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【煉獄のパールライト】 25.くだらない人生

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 そして、清の悪い予感は当たっていた。

「待ってください。俺も行く言うたやないですか」

「清。お前なんで……」

 輿田は高柳の行動を事前に聞かされており、ひとりで襲撃するつもりだったらしい。清はここ数日、密かに輿田の行動を見張っていたのだ。そのおかげで、なんとか置いていかれずに済んだのだ。

「アニキの行動なんて、お見通しですわ」

 輿田が乗り込もうとしていた車のドアを押さえて、清は得意げに言った。輿田が部下を巻き込むようなことをするはずがないのだ。

 清は運転席に乗り込み、輿田は小さくため息をついて助手席に座った。

「お前はほんまに、要領悪いな」

 輿田は口とは裏腹に少し嬉しそうに見えて、清はにんまりと笑った。

 高柳は隠れ家である別荘に、今日の昼から向かう予定だという。他にもいくつかの襲撃候補はあったのだが、一般人が巻き込まれにくい場所を選んだのだろう。輿田たちはバレないように離れた場所で車を停め、別荘近くの木陰に隠れながら相手の到着を待った。

「アニキ。気ぃつけてくださいよ、今回の話ちょっときな臭いでっせ」

 少しすると、黒塗りの車が2台到着した。男たちに守られながら出てきた、白スーツの薄毛で小太りな男が高柳らしい。予想していたよりも警護の人数が多く、清は襲撃を諦めることも進言しようと考えていた。

「パンチパーマちゃうせいもあるけど、言われへんと気づかんかったな。随分と偉そうなったもんや……」

 清の隣で、輿田がそんな感想を漏らした。そのまま別荘に入るかと思いきや、高柳は突然こちらに向かって叫んだ。

「おい、輿田。おるのは分かっとる。出てこいや!」

 襲撃の情報が漏れていたのだ。

 むしろ高柳は、輿田を生け贄として差し出すよう求めていたのかもしれない。近藤は輿田の情報を流して恩を売りつつ、輿田の襲撃が成功したらしたで、相手の組織を本気で潰すつもりなのかもしれない。どちらに転んでも、近藤に損はないということだ。

「アニキ、逃げましょ。罠やったんですよ」

 しかし、輿田は何も動じていなかった。

「いや、逃げても同じや。決着つけるしかない」

 車から降りてきた相手は、高柳を入れて8人もいる。人数的には、圧倒的にこちらが不利だった。

「パンチパーマはもうやめたんか? 理由は見りゃわかるけどな」

「ほんまに久しぶりやな、あのガキに復讐するまでに、こない時間かかるとは思わんかったわ」

 木陰から輿田が答えると、高柳が嬉しそうに応じた。

「いったい何年前の話やねん。涙ながらに土下座したんが、そんなに悔しかったんか?」

「俺は昨日のことのように覚えとるで」

「ちょっかい出してきとるのは知っとったけど、まさかご本人が登場とはな」

「お前はワイの人生の汚点や。ほんまは、もっと早よケリつける予定やったんやけどな。逃すなよ!」

 高柳が指示を出すと、周りの男たちがこちらに向けて動き出した。輿田は躊躇なく発砲し、そのうちのひとりが腹を押さえて倒れた。

相手も本気になったのか、慌てて銃で反撃を始めた。輿田が清に叫んだ。

「相手は俺が狙いや、援護するからお前は逃げろ」

「それは俺の役目でしょうが!」

 そう言うと、ふたりは同時に物陰から飛び出した。清も相手のひとりを撃ち抜くことに成功したが、左太ももに激痛が走り、その場に倒れ込んでしまった。とどめとばかりに銃声が響き、背中が焼けるように熱くなった。しかし、その熱が急速に冷えていくのがわかった。

 薄れゆく意識の中で、輿田が撃たれてその場に倒れるのを見た気がした。しかし、それは幻に違いない。兄貴は苦境に強い人なので、なんだかんだ言って逃げおおせるだろう。清はそんなことを考えながら、意識が真っ暗な泥に沈んでいった。






 桔兵は自分が死んだ時のことを思い出しながら、清の極道話を聞いていた。

 彼の話は大いに盛り上がっており、俊介や小林以外にも耳を傾けている人が増えていた。

 借金の取り立てから、女装して逃げようとした大男を、街中追いかけ回した話。暴力的な旦那から逃げてきた人妻ホステスを、自分の家にかくまって誘惑された話。偶然居合わせてしまった襲撃で、車の陰にずっと隠れて、何も出来なかった情けない話。

 頭の悪い話し方ではあるのだが、清の自分を大きく見せない物言いは、聞いていて心地良いものがあった。横で聞きつつ、これもひとつの才能なのかもしれないと、桔兵は感じていた。もし気の合う相方が見つかれば、少しぐらいは有名になっていたかもしれない。

 清の話が終わり、3人は感想を含めた雑談を始めていた。

 ジャージのヤクザに、スーツのサラリーマンと小学生。なんとも奇妙な組み合わせだが、立場など気にせず、話は大いに盛り上がっていた。

 こいつも、とんだとばっちりだったな……。

 そんな光景を見つめながら、桔兵は清を道連れにしてしまったことを、申し訳なく感じていた。自分と一緒でなければ、彼が命を落とすこともなかっただろう。しかし、不器用な清が自分ひとりで、極道として生き残れるとは思えなかった。

 桔兵はぼんやりと、極道映画の話題で盛り上がる3人を眺めながら、自分の人生を結論づけた。

「ほんまに、くだらん人生やったな……」

 桔兵はおもむろに立ち上がると、俊介に何かを差し出した。

「これ、やるわ」

 何をもらえるのかと、俊介は嬉しそうに手を差し出した。しかし、渡されたのが、うっすらと輝く珠だと気付いて仰天していた。

 それを見て、清も慌てふためいて言った。

「何してはるんすか!? まだ諦めるんは、早いっすよ!」

 そんな清に、桔兵は涼しい顔で言った。

「もう引退や。お前も、俺にかまわんと好きにせえ」

「そんな……」

 清は諦めきれないといった顔で、すがるように桔兵を見た。

「アニキは、もっと生きたいと思わへんのですか?」

 桔兵は苦笑しながら、すっきりとした表情で答えた。

「俺はそれなりに生きたわ。現実に帰るにしても、ええ加減な人生を送り過ぎたんや……」

 桔兵の言葉を、清はうつむきながら聞いていた。

「ほんまに生き返ることができるんやったら、もっと真っ当な奴に任せた方がええ」

 桔兵の決意の固さを感じてか、清はしばらくの間、うなだれて動かなかった。

「しゃあないっすね。 ほな、俺も好きにしますわ!」

 突然、清はそう言うと、困惑している俊介の掌に自分の珠を置いた。触れ合った二つの珠は、ほのかに光り輝いて融合した。

「お前……」

 桔兵が驚いて清の顔を見ると、彼は少し照れ臭そうに言った。

「もともと、俺にヤクザなんて向いてなかったんすよ。俺も、一緒に引退っす!」

 この不器用な男が、なんの後ろ盾もなく極道の世界で生きるのは、さぞ大変だったことだろう。そして、すべてを諦めた自分は、彼の決断をどうこう言える立場にはなかった。

 だから、桔兵が彼にかけられる言葉はひとつしかなかった。

「清!」

 顔を上げた相棒に、桔兵は優しく声をかけた。

「ありがとうな」

「……っす」

 敬愛する上司にそう言われ、清はうつむき、必死に泣くのを耐えているようだった。そんなやりとりを、俊介と小林は少し寂しげに見ている。

「みんな、引退しちゃうんですね……」

 小林もそう言ってうつむいていたが、顔をパッと上げて言った。

「じゃあ、私も!」

 そう言って、小林も俊介の掌に自分の珠を乗せた。止める間もなく、その珠も重なり合って融合してしまった。

「なんで、お前が乗っかってくんねん!」

 感動の余韻を邪魔されたかのように、清が涙をぬぐいながら小林に食ってかかった。俊介は展開についていけず、ただ茫然としていた。

 皆が怪訝な顔で小林を見ると、彼は胸を張って言った。

「一般人だからって、ちゃんとした人生を歩んでいるとは限らないんですよ!」

「偉そうに、なんてこと言うねん!」

 清はそう突っ込みつつも、小林の言い分に怒る気が失せてしまったようだった。

「私も引退です。いや、引退させてください!」

「知らんわ!」

 桔兵はことの成り行きに苦笑しながら、ふたりのやりとりを見て思った。小林の人生とは、一体どんなものだったのだろう? あとで、聞いてみるのも面白いかもしれない。

 戸惑っている俊介に、桔兵が声をかけた。

「馬鹿な大人からのプレゼントや。ええからもらっとけ!」

 清と小林も、それに同意した。

「そうや、そうや!」

「やはり、ここは一番若い人にゆずらないと」

 俊介は困惑していたが、少し恥ずかしそうにうなずいた。

「全部、集められるかな……。無駄にしちゃったらごめんなさい」

 そう言って、俊介は貰った珠に自分の珠を重ね合わせた。4つが融合した珠は、より美しい光を放ち始める。その光景を見て、全員が嬉しそうに顔を見合わせて笑い合った。

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