短編「迷子の有栖川」
2025 創作大賞応募作品になります。よろしくお願いします
あらすじ
有栖川は友人と待ち合わせに向かっている途中、物怪たちや神様が暮らす似て非なる世界へと迷い込んでしまった。脱出しようにも、珍しい迷い人を面白がる物怪や、厄介ごとに巻き込まれてしまう。しかも戻るためには原因を探らなくてはならず、簡単に元の世界に戻れない!
1 三毛猫をおいかけて
有栖川は、山手線から総武線に乗り換え錦糸町を目指していた。
今日はゴールデンウィーク初日、友人とスカイツリーに登るために前日チケットの予約までし、上機嫌で今日のプランの確認をしていた。錦糸町で友人をピックアップしてからバスでソラマチまで向かい、スカイツリーで2時間ほど見学したら、すみだ水族館にいくという行程だ。
ウキウキで乗り込んだ電車はインバウンド客と長期休みのせいで混んでいた。
「あぁ、ついてない。スーツケースで出口が塞がれてる」
すいませんと声をかけながら大きなスーツケースを押しやり、人に押されながらホームに出れば、降車した人々の波に流され、あっという間に降り階段の場所に出てしまった。本来ならホームにある登り階段から行けば楽に乗り換えられるのだが逆走するには人をかき分けないといけない。
「面倒だけど一旦降りて上がるか」
有栖川は小さくため息をつきながら流れに逆らわず、一度階段を降りてから広いコンコースを渡り、総武線の路線を示す黄色い看板を目印に進んだ。白いコンコースは広く、人がばらけているので歩きやすく、案外このルートも良いかもと思っていると猫の声がした。
周りを見渡せば、我が物顔で三毛猫が闊歩していた。
「あれ? 迷い猫?」
「にゃー」
歩みを止めずに眺めていると、なんと猫は慣れた様子で上りのエスカレーターに乗ったのだった。しかも誰も猫に反応せず素通りする様子に、有栖川は驚いた。
駅員に知らせようか迷いつつも、自分と同じ方向に向かう猫の冒険を観察してみたいという思いもあり、そのまま猫の跡を追った。
人々の脚の隙間を縫うようにすいすい進む猫は、あっという間に総武線の駅のホームへ辿り着き、ちょうどタイミングよくきた列車に人々と一緒に飛び乗ったのだった。
「え、まじ?」
有栖川も慌てて同じ車両に飛び乗り、周りを見渡した。車内はそこそこ混んでいて、探すのは無理かと思っていたところ、目の端でちらりと茶色いものが動くのが見えた。よく見れば、座席の下からヒョロリと尻尾が覗き見えた。
「やっぱり乗ってるよな……」
ビックリしつつも扉横の手すりに捕まりながら、もう一度チラリと横目で猫を見れば、優雅に毛繕いをし、欠伸までしていた。
有栖川はスマフォを取り出して撮影しようと思ったが、人が座っている足元を撮るなんて非常識すぎるし、盗撮に間違えられたら大変だと思い直してやめた。
その代わりSNSを開いて“総武線各駅 猫”や“秋葉原 猫”、“電車に乗る猫”と検索するも、目の前にいる電車に乗る猫の話題はどこにもなかった。
猫が電車に乗ったらすぐにSNSで拡散されそうなのにおかしいな、と有栖川は思いながらも「次は両国〜……」というアナウンスにSNSのアプリを閉じ、友人にそろそろ着くというメッセージを送ろうとしたところ、エラーになってしまった。
「あれ? 送信エラー?」
驚きつつも、もう一度再送ボタンを押すも同じくエラーになってしまい、有栖川はこりずにタップし続けていると、電車が駅に到着して扉が開いてしまった。慌てて端に体を寄せようとするも、トンと誰かに背中を押されてしまい、そのまま人に押し出されるままホームに降りたってしまった。押した人間はわからず、降りていく客に紛れて消えてしまった。
「最悪、端によけてたじゃん!」
悪態をつきながらも、電車に乗り直そうと振り返った瞬間、足元で何かが通り抜けた感覚に有栖川は慌てて目線を下げて見渡せば、なんと猫も降りていた。
「わ!」
驚く有栖川を尻目に、猫は優雅に人々の足元をすり抜けていく。その揺れる尻尾を見つめながら思わず追いかけてしまった。ゆらゆら揺れる尻尾に気を取られていたが、ふと降りてはいけない駅だということを思い出し、慌てて振り返った瞬間、違和感に気づいた。
「あれ? なんかおかしい」
頭上を見上げると、相撲取りの格好をした青鬼の絵が飾られていた。ぐるりと周りを見渡せば、壁は全て木目調で、天井は赤い梁がはられ、まるで神社仏閣でみかけるような屋根の下だと有栖川は思った。前に降りた時はこんな駅構内だったろうかと思いながら、見渡していると河童が酒を抱きしめている日本酒の宣伝ポスターが目に入った、隣には麒麟が瓶ビールに足をかけていてこちらもお酒の宣伝のよう。
「ん? こんなお酒の宣伝あったっけ?」
他のポスターには猫と犬が描かれていたが、横に描かれた文字は崩し字で読めなかった。有栖川は不安を覚えつつも、ふと西口と書かれた看板の先にあった駅名に気づいた。そこには……。
「涼の刻駅? なんだそれ?」
「にゃー」
猫の声で慌てて目線を下げれば、なんと改札のタッチに猫が前足首についている腕時計のようなものを当てて、ピッと音を鳴らしていた。
「え?!」
先程まで腕時計なんてつけいただろうか? と疑問に思っていると今度は帽子を目深に被った駅員に挨拶するように手を挙げて「にゃっ!」と言っていたではないか。
「ど、どういうこと?!」
思わず有栖川も改札へと走るが、猫は優雅に改札の機械から飛び降りて外に出てしまった。
「え、駅員さん! 猫! あの猫と知り合いなの?!」
有栖川が駅員に声をかけるも、駅員は黒い煙のように姿を消してしまった。
「え?! 消えた?」
振り返るとあんなに人が降りたはずなのに、駅の中に人が誰もいない事に気づいた。
それだけでなく、駅の中に貼られているポスターに描かれたたモノたちがじろりと有栖川を見つめたのだった。
「なななな、何?!」
怖くなり有栖川は思わず改札から出てしまった。駆け出した先には、小さなロータリーがあり道を挟んだ先には簡易の駐車場があった。その駐車場のど真ん中に先ほど見た猫が2本足で立って、何かを見上げていた。
「猫おおおおお!!」
「にゃ?!!」
有栖川は思わず駆け寄り、両手でガシッと猫を捕まえて抱きしめ、猫の後頭部に顔を埋めていた。
「にゃああああ?! おまえ人間?!」
「猫が喋った!! うわーーーでも今はそれでもいい!! ここ、なんか怖い!!!」
「そりゃーそうだろにゃああああ!!」
1人と1匹は凄い形相で思わず絶叫していた。
「うるせーぞ!!」
後ろからドスの効いた怒鳴り声でニ人はビクリと体を震わせ、思わず縮こまった。
「すすすいませんにゃ」
猫が謝れば、怒鳴った男はフンと鼻を鳴らし横を通り過ぎていった。
有栖川はチラリと横目で見ると、その男の腕にはびっしりと鱗が生えているように見えた。鱗柄の刺青? と思うも刺青にしてはやけに光沢があり、オイルでも塗っているのかと思うほどテカテカしている。
思い思わず目線を上に向けると、黒いタンクトップを着た筋肉隆々な男の顔は魚人だった。
「っ!!」
有栖川が悲鳴を上げる前に猫がその口を塞ぎ、ぬっと顔をだして小声で告げた。
「何も喋るな叫ぶなにゃ!」
その言葉に必死に頷きながら、有栖川は魚人が去っていく後ろ姿を目の端で追いかけた。
「ひゃー危なかったにゃ」
「あれって……」
「ん? 魚人にゃ、流石にあのデカさは無理にゃ」
そう言って猫は有栖川の腕の中から抜け出そうとするも、首根っこを掴まれてしまった。
「や、やめろ! そこを持つなゃ!」
「助けてくれてありがとう、猫くん」
「それがお礼を言う態度かにゃ?!」
「だって今君を逃したら、ここで1人っきりになっちゃうだろ? 嫌だよ。それで、ここってどこなの?」
「勝手についてきて何言ってるにゃ!!」
「ついてきたくてついてきたんじゃない! たまたま同じ方向だったんだよ」
「涼の刻駅にか?」
「錦糸町に! てか降りる寸前まで両国駅だったよ! 人に押し出されて降りちゃったけど」
「それは大変だったにゃ。でも僕とは無関係にゃ」
「君が秋葉原から総武線に乗り換えるところ見たんだから!」
「まじかにゃ……普通の人間には見えないのに……」
猫はショックを受けたようで暴れるのをやめ、びろーんと伸びてしまった。可愛さに思わず有栖川の顔が緩みかけるが、気を引き締めて猫に問いただした。
「それで、ここはどこなの?」
「はぁ、ここは人間が住む世界と物怪が住む世界の狭間の世界にゃ」
「両国駅に似てるけど…」
周りを見渡せば、相撲場と工事中のはずの江戸東京博物館はなぜか大きな木造建築が建っていた。まるで装飾の多い神社仏閣のような佇まい、専門家が見たらあの屋根は入母屋で鬼瓦は何の様式で装飾はと語り出しそうなほど壮大な佇まいだ。
「何あれ……」
「江戸もののけ博物館にゃ。江戸時代のご先祖さまがどうやって暮らしてたか展示してあるにゃ、見に行くかにゃ? 入場料は」
「待って待って、手前のは両国国技館だよね?」
「そうにゃ」
「なんでコレは同じなんだよ」
「こっちでも相撲は人気にゃ。建物を変えるのは面倒だからそのまま写してるにゃ」
「嘘だろ?」
「こだわりがあるやつは自力で建てるにゃ、江戸博物館は老人どもが煩くて予算オーバーしてるのに建てたとかで凄い揉めたにゃ」
「へー」
有栖川は物怪にも予算なんて考えがあるのかと一瞬ツッコミそうになったが、すんでのところで飲み込んだ。深く考えたら、周りの全てが気になってしまうからだ。突然道に現れる幽霊のようなものから、道路を走る馬車や牛車、そこに混じるレトロなアメ車。混沌としすぎていて、もしかしてコレは夢なのでは? と思い始めていた。
夢ならばなんでもありだ。そして早く目覚めないと。
「それよりも、お前早く戻ったほうがいいにゃ、ここには人間を食べる物怪もいるにゃ」
猫は自分の脚の毛繕いをしながら優雅に言ったと思ったら、するりと有栖川の腕から逃げ出してしまった。
「しまった!」
「早くしないと約束の時間に遅れるにゃ!」
そう言うと猫は走って逃げてしまった。
有栖川も慌てて猫の後を追いかけた。怖い物怪が他にも居ると聞いたばかりなのに置いていくなんて、ひどいと思いながら。猫という安心安全可愛い存在を逃してなるものかと必死に猫の後ろ姿、あのゆらゆら揺れる尻尾だけを見つめて無我夢中で走った。
猫はスイスイと人もとい、いろんな肌や服装をした物怪たちの足元をすり抜け、信号を渡り路地裏へと曲がってしまった。
有栖川が路地裏に入った時にはもう猫の姿はなく、見失ってしまった。
「はぁはぁ、あれ? ここを曲がったと思ったのに」
周りは知らない場所、ふと見ると小さい神社があった。小さな社の入り口には灰色の狐が二匹、台の上であくびをしながら寝転んでいた。
2 お稲荷さん
「ん? もしや石の狐が寝てる……?」
有栖川が近づいてみると、灰色ではなく、つるりとした石の狐が動いていた。石の玉をを転がしていた石の狐は、有栖川に気づくと目を見開いて起き上がった。
「おやおや? 珍しい客人がきたよ、阿っちゃん」
「ん? 本当だ迷子の人間なんて久しぶりに見たなぁ〜吽ちゃんコレは遊べそうだ」
石の狐は居住まいを正すと、笑みを深くした。その姿はちゃんとした阿吽の呼吸の姿をした、神社の入り口にいる石像の姿だ。
「狛犬がしゃべった!」
「狛犬じゃない! 我らは眷属よ。狛犬は犬や獅子の石像のことだぞ」
「まぁまぁ、阿っちゃん、別に良いじゃないか。気にしない神主もいるし」
「我は気にする!」
有栖川が呼んだ呼称で揉め始めてしまった。その剣幕に有栖川はとりあえず阿と呼ばれている右側の狐の石像に向かって謝った。
「あー……眷属の阿さん、知識不足ですいません」
「ふむ! 素直でよろしい! よかろう!」
「阿っちゃん! もうー」
こういう人(?)には丁寧に接するのが一番だと部活の先輩から聞いていた有栖川は低姿勢のまま狐の石像に聞いた。
「それで、大変恐縮ですが、猫を見ませんでしたか? 喋る猫で」
「喋る猫はここら辺では珍しくないよ」
「そう、どこにでもいる」
その返答に有栖川は頭を抱えた。そういえばそういう世界だったと。物怪だらけならなんでも喋るだろうと、そもそも今、有栖川自身が狐の石像と話している状態だ。
「どうしよう……そうだ、こういう時こそ神頼みでは?!」
有栖川の言葉に狐の石像は顔を見合わせると声を揃えて言った。
「「神頼み、何をお願いするんで?」」
「元の世界に戻して下さい! あ、ここじゃダメか、お賽銭っと」
有栖川は慌ててお賽銭箱の前に行き、小銭を投げて再度お願いした。
かこんころころ、チャリンと心地よい木と金物の音を立てて、お賽銭箱の中に小銭が落ちていく、パンパンと柏手をし一礼をし、”自分は有栖川です。この世界に迷い込んでしまったので元の世界に戻してください。あと友達との待ち合わせに間に合うようにしてください。”と心の中でお願いをした。
社の木の扉がカタカタと小さく揺れ、まるで答えているようだ。
「おやおや、礼儀を弁えている。良い若者だね〜」
「本当だな、でも普通に叶えたらつまらない」
「阿っちゃん!」
「だって僕らは暇だろう? 有栖川、君が僕と遊んでくれたらいいよ!!」
阿の狐の像が飛び跳ね、有栖川に迫った。まるで子犬に戯れつかれるような仕草で有栖川は思わず可愛い! と思い撫でそうになったが、すんでの所で手を止めた。
「えっとー……遊ぶって具体的にはなにするの? ボール遊びとか?!」
有栖川は少し身を乗り出して、狐の石像と遊ぶ姿を想像した。たとえ夢だとしても、友達に話したら面白そうだと思ったのだ。
「ボール遊びなんて子供みたいな遊びはしないしない。ちょっとした謎々さ、今流行っているんだろう?」
「流行っていると言えば、流行ってるけど……」
「じゃーだすよ! 黄金の衣はとても美しく絶品 なーんだ!」
阿の狐の石像が早速謎々を出してきた。有栖川は金色の衣を思い浮かべ、そして絶品ということは食べ物かと当たりをつけながら答えてみた。
「オムライス!!」
「「ぶっっぶー! ハズレ!」」
二体同時にハズレと言い渡されてしまい、有栖川は再度捻った。
「絶品っていうんだから食べ物だろう? だったら、衣だから、えーとえーと、あの卵が巾着みたいなやつ!」
「ん? ……もしかして茶巾寿司のことかい?」
「そう、それ!!」
「それもハズレ」
「違うのー?!」
「それじゃー、ヒントだ! 東が角四つ、西は角三つ」
「全然わからない!! 東? 西??? 食べ物じゃないの?!」
悩む有栖川を見て吽の狐の石像は笑いながら言った。
「ははは、食べ物という線はあっているよ」
「吽ちゃん! そういうヒントはダメだ!」
「まぁまぁいいじゃないか。それで分かったかい? 有栖川」
「全然わからない……! 東ってことは右だろ? 右に角が四つあって、左に三つ? キャンディーみたいな形の黄色い食べ物……スイーツで何かあったっけ?」
悶々と悩みながら有栖川の頭の中ではいろんな形で黄色いものでスイーツを思い起こしてみるも、全く問題に合いそうなものが出てこなかった。
「もう少しヒントちょうだい!」
「仕方ない。次のヒントは 東は白、西は五式色 でも違うこともある。開けてからのお楽しみ」
「えぇ!? 全然わからん……開けるの? やっぱりオムライスじゃないの? あ! かに玉丼!! あ、でも角なんてないよな……東と西で違うって何?!」
東と西で違うものはもしかして、本当に東と西で違うと意味なのでは? と気づいた有栖川はスマフォを取り出して検索しようとするも、圏外表示でwebブラウザーは「インターネットの接続がありません」と表示され何も検索できず頭を抱えた。
「うおおおおお! 検索ができない〜!!」
「うはは!! 文明の利器に頼りすぎだ。残念だったね〜じゃー次のヒントだ! 東の衣は俵形、西の衣は三角形」
有栖川は頭の中でモヤモヤとしていた黄色の衣の物体が形になった。そして、色を狐色に変えれば……。
「あ!!! もしかして、いなり寿司!!?」
「「正解」」
阿吽の狐は喜ぶようにその場でジャンプした。きゃっきゃと喜ぶ二体の様子に、有栖川も同じように喜んだ。
「くっそー! 稲荷だからいなり寿司かーー!すぐ気づけば良かったー!」
「「気づくのが遅い」」
3 狐のお使い
「楽しんでる所、申し訳ないが、先ほど神頼みをした困り他人は君かな?」
後ろから声をかけられ、有栖川は驚いて振り返った。そこにはスラリとした美しい白い狐がお賽銭箱の上に座っていたのだ。
「えっと、貴方は?」
白い狐は、有栖川を頭からつま先までジロリと見ると、その場でぴょんと飛ぶと優雅にバク転をした。
綺麗な尻尾に身惚れていると白い狐は神主の姿、つまり人の姿に変わっていた。袴を手で払い、着物の乱れを正すと、顎に手を当てて考えるポーズをしたのだが。
「何で狐ってイケメンなの? ずるくない?」
思わず有栖川は声に出していた。そう、人の姿に化けた狐はさながら韓国アイドルのように肩幅が広く、キリリとした瞳で背も高い黒髪短髪のイケメン姿だった。こんな人が神主をする神社があれば、あっという間に女性たちやメディアが放っておかず、連日人がごった返して、アクスタやブロマイドが売れるのではないだろうというレベルだ。
「そりゃー流行りだったり、その地域でウケの良い顔立ちに化けるからね」
「そうなんだ……。ってそうじゃなくって貴方は誰なの!」
「あぁ、失礼。僕は神使の伊織だ。珍しく願い事がこちらの世界でされたから見にきたんだ。迷子の有栖川さん」
「さっきのお願い事って届いてたんだ!! それじゃー自分を元の世界に!」
有栖川は喜びながら、伊織の手を握ろうとしたところ、伊織はヒラリと避けて、有栖川の顔を覗き込んだ。「ふーん。なるほどね」と小さく呟くと有栖川の周りを歩きながらじーっとまた観察を始めた。「ふむふむ、あーそっかぁーなるほどねぇ」とまた一人納得するとやっと立ち止まり、有栖川に笑みを浮かべた。
「君は良い目を持っているし、戻る前にちょっと頼まれ事を受けてくれないか?」
「え、嫌ですよ。それよりも早く帰して欲しいですけど」
「ダメダメ。ただで帰る方法を教えるわけにはいかない、こっちも慈善事業じゃないんでね」
「お賽銭したのに!」
「それは神使であるこの僕を呼び出したお駄賃さ。むしろ格安だよ。嫌なら別に良いさ、他の神社に行くと良い」
狐の言葉に有栖川は項を垂れた。他の神社なんて土地勘のない場所で、スマフォ検索無しで歩き回るのは無謀ではないかと考えながらも、諦め切れずにスマフォを開くもやはり圏外。有栖川はスマフォと睨めっこをしてから顔を上げた。
「うぅぅぅ……自分で出来る事ならやりますけど」
「ありがとう! 君ならそう言ってくれると思ったよ! 早速だが、ここに行って、偏屈な爺さんにこれを渡してくれ」
そう言って渡されたのは、何処から出したのかいきなり目の前に現れた大きな風呂敷で包まれた正方形のもの。まるで手品のように現れた風呂敷の荷物を、伊織は「はい」といって差し出してきたため、有栖川は慌てて両手で持てば、そこそこな重さだった。
「このくらいのお使いをどうして自分が?」
「言っただろう。偏屈だって、面倒なんだよ。場所はここ」
そう言って、伊織は紙に書いた地図を有栖川に握らせた。
「じゃーよろしくー。終わったらここにきて、鈴を鳴らしてくれ」
そういうと、神使の狐は消えてしまった。
「消えた」
手に握らせられたメモ紙には、ざっくりとした地図が描かれていた。
「「がんばれよ」」
「え! それだけ?! ねぇ一緒に着いてきてよ〜一緒に遊んだ仲じゃないか」
「我らは眷属故、神社の境内から出ることはできぬ」
「そうそう、あくまでも僕たちはこの場所を守る役割だからね〜」
「ぇーーー!! 伊織さんは「あれは別」」
「彼は神様に直接お仕事を頼まれる立場だし、元は妖だったりするし。僕らとは違うだよ」
「それよりも早くお使いを済ませてこい。戻れるものも戻れなくなるぞ」
阿に指摘され、有栖川は慌てて境内を飛び出した。
「スマフォで自動案内にすれば楽なのに」
ぶつぶつと文句を言いながら有栖川は貰った紙を色んな角度にしながら、知らない街の中を進んだ。
どういうわけか、道すがらすれ違う物怪たちは有栖川が持っている風呂敷をみると、ぎょっとして道を開けてくれたため怖い物怪と遭遇する心配はなさそうだった。
風呂敷には可愛らしいデフォルメされた狐と鍵と稲穂が小さく散りばめられており、意外にもセンスが良く、グッズとして売ってたら買いたいななど有栖川は勝手に思っていたのだった。
何度目かの角を曲がった所で、やっと目的の場所に辿り着いた。大きな木の門構えに、木の桶にお花が生けられた、小洒落た日本料亭のような場所で玄関の横の看板には傘の絵が描かれている。
手書きの地図にも目印は看板に描かれた傘とあった。
「ここかな? すいません」
4.傘と老人
「はーい」
少し甲高い声の女性から返事があり、引き戸の扉が開いた。そこには大きな番傘を差した女性…ではなく、頭が番傘の女性が品の良い着物を着て立っていた。
「あら珍しい、人間じゃない。あーお稲荷さんのお使いにいらしたのね、どうぞ上がってちょうだい」
「えっと……お邪魔します」
中に入るとクネクネと曲がった石の通路の両脇には緑豊かな自然な新緑の庭が広がっていた。奥の日本家屋の入り口ではなく、案内されたのは建物に沿って裏側へ、縁側のある中庭だった。
縁側には、黒い紗の着物を着こなしている頭の大きなお爺さんが1人将棋を打っていた。
「ぬらりの爺さん、お稲荷さんからのお使いですよ」
「ん? 伊織はどうした?」
「えっと伊織さんに頼まれて……」
「あやつ逃げおったな」
深いシワが刻まれた老人は忌々しげに舌打ちをした。老人は有栖川に気づくと手招きした。
「ときにお主は将棋は打てるか?」
「いえ全然! 全く知りません!」
明らかなフラグだと思い有栖川は直ぐに答えて、荷物を目の前の老人に差し出すも手で横に逸らされてしまった。
「あの、荷物……」
「簡単な打ち方を教えてやる、そこに座れ」
「えー」
伊織が嫌がった理由はこれか! と有栖川は思いつつ、荷物を縁側に置いてさっさと帰ろうと振り返ったが、なんと先ほどまでの石の道が消え、枯山水の庭に様変わりしていた。
そして番傘の女性はいなくなっていた。
「ほれ、終わるまで出れんぞ」
「うっそーん」
有栖川は仕方なく老人と将棋を打つ事にした。縁側に腰掛けて初めて見る将棋盤はTVで見るようにズッシリとした木の台だ。
「安心しろ、五将棋にしてやる。王将、金将、銀将、飛車、角行だけでやる子供向けだ」
そう言ってパチパチと小気味良い音をさせながら将棋の駒を置いていった。
将棋版の真ん中に五マス分の範囲にコマを配置していく。
「お爺さん、自分早く帰らないといけないんだ。友達も待ってるし」
「お主は迷子の人間だろう? 平気平気、伊織がなんとかするだろうから、ほれ並べたぞ。駒はな王将は全方位に一マスだけ動かせる。金将は上下左右斜め上と後ろに一マス、銀将は前方斜め前に一マス、飛車は飛び越えはできぬが斜めに何マスも移動できる。歩兵は前進のみ一マス。覚えたか?」
「な、なんとか」
「王将を取れば勝ちだ。さてと、実地あるのみ、それじゃー打ってみようか」
「もう?!」
「ほれ、じゃんけんぽん!」
老人に急かされて、思わず有栖川はパーを出してしまった。老人はグー。
「お主が先行じゃ」
「えー……えっと、銀将が一個前?」
とりあえずコマを一個進めると、老人は角行を斜め前に進めた。
有栖川はその次に、老人を真似して角行を斜め前に進めたところで、老人の角行
に自身の角行を取られてしまった。
「あっ」
「ちゃんと位置を把握せい」
「えーーー覚えきれないよ。えっと斜めに進めるんだから、ここに入っちゃだめで……んー? 歩兵を前かな?」
悩みながら進めるもあっという間に「王手」と老人に言われ、逃げるように王将を進めてしまい、あっという間に詰んでしまった。
「なんじゃなんじゃ、あっという間に終わってしまったじゃないか、もう少し考えろ」
「考えろって言われても、ゲームみたいにアシスト機能があるわけじゃないのに無理!」
「そんなんじゃ、あっという間に脳が退化するぞ、よく考えるんじゃ」
老人はそう言うと、また将棋を並びなおした。有栖川はうげーと嫌な顔をするも、老人は気にした風もなく将棋を再開した。
庭を見れば、足元にまで大きな池が広がり大きな鯉が数尾優雅に泳いでいて、涼しげだが、あまりの変わりように有栖川は大きなため息をついた。
「いつになったら帰れるんだ……」
「手加減してやるからほれ、やれ」
「はぁ」
老人に促されて、もう一度やってみるも惨敗。今日習ったばかりのゲームをそう簡単に理解できるはずもなく、これがアクションゲームだったら得意なのだが、戦略系は苦手だった。戦略ゲームはいつも友人に任せっきりにするか、AIに聞いてしまっていた。
「スマフォの電波が入ればわかるのにー」
「最近の若いのはみんなスマフォ、スマフォ言うのう」
「聞けばなんでも教えてくれるんだよ!」
「それで、それはおまえさんの身になったのか?」
「それは……」
「教えてもらって、それを実践で使ったか? 百聞は一見にしかず、経験に勝るものはなし。AIが間違ったことを伝えてきたときに判断できるのか? 全て鵜呑みにしていいのか?」
老人の言葉に有栖川は思わず口を尖らせた。有栖川は古い考えだなぁと思いながらも、便利なものなんだから有効活用して何が悪いのかさっぱりわからなかった。
「でも将棋も今やAIと対戦できるし」
「それは楽しいのか? 人とやってこそ、心理戦が働いて面白いだろう? こうやってワシに捕まって将棋を打つなんてAIにはできんだろう」
「それは…そうだけど……」
「全て答えを見て歩くなんてつまらないじゃぁ無いか。一昔前前にはスマフォなんて無かったんだからなぁ。あえて知らずに飛び込むのも一興よ」
「んー確かに親の世代に出来たって言ってたけど……自分からしたら、スマフォ無しで外出なんて怖いよ」
「……今はそういう状況じゃないか?」
「……確かに!」
「王手」
「うーーー逃げ場がないぃ〜参りました」
「学び続けること、体験することは大事だ。ほれ、もう一度」
有栖川は諦めてまた駒を手に取った、あぁでもないこうでもないと先手を読もうとしてみるが上手く行かなかった。惨敗続きで嫌になってきたタイミングで軽やかな声の青年が声をかけてきた。
「ぬらりの爺さんに捕まった子は君だね。はい、甘いものでも食べて頑張って」
「あ、ありがとうございます」
見上げれば、ジーンズに白いTシャツをきた青いビニール傘の頭をした物怪だった。
持ってこられたお盆の上にはピンク色の練り切り菓子で作られたつつじと紫色の花菖蒲、そして緑茶だ。
「わー練り切り菓子だ! おばあちゃんの家で食べたことある!」
有栖川は花菖蒲の練り切り菓子を受け取り、菓子切りでサクッと切って口に含んだ。甘いあんこの味が口の中にひろがり、舌触りの良いよく練られたあんこに舌鼓し、甘くなってしまった口の中を少し苦味のあるお茶で流してさっぱりさせる。
「やっぱり茶菓子にはお茶だよねー。日本の心!」
「なにを言うとるんじゃい、ほら次の手を打たんか」
「はいはーい」
有栖川は盤上の駒をみた。逃げ回った駒は、歩兵、金将、銀将、ひとつあいて、角行、その下に王将と飛車が控えている。
なんとかして、角行か飛車の前に老人の王将を持って行きたいのだが、なかなか上手くいかない。
「ぬなりの爺さん、お茶冷めないうちに飲んでよね。素人相手に本気になっちゃダメだよ?」
「うるさい。わかっとるわい」
「じゃ〜僕が一手いれていい?」
「はぁ?! 青葉よ、何をって勝手に打つな!」
青葉と呼ばれた青年はしれっと老人の駒を動かした。王将が端っこから動き、前に躍り出たのだ。
有栖川は、これ幸いと飛車を横に一個ずらし、王手を取った。
「やったー!!初めての王手!」
「まだ王手なだけじゃい」
そう呆れながらも老人はやる気なさげに、王将を斜めに動かし有栖川の角行の前に移動させた。このままでは王将に取られてしまうと慌てて移動して老人の金将を奪うも、相手の角行の範囲に入ってしまい奪われてしまった。
「あぁああ負けちゃうよーー」
「大丈夫、いけるよ。がんばれ、がんばれ」
奪った金将を配置しなおして、なんとか守りに徹しながら進めていると、青葉が有栖川にこっそりと「金将を前にすすめて」と囁いた。言われるまできづいていなかったのだが老人の王将の前に、有栖川の金将がいたのだ。言われた通りに進めると老人は唸って「参りました」と告げたのだった。
「勝った?」
「うん、勝ったよ」
「やったーーー! やっと勝った!!! 帰れるー!!」
「おめでとうー!」
喜ぶ有栖川を尻目に老人は大きなため息をついて、練り菓子を一口で食べてしまった。
なんで勝てたのか有栖川はさっぱりわかっていなかったが、喜びながら残りの茶菓子を食べ、お茶を一気に煽り勝利に酔いしれた。
「こやつ全然ルールをわかっておらんぞ」
「そりゃーそうでしょう。今日初めて将棋をやったらしいじゃないですか。ほらほら、ぬなりの爺さん庭を元通りにしてくださいな」
青葉に促され、老人は指を鳴らした。すると庭がゆらめき、池の水が引き、地面から草木が生え、来た時の庭にもどったのだった。
「おぉお、CGみたい」
「出口まで案内するよ」
「ありがとうございます!!」
有栖川は元気に返事をすると、老人にも挨拶をした。
「ぬなりのお爺さん、将棋難しかったけど面白かったです」
「お、もう一局やるか!」
「もういいです! いいです!! 遠慮します!! じゃ!!」
逃げるように有栖川は縁側から飛び出した。その後を青葉がおいかけ「こっちだよ」と出口へと案内した。
「ふん。今時の若いもんはまともに将棋も打てんのか」
お盆を片付けに来た番傘の物怪は老人の呟きにおかしそうに突っ込んだ。
「ぬなりの爺さんが、打てない子ばっかり捕まえるからでしょ」
「昔は打てる奴が多かった」
「いつの時代の話です? 今や人間の世界では令和ですよ。番傘もかなり減ったらしくて、青葉みたいな子が増えましたしねぇ〜若い女の子はフリルなんてつけてるし」
「……」
「ふふふ、それよりあの迷子の人間は元の世界に戻れるんですかねぇ」
「時間の捩れは直してやったわい。あとは他の奴らがなんとかするだろうよ」
「あら、そんなことしてたんですねぇ」
番傘はおかしそうに笑いながら「素直におっしゃればいいのに」と呟きながら部屋の奥へと消えていった。
5 アパートとモグラ
「伊織さーん! お使いおわりましたー!」
有栖川は神社に戻り、カランカランと小気味よく鈴を鳴らした。
「ありがとう、早かったね」
「うわっ! びっくりした。後ろから現れないでくださいよ」
「あははは、うんうん。よくなってるねぇ」
伊織は有栖川の全身を見回しながら1人頷いた。
「? それより早く元の世界に戻してください」
「それには、まず君がここに来た原因を聞かないとね」
有栖川は確かにまだ話していなかったと思い、ここに来た原因である猫についてかいつまんで話した。
「つまり猫を追いかけていたらこっちに来たと」
「追いかけてるつもりはなかったんだけど、たまたま同じ方向だったと言うか……」
「んーそうなると、その猫を捕まえないとダメだね」
「えー!」
「阿吽、君たちは猫を見かけたかい?」
伊織が問いかけると二体は首を傾げつつも、お互いボソボソ不思議な言葉を話し合うと、伊織に向き合い、告げた。
「今日、朝の時間帯には猫が通ったが有栖川が来た時間帯の前後にはこの神社の前には通っていないです」
「きっと建物の屋根か塀を伝って移動したんだと思います。そうそう、時間を気にする猫といえば神楽かニケじゃないかな? 数年前に猫又になった猫達で、色んなバイトをしているせいか、いつも時間に追われている」
二体の言葉に有栖川は驚いた。
「物怪もバイトするんだ……」
「この世界もお金は必要だからね、地獄の沙汰も金次第って言うだろう?」
伊織は親指と人差し指で円を作ってニヤリと笑みを浮かべた。有栖川には、悪人ヅラに見えた。
あの猫はバイトに向かってる最中だったたら悪いことをしてしまったかもしれないと有栖川が少し思っていると、ちょうど焦茶色の猫が神社の境内、有栖川たちと狐の石像の間を横切った。
すかさず二体の狐が軽やかに猫の行き先をふさぎ有栖川に教えた。
「この子が神楽だよ。君が探しているのはこの猫かい?」
神楽は目元に少し傷のあるふっくらとした猫で、いきなり道を塞がれ毛を逆立てた。
「ん? なんだ? いきなり通せんぼとは!! 阿吽と遊んでる暇はないぞ!」
「阿吽さんありがとう、でも猫違いだ。もっと薄い茶色の猫だよ。こんにちは、神楽さん」
「あん? 初めて見る顔だな! はじめましてだな! なんだ、なんだ、猫探しか? 阿吽が手伝うなんて珍しいな!」
「彼はお参りをしてくれたからね。神楽は今日、ニケにはあったかい?」
「おうよ!」
「今日ニケは涼の刻駅を使ったか? そんときにこの子と会ったらしいだよ」
「あ〜〜〜なんか変なのに絡まれたとか愚痴ってたのは、お前のことだったのか! 使ってるはずだぜ、秋の原から……頼まれものの荷物運んでたからな!」
神楽は伊織の存在に気づき、言葉を詰まらせた。ひくりと髭を震わせると少し早口で言い切った。
伊織はにっこりと優しい笑みを浮かべながら一歩前に出ると、神楽に聞いた。
「そう、ありがとう。ちなみにニケは今どこにいるか知ってるかい?」
「し、しらねぇーな。次のバイトに行っちまったからな。それじゃ俺も次のバイトがあるからさ!」
そう言うと、明らかに伊織から逃げるように神楽は去っていった。
「……伊織さん嫌われてるの?」
「嫌われてないよ。ただ、僕はここの警察……とは違うけど、パトロールも兼ねてるからね。あの猫、やばいバイトにでも手を出してるいるのかもねぇ〜」
「伊織さんの顔が怖い」
有栖川が思わず一歩下がると、有栖川の両脇に阿吽が挟むように座って見上げて言った。
「伊織様は神使だからねー」
「強いからな。悪さする奴はコテンパにしちまうんだよ。最近、低級の物怪の間で闇バイトが流行ってるらしいですよ、伊織様。噂程度なんですけどね」
「へー……ん?……闇バイト……物怪なのに?」
有栖川は言葉のチョイスに違和感を感じながらも、ふとお使いの時に風呂敷見てみんな避けていたのは、伊織が怖いからその荷物を持つ自分を避けていたのでは? と気づいた。
伊織を見れば、懐からメモ用紙を取り出して何かメモをし、折りたたんで鳥の形にすると、息を吹きかけた。すると、メモの鳥はパタパタと空へと羽ばたいていった。
「よし、ニケか。僕は知らないけど、猫を探すならここら辺の猫を束ねてるボス猫を訪ねるのが一番だ」
「ボス猫なんているんだ」
「もちろん! 茶々丸っていう化け猫さ、早速会いに行こうか」
「「いってらっしゃいませー」」
有栖川が神社の境内から出発した時とは打って変わって、阿吽の石像は礼儀正しく伊織を見送った。
「伊織さんってすごく偉い人? あの二匹? が礼儀正しいよね」
「あはははは、役割が違うからね〜あと少しだけ僕の方が長生きだからじゃないかな」
にっこりと微笑む伊織の様子に、有栖川はそうゆうものなのかーと納得した。そして、やはり伊織と一緒に歩くと、道すがら出くわす物怪達は明らかに避けるモノと、礼儀正しく挨拶をするモノとで二極化していた。
有栖川は心強いと思いながら、ついていくと少し古めかしいアパートにたどり着いた。
アパートの入り口にたむろしていたのは、可愛いらしい猫達。二本足で歩く猫や、小学生くらいの大きさの猫が座り込んでいたり、お菓子を食べていたりしていた。
伊織がくるとすぐに通路を開け、「茶々丸さん今日は家にいまっす!」「ありがとう」というやりとりをすると、一匹の猫はエレベーターのボタンを押下し、エレベーターの箱がくると、すぐに最上階のボタンを押下して「どうぞどうぞ」と中に案内すると、扉が閉まるまでお辞儀していた。
「……伊織さん何者?」
「あははは、茶々丸と仲がいいからねー。人間達の世界でいうところの社長と仲のいいお友達って感じじゃないかな? だから丁寧に相手してくれるだけだよ〜。あとここのアパートは全室猫しか住んでいないから」
「え! 猫アパート! 猫カフェならぬアパート!!」
「おや? 猫カフェみたいに撫でに言ったり遊んじゃダメだよ? ここの猫はみんな、物怪だからね。イタズラくらいで済めばいいけど、下手したら体乗っ取られちゃうから」
「ぇ……」
撫でたくて、わきわきと両手を動かしていた有栖川は、伊織の言葉ですぐさま手を引っ込めた。
チンという古めかしいエレベーター音が響くと、ちょうど最上階に到着すると暗い洞窟の中だった。
「え」
「おやおやー。誰かが侵入したねー」
「え、侵入ってなんですか?!」
「このアパートは茶々丸の縄張りなんだよ、アパートの空間を作り出して猫の物怪達が安心に暮らせるように作られた場所なんだけど……誰かがそこに穴を開けて侵入しようとしているって言った方がわかりやすいかな」
「えぇー!? それってまずいんじゃないですか?!」
「まずいねー、まぁー茶々丸のほうでも対処してるだろうけど」
そう言いながら伊織は有栖川の手を握った。有栖川は伊織の突然の行動に驚き、ドキドキしてしまった。イケメンに手を握られるってこういうことなのか! と一人興奮していると、伊織の緊張した声が響いた。
「くるよ。構えて」
「え?」
伊織が見据える視線の先は真っ黒な洞窟だ。有栖川は思わず握られている手を握り返すと、生ぬるい風が襲ってきて思わず目をつぶってしまった。
「あれ?」
目を開けたはずなのに、まるで目をつぶったままの真っ暗闇で、有栖川は不安に襲われた。一瞬緩みかけた手をギュッと握る感触で、今伊織と手を握っていたことを思い出し、もう片方の手で握っている手を探り掴んだ。
「い、伊織さん? いますよね? 真っ暗で何も見えないんですけど」
「いるよ」
伊織が声を発した瞬間、ぼっという音と共に青白い炎が二人の間に浮かび上がった。
「なんで真っ暗なんですか?」
「ここに入ってきた時はエレベーターの光があったからね、洞窟とは本来真っ暗なモノなんだよ」
「そ、そうですよね。な、なんでエレベーターが消えちゃったんですか?! そ、それに、ここから出れるんですか?」
「んー……まぁ、とりあえず前に進むしかなさそうだ。後ろは……なさそうだからね」
「あの! 手を離さないでくださいね!」
「あははは、もちろん。……危ないからね。虫は平気?」
「その間が怖い! でも聞かない!! 虫は嫌いです!」
「そっかぁ〜まぁ、知らぬが仏だ。僕から離れないでね」
「もちろん!!」
「いい返事だ」
そういうと、伊織はちらりと背後を見ると、歩き始めた。二人の間に揺れる狐火はお互いの顔とほんのりと足元を照らす程度の明かりだった。
微かに聞こえる、四方八方から聞こえるカサカサ音に有栖川は鳥肌が立ちっぱなしだ。必死に「何も聞こえない何も聞こえない」と唱えながら、照らされている床だけを見つめ、しっかりと伊織の手を握り締め密着しながら歩いていく。
時折、伊織が腕を振るうと変な音がする程度だ。
「おっと、扉があるな」
「扉?」
有栖川が前を見るも、暗闇で何も見えない、何か蠢いた気がしたがそれは気のせいだろう。
どうやら伊織には見えているようで、楽しげに微笑んだ。
「入ってみよう」
「え、だ、だ、大丈夫なんですか?」
「なんか術の気配があるんだよねー」
そういうと、伊織は暗闇に手を伸ばし、ギーという音と共に扉をあけてしまった。有栖川は握られた手を振り解けるわけもなく、伊織に続いて扉の中に入った。
「おや、提灯があるな」
伊織が指を振るうと、ボッボッボッという音と共に周りが明るくなった。円形に掘られた部屋のような場所には、天井に提灯が並び室内をほんのりと照らしてくれていた。
「ここには、虫いないんですね」
「ん? ……うん」
「そ、その間はなんですか!」
「こういう所にいる虫って明るいのが嫌いなんだよ」
「……!!!」
思わず有栖川は伊織の腕にしがみ付いた。
「あははは、大丈夫大丈夫、危険なのは排除するからさ」
「危険じゃないのは排除しないって聞こえるんですけど……」
「あー、そうそう、この部屋はたぶん、あの洞窟を作った物怪とは別の物怪が作った部屋だと思うんだよね」
「無理やり話変えましたね! いいですけど! 洞窟と違うってどいうことですか!」
「知性を感じられる。みてご覧」
そう言われて、よくよく見れば、壁には太陽と三日月と波の方に彫られた壁があった、それぞれの壁の前には台座が置かれている。
床には読めない漢字でびっしりと書かれていると思ったが、掘った文字の中に色のついた泥を流し込んであるようだった。しかも床には色々な物が雑多に置かれており、物置かと思うほどだ。
「知性っていうより、汚部屋ですよ」
「あははは、確かに散らかっているね。でも、床と壁の彫り物は意味がある物だ。もしかしたら、僕たちよりも前に来たモノが作った術かもね」
「はぁ……それはどいう」
「これはまだ動くな」
伊織は地面に掘られた文字の上にある砂を、足で退けながらぶつぶつと呟き始めた。すると床が光り、空気が渦を巻いたかとおもうとそのまま扉の外へと突風となって出ていった。
「どう?」
「どうって……あ、空気が軽くなった?」
「澱んだ空気を綺麗にしてくれる術だったんだ。さて、空気も綺麗になったし、扉も閉まったことだ、しばらくは安全だろう」
振り返れば、確かに扉はしまっており、その扉には”封”という文字が書き込まれていた。
「手は離して平気だよ」
「あ、はい」
慌てて手を離すも、やはり異様な空間にいる状況に有栖川は身の安全と心の安心のために、伊織のそばにピッタリと張り付いた。
「すごいガラクタばかりですけど」
「面白いよねー、月の前には月ね〜」
伊織は壁を眺めながら楽しげに考えているようだった。有栖川は、この謎な壁と台に首を傾げるばかりだった。
「何か意味があるんですか? 月の前に置いてあるのは月のランプですよ、太陽の壁の前にお札? 太陽のランプじゃなく?」
「んーそこだよねー」
「あ、海の前には稲穂? なんだこれ?」
「ん〜〜〜〜〜?」
床に散らばった物を見れば、おもちゃやランプと様々な道具がある中、壁と台座だけが異様な雰囲気だった。
伊織は床に散らばった物を手に取りながら、何やら仕分けをし始めた。
「伊織さん、何してるんですか? 脱出に使えそうな道具はなさそうですけど」
「ん〜〜君は神様を知っているかい?」
「神様? まぁーそこそこ?」
「太陽神の名前は?」
「アポロン!」
「あははは! それはギリシャ神話の太陽神だよ、日本の神様だよ」
「日本の神様……あまてらすおおのかみ?」
「正解、天照大神を象徴するものは、鏡と稲穂、そしてお札」
伊織は床に散らばっていた中から見つけた萎びた稲穂と手鏡を手にとって、台座の上に置いた。地面に落ちていたハタキで埃を少しはらい、手と手を合わせて拝んだ。
「神様を祀ってるってことですか?」
「んー祀ってるというか、お力を借りるためのものかな」
「じゃー月は誰になるんですか? 月の神といえばルナだと思うんだけど、日本の神様?」
「ルナはローマ神話だろう、何で外国の神を知ってて日本の神を知らないんだ」「えへへ、スマフォゲームで〜」
「はぁ、日本神様は月読命」
「つくよみのみこと…女神様っぽいね!」
「男だ」
「えー! そうなんだ。語彙感的に女性ぽいのに」
「あははは、現代の子的にはそうなのか! 月読命を象徴するのは月と暦と水」
「暦ってことはカレンダー? あった! あ、ペットボトルの水あるよー」
「それでいいだろう」
有栖川は見つけた日めくりカレンダーとペットボトルを台座に置いた。伊織が埃を祓い、先ほどと同じように有栖川も一緒に両手を合わせた。
「ここから早く出られますように!」
「……」
「よし! それじゃ次は海ですね! ポセイドンじゃ無いだろうし」
「須佐之男命だ、八岐大蛇と草薙剣、は無いかららコレでいいだろう」
「蛇のぬいぐるみにお土産の剣……こんなんでいいの?」
「月の代わりにランプが置いてある時点で、大丈夫だろう」
先ほどと同じように並べて埃を祓い、手を合わせた。
「何も起きませんね」
「いや、ゆっくりとだけど動いたね」
伊織は有栖川の手をまた掴み、床に描かれた文字の上に移動し、唱え始めた。
「掛けまくも畏き伊邪那岐大神、筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に、御禊祓へ給し時に生り坐せる祓戸の大神等、諸の禍事、罪穢有らむをば、祓へ給ひ清め給へと白す事を聞こし食せと、恐み 恐み 白す」
有栖川は、思わず「神社の神主さんみたい」と言いそうになった言葉を飲み込んだ。伊織が唱え終わったと同時に、壁が光り、床も光ったのだ。
そして扉の方でドンという大きな物がぶつかる音がした。それは一回だけでは終わらず、何度も何度も聞こえ、有栖川は恐怖で伊織の腕にしがみついた。
「い、伊織さん」
「大丈夫」
先ほどよりも大きな音と共に空気が揺れ、思わず有栖川は目をつぶった。
次の瞬間、まるでジェットコースターで落ちるかのような浮遊感とぐるりとまわったような感覚がおきた。
「うー」
「もう大丈夫だよ、目を開けてご覧」
伊織に言われて目を開けると、そこはアパートの廊下だった。振り返ると、黒いタンクトップをきた筋肉隆々の毛むくじゃらの男の後ろ姿。そして足元には大きな蛇ではなく、大きなミミズがのたうち回っていた。
「ひぃっ」
6 捕まえた!
「やぁ、久しぶり茶々丸殿」
「よう。伊織殿、久しぶりだな、内側から攻撃してくれたのは伊織殿だったか、助かったよ」
「こちらこそ」
伊織が話しかけて振り返った毛むくじゃらの男は、筋肉隆々の大きな猫だった。物怪だと知らなければ、大きな着ぐるみだと思うような姿だ。
長い廊下には扉が一つだけで、どうやらこのフロア全部がボス猫の部屋のようだった。手には日本刀を持ち、足元でのたうち回っていた大きなミミズを半分に切り捨てると、そのまま廊下の手すりの外へと投げ捨てた。
「おーい、焼き捨てておけ!!」
「「はーい!」」
「あ、あれ、あれ、ミミズ?? お、おっきぃ……」
「うん。ミミズだね、さっきまでいたのが、彼の住処だったんだよ」
「え」
「それで、伊織殿、なんの御用で?」
「あぁ、実は猫を探していてね。君のところにニケっていう新猫はいる? その猫に引き寄せられて、この子がくっついてきてしまったらしくってね」
「ん? ……あぁ、人間か。とりあえず中に入ってくれ」
「お邪魔するよ」
「お邪魔します」
茶々丸はすぐ近くにあった扉を開けると二人を部屋の中に案内した。部屋の中は広々としているだけでなく、なぜかダンベルやらベンチプレスが並んでいた。
有栖川は思わず「ボディビルダー?」と呟いてしまうほどだ。どうやら茶々丸は体を鍛えるのが好きな猫のようだった。
「相変わらず鍛えてるね〜」
「若い奴に負けてらんねぇーからな日々体を鍛えてねーとな!」
「すごいよねー。慶長あたりから生きてるんだよー」
「へー……?」
慶長っていつの時代だっけ? と有栖川が思わずスマフォを取り出すも、使えないことを思い出しポケットにしまった。
それよりも、先ほどの現象はなんだったのか有栖川は聞きたかったが、二人は全く気にした風もなく話が進んでいった。
「世の中にはもっと長生きしてる奴がゴロゴロいるさ。それで新顔の猫のニケだが。あいつ、金稼ぎであちこち駆けずり回ってるからな。なんだっかな、なんとかイーツだったか……飛脚みたいな仕事しているんだよ」
「へーもしかして人間の世界のモノをこっちに持ち込んでる?」
「さぁな、だがそこの人間がくっついちまったってことはそうかもな」
「それはよろしくないね〜」
「そうだなぁ〜。よっし、いっちょこっちに呼ぶか」
そう言うと、茶々丸はベランダに出て一声鳴いたのだった。「に"ゃ"ぁ"お"」とのぶとく低い声が響くと、あちこちから小さな「にゃぁ」「にゃっ!」「にゃーん」と猫の返事が聞こえた。
思わず有栖川は「すごい」と呟いていた。
「これで、すぐに来るさ。そうだ、茶でもだすわ」
「ありがとう」
茶々丸が入れたインスタントのお茶を飲みながら、伊織はリラックスした様子でソファに座りまったりしていた。有栖川のほうが逆に緊張してしまい、ソファの端っこで縮こまった。
有栖川よりも体格が大きい茶々丸は、例えて言うなら、ボディービルダーの着ぐるみの猫、と言っていいようなムキムキなのだ。ニット笑うと歯がぎらりと見え、猛獣のように見えた。
「それにしても、人が紛れ込むなんて、めずらしいわなぁ〜」
「そうだね、もしかしたら結界が緩んでるのかも」
「のんびりしてていいのか?」
「よくはないんだけど、まずはこの子を返してあげないとね」
「それもそうだな」
「あの……結界って?」
「あぁ、人の世界とこの狭間の世界はとても近くってね、一昔前はもっと密接に繋がってたんだけど、色々あって今は簡単に繋がらないように結界が張られているんだ。」
「へーー」
「逆に人の世界で物怪になった奴がいないか定期的に見にいかなきゃいけねーんだわ。今はすーぐ情報がひろまっちまうからなぁー」
「へー大変そうですね」
「大変だよぉ。人間のとこと狭間の世界じゃールールも違うしなぁ〜毎回教えるのが大変で大変で」
有栖川は茶々丸の様子に、まるでサラリーマンの愚痴みたいだなと思った。伊織は「へー大変だねー」「そうなんだー」「うんうん」と相槌を打っているだけだ。
お悩み相談室のようだと有栖川が思っていると、外が騒がしくなり、インターホンが鳴った。
「お、来たな」
「なんでしょう!! 茶々丸兄さん!!」
「ニケ、お客さんだ」
「お客さん? ……げぇ!!」
「猫ーー!!」
茶々丸の足元からひょっこりと顔を出したニケと有栖川は目が合った。そして有栖川は指を刺して叫ぶと、一目散に駆け寄り、猫を抱きしめた。
「こいつですううう!」
「おう、それはよかった」
「ぎゃーーーー!! は、はなせにゃーーー」
「よかったよかった。見つかって」
伊織と茶々丸は笑顔だが、有栖川は背筋がぞわりとして思わず強くニケを抱きしめた。二人はニケと視線が合うように少し屈むと、笑顔のまま問いただした。
「で、ニケよ。どうしてお前にくっついて人間が紛れ込むんだ?」
「ひぃ!!」
「人間が来たらすぐに知らせないとダメだろう? ついてきたってわかってるのなら、尚更ね」
「ひゃいぃ! すいませんでした!!!」
「それで、お前は何を運んだんだ!!」
「すいませんん。キャットフードを頼まれてーーー!! 持ち込みました!!!」
有栖川の腕から逃げようとしていたニケは今や、二人の圧で有栖川の腕の中で震えしがみついているような状況になっていた。
有栖川は、ニケのことがすこし可哀想になってきてしまい、思わず「よしよし」と言いながらニケの首筋や背中を優しく撫でまわした。
「こ、この状況で?! や、やめろにゃ! き、気持ちよくなんて…にゃぁ〜」
有栖川のマッサージにすっかりふ抜けてしまった猫はゴロゴロと喉を鳴らしてリラックスしてしまった。
「ふっ、猫カフェ極めた猫マッサージの威力はどうだ! それで猫、じゃなかったニケを捕まえたら自分戻れるんですよね?!」
「んーそう簡単な話じゃなさそうなんだよねー。ニケ、君はどうやって人間の世界に渡ってるんだい?」
伊織が尋ねるも、有栖川のマッサージに腑抜けた声を出すニケは「そんなの知らないにゃ〜あぁ〜そこそこ、気持ちいいにゃ~」と発言し、茶々丸に拳骨を落とされた。
「真面目に答えろ」
「にゃーーーー。だって僕は行きたいと思えば行けるし戻って来れる。今この瞬間も僕は向こうにいて、こっちにもいる」
「なんだそれ!」
有栖川は頭を抱えた。シュレーディンガーの猫みたいな問いかけじゃないかと思っていると、二人は大きなため息をついて「やっぱりか」という声を漏らした。
「やっぱりって何?!」
「いやー、会ってみて思ったけど。ニケはまだ、普通の猫の部分が残ってるんだよ。完全な物怪じゃない」
「そうそう、まだ未完成って感じだな。そのせいで存在があやふやというか、どっちつかずな状態なんだよ。新猫によくあるパターンだな」
「そ、それなら今触ってる時点で自分を元の世界に連れてってよ!」
「無理だにゃー。今まで生き物を連れてきたことはないにゃー、そんなんで戻れるなら、涼の刻駅の時にお前、戻ってるはずにゃ」
「た、確かに。……伊織さーん!!」
「んー困ったなー」
「でも変だな。今までこのくらいの猫又が人間を連れてきたことなんて一度もないぞ」
「……確かに。そういえば、有栖川は背中を誰かに押されたって言ってたよね」
「え? うん。両国駅に着いた時に押されて、ホームに降りちゃったんですけど」
「「あー……」」
二人は何かわかった様子だが、有栖川とニケはさっぱりわからなかった。
7 戻るためには?
「え、つまりもう一匹物怪がいたってことですか?」
「そう、ニケの曖昧なゆらめきで狭間の世界を繋げたとしても人が入り込める余地はないんだよ」
「誰かが、それを利用してこじ開けない限りな」
「こじ開ける……」
「そう、こじ開けるために君が利用されたようだけどね」
「え、利用された?」
有栖川が驚いていると、伊織と茶々丸は頷いた。
伊織はニケと有栖川を見比べてから、顎に手を当てて考え込んだ。
「故意に開けたとなると、また接触してきそうな気がするな、彼を通して人間の世界と狭間の世界を行き来したわけだし」
「ニケ、電車の中に他の物怪はいたか?」
「結構乗ってましたにゃ。河童に一つ目小僧、鬼に妖狐に猫又も!」
「結構乗ってるなー」
二人の様子に有栖川は不安になった。戻れないかもしれないという不安を誤魔化すようにニケを撫でくりまわし、肉球をフニフニと揉み、心を沈めていると伊織が大きなため息をついた。
「はぁーーー瓊瓊杵尊のお力をお借りできれば一発なんだけどねー」
「なんだ、借りられねーのか?」
「今、近くの神社にいないだよー! ていうか、今日は神様が留守なところが多くて……!! 集団で飲み歩いてる可能性が高い!!」
「神様が飲み歩き?」
「神様は宴会が大好きにゃ」
「へー」
「それはそれは、神使達は大忙しだな」
「そうなんだよ!!」
「えっと、伊織さん忙しい中、自分のところに来てくれて、ありがとうございます」
「いいんだよ!! 君は巻き込まれちゃっただけだから!!」
伊織さんも大変なんだなぁ、と有栖川は思いながらニケの前足を掴んでネットミームになっていた猫の困ったポーズをさせた。
「……離すにゃ」
「いやだ。自分の心の平穏のためにも無理」
ぎゅっとニケを抱きしめ直した有栖川は「自分はこれからどうしたらいいでしょう」と呟いた。
「とりあえず、行きつけの飲み屋にいくのはどうだ? 一柱くらい捕まえられるだろう」
「そうですね……行きましょうか。茶々丸殿ありがとうございます。ニケはお借りしますね」
「おう、よろしく」
ニケの「うそですよね?!」という叫びは黙殺され、茶々丸の部屋を後にした。伊織が知っている神様行きつけの昼間っからやっているという居酒屋へ向かうことになった。
道すがら有栖川は原因の物怪を見つけたらどうやって戻れるのか聞いたところ、同じ現象を起こさせるのが一番体の負担が少ないということを言われたが。
「お、同じ現象とにゃ?」
「ニケの様子を見るに、とても不安なんですが。伊織さん」
「あははははー」
伊織は笑って誤魔化した。
有栖川が大丈夫だろうかと不安に思っていると、伊織が暖簾のかかる店の前で立ち止まった。
「ここ、ここ。さて、一柱くらいいるといいんだけど。こんにちはー」
伊織が挨拶をしながら、引き戸を開けると中でガタガタという音と共に「ツケで!」という叫び声が聞こえた。有栖川がニケに「ツケってなに?」と聞くと「後で払うって意味にゃ」と答えてる中、伊織は店内の奥へと叫びながら突入していた。
「こらー! 逃げんなー! 仕事ですよ!!」
店内から「裏口だよ」「神使じゃないかー」「あははやっぱりさぼってたかー」といろんな声が響く中、伊織の怒声が遠くの方で響いた。有栖川はニケを抱きしめたまま、ふと店の横の狭い路地を覗き込むと、着物を着た老人が遠くの路地に逃げていくのが見えた。
「あれは神様にゃ」
「あれが神様……逃げちゃったけど」
「伊織様が怖いんにゃ。仕事の鬼ってきいたにゃ、狐なのに」
「狐なのに鬼……そうには見えないけど。イケメンの優しいお兄さんって感じじゃない?」
「それは……人間だから? 悪いことをしてないからとかかにゃ?」
「なるほど、ニケは悪いことしたの?」
「……」
ニケが黙り込んでしまったタイミングで伊織が息切れをしながら戻ってきた。手には布切れが握られており、口悪く悪態をつく姿に、有栖川は確かにこの姿は鬼みたいだっと思ったのだった。
「お疲れ様です。神様逃げちゃいましたがどうしましょう」
「まぁ、今逃げたのはあまり役に立たない神なので平気です」
「役に立たない……神様なのに……」
「七福神の一人だったので、また仕事をサボって逃げているんでしょう」
そう言いながら、伊織は胸元から紙を取り出し乱雑に書くと、また鳥の形に折り息を吹きかけた。
パタパタと羽ばたいていく紙の鳥を眺めながら有栖川は聞いた。
「あの紙の鳥はなんなんですか?」
「手紙みたいなものです。神使仲間に情報共有しているんです。先ほどの神を探しているであろう同業者にね」
にっこりと伊織は微笑むが、この状況で微笑まれると怖さがあり、ニケが思わず有栖川の服に爪を立ててしがみついた。
「その、他の神使のかたに、神様に伝えてもらうのはどうですか?」
「それができてたらいいんだけどねーアハハハ。まぁ、ここで時間を潰すわけにはいかないので、知恵を拝借しに行きますか」
伊織は大きなため息をつくと「こっちですよ」といって歩き始めた。付いていくと高架線沿いの道に出た。人通りはなく、歩いているのは有栖川と伊織だけなのだが人が雑多にいるような不思議な空気感に、有栖川は周りをキョロキョロと見回した。
伊織は気にした風もなく進んでいくが、有栖川は異様な雰囲気に思わず小走りで伊織の横に並んだ瞬間ドンと背中を叩かれた。
「え?」
「にゃ?」
驚き振り返ると、そこには蛍光色の青いズボンに白いパーカーに青い髪をした小学生くらいの少年が立っていた。
「僕は寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来松風来末食う寝るところに住むところ藪ら柑子の藪柑子ぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがん しゅーりんがんのぐーりんだい ぐーりんだいのぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの
長久命の長助っていうんだ! 君の名前は?」
「え、自分は「にゃーーー!! だめにゃー!!」」
ニケが慌てて有栖川の口を塞ぎ、叫んだ。必死な形相のニケに有栖川は目をぱちくりする中。ニケが小声で「周りを見るにゃ」と告げた。
有栖川はゆっくりと横目で周りを見渡せば、横に並んだはずの伊織がおらず。しかも高架線の真横の道を歩いていたはずなのに、いつの間にか公園の中にいた。
記憶違いだろうかと訝しむ中、そういえばさっきはアパートの中で洞窟に迷い込んだな、なんて有栖川が思っていると目の前の少年が服を引っ張って聞いた。
「ねぇ、君の名前はなに? 教えてよ」
「え? なに「名乗っちゃダメなのにゃ!! いいか僕の名前も言っちゃダメにゃ!!」」
必死な様子のニケと、にっこりと微笑む少年の雰囲気の差に、有栖川はやっとこの少年がおかしいと気付いた。
ニケを見れば、首を横に振るうだけ。
「に……猫さん。他の人の名前は?」
「だめにゃ!」
「えっと……」
「ねぇ、僕の名前ちゃんと覚えた? もう一度言うね」
少年は有栖川達を無視するかのようにまた長い名前を名乗った。なぜかその名前を聞くと、うっかり名乗りそうになり、有栖川は慌てて自分の口を片手で塞いだ。ニケと顔を見合わせ、どうしたら良いかと目で訴えても、顔色悪く首を横に振るうばかりで、ニケもどうしたら良いかわからないらしい様子。
ただ、この場所に来てしまった原因は目の前の少年だと言うことだけは、雰囲気でわかったのだが。彼はずっと長い名前を名乗り続けるばかり。
「ねぇ、僕の名前覚えた? 言ってみて」
そう求められた瞬間思わず有栖川は少年の名前を言いそうになり慌てて誤魔化した。どういうわけか、名前を名乗らせようとしたり名前を呼ばせようとする様子に、有栖川は警戒した。これは名前を間違えたら大変なのではないだろうかと思い、ニケに小声で「間違えたらやばい?」と聞くと「たぶんやばいにゃ」と返ってきた。
「その、もう一度名乗ってくれるかな?」
「仕方ないなー」
少年がまた長い名前を名乗るのを聞きながら、有栖川は一か八かの賭けに出た。
「僕名前言ってみて」
「わかった、『寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来松風来末食う寝るところに住むところ藪ら柑子の藪柑子ぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがん しゅーりんがんのぐーりんだい ぐーりんだいのぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの長久命の長助』 でしょ?」
「……君の声じゃないよね?」
「自分のモノで答えたんだから、何もおかしくないよね?」
有栖川の片手にはスマフォが握りしめ、もう片方はニケを抱きしめた状態で一歩下がりながら答えた。
少年は名前を言ってみてと告げただけで、誰の声で言ってとは言っていない、有栖川はそこに賭けてスマフォで咄嗟に録音した少年の声を再生して答えたのだった。要は屁理屈だ。
また聞かれたらすぐに再生できるようスマフォの画面をタップできるように指がスタンばっている。
「……僕の名前」
「自分はちゃんと君の名前を返したよ」
有栖川の言葉に、少年は悔しそうな顔をした。どうやらこの対処方法で成功のようだった。
少年は舌打ちをすると、後ろへ駆け出すと同時に周りの景色も少年に吸い込まれるように消えていき、先ほど歩いてた道に戻っていた。
「も、戻った?」
「戻ったにゃー!!! よくやったにゃーー!!」
ニケが喜びながら有栖川の顔をぺちぺち叩くなか、伊織が横で頭を抱えていた。
「あ、もう名前言ってもいいかな?」
「大丈夫にゃ」
「伊織さん」
「あーー有栖川!! とりあえず、無事でよかった。そしてすまない、油断したよ。まさか天邪鬼があらわれるとは」
「あれが天邪鬼? 派手な格好だったし、なんかすごい長い名前を名乗ってたよ。あれ? 小学校の時に確か習ったやつ。寿限無寿限無〜っていうやつ」
「あの天邪鬼、嫌に名前を知ろうとしてたにゃ。なんなんにゃあんなヤバイ格好の天邪鬼初めてみたにゃ!!」
「名前か……天邪鬼がもしかしたら君をここに連れ込んだ物怪かもね。格好が派手だったってどんな姿に化けてたんだい?」
「目に痛いビビットな青に白に青にゃ!」
「あれ、今思うとvtuberみたいな格好だったな」
伊織がvtuverを知らなかったため有栖川がかいつまんで説明すると「人間って面白いことするね」という感想と共に「そういう天邪鬼は確かに初めて聞く」とのことで余計頭を悩ませてしまった。
「そんな情報出回ってない……でもあの気配は天邪鬼だし……狭間の世界には初めて来たのか? 他の天邪鬼がだまってないどだろうに…」
ぶつぶつと呟きながらも伊織が歩き始めたため、有栖川は慌ててついて行った。伊織はちらりと建物を見まわしながら、唸っていると何か閃いたようだった。
「そっか! 新種の若い天邪鬼かもしれないな……いや、それはそれで厄介だな…」
「物怪に新種ってあるの?」
「もちろん! 物から発生する物怪は人間が使う物と密接に繋がってるからね。技術の発展が早すぎて新しい物が増えすぎたのと、こんなに異国の人間が出入りするようになっちゃったから、異国の宗教の思想が混ざって新種の物怪が誕生したりするんだ。そうなるとこちらの常識が通じない」
「へー」
「有栖川、通じないって事は日本式の祈祷や術が効かないって事なんだよ。対処の仕方が誰も分からないってこと。つまり君が戻るための手順が通じないかも」
「えー! 大問題じゃないですか!!」
「そういう事。これは翁先生に頼むしかないな……。ちょうど行こうと思ってた先に家があるんだけど……興味示してくれれば協力してくれる」
小さくため息をつきながら伊織がいう翁先生と呼ばれる物怪に会いに向かった。
なんとその物怪は物怪たちのデパートの屋上に家を建てて住んでいた。エレベーターで最上階に到着し、屋上の扉を開ければ、目の前に日本家屋の屋敷と庭が広がっていた。
慣れた様子で伊織が進み、扉を叩いて引き戸を引くと、中は日本家屋なのだが目の前に廊下があり、まっすぐと続くのだが床から半分右側の内装は洋、左は和という和洋折衷の不思議な作りとなっていた。
伊織が再度声をかけると古めかしい日本人形と、日本人形と同じサイズの現代の関節人形が日本人形とお揃いの着物柄のワンピースを着て手を繋いで現れた。
二体は丁寧にお辞儀をすると答えた。
「「伊織様、こんにちは。先生、研究室に篭ってる。出てこない」」
少し不機嫌そうに訴える人形達は、伊織の服を掴みこっちだと案内し始めた。
有栖川は情報量が多すぎて、ニケを抱きしめながら、柔らかい毛並みを撫でて心を落ち着かせた。
ニケは、有栖川の顔を見て小さなため息をついて諦めたようにされるがままだ。
二体に案内されて洋室の部屋を進んでいくと、途中から現代の研究室の部屋に変わった。パソコンのキーボードを力強く叩く音が響いており、そこにいたのは、着物の上から白衣を着た白髪の後ろ姿の男性だ。
「翁先生、失礼するよ」
「失礼だから帰ってくれ」
「先生の知恵を拝借したくてね」
「忙しい」
「新種の天邪鬼によって人間が巻き込まれたんだ」
「新種の天邪鬼だと?」
ぶっきらぼうに返していた翁は新種という言葉で振り返った。その顔は年齢のわからない男性だった。30代と言われれば、30代に見えるし,20代といわれればそう見える、50台と言われれば、俳優でいるよねという感じで、有栖川はサッパリ年齢が読めなかった。
「そう、この子なんだけど」
「何故新種だと思った! 新種という根拠は? 天邪鬼も様々な姿に変わる」
前のめりに尋ねてきた翁に有栖川は思わず伊織の背後に隠れた。口調はじじくさいのに見た目が年齢不詳すぎるだけでなく、みても記憶に残らない顔で視線を逸らせば、すぐに顔を忘れてしまうのだ。
伊織がかいつまんで先ほどあった出来事と天邪鬼について説明する中、翁はパソコンを操作しながら「それで」「なるほど」と頷きながら「これだ」といって画面を見せてきた。そこに映っていたのは、青い髪の毛をしたvtuverだった。
「「あ!!」」
有栖川とニケは同時に指差した。
翁は説明された容姿だけで2人が見た天邪鬼とそっくりなvtuverを見つけ出したのだ。
「すごい! そしてネット環境があるの?!」
「ふふん、ここはわしが独自に構築した家だからな! 人間たちのネットも繋がっておる! ちゃんと許可を取ってな!」
「許可?」
有栖川が首を傾げると伊織が教えてくれた。
「狭間の世界に人間たちの技術を持ち込むにも段階があってね。許可なしにネット回線を繋げちゃいけないんだ。こっちから悪さをする奴がいるかもしれないし、逆にこっちの場所が割れてしまうかもしれないからね。ネットリテラシーを理解できる物怪は少ないから……物怪は自己主張強いし」
最後の呟きには少し疲れた様子があった。
有栖川の腕の中にいるニケは視線を泳がせた。
ジロリと伊織がニケを見れば目線を合わせ内容に毛繕いをし始め怪しすぎる様子に有栖川は思わず「なるほど」と呟いていた。
「コヤツは少々面倒だぞ。いわゆる炎上系で有名になった奴なんだが、数ヶ月間音沙汰がなくなった後活動を再開したんじゃが。誰が作ったか分からんインディーズゲームばかりやるようになってな」
「お爺さん詳しい……」
「ワシの当初の見立てだと、バーチャルゴーストになってると思ったが、天邪鬼に食われたのかもしれんな」
「バーチャルゴースト?」
また新たな言葉に有栖川とニケが首を傾げた。伊織の方は「嘘だろう」と呟き眉間に拳を当てて目をつぶって考え込んでしまった。
伊織の様子に翁は「仕事が増えたな」と呟くと伊織の代わりに説明し始めた。
「最近のお化けはデジタルの世界に住む奴が増えてな。捕まえるのが至難の業じゃ。一昔前は物理サーバーや保存媒体を全て消せば消え失せたが、今や世界中にネットワークが繋がったせいで、意識をコピーされまくりじゃ」
「お化けの世界もワールドワイドになってるんだね」
「そういうこった! しかもAIなるものも出来て、お化けなのか機械学習から発生したモノか判断がしずらい! まー今の所、AI共は狭間の世界に興味がないのが幸いじゃがな」
「物怪の世界も大変そう?」
「ぬはははは、大変すぎじゃ。しかもバーチャルゴーストで一番タチが悪いのは、お化けが物怪を食っちまったり食われたりしちまったときさ」
「「え」」
「ネット上にある怪談話を吸収していつの間にか呼び出して食われたっていう事例が数年前報告あってな。あれはどうやって解決したんだったか?」
翁の言葉に伊織は眉間を揉みほぐしながら答えた。
「あの時は……たまたま閻魔大王が遊びにきていて、ちょうど死者に適任がいるということで助力していただいたんですよ。まだ十王の審理の途中で融通がきく状態だったからできた裏技のようなものです」
「なら今回もこれで解決じゃろ」
「そんなホイホイ、ネットに詳しく生前に信力もある人物なんているわけないじゃないですか! しかも助力してくれるかどうかも!」
「物怪も幽霊に協力してもらうんですね」
「時代の移り変わりの時期だからね。解決できるのなら、いろんな手を試すしかないんだよ。それは人間の世界でも同じだろう? 物怪も同じで、代々その土地に住まう物怪と若い物怪や外から突如現れた物怪で棲家や常識を変えないといけなくなる」
「そうなんだ……」
「それで、先生。死者の手を借りる以外でこの子を元の世界の時間軸に戻せるかな?」
「……んー今の段階では、天邪鬼に接触して捩れを戻す以外には方法がないな。神の力を借りるのも難しいじゃろう、こやつが猿田彦を信仰、もしくは神社を巡っていれば、力を借りれたかもしれんが」
「さるたひこ? んー天狗みたいな神様だっけ?」
「無理じゃな。こやつ知らんぞ」
「道開きの神様だよ。道案内の神様でもあるんだ。ただ、こちらの世界にはあまりいらっしゃらない神様だから、信徒だったらすぐ借りれるんだけどねぇ……」
「そういうこった。ん? 最新の動画アップされたな、これはシリーズものか……」
8 ゲーム
翁はアップされた動画シリーズの一番最初の動画を見つけると再生した。
3人が何だろうと覗き込んで見ると、ドット絵のゲームをプレイしているモノだった。
ただし、操作キャラクターは天邪鬼と似たドット絵で、色んな人から能力を奪って新しい世界へと行けたらクリアができると言うインディーズゲームらしい。
プレイ動画を見ると、『まずは、この高生から声をもらいまーす!』という少年らしい声と共に、ゲーム画面では街中で高校生に声をかけて一緒にカラオケに向かい、採点機能で数曲歌っただけで勝ってしまった。コメント欄では「ただの歌ってみた動画じゃないか」とか「採点が不正すぎる」「これ本当にゲーム?」「カラオケで歌ってるだけだろ」等流れていたが天邪鬼はコメントを拾わず全て無視していた。
ゲーム画面に流れた”高校生から声を奪った”というテキストに、天邪鬼が一人楽しそうに喜んでいるだけだった。
次の動画では『このサラリーマンから、音をもらいまーす』というもので、スーツを着たドット絵を追いかけてビルに入った。ビル内を探索していると昼休み中の社員食堂と表示された部屋で、サラリーマンにオセロゲームを仕掛けるも負けてしまい、セーブポイントに戻されたのだった。
「人を中心に背景が吸いまれたにゃ……」
「この戻り方って……」
「「あの時の?!」」
有栖川とニケは思わず声がハモった。
映像は続いており、次のゲームはリベンジ戦で隠れんぼだった。ただし鬼はプレイヤーである天邪鬼。隠れるのはサラリーマン、しかも隠れるためには部屋に隠された般若心教の紙を集め、綺麗に並べ直して読み上げられたらプレイヤーの負け。
天邪鬼は色んな方法で邪魔をし、男性は紙を集めたが、綺麗に並べ直せず、サラリーマンの耳が消え”男性から音を奪った”とゲーム画面に流れた。
次の動画では『次はこの猫を捕まえてペットにしまーす』と言う内容だった。黄色いラインが入った電車に乗り、隠れている猫を捕まえると言うモノだったが、なかなか猫が見つからず、みつけても扉を飛び出してしまい失敗。
だがその動画の最後はモブキャラが邪魔してしまい失敗したのだった。そして腹いせにモブキャラを殴るモーションが出たのだった。
『はぁああああ?!! なんだよ今の!! こんなモブ知らねーよ!! やべっ!! 突き飛ばしてどっかにやっちまった!!』
「今の猫とモブキャラって……」
「君たちに似てるねー」
有栖川が飲み込んだ言葉を伊織が紡いだ。ニケと有栖川はお互い顔を見合わせて震えた。怯える二人を無視して翁は次の動画を再生させた。
そして次の動画が先ほどアップされたもので内容は『むかつくからモブもゲットしてやる』と言うと電車の窓から外の映像が流れ始めた。そして公園にいるモブと猫を見つけた瞬間、天邪鬼が「勝負!」と叫んでボタンを連打する押す音が聞こえた。
勝負方法は相手の名前を言わせるか、自分の名前を正確に言わせると言う内容のもの。天邪鬼は、先ほど有栖川とニケが聞いた通りのセリフを発していた。そして、モブがスマフォを使って名前を答えたため天邪鬼の負けと表示されたのだ。どうみても、先ほどの出来事をゲームのドット絵にしたような感じだ。
有栖川とニケが震えながら伊織に引っ付いた。ニケの咄嗟の危険察知能力のおかげで有栖川は命拾いしていたのだ。
「どうやら天邪鬼は自分で決めたゲームルールで相手の一部を奪うようだね」
「えっと、自分は完全に関係なく巻き込まれた感じじゃないですかー!?」
「そうでもないと思うよ、この狭間の世界にこれてる時点で、霊力は高い。つまり狙われやすい」
「ひぃ!」
「はいはいにゃ! 僕完全に狙われてるにゃ! 保護を要求するにゃ!」
「そうだね。一番厄介だ。翁、これは次も狙われるよ」
「そうじゃな……。ただ、この新種の天邪鬼は狭間の世界にいるわけじゃない」
「「どういうこと?」」
「そこの猫が人間の世界に干渉している時に接触してるんじゃ、狭間の世界と人間の世界は微妙に変えてある。ゲーム画面だと終始、二人がいた場所は公園だった。でも実際には狭間の世界では高架線の横の道で移動したと言っていただろう? この天邪鬼は人間の世界と狭間の世界の間にまた違う次元を作り上げてるんじゃろう」
翁は楽しそうに語り始めた。わざわざゲームのデザインにしているところに意味があるのではないかとか、録画してあとで編集を加えているのかそれとも分身を使っているのか等、いろいろな仮説を言いながら、すごいスピードでパソコンに打ち込んでいた。
「「先生、こうなるとしばらくはは無理。お茶をどうぞ」」
足元から声をかけられ、有栖川とニケは驚いた。足元を見れば先ほどの人形二体がお盆の上にお茶菓子を持ってきていた。
「ありがとう、椿とカメリア」
伊織がお礼を言いながら盆を受け取り、近くの机に置くと、有栖川とニケを手招きした。
「とりあえず甘いものでも食べて落ち着こう」
「あの、天邪鬼は捕まえれば戻れるんですか? もう友達との待ち合わせには間に合わないし、夕方までに家に帰れるかなぁ」
「んーただの天邪鬼だったらとっ捕まえて何をしたか聞き出して時間軸を戻して送り返せば元の場所に戻れるんだけどね〜。その調査は先生に任せよう。そもそも、先生はそれ専門で研究している物怪だからね」
「「へーーー」」
ちゃんと戻れると聞いて少し安心した有栖川は、ふと先ほど録音した音声を思い出し伊織に話すと、翁がその音声に飛びついた。
翁曰く、声が最初に奪った声が混じっているとか。それを聞き、ニケが怯えた。
「もしかして僕の体も奪われるにゃ?!」
その可能性が無いと言い切れない状況に、有栖川は身を震わせた。ニケと一緒にモブもゲットしてやると天邪鬼は言っていたのだ。
翁は有栖川のスマフォの録音データをパソコンに移し、ついでに充電もしてくれるというのでありがたく充電させてもらった。
翁は鼻歌混じりに、ご機嫌にペンを持つとホワイトボードになっている壁に崩字を描き始めた。伊織はその文字を見て眉間の皺を深くした。
「まさか結界がおかしくなってる原因は天邪鬼のゲームのせいか」
伊織の呟きに翁は「なるほど!」と呟くと大雑把な地図を描き、赤いペンで丸をつけ、文字を書くも有栖川とニケには読めないほどの崩字だった。
「読めない(にゃ)」と呟く有栖川とニケに伊織は苦笑しながら「癖が強い文字だから慣れないと読めないんだよー」と言いながらも読めてるようだった。
「なるほど、赤鬼警察がガサ入れした場所だねー。違法電波を使ってた物怪達の場所だ」
「そう言うことだ。電波に乗ってきている可能性が高い。電波くらいじゃ結界は揺らがないが、物怪がそこに空間を作れば揺らぐ可能性は大だ」
「うわーSFチックー!」
有栖川は思わず楽しげに手を叩いてしまった。ニケは赤鬼という言葉に震えだし、有栖川に赤鬼警察はやばい連中を相手にする怖い連中だと教えてくれた。
一方伊織は電話を借りると告げると、椿に案内されて部屋を出ていってしまった。翁は有栖川に向き直してニヤリと笑みを浮かべた。
「な、なんでしょう」
「お主のスマフォ、少々弄っていいか? ゲームに取り込まれた時のために」
「データを壊さなければ……変なことしないですよね?!」
「もちろん」
翁はニコニコ顔でパソコンと繋がっているスマフォに、何かをインストールさせた。そして、天邪鬼のゲームに連れ込まれた際には、アプリを起動するだけでいいとか。できれば、こっちから電波を使えるようにしてほしいという有栖川の願いは、無視された。
走って戻ってきた伊織は、赤鬼達が次にガサ入れする予定なのは銀糸朝駅前に定期的に現れるワゴン車らしく、ちょうど今日来る日だということだった。
翁曰く、捕まっても助けられるようにしたし情報収集のためにも行ってこいと軽く送り出されてしまった。
伊織は簡易のお守りを急いで作って、有栖川とニケに持たせたのだった。
「一回だけ体を守ってくれるから。……こちらの規則が通じる物怪なら」
「最後の言葉が不安にゃ!!! 新種の天邪鬼なのに!!」
「大丈夫、電波に乗ってきているのなら明神さまの神使がいけるから! 連絡したし!」
「明神さま…って神田明神?」
「そう、今やITの神様という別名をお持ちでね、そのおかげでIT系に強くなられているんだよ」
「へーー」
有栖川が「神様がITに強いって面白いなー」と思っていたところで、銀糸朝駅に近づいた瞬間、ドンという押される感覚と一緒に薄暗い部屋に閉じ込められていた。
「ひぃい!! また連れ込まれたにゃ! しかも壁に文字がいっぱいにゃ!! 怖いにゃ!」
「まぁまぁ、落ち着いて。おき……先生に入れてもらったアプリがあるからさ」
有栖川はスマフォを取り出しアプリを起動した。
ローディングという画面と10%と言う表示から徐々に数字が増え始めていた。
「あのジジイを信用していいのか?! お前は物怪を信用しすぎにゃ! 悪いやつだったらどうするにゃ! 今回みたいなのとか!」
「え? んーーでも、ここまで平気だったからだ大丈夫かなって!」
「一度痛い目みろにゃーー!」
「あははは!! それにしてもこの文字、なんだろう見たことあるんだよねー」
「? 僕は知らないにゃ」
「んーーおばあちゃん家で見たんだよなー」
『それは百人一首じゃな』
突然手元から声が聞こえ、見てみればスマフォに翁が映っていた。
「先生! ビデオチャットアプリだったんだ?!」
『それに近い。周りを見せるんじゃ』
翁に指示された通り、スマフォで周りを写しながら、足元に紙が散らばっていることに気づいた。
『ははーん。これは百人一首を完成させるゲームかもしれんな』
「「え」」
壁に貼られているのが上の句で下に落ちてるのが下句だと翁に教えられ、有栖川はとりあえず紙を拾った。試しに近くに書かれた文字を壁に貼り付けるとあっていたらしく、紙が吸い込まれ文字が消えたのだった。
『一発であておったな。まぁー至極簡単な遊びだな。その調子で解くんじゃ』
猫と有栖川は顔を見合わせて、アイコンタクトで”百人一首を知ってる?知らない“とお互いやりとりしていると、それに気づいた翁が
『今時の子は百人一首で遊ばんのか! 正月では鉄板の遊びじゃろ?! 福笑いに羽子板と!』
「今は色んなゲームがあってそっちの方が面白いにゃ! オンラインでレースゲームとかにゃ」
「うんうん。あとスマフォゲームもあるし」
『なんと!!!! ジェネレーションギャップ!』
その言葉に、有栖川はどうみても翁はかなり長い生きしている物怪なのにジェネレーションギャップと言われても、と困ってしまった。ニケはニケで、古い物怪と一緒にしないでほしいにゃ僕は若者にゃ! と少々ご立腹。
有栖川が、次はどれがいいのか尋ねると、ショックから治った翁が少し待てというと、画面から消えてしばらく経つと本を持って戻ってきて画面に押しつけたのだった。驚く二人をを無視して、スマフォから本が飛び出した。
「それを読みながら解けばいい!」
見れば百人一首の本だったが、流暢な崩字で読みにくい。
「よ……頑張って読みます」
読めないとは言える雰囲気ではなく、壁の文字の一部が赤くなっていることに気づき、有栖川は急いでページをめくった。
スマフォは部屋の中央に支えを使って縦に起き、有栖川とニケが映るようにニケが適宜位置調整をしながら作業をした。翁いわく、もしかしたら天邪鬼も同じような条件のゲームで遊んでいる可能性があるとのこと。まだ天邪鬼の動画サイトには動画がアップされていないから、ゲームは録画だろうと呟きながらガタガタとキーボードを打ち込む音が聞こえていた。
「これは…はるすぎてだから…”ころもすて”を探せ!」
「これにゃ!」
「次が、かずた? わた? どっちー!?」
ペラペラと本をめくりながら有栖川は句を探した。これだ!人に告げよだ!と見つけてはるも、紙は真っ赤に染まり、壁の文字も赤くなってしまった。
『どうやら相手に取られたようじゃな』
「まずいにゃ、十個くらい取られてるにゃ」
「百人一首って百個あるし! こっちだって九個とってるし!」
有栖川とニケは二人で必死に探して句を完成させていった。一進一退、当たった文字は消えていくが、取られた文字は赤く残るという気味の悪さと時間経過のわからない空間に、知らず知らず焦りが出て間違いが多くなってきていた。
『落ち着け。まだ数分しかたっておらん。間違えてもペナルティーはないからガンガン行け』
翁の励ましに二人は手当たり次第、紙をあてていった。
そしてお互い四十九個と言うところで、有栖川とニケが残り2つを奪おうとしたところで部屋が大きく揺れ、壁が壊れた。
「えぇ?!」
ニケが慌ててスマフォを加えて有栖川の肩に飛び乗った。
壁の向こう側は、暗闇の中にいくつもの光が飛び交っている不思議な世界だ。その奥から、先ほど見た青い髪の天邪鬼が現れた。
「はぁ、まじ最悪。ここまでゲームを作ったのに壊されるなんて。二匹同時ってだけでもイレギュラーなのに、なにその本。それにスマフォが使えるなんて。お前何者?」
「な、何者って、普通の人です!」
「はぁぁぁあああ?」
有栖川は本とスマフォとニケを抱きしめながら後ずさった。今残ってるのは床だけだ。壁は消え去り、柱と床と天井だけ残っている。下がり過ぎれば、この不思議な空間に放り投げ出されてしまいそうだった。
「ただの人間が! 俺をじゃますんなよ!! もういいや!! お前食ってやる!!」
そう叫んだ瞬間、青い髪のvtuberの姿が歪み半分だけ恐ろしい鬼の顔になり噛みついてきた。スンデのところで避け、部屋の隅まで逃げるも、足が落ちそうになり有栖川は慌てて立ち止まり振り返った。
「先生助けて!!」
『本性を表しおった!!』
「そんな嬉しそうな声で叫んでないで助けてよ!!」
「そうにゃ!! 助けろにゃ!!」
狭い部屋の中を逃げ回るも、有栖川の腕が掴まてしまった。食われると思った瞬間、ニケが慌てて天邪鬼の顔を引っ掻いた。
「うわぁああ!!」
「みーつけた! 乗るんだ!!」
声に振り返ると、部屋の外で茶色の馬が浮いていた。
「神馬にゃ!」
ニケの言葉に慌てて有栖川は部屋から飛び出し、神馬の背中になんとか飛び乗った。
「まぁてぇえええ!!」
ドス黒い声とオーラを放ちながら天邪鬼が叫び。有栖川は必死に神馬の上に乗り直すと、神馬は駆け出した。もちろん後ろから天邪鬼が追いかけてくる。
「ひぃいい!!」
「いやー、本当に新種の天邪鬼だー」
神馬は楽しそうだ。
「そんな呑気な!」
「いやー最近はこんな追いかけっこなんてしないからさ、楽しくなっちゃうよねー!」
まるでジェットコースターのような、某遊園地にあった宇宙空間をイメージしたような景色を見ながら、安全ベルトもない馬上で有栖川は乗馬なんて生まれてこの方体験した事ないのにと思いながら、振り落とされないように必死に揺れる背中にしがみついていた。
目の前に小さな強い灯りを見つけ、見上げると一気に眩しくなり、有栖川は目をつぶった。閉じた瞼ごしでも感じる強い光に眩しいと思いながら耐えていると、神馬に振り落とされてしまった。
「うわぁ!!」
ドンと背中を打ちつけてしまい、痛みで目を開ければ、黒い床が見えた。そして一気に耳の中に入ってきた雑踏の音に慌てて顔を上げた。
ホーム
そこは錦糸町駅のホーム。
「帰れた?」
ホームにある時計を見れば、電光掲示板の時刻はすでに次の電車の時刻を表示していた。時計は乗り換え検索で調べた予定到着時刻ちょうど。手元の震えでスマフォを握りしてめていたことに気づき、画面を確認すれば友達から”もう着いた”というメッセージと、”今どこにいるの?”という内容だった。
「え、夢?」
慌てて友人にスタンプを送り、合流すべく階段を駆け下りていく。あんなにリアルなおかしな夢はなんだったんだろうかと思っていると、肩が人にぶつかってしまった。
「すいません」
「いえ、大丈夫ですよ。捕まえたんで」
「え?」
慌てて、ぶつかった人の顔を見ようとしたが、雑多な人混みに消えてしまい見失ってしまった。あの声は、”***さんだ”と思うも名前がわからなくなっていた。
「あれ?」
思い出そうとするたびに、さらさらと記憶が消えていくような不思議な感覚を感じながら、有栖川は改札へと向かい、定期券を取り出そうとしたところで、ポケットの奥底に紙の感触があり、取り出した。
それはお守りだと言われて渡された、綺麗に菱形に編み込むように折られた紙だ。「夢だけど夢じゃなかった?」思わず某アニメのセリフを口ずさみ、有栖川は笑みを浮かべ、ICカード読み取り機に触れた瞬間。
「にゃー」
猫の声がした。が、有栖川は一瞬立ち止まりかけるも、振り返らずに駆けて行った。
「アリス! ここ!ここ!」
「その呼び方を公共の場でしないでっ!」
「あははは! 可愛いから良いじゃん」
「やめてくれ、痛すぎるよー」
「痛くない痛くない、で、どのバスに乗るの?」
「こっちだよ」
友人をすぐに見つけて、有栖川はバス停へと足を向けた。先ほどまで起きた不思議な世界のことは忘れようと思った瞬間、耳元で誰かが笑った気がした。
思わず振り返るも誰もおらず、ホッとしつつ友人とバスに乗ったのだった。
無事にバスに乗った有栖川を見守るのは駅の防音壁の上に立つ伊織とニケだった。
「これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂(あふさか)の関」
「それ、百人一首であったにゃ! どんな意味にゃ?」
「出会いと別れの句さ。出ていく人も帰ってくる人も、知ってる人も知らない人もここで別れて出会うっていうような意味さ」
「ほえーなんだかちょっと寂しさと楽しさのある和歌だにゃ〜、それよりいいのかにゃ? もう大丈夫って説明しなくて?」
「こちらの世界のことは知られるのは困るからね、記憶は徐々に消えていくよ。それに、知らない方が幸せだろう」
「そうなのかにゃ」
しょんぼりとするニケに、伊織は苦笑しながら頭を撫でた。
「まぁ、君はこっちではただの猫なんだし、寂しがる必要はないんじゃないかな?」
伊織の言葉にニケはぴくりと耳を立てた。
「まぁ、その前に人間世界から違法に持ってきたキャットフードの処罰があるけどね」
「に"ゃ"!!」
おしまい
面白かったら♡よろしくお願いします
SSで番外編 アップしました。
「猫は会いに行く」
