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九十四|花野奇譚

 石留いしどめにマゴイチョウと呼ばれるイチョウの木がある。数羽の烏がすみかにしていることからそう呼ばれる。
 石留いしどめ黒田孫吉くろだまごきちという爺さんがいた。その名から孫爺まごじいと呼ばれていた。孫爺まごじいは早くに妻を亡くして余生を長くひとりで過ごした。縁側で見かけた烏に餌を遣るので、庭にはいつも数羽の烏がいた。
 孫爺まごじいは昭和三十七年に亡くなった。亡くなったあとも懐いた烏は餌を求めて庭に来ていたが、いつの間にか見なくなった。それから幾らかの後、烏は石留いしどめに立つ一本の若いイチョウの木に棲みつくようになった。それでどこからか孫爺まごじいがイチョウの木に生まれ変わったという話が広まり、マゴイチョウと呼ばれるようになった。

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