諏訪湖九酒蔵巡り03/上諏訪五蔵
鍵の手とは宿場や城下町で主街道がクランクする場所である。軍事上の要衝で侵入する他国の軍の直進を阻む防衛線となる。甲州街道上諏訪の鍵の手は高島古城の直下にあたるので、あるいは戦国時代に甲斐武田氏が諏訪統治のために敷いたものかもしれない。もしくは江戸時代に高島城に陸路からの侵入を想定して設けた可能性もある。
この鍵の手の交差点から南北50Mの範囲にいずれも熱烈なファンを持つ四つの老舗酒造が集中している。その日によって違うが今日は2台分空いていたので本金の駐車場に車を止めさせてもらった。
舞姫

最も北に位置する舞姫は1894(明治27)年創業。

ブランド名を舞姫にしたのは1912(大正元)年のことらしい。

2016年に全国新酒鑑評会純米吟醸部門で金賞を受賞して一躍注目された。その後も吟醸酒で各種の受賞歴がある。

吟醸酒が得意な蔵であるが、甘いのが苦手なボクの飲み比べには本醸造からくちでエントリーしてもらおう。

かわいらしいアニメ風のキャラクターを取り入れて人気もある。年末休みなのだろう、5蔵巡りの観光客で混雑していた。

さて次の蔵、麗人までは何十メートルと言うか何歩というかと3軒隣りである。
麗人

麗人の創業は古く1789(寛政元)年である。

佳人→麗人→美人と言い、麗人は美人よりランクが上の美女を表す。この美しい名のブランドのひとつに銀華という純米酒があり、すっきり端麗との評判を耳にした。

首尾よく銀華の小瓶をゲットしつつ、つい隣の本醸造樽酒にも手を出してしまった。もはや二人で正月のうちに飲み切れる量ではなくなってきた。

岡谷の高天から舞姫、麗人そして次の横笛までが未体験のブランドである。

麗人の前からすでに鍵の手の交差点、そしてぬのやと横笛の蔵が見える。
伊東酒造(横笛)

伊東酒造の歴史は他の蔵に比べれば浅く、創業は1958(昭和33)年。

しかし関東信越国税局酒類鑑評会で2012年から3年連続吟醸酒や純米酒部門で金賞というきらびやかな受賞歴を持つ。

隣接して創業者の日本画コレクションをおもに収蔵した伊東近代美術館を運営している。蔵を改装した建物でも知られた美術館である。

横笛は平安時代の建礼門院の雑仕女の名に由来する。彼女は舞の名手で平重盛に仕えた斉藤時頼という武士との悲恋の末、高野山の麓で亡くなった。享年19歳。

この蔵で選んだのは主力の純米横笛。店を出ると甲州街道を挟んで向かいが本命ぬのやの蔵である。
ぬのや(本金)

本金は通の間で人気の銘柄である。

創業は1756(宝暦6)年、ぬのやは屋号志茂布屋による。当時、上諏訪元町の酒蔵は13軒だったとHPにある。現存するのは宮坂酒造とぬのやだけということになろう。

造り酒屋の廃業は日清日露戦争に始まる戦費調達のための高酒税、そして太平洋戦争によって流通する酒の品質が地に落ちて醸造技術の継承が困難になったことによる。

ぬのやも杜氏の確保に苦労し、ぎりぎりのところで蔵をつないだ。ぬのやに限らず全国の老舗醸造はそれぞれに戦争による困難を乗り越えて今がある。

五蔵を試飲して巡る「ごくらくセット3000円」が観光客に人気である。ちょうど本金で試飲用の樽が空になっていたようで客が渋滞してあふれていた。これにはびっくり。いつも平日に訪ねるのでこんなに大勢の客と会ったことはなかった。しかも若い人が多い。日本酒離れと言われて久しいがまだまだ老若男女日本酒のファン層は根強いようだ。

購入したのはいつもの純米酒。戦後、本金の味を支え、全国新酒鑑評会金賞を受賞した冨士見乙事出身の名杜氏の名を取った「からくち太一」。本命である。

格子戸越しに横笛が見える。

これで50Mの四蔵散歩を終える。

駐車場で待ってましたと言わんばかりにローリィがぶんぶん尻尾を振って出迎える。知ってるぞ、つい今まで爆睡してたのが見えてたもん。今日は留守番ばかりで不憫だが、家に置いてくるよりはいいだろう。気温が低くて車内が暑くならない冬にしかできないことである。元町までは100Mほどだが、迷惑にならぬよう真澄の駐車場に車を移そう。
宮坂醸造(真澄)

元町の交差点である。霧ケ峰方面から急な県道を下ってきて甲州街道に突き当たる正面に宮坂醸造がある。アニメ映画で一躍有名になった立石公園を訪ねられたことのある方は大きな杉玉に目を留められたことだろう。

創業なんと1662年、宮坂家は武田信玄に滅ぼされた嫡流諏訪家の家臣からの転身であったらしい。

1943年に吟醸酒最大の栄誉たる全国清酒鑑評会で第一位に選ばれ、その実力を世に知らしめた。

1946年にこの蔵で酵母「協会7号」が発見されたことはすでに述べた。

言わばここはすっきり辛口派の聖地と言える。

華やかな吟醸酒を展開しながら、普通の廉価な酒も主力としてラインナップしているのがこの古蔵の懐深さである。協会7号の実力を知りたければ、諏訪地方ならどこのスーパーでも買える「銀撰」でも十分味わえる。

さらにボクはコンビニにも置いてあるほど普及している「真澄ゴールド」の大ファンである。米焼酎が配合されていて、もはや湧き水かと思うほどすっきりを極めている。日本中でいちばん飲みやすい日本酒は真澄ゴールドだと言っても過言ではなかろう。

真澄の蔵はふだんから観光客も多いので、人混みが嫌いなボクは滅多に寄ることもないが、今回はせっかく来たのだから銀撰ではなく、茅色という純米酒を選んだ。上位銘柄で唯一吟醸でない酒である。

蔵の斜向かいに十王堂跡がある。もともと初代高島藩主諏訪頼水が永明寺を焼き払って成敗した男の首を晒した場所だが、祟りを恐れた地元の人たちが十王堂を建立して供養した。その後信仰を集めたがご維新で廃寺となった。真澄蔵は江戸時代、人気寺院の前にあって栄えたことであろう。
諏訪湖九蔵巡り1
https://note.com/shucream_note/n/n6dbba048be08
諏訪湖九蔵巡り2
https://note.com/shucream_note/n/n443d3f877fd9
参考サイト
舞姫
麗人酒造
伊東酒造
ぬのや本金酒造
真澄
