四十三|花野奇譚
花野ではコスモスのことを「章花」と呼ぶ。タコの宛字である章魚から派生したそうである。コスモスの花びらがタコの足と同じく八枚であることが由来とされているが、他にも不思議な話がある。
鶫野の漁師平井南郷が、タコの湯がき汁を庭に撒いた。その翌日のことである。昼に漁を終えて家に帰ると、妻が萎れたコスモスが再び息を吹き返したと声を弾ませている。何かしたかと尋ねられたが、そのときは分からなかった。数日の後、庭に出た平井は庭で萎れたコスモスを見て、まさかと思いながらタコの湯がき汁を撒いた。そうすると翌日、コスモスは真直ぐに立っていたそうである。
それから、花が枯れそうになったとき、タコの湯がき汁をかけると花の寿命が延びるという話が広まった。
余談であるが、昭和二十年代頃から花野では名前に波を付けると高波にさらわれる危険があるという話が広まった。平井の名はもともと波郷であったが、南郷に改めた。


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