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日本とアメリカのコンサート運営の違い 2

必ず関わってくる2つのユニオン

前回の記事で、ブッキングエージェント、地域毎に変わるプロモーター、収支構造などについて書きました。それが好評だったので続きです。

今回は、アメリカのコンサート運営で避けて通れない2つのユニオン(労働組合)について書きます。

日本のコンサート運営ではあまり意識することがないと思いますが、アメリカでは、会場スタッフ、奏者も、場合によっては録音・照明・音響まで、さまざまな作業がユニオンによって細かくルール化されています。

ここを理解せずに現場へ行くと確実に揉めます。僕も経験の浅かった時期はだいぶ揉めました。

その仕組みについて色々とまとめてみました。


1. 会場のユニオン

ユニオンの作業を手伝ってはいけない

アメリカの劇場やコンサートホールには、「IATSE」というユニオンに所属したスタッフが多く働いています。彼らは舞台、照明、音響、電源などを担当していて、触れる作業・触れない作業が明確に決められています。

日本では、手が空いている人がケーブルを片付ける、イスを移動させる、など助け合いが自然と起こり、そうしない人は逆に「気が利かない」と思われます。

しかし、アメリカではこれが完全にアウトです。それは保障された仕事をその人から奪っていると見なされるからです。大変そうだから手伝おうとした、手伝った方が効率が良く全員の時間もセーブ出来る、単なる好意、など意図は全く関係ありません。

典型的なルール例

  • 電源のオンオフはユニオンじゃないとできない

  • イスや譜面台の移動もユニオンの役割

  • 休憩時間は強制

  • 休憩中はステージに上がってはいけない

  • ミニマム人数の指定があり、少人数で回せない

  • 労働時間が1秒でも延長されたらオーバータイムチャージ

これ以外にもかなり多くの規則が存在し、しかも州や都市によって厳格さが変わります。割と何でも許してくれる緩い場所もあれば、ルールに背くと厳しい言葉を浴びせてくる場所もあります。「現場ガチャ」です。

日本の視点からだと、作業の自由度が低くて効率も悪い、と感じることは多いはずです。しかしそれがアメリカ。

以前雇っていたドラマーが、サウンドチェックの時間を超えて叩き続け、ユニオンから注意されても止めず、さらに本人が非を認めないため非常に険悪なムードになったことがあります。プロデューサーだった僕が謝罪をしてどうにか場を収めましたが、終日ギスギスした空気が流れていました。

ユニオンと闘っても、ひたすら嫌味を言われたり、わざと作業を遅延されたり、ボイコットされたりするだけで、全く得がありません。素直に言うことを聞きましょう。


2. 音楽家のユニオン

American Federation of Musicians

オーケストラ公演を行う場合、ほぼ確実に関わってくるのがAmerican Federation of Musiciansです。通称AFM、和訳だとアメリカ音楽家連盟となります。要は演奏家の労働条件を守る団体で、以下のようなあらゆるルールを細かく規定しています。

  • 奏者1人あたりの最低ギャラ

  • リハーサルの最大時間

  • 本番の拘束時間

  • Doubling(持ち替え)料金

  • 録音・販売される場合の追加費用

ギャラに関しては、例えばオペラならこれ、ヴィジュアルメディアコンサートならこれ、スポーツイベントならこれ、など公演内容でかなり細分化されています。

他にも広範囲にわたる項目が、50ページにもなるルールブックに記載されています。そして地域ごとにルールブックの内容も異なっています。経済圏である主要都市はもちろん金額が高くなり、地方都市だと下がります。このルールブックは毎年更新され、その都度ユニオンのサイトにアップされます。

地域によって「AFM Local XX」(XXは数字)という感じで、ユニオン名の数字が変わります。数字は成立順であって、優先度や規模を示すわけではありません。NYやLAなど仕事が多い場所は、ユニオン加入者も多いため必然的に力も強まります。

オーケストラ奏者の相場感

仕事1本のことを「Service」と言い、Per Service(サービスごと)でいくら、という言い方をします。前述の通り各AFM Localによって金額が異なるため、以下は参考程度にしてください。

  • 大都市(NY/LAなど): $250 - $350 per service

  • 中規模都市: $180 - $250 per service

  • Doubling(持ち替え): $20 - $40 per instrument

持ち替えは楽器数と金額が比例します。例えばミュージカルでギタリストの譜面にエレキギター、アコースティックギター、クラシックギターのパートが書いてあると、持ち替えと見なされてギタリストのギャラが上がります。

コンサートマスターや第1奏者など重要なポジションも、基本料金に%が上乗せされます。

金銭的・時間的な融通は効くのか

結論から言うと、日本的な「予算が厳しいので下げられませんか」は通用しません。交渉の余地はないと思っていいでしょう。その場合は、奏者の数を減らしたりして調整します。

例えば規定のリハーサル時間を超えた場合。「あと8小節で終わりだから最後までやろう」なども一切通じません。決められた時間が来たらその瞬間に終了しないと、奏者をリスペクトしていないと受け取られます。急に不機嫌になり、オーバータイムチャージで痛い目を見ることになります。

時間内に収めるのがあなたの仕事であって、それが出来ないあなたが悪いよね」というスタンスです。

3時間のリハーサルだと間に30分、本番は20分の休憩を必ず入れなくてはならないことも憶えておいた方がいいでしょう。


3. オーケストラコントラクター

その役割と重要性

日本で言う「インペグ」さんのことです。AFMのルールに沿って奏者を手配して以下の作業をこなし、AFMが決めたコントラクター手数料を受け取ります。

  • ミュージシャンの採用

  • 全体のギャラ計算

  • 出欠管理とサブの手配

  • 公演内容やスケジュールを奏者に伝達

コントラクターの良し悪し

良いコントラクターは、AFM所属の良い奏者を調達でき、AFMのルールも熟知しています。ここは非常に重要です。

逆に悪いコントラクターだと、良い奏者を集める事が出来ず、全体の演奏クオリティが明確に下がります。それでもプロダクション側はそれを受け容れて、どうにかしてその公演のクオリティを担保しなくてはいけません。

自分のコンサート内容に合った奏者を集めて貰うためにも、良いコントラクターを見つけましょう。


4. 知っておいた方がいいこと(会場編)

僕の経験から、これは知っておいた方がいいということを幾つか書き留めておきます。他にも沢山ありますが…

「Dark Stage」の意味

ダークステージとは、ステージに誰も上がってはいけない時間帯のこと。当日のスケジュール表にも書かれます。厳しいところだとドアをロックしたりするので、忘れ物を取りに行くことも出来ません。ステージへ行こうとするとだいぶ怒られます。

時間は絶対

説明や作業の途中でも、休憩時間になったら全員いなくなります。時間になったら諦めましょう。

録音や撮影は気を付ける

殆どの会場は、プロダクション側の録音・撮影を有料にしています(客はOK)。通常はArchival(保存用)、Non-Commercial(非商用)、Commercial(商用)と3つのライセンス料が設定されていて、勿論後者になるにつれて金額が上がります。

地域ごとの振り幅が大きい

地域によって料金、ルール、クオリティなど様々なものが変化します。それに対応する・許容する能力を身に付けると心が楽になります。しかしどの地域でも共通している点は、準備はゆっくりなのに撤収は高速なところ。でもそれを見て「じゃあ準備も同じくらい高速でできるはずだ」と要求しても無駄です。


5. 知っておいた方がいいこと(AFM編)

会場ユニオンと若干内容が被りますが、こちらも書いておきたいと思います。

奏者をリスペクトすること

時間厳守は奏者に対するリスペクト。あとはふとしたタイミングでお礼を言うこと、譜面をしっかりまとめておくこと、細かい気遣いで心を開いてくれます。

当日のドレスリハーサル

もし本番当日のリハーサルで、間に合わずにアンコール曲が通せなかった場合。ユニオンは本番でその曲を弾くことを拒否することができます。関係が良ければ初見でやってくれますが、仲が悪ければ拒否される可能性もあります。間に合わなかった原因が機材の故障などでも同様です。

録音や撮影は気を付ける

AFMもプロダクション側の録音・撮影を有料にしています(客はOK)。スマホ撮影とかは何も言われませんが、一眼レフを持ってる人間が一人以上歩き回ってると怪しまれ始めます。コントラクターを介してお願いすると、SNS用の撮影とかは無料で許してくれることもあります。

仲良くする

あまりAFMに嫌われると、ブラックリストに名前が掲載され、全国のAFMニュースレターと公式サイトで公開されます。一度載ってしまうと、罰金を払わないと消してくれません。気を付けましょう。

「Right to Work State」

労働組合に加入しなくても働けることを法律で保証している州のことです。ユニオンは存在するものの、他の州ほどの強制力を持ちません。若干やりやすくはなるものの、あまりユニオンとは違うやり方で仕事をし過ぎると、先に述べたブラックリストに掲載されてしまうことがあります。


6. 違いを理解すること

アメリカは自由な国ですが、労働環境はユニオンによって細かくルールで守られています。日本の感覚で現場に入ると、不思議に思うことばかりかもしれません。

ユニオンの仕組みを理解し、ある程度許容できると、コンサート運営時の無駄な問題は回避できます。

日本とはだいぶかけ離れたユニオン文化ですが、正しくコミュニケーションを取れば、アメリカでも良い公演を重ねていくことができるでしょう。


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