鉄道・軌道車両を運転するのに必要な「運転免許」とは?(前置きが長め)
先週、JR八高線の非電化区間に「発電機(ディーゼルエンジン)を搭載した電車」が導入されたことをnoteで紹介しました。
この車両は、モーター駆動という観点では「電気車」なのですが、ディーゼルエンジンを積んでいるという観点では「内燃車」です。実は、これで問題になるのは「運転免許」です。せっかくなので、鉄道・軌道(以下まとめて言う場合は「鉄軌道」)の運転免許について、noteとしてまとめてみることにしましょう。
まず「鉄道」と「軌道」の違いを解説

以前のnoteでもたまに触れていますが、日本では「レールの上を走る輸送手段」(あえてこう書く)の根拠法として「鉄道事業法」と「軌道法」の2種類があり、前者に基づく路線を「鉄道」、後者に基づく路線を「軌道」と言います。「なぜ2つの法に分かれているの?」という所ですが、すごく大ざっぱにいうと線路を主に敷設する場所と、それに伴う所管官庁の違いに起因しています。
鉄道 : 原則として専用の敷地を用意して敷設→所管は旧運輸省
軌道 : 原則として道路の一部として敷設→所管は旧建設省と旧運輸省
2000年に省庁再編が行われたことで、運輸省と建設省は「国土交通省」にまとめられましたが、両法は統合されることなく現在まで併存しています。
鉄道については、その営業について「鉄道営業法」という法律も適用されます。こちらも旧運輸省が所管していたものです。
「軌道のような鉄道」「鉄道のような軌道」も存在する

根拠法が異なる鉄道と軌道ですが、歴史的な経緯(特殊事情)によって「軌道のような鉄道」「鉄道のような軌道」も存在します。
「軌道のような鉄道」の典型例が、江ノ島電鉄の江ノ島電鉄線(通称「江ノ電」)です。江ノ島電鉄線は鉄道事業法に基づく鉄道なのですが、道路に線路を敷設した「併用軌道区間」が存在します。専用の敷地への敷設を原則とする鉄道としては、例外的な措置です。
もっとも、江ノ島電鉄線は1902年に軌道条例(現在の軌道法)に基づく軌道として開業した後、1945年に地方鉄道法(現在の鉄道事業法)に基づく鉄道に転換したという経緯があります。

そして「鉄道のような軌道」の代表例は、いろいろ迷ったのですが大阪市高速電気軌道(通称「Osaka Metro」)が運営する地下鉄・新交通システムの大部分が挙げられます。
Osaka Metroは、大阪市の公営企業「大阪市交通局」が運営していた地下鉄・新交通システム事業を継承すべく2017年に大阪市によって設立されました。翌2018年には大阪市交通局の地下鉄・新交通システムを引き継ぐと同時に、大阪市が保有していた大阪シティバス(※1)の株式も引き継ぎました。
大阪市は、旧大阪市営地下鉄を大阪府道(※2)や大阪市道と併せて整備していきました。そのため、Osaka Metroの運営する地下鉄・新交通システムはほぼ全てが軌道法を根拠とする軌道となっています。ゆえに、正式な社名にわざわざ「軌道」を含めているのです。
なお、Osaka Metroの地下鉄・新交通システムに鉄道が全くないわけではなく、以下の路線・区間は法的に鉄道です。
中央線 : 夢洲~大阪港間
→夢洲~コスモスクエア間は大阪港トランスポートシステム(OTS)の「北港テクノポート線」を第2種鉄道事業者として借用(※3)
→コスモスクエア~大阪港間もOTSの施設を第2種鉄道事業者として借用(※4)南港ポートタウン線 : コスモスクエア~トレードセンター前間、中ふ頭~フェリーターミナル間
→コスモスクエア~トレードセンター前間はOTSの施設を第2種鉄道事業者として借用(※5)
→中ふ頭~フェリーターミナル間は第1種鉄道事業者として自ら運営
(※1)大阪シティバスは元々、旧大阪市交通局の路線バスの運行を一部受託するために設立された「大阪運輸振興」という会社(いわゆる「外郭団体」)がルーツ。大阪市交通局の民営化時に、大阪市は同局が運営する路線バスの全路線(と車両)を同社に譲渡すると共に、同社の株式をOsaka Metroに譲渡した。
(※2) 都道府県道は、その名の通り都道府県が管理することが原則だが、政令指定都市内の区間は政令指定都市が管理しなければならない。余談だが、国道は国(国土交通省)が直接管理するものと思いきや、半分弱は都府県が管理しているが、都府県が管理する国道も、政令指定都市内は政令指定都市が管理しなければならない。「あれ『道』は?」と思った人はするどく、“特例”で北海道の国道は全て国による管理となる。
(※3) 北港テクノポート線はOTSが第1種鉄道事業者だが、OTSは一切営業を行っていない。鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)が関与しているわけではないので、Osaka Metroにもっぱら貸し出す or 譲渡を前提とするのなら第3種鉄道事業者でもいいような気がするのだが…。
(※4)この区間はかつて、OTSが「テクノポート線」として第1種鉄道事業を行っていた。自社車両も保有して大阪市交通局(当時)の中央線と直通運転を行っていたのだが「別運賃なせいで割高すぎる」との声を受けて、2005年6月30日をもって第1種鉄道事業を廃止し、翌日(2005年7月1日)から第3種鉄道事業者として大阪市交通局(→Osaka Metro)に施設を貸し出す形態に変更された。大阪市交通局はこの区間を中央線の一部として扱い、運賃は通し計算されることになった。なお本件に伴い、OTSは自社車両を大阪市交通局に売却している。
(※5) この区間は元々OTSが「ニュートラムテクノポート線」として第1種鉄道事業を運営していたのだが、※4と同じ経緯で2005年6月30日をもって第1種鉄道事業を廃止し、翌日(2005年7月1日)から第3種鉄道事業者として大阪市交通局(→Osaka Metro)に貸し出す形態になった。なお、鉄道区間の狭間(トレードセンター前~中ふ頭間)はOTSが運営する軌道だったが、2005年7月1日付で軌道事業(特許)を大阪市交通局に継承している。
鉄軌道の運転免許制度は同じ省令に基づく

前置きが長くなりましたが、鉄道と軌道は根拠法(と旧所管省)が異なるのですが、車両の運転免許に関する規定はいずれも「動力車操縦者運転免許に関する省令」という共通の国土交通省令(旧運輸省令)で定められています。
この省令では、鉄軌道車両と「無軌条電車」の運転免許に関するルールを定めており、これらの運転に従事する人を「動力車操縦者」、操縦者が受けるべき運転免許を「動力車操縦者運転免許」と総称しています。
動力車操縦者運転免許は全部で12種類あり、一部は運転できる路線が現存しない or 廃止(方式転換)の危機にあったりしますが、基本的には「走る場所」と「動力源」によって区分できるようになっています。
走る場所での区分
まず「走る場所」は以下のように区分できます。
甲種 : 一般的な鉄道路線および鉄道の基準を準用して作られた軌道路線
乙種 : 一般的な軌道路線(甲種に該当するものを除く)
→専用軌道“以外”を主な走行区間とする軌道(路面電車など)が対象新幹線 : 新幹線路線(読んで字のごとし)
→いわゆる「ミニ新幹線」(通称「山形新幹線」「秋田新幹線」)の在来線区間の運転には甲種免許が必要磁気誘導式 : 磁気誘導式鉄道
→「磁気誘導式鉄道」は、磁気マーカーを検知して車両を自動運転するレールのない鉄道
→通常の免許は「第1種」、障害発生時に手動操縦できる免許は「第2種」という区分無軌条電車 : レールのない所を走る電車
→いわゆる「トロリーバス」が該当(※6)
→法的には原則として軌道扱いとなる
→別途「大型第二種自動車免許」(大型2種免許)も取得する必要がある(※7)
(※6) 名古屋市内で運行されている「名古屋ガイドウェイバス」は、ディーゼルエンジンで動くのだが、国土交通省では「無軌条電車」とみなしている。なお、名古屋ガイドウェイバスは車両の老朽化や部品の枯渇から自動運転バスへの転換(≒軌道から自動運転バス専用道路への転換)が検討されている。
(※7)以前は大型2種免許を保有していれば申請のみで無軌条電車運転免許の交付を受けられたが、現在は無軌条電車に関する技能試験を受けて合格しないと交付されない。
動力源による区分
「動力源」よる区分は以下の通りです。
電気車 : 電気モーターを動力源とする鉄軌道車両
→電車や電気機関車が該当内燃車 : 内燃機関(ICE)を動力源とする鉄軌道車両
→気動車(ディーゼルカー)やディーゼル機関車が該当
→理論的には内燃機関であれば燃料の種類は問わない(基本は軽油)蒸気機関車 : 蒸気機関(スチームエンジン)を動力源とする鉄軌道用機関車
→運転実務上、2級以上の「ボイラー技士免許」も必須
運転免許の種類
ということで、先述の省令では以下の12種類の運転免許が定義されています。いずれも一度取得すれば有効期限なしで付与されます。
甲種電気車運転免許
乙種電気車運転免許
新幹線電気車運転免許
甲種内燃車運転免許
乙種内燃車運転免許
甲種蒸気機関車運転免許
乙種蒸気機関車運転免許
第1種磁気誘導式電気車運転免許
第2種磁気誘導式電気車運転免許
第1種磁気誘導式内燃車運転免許
第2種磁気誘導式内燃車運転免許
無軌条電車運転免許
同じ動力源でも走行する路線に合わせた免許が必要です。先ほどチョロッと言いましたが、ミニ新幹線の新幹線区間と在来線区間を“通し”運転する場合は、甲種電気車と新幹線電気車“両方の”運転免許が必要です。そのせいか、ほとんどのミニ新幹線列車は新幹線・在来線の境界駅で運転士を交代しています。
逆に、同じ路線を運転する場合でも車両の動力源に合わせた免許が必要です。運転方法は異なるものの、鉄道用の電車と電気機関車は単一の甲種電気車運転免許で、鉄道用の気動車とディーゼル機関車は単一の甲種内燃車運転免許で運転できます。しかし、鉄道用の電車と気動車の両方を運転する場合は、甲種電気車と甲種内燃車“両方の”運転免許が必要です。
ただし、「内燃機関で作った電気で電動機を駆動する車両」については、必要な補習教育を受けることで甲種電気車と甲種内燃車の“いずれか”の運転免許で運転可能です。
「鉄道と軌道が混在している路線(会社)はどういう免許が必要なのか?」という点ですが、先に説明した通り、鉄道の基準を準用して作られた軌道路線は甲種運転免許で運転できます。というかこの場合、乙種運転免許では運転できません。
一方、上にYouTube動画を載せた広島電鉄の場合、軌道路線が“ガチの”路面電車となっているため、鉄道路線は甲種運転免許、軌道路線は乙種運転免許がないと運転できず、通し運転するには両方の免許が必要です。
同社の場合、運転士志望者にはまず乙種電気車運転免許を取得させて「軌道運転士」として登用した後、甲種電気車運転免許を追加取得させて「鉄道運転士」となる運用をしているようです。鉄道運転士は、ある種の“キャリアアップ”ということですね。
動力車操縦者運転免許は「就職」しないと取れない

自動車や原動機付自転車(原付)の運転免許は一般の人でも取れます。しかし、動力車操縦者運転免許は鉄軌道事業者に就職しないと取れません。
というのも、免許試験場に直接出向いての試験(いわゆる「一発試験」)という概念がなく、「動力車操縦者養成所」(教習所)に通うのが必須な上に、それが鉄軌道事業者にしかないからです。
先述の省令では、動力車操縦者運転免許を取得できるのは長らく満20歳以上とされていましたが、人手不足を解消すべく満18歳以上に引き下げられました。その上で、省令に定める「身体検査」「適性検査」「筆記試験」「技能試験」に合格することで初めて免許までたどり着けます。
ステップ1 : 身体検査

運転士になるまでの道のりは鉄軌道事業者によって異なりますが、いずれの事業者でも誰でも運転士になれるわけではありません。運転士“候補”になるには、省令に定める身体検査に合格しなければなりません。検査項目は以下の通りです。
視力(両目で1.0、片目それぞれで0.7以上 : 矯正視力でも可)
両目の視機能
両目の視野
両目の色覚
聴力(左右それぞれの耳で「5m以上の距離でささやく言葉」を明らかに聴取できること)
疾病・身体機能(心臓、神経・精神、目の疾患や、運動・言語機能など)
中毒の有無(アルコール、麻薬など)
視力と聴力以外の基準は以前と比べると緩和されていて、操縦に支障のないレベルであれば許容されるようになりました。
ただ、運転士になることを希望して鉄軌道事業者に就職した人が、この身体検査で色覚異常や疾病・障害を初めて認識し、いわゆる「欠格事項」に当たるがゆえに運転士になることを諦めざるを得なかった――そういう話もいまだに聞きます。運転士になりたいと考えている人は、上記事項について就職前に検査することをお勧めします。
ステップ2 : 適性検査と筆記試験

省令では、ステップ1の身体検査に合格した人に適性検査と筆記試験を受けさせることができるとされています。多くの鉄軌道事業者では身体検査の合格者に「2次試験」として適性検査を課して、問題なかった(合格した)人を正式な「運転士候補」とするという流れを取っているようです。まあ、いきなり筆記試験とか無理ですもんね…。
省令では、適性検査において以下の項目を必ず盛り込まなければいけません(事業者判断で他の試験項目も追加可能)。
内田クレペリン検査(通称「クレペリン検査」)
→心理的な安定性・不安定性をチェックするテスト反応速度検査(機敏性検査)
→ランダムに出る3色の光と同じ色のボタンを押すテスト
適性検査に合格したら、いよいよ動力車操縦者養成所に入学です。養成所について、省令では技能試験に必要な教育まで一貫して行う「第1種講習課程」と、筆記試験に必要な教育(学科講習)のみを行う「第2種講習課程」が規定されているのですが、ほぼ全てが第1種講習課程の養成所となっているそうです。
動力車操縦者養成所は全ての鉄軌道事業者にあるとは限らず、養成課程の一部、または全部を別の事業者に委託している鉄軌道事業者もあります。まあ、大規模な事業者なら自前で持っていると思って良いかと思います。
学科講習は少なくとも約4ヶ月間行われます。学科講習後、筆記試験を受けることになります。
ステップ3 : 技能試験
省令では、筆記試験に合格すると技能試験を受けられることになっています。筆記試験に合格すると、動力車操縦者養成所では技能試験を受けるための教育(技能講習)に移行します。技能講習は現場での訓練もあり、少なくとも約5ヶ月間かかります。
技能講習を受けた後、技能試験(≒最終試験)に合格すると国土交通省から動力車操縦者運転免許が交付されます。
まとめ: 鉄道の運転免許は再編されるのかな…?

ということで、八高線の新車に絡んで鉄道の運転免許制度についてまとめておこうと思ってnoteを書きました。何か誤りがあればご指摘いただけると幸いです。
ハイブリッド気動車は黎明期に「電気車と内燃車のどっちで運転するんだよ?」っていう議論があったんですよね。
その先駆けであるJR東日本のキハE200形気動車(営業用車両としては日本初のハイブリッド気動車)は、“キハ”という名前が付いている通り“気動車”とみなして甲種内燃車運転免許の保有者に運転させていたそうですが、運転時の挙動は電車そのものですからね…。補習をすればどちらの免許でもOKとなった今は良い時代なのかもしれません。
この先、鉄軌道の運転免許は再編されたりするんでしょうかね…?
