わかった。だが、気をつけろ。湖畔の霧は人の心を惑わす。道を見失えば、二度と戻れない」
ガルムは地面に爪で地図を描き始めた。
カリーナはリオンの肩に手を置いた。
「リオン、無事でよかった」
リオンは少し恥ずかしそうに笑った。
「ごめん、カリーナ。私、パニックになってた。あなたが来てくれて…本当にありがとう」
「当たり前よ。私たちは仲間でしょ?」
二人は抱き合った。
キールがそれを見て微笑んだ。
「さて、次はエリカだ。行くぞ、カリーナ、リオン。時間がない」
三人とウルフマンたちは、廃墟を後にした。
次の目的地は、霧に包まれた東の湖畔。
エリカは無事なのか。
そして、ドラゴニュートとは何者なのか。
新たな試練が、彼らを待っていた。
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