日本とアメリカのコンサート運営の違い 1
アメリカで長くコンサートプロデュースに携わっているもので、アメリカ公演を希望される方々からの相談を受ける機会が増えています。
会話の中でいつも感じるのは「日米間のコンサート運営は根本的に違う」ということです。アメリカでは、主催の仕組み・収支構造・制作チーム・ツアーの回し方が日本と全く違います。
要は、大陸国家アメリカと東京一極型の島国日本とでは、やり方が変わるのは必然だ、という話です。
1. ブッキングエージェントの存在
先ずはブッキングエージェント
『ブッキングエージェント』とは、アメリカ各地のプロモーターに連絡をし、ブッキングから交渉まで手掛ける人のことです。
良いエージェントと契約することは、アーティスト、バンド、制作会社にとって、良い音楽を創り出すのと同じくらい重要となります。特定のジャンルに強いエージェントも多く存在するため、自分の音楽スタイル業界に合ったエージェントなのか見極めつつ契約するのが大事です。
何故ブッキングエージェントが重要なのか
良いブッキングエージェントは、繋がりもとても多く、様々な地域のプロモーターからも信頼され、良い会場やコンサートを圧倒的な速さで組んでくれて、妥当な報酬の交渉もしてくれます。その報酬から平均10%〜15%をエージェント料として支払います。
つまり、人間関係と交渉のプロです。
エージェントがプロモーターにブッキングの依頼をすると、プロモーター側から収支の見積書が届きます。そこにはコンサートのTechnical Riderに基づいた機材レンタル費用、人件費、会場費、などが諸々記載されています。
そこでエージェントは「85%以上チケットが売れたら、ボーナスをだしてくれ」など、こちら側の利益が最大化されるよう追加交渉をしてくれます。
駆け出し時代を除き、ブッキングまで自分で行うケースはかなり希です。
2. 地域ごとにプロモーターが変わる
大陸各地に存在するプロモーター
基本的に州や都市、果てや会場単位でプロモーターが変わります。ツアーをすると普通にこんなことが起きます。
ロサンゼルス: Goldenvoice社主催
シカゴ: 会場自体が主催
テキサス: AEG Presents社主催
ニューヨーク: Live Nation社主催
彼らは互いに独立した全く別の会社で(Goldenvoice社はAEG社に買収されましたが)、他にも特定の州のみで活動する中規模プロモーターも各地に多く存在します。それぞれがその地域の特色を熟知しているため、そこでの売り方に長けています。
超有名アーティストのツアーなどではない限り、1社のプロモーターが全てのツアー日程を組むことは先ずありません。
3. 収支構造の違い
スポンサーは期待しない
日本の会社と話すとほぼ確実に「スポンサーはつきますか?」と聞かれます。しかしアメリカでは複数の主催者が関わる構造上、スポンサーの権利を管理することなどが困難なため、日本では当たり前のスポンサー文化は成立しません。
僕は1,000〜3,000人規模の公演を全米(中米、南米、欧州も)で開催していますが、金銭的なスポンサーが付いたことは一度もありません。機材提供やSNS宣伝協力などはありました。
勿論、超有名アーティストのツアーや大規模フェスなどは例外です。
公演ごとに完全独立採算
アメリカでは、各公演の損益はそこで完結します。公演後に「Settlement」という書類が届き、そこに経費内容や収支が全て記載されています。
特定の公演が赤字だと、その公演のプロモーターが損をします。他の黒字公演から補填されることはありません。
そして州や都市での経済状況や規律が違いすぎるため、チケット料金が全国一律になることも絶対にありません。ここも日本との明確な違いです。
予算感の差
日本では、都市間の移動距離が比較的短く、全国どこへ行ってもホテル代や交通費の差もそこまでありません。
一方アメリカでは、西海岸から東海岸まで飛行機で約6時間、時差も3時間という距離感。そして州ごとに、法律、税金、気候、物価、労務費、スタッフの質なども大きく異なります。
同じツアーでも都市によってホテル代が3倍になったり、労務費が2倍になったりすることもあるため、日本で想定する予算感とはかなり剥離感があります。
4. 制作チームの違い
移動するチームは少数編成
例えば映像や照明との同期が必要なオーケストラ公演の場合、以下のようなツアーメンバーになります。
指揮者
プロダクションマネージャー(通称PM)
ステージマネージャー
ライティングディレクター
モニターエンジニア/プレイバックエンジニア
FOH(PA入りの場合)
マーチャンダイズマネージャー(普通は外注会社)
#2はテック関連含めて会場とのコーディネート、#3はステージでの指示係、#4は照明全般を担当、#5はクリックや同期映像を担当、#6は説明不要、#7は物販の管理・販売を担当します。
有名指揮者ではない限り、個人マネージャーが来たりすることはありません。最近だとSNS担当が帯同して写真や映像を撮るのも一般的です。
(経費を極限まで削って、指揮者がプロダクションとツアーマネージャーを兼任、プレイバックエンジニア、マーチャンダイズマネージャー、の3名で移動し、あとは現地調達する欲深いプロダクションも存在しますが)
バンド系になると、ここにバンドマネージャー、ギターテック、ローディー、など更に人数が増えていきます。ただしオペレーションは楽にはなるものの収支を圧迫するため、1人2役をお願いしたりしてバランスを取ります。
売れているアーティストのアリーナツアーなどだと、ワイヤレスの周波数を管理するだけのエンジニア、専属料理人・栄養士、マッサージ師、など様々なスタッフまで同行します。
ローカルクルーとの兼ね合い
1,000〜3,000人クラスの公演だと、会場のローカルクルーで労働力をまかないます。彼らの殆どが労働組合に所属しているため、真面目で超優秀な方もいれば、全く働かず努力すらしない方もいます。
日本のように、昼までに会場の設営が完璧に完了していることは絶対にありません。それが起きていたら希有な奇跡です。こちらが事前に送っておいた書類が読まれていないことも当たり前のようにありますし、依頼していたレンタル機材が届かないことも頻繁にあります。
そのため最も重要とするポジションの人間はツアーメンバーとして同行してもらい、上手く現地のクルーを指示しながら、公演のクオリティを担保していくことになります。
照明や音響スタッフまでローカルクルーを使うよう勧めてくる、渡航費まで削りたい強欲プロモーターが希にいますが、これは素直に断りましょう。コンサート内容を知らない人が重要なオペレーションを担うと公演失敗のリスクが高まります。
日本のクオリティは世界一
日本はでは固定の超優秀ツアークルーが常に同行し、日本全国どこへ行っても圧倒的なスピード感とクオリティでコンサートを開催することが出来ます。
日本のクルーは個々の平均クオリティが突出して高いので、日本でのおもてなし体験は一旦捨てて、アメリカのコンサート制作に臨みましょう。
5. まとめ
州や都市ごとに主催者も体制もまったく違い、スタッフも機材も毎回入れ替わると、日本では考えられないようなサプライズに遭遇します。
日本のように一社が全国をまとめて管理する仕組みだと、各公演のクオリティが安定して高くなりますが、その感覚のままアメリカでコンサートを行おうとすると、ほぼ確実に噛み合いません。
簡潔に言うと、郷に入っては郷に従う。日本のやり方は、アメリカでは理解と尊重はされても、そのやり方で進めてもらえることはありません。
しかし、文化や構造の違いを理解して協力すると、色んなことがスムーズに回るようになるでしょう。
