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部下成長#4 「仲間を信用していません」と言った部下が変わった理由 —自信の循環が人を変える —

「私はこの営業所の人たちを信用していません。正直、恨んでいます」

えっ!?と思いました。
初めて会った日の面談で、
その部下はそう言ったのです。

これまで先輩やリーダーから
かなり厳しく当たられてきたようで、
最初の印象は、いわゆる“マイナス思考の塊”。

どこか心が閉じていて、
正直、その心を開くには
簡単ではないだろうと感じていました。

それから5年。

その部下は、
グループの枠を越えて他部署を巻き込み、
主体的に仕事を進める存在になりました。

前向きに仕事に取り組み、
後輩指導も自ら引き受け、
チーム全体に影響を与える存在へと変わっていきました。

私はその部下に、
大手市場の担当と、ある分野の責任者、新人教育という「場」を提供しておりました。

特別な育成プログラムを用意したわけではありません。
ただ、「その人の仕事」として、自然に任せただけです。

その中で経験した成功体験が、
少しずつその人の中に

「自分はやれるかもしれない」

という感覚を生んでいきました。


この感覚こそが、
今回のテーマである「自己効力感」です。

自己効力感とは、
自分は「できる」と信じて、行動に移せる感覚。

似た言葉に「自己肯定感」がありますが、
こちらは少し意味が違います。

自己肯定感:ありのままの自分を「これでいい」と受け入れられる感覚。

どちらも大切ですが、
仕事や成長の文脈においては、
自己効力感のほうが、より直接的に行動や成長につながります。


では、この自己効力感は
どのように育っていくのでしょうか。

先ほどの部下のように、
もともと自信が低い状態からでも、
大きく変化することがあります。

実際、似たような境遇の部下は他にもいました。

周りから辛く当たられたせいか、
最初は自信がなく、どこか消極的な感じを醸し出していました。
しかし「場」を提供し、経験を重ねる中で、
営業所の運営に関わるような役割を
自ら担うようになっていきました。

また、もともと自己効力感が高い部下もいましたが、
そうした人はさらにその感覚が強まり、
結果としてリーダーへと成長していきました。


こうして見ていくと、
自己効力感はまるで「成長を加速させるエンジン」のようなものです。

あるいは、
挑戦を後押しする“見えない燃料”と言ってもいいかもしれません。


では、この自己効力感を
どうすれば部下の中に育てることができるのか。

ここからは、
私が実際に自己効力感を育てるために、
意識していたことについて、
もう少し具体的に書いていきたいと思います。

自己効力感を育てるための前提

「場」の説明と自己効力感を育てるトライアングル

分かりやすくするために、上のような図で整理してみました。

まず前提として大事なのは、
部下成長#3で書いた「場の提供」です。

ただ単に仕事を任せるだけではなく、
「なぜこの場を任せるのか」を、きちんと伝えることが重要です。

ここで必要になるのが、
目的とビジョンの共有です。

この「場」がどこに向かっているのか。
部下にとってどんな成長につながるのか。
そしてチームや組織にとってどんな意味を持つのか。

それらをリーダーが言葉にして、丁寧に伝えていく。

これができていないと、
部下の中に「やらされている感覚」が生まれてしまいます。

結果として、主体的な行動が生まれず、
せっかくの「場」も活かされなくなってしまいます。

このバランスが、思考の質を大きく左右します。


自己効力感を育てるトライアングル

自己効力感は、特別な方法で一気に高まるものではありません。

日々の関わりの中で、
少しずつ育っていくものです。

そのために私が意識しているのが、

「考える → 具体的行動 → 検証」

この3つを回し続けることです。

シンプルですが、このサイクルが回り始めると、
人は確実に変わっていきます。

そして、この中でも特に重要なのが
**「具体的行動」**です。

考えるだけでは変わらない。
動くことで、初めて現実が変わり始めます。

ここからは、それぞれについて
具体的に見ていきます。

ここから、それぞれのポイントを順番に見ていきます。


「考える」|答えを与えないことが思考を育てる

まずは、提供した「場」に対して
徹底的に考えてもらいます。
自分が考えたんだ、という感覚が大事なんです。

リーダーは、基本的に口を出しすぎない。
「この場をどう推進していくか」を自分で考え、
資料に落とし込み、ミーティングで共有してもらいます。

その中で、メンバーからの意見を受け取りながら、
さらに思考を深めていきます。

ここでリーダーが答えを出してしまうと、
思考は“正解探し”に変わってしまいます。

そして、気づけばリーダーの意見に寄ってしまいます。
こうした経験をしたことがある方も
多いのではないでしょうか。

だからこそ、あえて余白を残す。

ただし、方向がずれているときだけは、
軌道修正のための問いを投げる。

このバランスが、思考の質を大きく左右します。


「具体的行動」|成長を分けるのは“動いたかどうか”

ここが、最も重要なポイントです。

上の図の流れは一見PDCAに似ていますが、
私は明確に違うものとして捉えています。

PDCAは、
Plan・Do・Check・Actをバランスよく回す考え方です。

それ自体は優れたフレームワークですが、
現場ではどうしても「均等」に扱われ、
結果として、同じ熱量で回されがちになります。

しかし、私は違います。

このサイクルにおいて、
圧倒的に重要なのは「具体的行動」です。

成長を止めるのは、
失敗ではなく“行動しないこと”です。

どれだけ考えても、
どれだけきれいに整理しても、
動かなければ何も始まりません。

実際に、これまで多くのメンバーを見てきて、
「考えて終わる人」は少なくありません。

一方で、不完全でも動ける人は、
必ず前に進みます。

なぜなら、
行動すると“周りが動き出す”からです。

関係者が反応する。
環境が変わる。
新しい情報が入ってくる。

その変化が、
次の一手のヒントになります。

逆に、動かずに考え続けると、
思考は内向きになり、迷いが増えていきます。

そして、さらに動けなくなります。

だから私は、こう伝えています。

「完璧じゃなくていい。まず動こう」

多くの場合、
“動いた後”に道は見えてきます。

行動した人だけが、
次の景色を見ることができるんです。

そしてその経験こそが、
成長を加速させる一番の燃料になるのです。


「検証」|評価ではなく“次につなげる内省”

検証は、リーダーが評価する場ではありません。

その「場」での経験をもとに、
部下自身がどう考えるかを深める時間です。

うまくいったこと。
うまくいかなかったこと。
その理由は何か。

それを一緒に整理しながら、
次にどうつなげるかを考えていきます。

ここで大切なのは、
結果だけを見ないことです。

見るべきは、
「考え、行動していたか」というプロセスです。

結果が出ていなくても、
やるべきことをやっていたのであれば、否定はしません。

むしろ、そのプロセスを認めたうえで、
次の一手を一緒に考えます。

ただし、
明らかに手を抜いている場合は別です。

そこはきちんと向き合い、
指導し、必要であれば厳しく伝えます。

また、個別だけでなく、
チームでの共有やディスカッションも行います。

他者の視点が入ることで、
新しい気づきが生まれ、
次の「考える」の質が高まります。


こうして、

考える → 具体的行動 → 検証

のサイクルを回し続けることで、
人は少しずつ前に進んでいきます。

その中で得た経験が積み上がり、やがて

「自分はやれる」

という確信に変わっていく。

それが、自己効力感です。

次に、この自己効力感について、もう少し詳しく説明していきます。

自己効力感を形づくる4つの要因

自己効力感は、
アルバート・バンデューラ が提唱した
「社会的学習理論」の中で示された概念です。

バンデューラは、
自己効力感は主に次の4つの要因によって形成されると説明しています。

① 達成経験(成功体験)
② 代理経験(他者の成功)
③ 言語的説得(言葉による影響)
④ 情動的換気(感情の状態)

少し難しく感じる言葉もあるかもしれません。

ですが、どれも現場の中で日常的に起きている、とてもシンプルなものです。

ここからは、それぞれについて
具体例を交えながら説明していきます。

① 達成経験

要するに、「成功体験」のことです。

そして、ここで最も重要なのは
「小さな成功体験」です。

自己効力感は、
“大きな成功”によって生まれるものではありません。

むしろ、
小さな成功の積み上がりによって、少しずつ育っていくものです。

一つひとつは小さくても、
「できた」という経験が積み上がっていくことで、

やがて
「自分はやれる」
という確信に変わっていきます。

この“積み上がり”こそが、
自己効力感に最も大きな影響を与えます。

だからこそリーダーは、
ただ仕事を任せるのではなく、

その「場」の中で、
小さな成功を積み上げられるように設計することが重要です。

そして、その設計の中核になるのが、

考える → 具体的行動 → 検証

このサイクルです。

この流れを回しながら、
成功体験を積み重ねていく。

このサイクルが回り始めれば、
部下は自然と成長していきます。

② 代理経験

これは、他者の成功を見ることで
「自分にもできるかもしれない」と感じる経験のことです。

例えば、少し前まで同じように悩んでいたメンバーが、
実際に成果を出している姿を見る。

すると、

「あの人にできたなら、自分にもできるかもしれない」

そんな感覚が生まれます。

ここで重要なのは、
“自分と近い存在”であることです。

あまりにもレベルが高すぎる人の成功は、
かえって現実味がなく、逆効果になることもあります。

だからこそリーダーは、
チームの中での成功事例を意図的に共有することが大切です。

「誰が、どんな工夫をして、どう結果につながったのか」

そのプロセスまで含めて伝えることで、
単なる結果ではなく、“再現できる経験”として届きます。


私のグループにも、こんな例がありました。

ある年に入ってきた新人が、
周囲からも一目置かれる、非常に優秀なメンバーでした。

お客様からも信頼され、
チームの中でも「将来が楽しみだ」と言われる存在でした。

その翌年、また新たに新人が入ってきました。

その新人が目標にしたのが、
まさにその“1年先輩”の存在でした。

「まずはあの人のようになりたい」

そう思いながら行動を重ねていく中で、
その新人もまた、お客様から信頼される存在へと成長していきました。

そしていつしか、

「いずれは追い越したい」

そう語るようになりました。

まさに、自己効力感が高まっていった瞬間でした。


このように、身近な誰かの成長は、
自分の未来を具体的にイメージさせてくれます。

そして、

互いに観察し合うこと。
ミーティングで共有すること。

そうした環境が、
さらに自己効力感を高めていきます。

他者の成功は、
自分の未来を少しだけ現実に近づけてくれる。

それが、代理経験の力です。

③ 言語的説得

これは、言葉によって
「自分はできるかもしれない」と感じることです。

いわゆる、声かけやフィードバックです。

ただし、ここで大切なのは、
単なる「褒めること」ではありません。

曖昧な言葉は、あまり残りません。

例えば、

「よかったね」ではなく、
「この部分の考え方がよかった」

「頑張ったね」ではなく、
「ここまでやり切ったのが良かった」

このように、
“何が良かったのか”を具体的に伝えることが重要です。


私のグループでは、「検証」の場面で、
次につながる言葉を意識してかけていました。

また、ミーティングの中でも、
他のメンバーから自然と称賛の言葉が出るような空気がありました。

そうした言葉を受けたメンバーは、
さらにやる気が高まり、

たとえうまくいかなかったとしても、
「次は頑張ろう」と前を向くようになります。


人は、自分では気づいていない強みを、
他者の言葉によって認識します。

そしてその認識が、

「自分はこういうことができる」

という感覚につながっていきます。

言葉は、きっかけに過ぎません。

しかし、その一言が、
次の行動を後押しする力になることもあります。

だからこそリーダーは、
結果ではなくプロセスを見て、言葉にする。

それが、自己効力感を育てる関わり方だと考えています。

④ 情動的喚起(感情・状態)

これは、
そのときの感情や心理状態が、
「できる・できない」という感覚に影響を与えるというものです。

例えば、

強い不安やプレッシャーを感じているとき、
本来できるはずのことでも、うまくいかなくなることがあります。

逆に、

安心感があり、落ち着いて取り組める状態であれば、
人は本来の力を発揮しやすくなります。

これは、部下成長#2で書いた
信頼関係(ラポール)を築くこととも深く関係しています。

ピリピリした空気の中で、
なぜか実力が出せなかった。

そんな経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。

つまり、

「できるかどうか」は、能力だけで決まるものではありません。
“そのときの状態”にも、大きく左右されます。

だからこそリーダーは、
挑戦できる環境を整える必要があります。

失敗しても否定されない。
意見を言っても否定されない。

そうした安心感があるからこそ、
人は一歩を踏み出すことができます。

そして、その一歩が、
次の成功体験へとつながっていく。

自己効力感は、
個人の内側だけで生まれるものではありません。

環境との関係の中で、育っていくものです。


ここまでの内容をまとめます。

自己効力感を部下の中に育てるためには、

・提供した「場」のビジョン・目的を伝えること
・自己効力感を育てるトライアングルを回すこと
・影響を与える4つの要因を意識すること

この3つが重要です。

これらが機能し始めると、
多くの部下は自然と成長していきます。


そして、何より大切なのは
「具体的に動くこと」です。

動かなければ、何も生まれません。

成長を止めるのは、失敗ではなく
“行動しないこと”です。

だからこそ、自己効力感を育て、
行動につなげていくことが重要なのです。


もし今回の内容が、少しでも参考になれば嬉しいです。

同じように「部下の成長」に向き合っている方にとって、
何か一つでもヒントになればと思っています。


ここまで読んで、

「任せる=放置なのでは?」と感じた方もいるかもしれません。

次の章では、そう感じる背景にも触れながら、
「リーダーの責任」について書いていきます。

「役に立った」
「自分の現場でも試してみたい」

そう感じていただけたら、
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この内容は「部下成長シリーズ」として
マガジンにまとめています。

▶ 部下成長シリーズ一覧はこちら

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