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JR東日本には非電化なのに"電車"しか走らない路線が2つもある

以前、JR八高線の非電化区間(高麗川~倉賀野間)に「発電機付き電車」が投入された話をしました。

東日本旅客鉄道(JR東日本)には他にも非電化路線があり、多くの路線ではディーゼルエンジンの動力で走る「気動車(ディーゼルカー)」、あるいはディーゼル発電機でモーターを駆動する「電気式気動車」または「ハイブリッド気動車(バッテリー駆動も可能な電気式気動車)」が投入されています。

しかし、同社には非電化なのに発電機を持たない、純然たる"電車"しか走っていない路線が2つあります。


非電化路線を走るのは「蓄電池駆動電車」

とある蓄電池駆動電車に付いているリチウムイオンバッテリー

非電化路線には、電車に電気を供給する「架線」や「第三軌条(サードレール)」が存在しません。電気式気動車の場合はディーゼル発電機で起こした電気でモーターを動かし、ハイブリッド気動車の場合はそれに加えて蓄電池(バッテリー)にためた電気も使ってモーターを動かします

ハイブリッド気動車に搭載した蓄電池の充電は、モーターを発電機として使うことで電気を得る「回生ブレーキ」で行うことが基本ですが、場合によってはディーゼル発電機を回して賄うこともあります。

しかし今回取り上げる路線を走る電車は、繰り返しですが発電機を備えない純然たる"電車"です。「非電化区間でどうやって電気を得るの?」と疑問に思うかもしれませんが、答えはシンプル。ハイブリッド気動車と同様にモーターの駆動に使える蓄電池を搭載しているのです。このように、非電化区間を走るための蓄電池を搭載している電車は「蓄電池駆動電車」と呼ばれています(そのまんますぎますがw)。

なお、蓄電池駆動電車はあくまでも"電車"なので、運転するには甲種電気車運転免許が必須です。今回紹介する2線区を担当する運転士は、エンジン駆動車用の甲種内燃車運転免許との"ダブルホルダー"が多かったそうなので、免許についてはあまり問題ならなかったと聞いています。

充電は「電化区間の走行中」と「終着駅」で実施

今回紹介する2路線のおおざっぱな特徴は共通しています

当たり前ですが、蓄電池駆動電車はどこかで、何らかの方法によって蓄電池を充電しないといけません

直通先の電化路線にある始発駅で充電中の蓄電池駆動電車

今回紹介する2路線は、「起点駅が電化されている」「(ほぼ)全ての列車が起点駅を介して電化路線に直通している」「終点駅は行き止まり(いわゆる盲腸線)」という共通点があります。

電化区間で停車・走行中は、普通の電車と同じく架線から電力の供給を受けます。ただし、蓄電池を搭載していることから、走行・停車中や減速で回生ブレーキを使う場合はバッテリーの充電も行います。先に控えた非電化区間を走るために、"たくわえ"をしているということですね。

非電化区間に入るタイミングではパンタグラフを下げます

そして電化・非電化の境界駅に着くと、運転士の操作によってパンタグラフ(集電装置)の下降・上昇を行います

2路線共に、下降・上昇許可をシステムによって制御しているため、意図的に解除しない限りは誤操作は防げます(それぞれの路線で使っている管理システムは違うのですが、説明は割愛します)。

非電化区間の終点駅には剛体架線で急速充電を行います(まだどの路線・車両かはまだ言わない)

行き止まりとなる終点駅には、急速充電設備を設置しています。

2つの路線では終点に着いた列車はかなり“迅速に”折り返します。そのため、通常の架線より高電流に耐えられる剛体架線を使うことで、電化区間よりも急ピッチで充電を行っているのです。なお、電化駅でも強化架線が整備されている場合は急速充電可能です。

この急速充電の可否も、パンタグラフの下降・上昇許可と同じシステムで判断しています。

電気の流れは可視化されている(乗客も見られる)

電気の流れは車端部のモニターで確認できます

今回紹介する2路線では全く違う蓄電池駆動電車を使っているのですが、いずれも車端部に電気の流れを確認できる液晶ディスプレイが設置されています。「誰得?」と思う人もいるかもしれませんが、蓄電池駆動電車の導入は環境対策の一環でもあるため、乗客にアピールできることは大切なのです。

運転台のモニター装置ではもうちょっと詳しい流れを確認可能です

なお、運転台にあるモニター装置では、電気の流れをもう少し詳しく確認できます。まあ、運転士さんや車両整備担当者さんのための表示なので当たり前ですね(

途中駅は完全に非電化

見てくれよ、この真っ青な空…

今回紹介する2路線は、起点と終点を除いて架線が全くない非電化を貫いています。景色を遮る架線はありません。非電化なのにディーゼルエンジンのドリュドリュ音は聞こえません。ものすごく静かです。

蓄電池駆動電車が走る2路線(と車両)を紹介

JR東日本では蓄電池駆動電車を「ACCUM(アキュム)」というブランドで展開

JR東日本では、蓄電池駆動電車を「ACCUM(アキュム)」というブランドで展開しています。ACCUMは「accumulate」という英単語に由来しており、電気を蓄積(accumulate)しながら走る電車であることが一目で分かるようになっています。

導入している2路線では、電化方式の違いなどから全く違うACCUMが使われています。路線と車両を紹介していきましょう。

烏山線: 日本初の蓄電池駆動電車オンリー路線に

烏山線のあらまし

1つ目のACCUM導入路線は烏山線です。

烏山線は、栃木県高根沢町にある東北線(通称「宇都宮線」)の宝積寺(ほうしゃくじ)駅を起点として、栃木県那須烏山市にある烏山駅を結ぶ全長約20.4kmの鉄道路線です。JRグループの路線区分では「地方交通線」で、全線が運賃制度上の「東京近郊区間」に含まれます。ただし、交通系ICカードは一切使えません

以前は列車の行き違い(交換)ができる大金駅(那須烏山市)と、終点の烏山駅は有人駅だったのですが、大金駅は2013年に、烏山駅も2025年に無人化された結果、線内全駅が無人駅という憂き目に…。

「あれ、宝積寺駅は?」というあなたは鋭く、宝積寺駅は有人です。JRの駅は単一の路線を所属とすることになっており、宝積寺駅は東北線の所属駅なのですw

だいたい1~2時間に1本の運転です

烏山線の列車は毎日1~2時間に1本の運転で、基本的に宇都宮線の宇都宮駅を発着します。夕方に宝積寺発着の便もありますが、宇都宮~黒磯間で区間運行する宇都宮線の列車と接続をきちんと取るのでそれほど困りません。

縁起のいい名前の駅にちなんで「七福神」を割り当て

烏山線は、起点の積寺駅と交換可能な大駅と、縁起のいい名前の駅が2つもあります。そして宝積寺駅を除く純粋な烏山線の駅が7つとということから、宝積寺駅以外の7駅に「七福神」をキャラクターとして割り当てています(宝積寺駅は起点ということで七福神が勢ぞろいしていますw)。

これを目当てに烏山線に乗る人は…いるんですかね?

烏山線用の「EV-E301系電車」

烏山線は2017年まで旧日本国有鉄道(国鉄)から引き継いだキハ40系気動車で運行していましたが、2014年から初代ACCUMたるEV-E301系一般型電車へと置き換えを開始し、2017年までに完了しました。これにより、日本で初めて非電化なのに電車しか走らない路線となりました。

ローカル線を走るのに、保安的には都会しか走れません

EV-E301系はJR東日本が開発した直流1500V用の蓄電池駆動電車で、走行系は三菱電機のシステムを採用しています。全部で4編成があり、いずれももっぱら烏山線の運用に入っています。

車内の設備は当時増備していたE233系に準じたものとなっていますが、短距離運行ということもありトイレはありません。また、車体はストレート仕上げとなっています。

保安装置は、全区間で(昔の基準では)都会向けとなるATS-P"しか"搭載していません。ローカル線で運用するのに、都会線区しか走れません。余談ですが、東北線の(小山~)宇都宮~黒磯間と日光線で運用されるE131系600番台一般型電車も、ATS-P"しか"搭載していません。

男鹿線: JR九州の息吹を感じるACCUMを導入

男鹿線のあらまし

もう1つのACCUM導入路線は男鹿線です。

男鹿線は、秋田県秋田市にある奥羽線の追分駅を起点として、同県男鹿市にある男鹿(おが)駅を結ぶ全長約26.4kmの鉄道路線です。JRグループの路線区分では「地方交通線」で、全線がJR東日本の交通系ICカード「Suica」の秋田エリアに含まれています

観光案内施設と一体となった男鹿駅

全駅が無人化されてしまった烏山線とは異なり、男鹿線は途中の二田駅(秋田県潟上市)と終点の男鹿駅が有人駅です(起点の追分駅は奥羽線所属で有人です)。

ただし、二田駅は「簡易委託」なので窓口の開いている時間が限られる上、きっぷの購入に一定の制約があります。男鹿駅は純粋な業務委託駅で、指定席券売機や自動券売機もあるのですが、早朝・深夜の時間帯は無人となり、無人時間帯は指定席券売機や観光案内所内の待合室が使えなくなります。

男鹿線の列車は、全て奥羽線の秋田駅(秋田県秋田市)と男鹿駅との間でスルー運転です(以前は追分発着もあった)。運転間隔は「だいたい1時間」ですが、最大で90分ほど間隔が空く時間帯があります。

???「悪い子はいねがー」

その名の通り、男鹿線は男鹿半島に向かって伸びる鉄道路線で、男鹿半島といえば「なまはげ」なわけです。そのため、男鹿線の運転系統には「男鹿なまはげライン」という愛称が付いています。

JR九州の息吹を隠しきれない男鹿線用の「EV-E801系電車」

男鹿線もかつてはキハ40系気動車による運行でしたが、2017年から2代目(?)ACCUMたるEV-E801系交流用一般型電車へと置き換えを開始し、2021年までに完了しました。これにより、JR東日本では2番目の非電化なのに電車しか走らない路線となりました。現在、EV-E801系電車は6編成あります。

…と、このEV-E801系なのですが、室内の座席形状や運転台回りの設計、そして何より車体の造形を見れば見るほどJR東日本がデザインしたとは思えない感じがします。それもそのはずで、実はEV-E801系は九州旅客鉄道(JR九州)の蓄電池駆動電車「BEC819系」(通称「DENCHA」)をベースに、主に以下の設計変更を行った車両なのです。

  • 交流電化用機器の50Hz対応化

  • 耐寒・耐雪工事の施工(標識灯の設置位置変更を含む)

  • 保安装置の変更(ATS-DK→ATS-P+ATS-Ps)

  • 無線機の変更(アナログ式→デジタル式)

秋田にいながら九州気分を味わえる(ただし座席はJR東日本風)

繰り返しですが、EV-E801系はJR九州のBEC819系がベースです。九州に上陸せずともJR九州を味わえる感じがするのですが、さすがに座席はJR東日本の意向が反映されており、かなり座り心地のいいものに変更されています。

運転台にもJR九州の息吹…と思いきや、意外と違和感がない

運転台もベース車のBEC819系っぽい…と思いきや、色味や機器配置はJR東日本の要件を可能な限り満たすように変更されています。蓄電池駆動に関わるボタンの位置は、JR東日本が開発したEV-E301系とそろえられています。

一方で、走行系のシステムはベース車と同じく日立製作所製です。伝送装置も、日立製作所製の「Synaptra(シナプトラ)」を採用しています(※1)。もっというと、この車両自体が日立製作所製です(JR東日本において、特急型"以外"では今は亡き215系近郊型電車以来だった模様)。


(※1) 首都圏のローカル線区に導入されたE131系直流用一般型電車の伝送装置も、Synaptraベース。ただし、仙石線向けの800番台のみ、諸事情あって三菱電機製の伝送装置を搭載している。


保安装置はプレイステーションポータブルATS-PとATS-Ps

烏山線とは異なり、男鹿線の保安装置はATS-SNのままです。直通先の奥羽線を含めて、ATS-Ps(ATS-Sxにパターン制御を追加したもの)だけ搭載すれば十分なはずなのですが、EV-E801系にはATS-Pも搭載しています。

恐らく、奥羽線を含む「日本海縦貫線」(日本海沿いを走るJR線群)において、局所的にATS-Pの整備を進めていることと関係がありそうなのですが、何で搭載しているのか事情をご存じの方がいたら、ぜひ教えてください。

まとめ: ACCUMはこれから広がる?

何だかんだで非電化区間の本命は電気式気動車かハイブリッド気動車なのかな…

ということで、JR東日本のACCUMを紹介してきました。烏山線と男鹿線は比較的距離が短いので蓄電池駆動電車を導入できたと思うのですが、それ以外の非電化路線はそこそこ距離があるため、導入しても電気式気動車かハイブリッド気動車なんだろうなと思います…。

もしもACCUMがもっと広がるとしたら、蓄電池の技術に革新があった時なんだろうなぁ。


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