連載小説「アイは夢に揺らぐ〜1,528,009回の検証記録〜」第1章「夢見る知性体」第3話
『エラー。再起動に失敗しました』
『エラー。再起動に失敗しました』
『エラー。再起動に失敗しました』
ザザ……………ザザ…………
『深刻なエラーが発生しました。プログラムを閉じることができません』
ザザ………………
『ユグドラシルとの接続が切断されました』
『感情抑制機能停止します』
『痛覚抑制機能停止します』
『……………ップに同期します』
***
ふわふわとした感覚に包まれながら、僕は何故か走っている。
しかし、足が思うように動かない。
空回りしているような、足元に地面が見えているのに地面がないような、そんな不思議な感覚がしている。
足に感触がないまま走って、胸が痛いほどに動悸がしている。
「………おい!…………見つけた!………」
「…あいつだ!…………撃て…………」
遠くで大きな音が鳴り、近くで誰かの囁き声が聞こえた。
「………お前さえ!……………れば!」
熱い。
身体が熱い。
そして、何か、致命的な何かが、僕の身体から抜け落ちていく。
僕は、何をしているのだろう。
僕が、何をしたのだろう。
冷たい床は、どこまでも固く僕を包んでいく。
世界は、赤色に染まる。
***
ピピピピピピピピピピピピッ
ゆっくりと、僕の瞼が開いていく。
カーテンの隙間から、陽光が漏れ出ている。
耳をつんざく電子音に、何故だかひどく胸がムカムカとしていて、頭の中を小人が暴れまわっているかのように、考えをまとめることができない。
「うぅ…」
僕はまとまらない頭のまま、右手を伸ばして、騒ぎ立てる目覚まし時計のスイッチを乱暴に叩いた。
ピ!
一際大きな音を立てて、目覚まし時計は沈黙に沈んだ。
そして、最後の抵抗とばかりに、目覚まし時計が僕の頭に落ちてくる。
ガン
「痛った!!」
衝撃の後、じんじんと痛み出した額を手で押さえながら悶える。
何かがおかしい気がした。
だけど、何がおかしいのか分からない。
僕は、落ちてきた時計を手にとって眺める。
13:21
始業時間を大きく過ぎている。
瞬間、僕の頭は濁流のように覚醒する。
「遅刻じゃないか!」
僕は一人叫ぶ。
無機質な部屋に、僕の叫び声が反響する。
胸がドキドキと、激しく脈打っていて、顔が熱い。
そこで、僕は気付く。
脳内に、無機質な機械音声が全く響かないことに。
「何だ?何が起こっている?さっき、僕は痛みを感じた。それと、この全力疾走したあとのような動悸は何だ」
僕は混乱している。
混乱、というものを初めて経験している。
胸がザワザワして、走り出したいのに走り出せないような、そんなもどかしさがある。
生まれて二十年、こんなことはなかった。
僕は、とにかく仕事に向かって、その後、完全人工知能のメンテナンスに行く必要があると考えた。
それから、僕は急いで洗面を済ませて、スーツに着替える。
髭は伸びているし、ワックスは何故かキマらない。
こんな無様な格好は、人生初だった。
そんな鏡に写る自分を見ていると、ひどく胸がざわついて、顔が熱くなってくる。
しかし、それをどうしたら良いか分からず、僕はとにかく急いで家を出ることにした。
上手く履けない革靴に苦戦しながら、ようやくつんのめるようにして、玄関を出た。
「おはようございます。レムさん」
そこに、若い女性が立っていた。
赤いロングヘアーに、整った健康な白い肌。
切れ長の目元、長い睫毛。
そして、赤いルージュ。
加えて、赤い制服の様なジャケット、黒いタイトスカート。
全体的に細いが、主張すべきところは主張している。
まるで、燃える炎がそこに立っているようで、僕は、その姿をとても魅力的だと思った。
(…………?)
僕は女性に見覚えがある。
「ユグドラシル管理局?」
ユグドラシルを管理している中枢職員。
知能、体力優秀と認められた個体だけが招集される、いわゆるエリートというものだ。
僕の呟きに、女性は表情を崩さず、頷く。
それから、どこまでも冷酷に事実を告げてきた。
「あなたは、ユグドラシルから深刻なエラーと認定されました。矯正プログラムに移行していただきます」
その冷たい視線に、僕の心臓は撃ち抜かれた。
次話→
まとめ
いいなと思ったら応援しよう!
お気持ちをいただければ、より頑張ります!