小説:「女戦士カリーナの旅路」第三話
見知らぬ草原で目覚めた女戦士カリーナ。パーティーの仲間、剣士リオンと僧侶エリカとはぐれ、古代の転移魔法陣に巻き込まれたことを知る。出会ったのは軽薄だが頼りになる案内人キール。彼の導きで北の廃墟へ向かい、魔族ウルフマンに捕らわれたリオンを救出することに成功した。
友好の証として木の実を食べ、ウルフマンたちと信頼関係を築いた二人。しかし、まだエリカの行方は分からない。ウルフマンの長ガルムによれば、エリカは東の湖畔か、気難しいドラゴニュートが住む南の洞窟にいる可能性があるという。
霧に包まれた湖畔へ向かう三人。道を見失えば二度と戻れないという危険な場所で、彼らはエリカを見つけることができるのか。そして、もし洞窟にいた場合、ドラゴニュートとの遭遇は避けられない。
仲間を取り戻すための冒険は、さらなる試練へと続いていく――。
ー湖畔にて
女僧侶は一人水面を見て立ちすくんでいた。
波立ちもせず何の音もせず何もない水辺。
一言で言うと「空白」の空間だ。
自分がどこにいるのか、なぜこのような場所にいるのか、まったくわからない。
三人でパーティーとして旅立ったはずが自分一人になっている。
自身の身ではなく、同じパーティーの二人の身を案じる女僧侶。
そのとき湖畔が少し動いた。
ハッとして水面の鏡面を見直す。
一瞬何かの影が見えた。
「これは…なんなのでしょう…」
少しだけ鏡面の表情が動いた。
不安を感じ湖畔から離れようとしたが、身体がなぜなのか動かない。
じっと水面を見つめる。
まるで水面下に何かがいるようにも見える。
「どなたなのでしょう…私はなぜここに…?」
仲間がいない今、僧侶は自身がどうなるのか恐怖を感じている。
しかしずっと一緒にいた仲間を傷つけるわけにはいかない。
じっと水面を見つめ、ただ問い直す。
「あなたは、どなたですか…?」
水面が少し動き、黒い影が少し映る。
ーー
カリーナは廃墟でリオンに事情を伝える。
「こっちがキール、案内人よ。」
「私がキールです。君の名はリオンと聞いている。よろしく。」
「実はね、キールはリオンがこの廃墟まで行く道を教えてくれたの。
頼りになる変態なのよ。」
「カリーナを宿を案内したんだ。変態ではないから安心してくれ。」
カリーナは続ける。
「私たちは昨日宿に泊まった。その時にリオンとエリカの話をして相談をしてくれたの。」
リオンはキールを怪しんでいる。
「お主、何かをたくらんでいるな?言え!」
キールは間髪を入れずに言う。
「おやおや、これはこれは…怒りなさるな。私は悪いものではございませんよ、剣士殿。」
「あんな宿に泊まると言って手を出そうとして…悪いものではないかもしれないけどね。」
カリーナは笑ってリオンをなだめた。
「お主のことは信頼しない!男など駄目だ!」
リオンは声を上げる。
「そもそもカリーナ!なぜこのような男を選んだのだ!私たちの仲間に入れるべきではない!」
カリーナは静かに、淡々と語り始めた。
「どうやらね、私たちは何かに巻き込まれたの。罠かもしれない。」
リオンは眉をひそめた。
「罠?どういうことだ?」
「私たちが登っていた山には、古代の転移魔法陣があったの。それに触れて、私たちはバラバラに飛ばされた。私は草原、あなたはこの廃墟。そして、エリカは…」
「エリカは!エリカはどこにいるんだ!」
リオンが声を荒げた。カリーナはリオンの肩を掴んだ。
「落ち着いて、リオン。エリカはおそらく東の湖畔か、南の洞窟にいる。キールとガルムが教えてくれたの」
キールが地図を広げながら説明した。
「転移魔法陣は、魔力の性質で飛ばす場所を変える。戦士タイプは廃墟や洞窟、魔法使いタイプは湖畔に飛ばされやすい。エリカは僧侶だから、湖畔の可能性が高い」
リオンは少し落ち着きを取り戻した。
「…わかった。エリカを探すのが最優先だ。お主のことは信用していないが、カリーナが信じるなら、今は協力しよう」
「ありがとう、リオン」
カリーナは微笑んだ。
ガルムが前に出て言った。
「湖畔への道は険しい。霧が濃く、方向感覚を失いやすい。だが、我々の仲間が湖畔の近くに住んでいる。彼らに会えば、道案内をしてくれるだろう」「ありがとう、ガルム。あなたたちには感謝してる」
カリーナが頭を下げると、ガルムは優しく笑った。
「礼には及ばない。お前たちは我々の友だ。友を助けるのは当然のことだ」三人はウルフマンたちに別れを告げ、東の湖畔へと向かった。
【湖畔への道】
森を抜け、岩場を越え、三人は湖畔へと続く道を進んでいた。次第に霧が濃くなり、視界が悪くなってくる。
「この霧…本当に濃いわね」
カリーナが呟いた。
「ガルムの言った通りだ。気をつけろ、道を見失ったら終わりだ」
キールが先頭を歩きながら警告する。
リオンは剣の柄に手を置いたまま、周囲を警戒していた。
「何か…いる」
「え?」
カリーナが振り返ると、霧の中に人影が見えた。いや、人ではない。細長い体に、鱗のような皮膚。尾が地面を這っている。
「ドラゴニュート…?」
キールが息を呑んだ。
「まずい、こんなところにいるはずが…」
影がゆっくりと近づいてくる。霧の中から、低い声が響いた。
「人間…か。この霧の中を歩くとは、愚かな」
姿を現したのは、銀色の鱗を持つドラゴニュートだった。人間の女性のような顔立ちだが、額には小さな角が生え、背中には翼の名残のような突起がある。
「私はシルヴィア。湖畔の守護者だ。お前たちは何をしにここへ来た?」
キールが一歩前に出た。
「俺たちは仲間を探している。僧侶の女性だ。転移魔法陣に巻き込まれて、この辺りに飛ばされたはずなんだ」
シルヴィアは目を細めた。
「僧侶…ああ、あの娘か」
「知っているの?!」
カリーナが声を上げた。
「ああ。湖畔にいる。だが…」
シルヴィアは言葉を濁した。
「だが、何?エリカに何かあったの?」
リオンが剣を抜きかけたが、キールが制した。
「落ち着け、リオン。まずは話を聞くんだ」
シルヴィアは深いため息をついた。
「あの娘は、湖の鏡面に捕らわれている」
「鏡面?」
「湖畔には古い呪いがかかっている。魔力を持つ者が水面を覗き込むと、自分の心の闇が映し出される。そして、その闇に引き込まれてしまうのだ」
カリーナは息を呑んだ。
「それって…エリカは湖に引き込まれるってこと?」
「その通りだ。時間が経てば経つほど、呪いは強くなる。最終的には、水の中に引きずり込まれ、二度と戻れなくなる」
「そんな…」
リオンが顔を青ざめさせた。
「どうすればエリカを助けられる?」
キールが尋ねた。
シルヴィアは三人を見つめた。
「方法は一つ。あの娘の心の闇を打ち破ることだ。そのためには、あの娘にとって最も大切な存在が、水面に映る闇に立ち向かわなければならない」
「最も大切な存在…」
カリーナとリオンは顔を見合わせた。
「私たちよ」
カリーナが言った。
「私たちがエリカの心の闇と戦うの」
シルヴィアは頷いた。
「だが、覚悟はいいか?心の闇は、時に本人よりも恐ろしい。お前たちの絆が試される」
リオンが剣を鞘に収めた。
「構わない。エリカは私たちの大切な仲間だ。どんな闇だろうと、私たちが救い出す」
カリーナも頷いた。
「案内して、シルヴィア。エリカのところへ」
シルヴィアは微かに笑った。
「良い目をしている。ついて来い」
四人は霧の中を進み、湖畔へと向かった。
【湖畔にて】
霧が晴れると、そこには静かな湖が広がっていた。水面は鏡のように滑らかで、何の波も立っていない。
そして、湖のほとりに、エリカが立っていた。
「エリカ!」
カリーナとリオンが駆け寄ろうとしたが、シルヴィアが手で制した。
「待て。近づくな。今のあの娘は、呪いに捕らわれている」
エリカは動かない。ただ、じっと水面を見つめている。その表情は虚ろで、まるで魂が抜けたようだった。
水面には、黒い影が映っていた。それは人の形をしているが、どこか歪んでいる。
「あれが…エリカの心の闇?」
カリーナが呟いた。
「ああ。あの影が、あの娘を引き込もうとしている」
シルヴィアが説明した。
「お前たちは、水面に映る闇に語りかけろ。そして、あの娘の心を取り戻すんだ」
キールが言った。
「俺はここで待っている。これはお前たち三人の問題だ」
カリーナとリオンは頷き、エリカに近づいた。
水面を覗き込むと、そこには黒い影が揺らめいていた。そして、その影から声が聞こえた。
「…私は…役立たず…」
エリカの声だった。だが、どこか絶望に満ちている。
「私は…いつも守られるだけ…戦えない…魔法も弱い…二人の足を引っ張るだけ…」
リオンが水面に向かって叫んだ。
「違う!エリカ、お前は役立たずなんかじゃない!」
「お前の回復魔法がなければ、私たちは何度も死んでいた!お前は私たちの命を救ってくれたんだ!」
カリーナも続けた。
「エリカ、あなたはいつも私たちを支えてくれた。優しくて、思いやりがあって、誰よりも強い心を持っている」
「あなたがいなければ、私たちはただの戦士よ。あなたがいるから、私たちはパーティーなの」
水面の影が揺らいだ。
「でも…私は…」
「エリカ!」
リオンが水面に手を伸ばした。
「お前は私たちの大切な仲間だ!一緒に帰ろう!」
カリーナも手を伸ばした。
「エリカ、私たちはあなたを信じてる。だから、戻ってきて」
水面が激しく波立ち始めた。黒い影が悲鳴を上げ、次第に薄れていく。
そして――
エリカが目を開けた。
「カリーナ…リオン…?」
「エリカ!」
二人はエリカを抱きしめた。
エリカは涙を流しながら、二人にしがみついた。
「ごめんなさい…私…怖かったの…一人で…」
「もう大丈夫よ、エリカ。私たちがいるから」
カリーナが優しく背中を撫でた。
シルヴィアが近づいてきた。
「よくやった。お前たちの絆は本物だ」
キールも笑顔で言った。
「さすがだな、お前たち。これで全員揃ったな」
三人は抱き合ったまま、涙を流していた。
長い旅の末、ついにパーティーが再会した。
だが、まだ謎は残っている。
なぜ転移魔法陣が発動したのか。
そして、この地に隠された秘密とは――。
新たな冒険が、今始まろうとしていた。
【第四話への予告】
湖畔でついに再会を果たした三人。 抱き合い、涙を流し、無事を喜び合うカリーナ、リオン、エリカ。
「よかった…本当によかった…」 「もう離れないわ、絶対に」 「二人とも…ありがとう…」
感動的な再会の場面――のはずが。
「いやあ、美女三人に囲まれるなんて、案内人冥利に尽きるねえ」
キールはニヤニヤと鼻の下を伸ばし、三人の周りをうろついている。
「キール殿、お主…何をニヤついている」 リオンが冷たい視線を向ける。
「いやいや、君たちが無事で本当に嬉しくてね。特にエリカ嬢は可憐で…」 「キール様、ありがとうございます…」 エリカが恥ずかしそうに微笑む。
「おやおや、エリカ嬢は素直で可愛らしい。リオン嬢は凛々しくて美しい。そしてカリーナは…」
その瞬間――
ギュッ!
「ぎゃああああああ!」
カリーナがキールの急所を掴んだ。
「あんた、調子に乗りすぎよ!私たちが感動してる時に何考えてるの!」 「ま、待ってくれカリーナ!冗談だ、冗談!離してくれ、死ぬ!」 「冗談で済むと思ってるの?!」
リオンが呆れた表情で言う。 「カリーナ、もう少し力を入れてやれ」 「リオン、それは…」 エリカが慌てて止めに入る。
ようやく解放されたキールは、涙目で地面にうずくまった。
「ひどい…俺はただ、場を和ませようと…」 「和んでないわよ!」
シルヴィアがクスクスと笑いながら言った。 「お前たち、仲が良いな」
カリーナが深呼吸をして、気を取り直した。 「…それで、キール。これからどうするの?」
キールも立ち上がり、真面目な表情になった。 「そうだな。三人が揃ったところで、聞きたいことがある」
キールは三人を見渡した。
「お前たちは、なぜこの山に登っていたんだ?ただの冒険じゃないだろう?」
三人は顔を見合わせた。
カリーナが口を開いた。 「…実は、私たちには目的があったの」
「目的?」
「ええ。この地域には、古代の遺跡があると聞いていた。そこには『星の欠片』と呼ばれる宝石が眠っているって」
キールの表情が変わった。
「星の欠片…まさか、お前たち…」
リオンが続けた。 「その宝石は、不治の病を治す力があると言われている。私たちの故郷に、病で苦しんでいる人たちがいるんだ」
エリカが小さな声で付け加えた。 「私の妹も…その病に…」
キールは腕を組み、考え込んだ。
「星の欠片か…それなら、南の洞窟だ」
「洞窟?」
「ああ。ドラゴニュートが守っている洞窟には、古代の遺跡がある。そこに星の欠片が眠っているという伝説がある」
シルヴィアが口を挟んだ。 「その通りだ。だが、洞窟に入るのは容易ではない。我が一族は、遺跡を守る使命を負っている」
「じゃあ、入れないってこと?」 カリーナが尋ねた。
「いや」 シルヴィアは首を横に振った。 「試練を乗り越えた者には、遺跡への道が開かれる。お前たちは、仲間を救うために絆を示した。その資格はある」
キールが地面に地図を描き始めた。
「洞窟は湖畔から南に三時間ほどの場所にある。だが、そこに至るまでにいくつかの謎がある」
「謎?」
「ああ。転移魔法陣が発動した理由、お前たちがバラバラに飛ばされた理由、そして…」
キールは三人を見つめた。
「なぜ、お前たちが『選ばれた』のか」
「選ばれた?」
「転移魔法陣は誰にでも発動するわけじゃない。特定の条件を満たした者だけが、転移される。つまり、お前たちは何かに『選ばれた』んだ」
リオンが眉をひそめた。 「それは…どういうことだ?」
キールは立ち上がり、洞窟の方角を指差した。
「その答えは、洞窟にある。星の欠片だけじゃない。お前たちの運命に関わる何かが、あそこに隠されている」
カリーナは仲間たちを見た。 「行くわよ、二人とも。私たちの冒険は、まだ終わっていない」
リオンが剣を掲げた。 「ああ、行こう。妹のために、故郷のために」
エリカが祈るように手を合わせた。 「みんなを救うために…」
キールが笑った。 「よし、じゃあ出発だ。ただし、洞窟には危険が待っている。ドラゴニュートの試練、古代の罠、そして…」
「そして?」
「遺跡を守る『守護者』がいる。それが何なのかは、誰も知らない」
シルヴィアが付け加えた。 「私も案内しよう。お前たちの旅を見届けたい」
五人は湖畔を後にし、南の洞窟へと向かった。
星の欠片は本当に存在するのか。 洞窟に隠された秘密とは何なのか。 そして、三人を待ち受ける試練とは――。
新たな冒険が、今始まる。
【第四話「洞窟の秘密」に続く】
#小説
#ファンタジー
#女戦士
#異世界
#冒険譚
#女戦士カリーナの旅路
#ウルフマン
#信頼の証
#誇り高き女剣士
#絶体絶命からの逆転
#カリーナ
#キール
#自称貴公子
#ボロ宿の出会い
#仲間を探して
#続きが気になる
#リオン
#エリカ
いいなと思ったら応援しよう!
人生に必要なのは勇気と想像力、そして少しのお金とはチャップリンの言葉ですが、勇気は別にしても(笑)、想像力はnoteのスキが示してくれます。少しのお金を記事を呼んで役に立ったならば志として頂けると本当に嬉しいです。書籍代として本を購入し、勉強してそのお金を還元できればと思います。