私には見えない星空
シャッシャッシャッ。
カコッ、カコッ。
きゅうりをスライサーにかけていくと、あっという間に小さくなっていく。ヘタを指でつまみ、ぎりぎりまで往復させた。
塩で揉んで水気をしぼり、茹でたきくらげと白ごま、梅酢を加えて器に盛った。
梅干しを作った時にできた梅酢が今年は大活躍で、和え物にも炒め物にも、何かというと加えている。
昼に作った茄子入りのスンドゥブも温めて、ご飯と一緒に食卓へ並べた。
これから夜のレッスンがある。軽めに食べて、生徒さんたちのカルテを開いた。
眠りが浅いと言っていた生徒さんがいるから安眠できるものにしようか。この時期は下半身の巡りも悪くなりやすい。股関節を開く動きを入れて、リラックスを深めてみよう。
マットの上でからだを動かし、エネルギーの流れを確かめてからZoomを繋げた。
「吐く息とともに古いものが流れていくように。からだは自然とゆるみ、リラックスが深まっていきます」
生徒さんたちの動きがさらにゆっくりになる。
外へ向いていた感覚や意識を内側へ。自分自身に帰っていく時間を味わってもらえたら。
最後に生徒さんたちと瞑想をして、画面を閉じた。
お風呂上がりに冷たいハーブティーを飲んで一息つく。
そういえば、アトリエから持ち帰ったはずの定規が見当たらない。車の中を探しに外へ出た。
空を見上げると、まん丸に近いお月さまが浮かび、その周りの星もぴかぴかと瞬いている。
星ではなくて衛星?
けど、どの星も瞬いているように見える。
夜風が気持ちよくて、お月さまを見ながらしばらく歩いた。
路地裏に入れば、星も見やすくなるのだろうけど、お化けが出たらどうしようと思うとなかなか行けない。
公園のジャングルジムがやけに赤く光ってみえる。
だめだ、怖い。
家に戻ろうとくるりと向きを変え、空を見上げた瞬間、上から下へスッと光が走った。
「流れ星!」
何年ぶりだろう。
もう一度見られないかと、目を凝らして空を見渡す。
やっぱり星が瞬いている。
日本でも見れるんだ。
モロッコの砂漠で暮らす遊牧民の家にホームステイしたことを思い出した。
夜になると砂漠の上にラグだけを敷き、星空を眺めながら眠りについた。
星がどこまでも無数にあって、そのひとつひとつが生き物みたいに瞬き、今にも落ちてきそうだった。
「きらきら光る おそらの星よ」
あの歌詞は本当だったんだ。星はきらきら光るのだと、その時初めて知った。
ずっと見ていたいのに、すぐに眠気がやってきて、重くてたまらないまぶたを必死に開けていたっけ。
あの時一緒に星空を見上げた男の子は、今頃どんなティーンエイジャーになっているだろう。
お母さんの腕に抱かれていた赤ちゃんもすっかり大きくなっているはずだ。
彼らは今日も、私には見えない星空を見ているのだろうか。
この空の奥で、モロッコで見たあの星々が今もずっと光っている。
