明日この患者を退院させていいか。TKA後の退院・転院基準と臨床判断の型
はじめに──「退院日はDrが決めるから関係ない」は通用しない
「退院日はDrが決めるものだから、PTは関係ない」と思っているとしたら、それは半分だけ正しい。退院日の最終決定権はDrにある。しかし「この患者が明日退院できる機能状態にあるかどうか」を最も正確に把握しているのはPTだ。
TKA後急性期に担当するPTは、毎回のリハビリを通じて歩行能力・ROM・筋力・疼痛・ADL自立度を評価している。この情報はカルテに記録され、Drの退院判断の根拠になる。PTが「退院できる状態です」「まだ転倒リスクが高いです」という客観的な評価をカルテに残せるかどうかが、患者の安全な退院を支える。
記事⑩で「退院前に患者・家族に何を伝えるか」を扱った。
この記事⑬では「PTとして退院してよいかを判断し報告する基準と型」を解説する。
なぜ退院時の機能評価がアウトカムに影響するのか
Poitras et al.(2015, PMID:26336897)は、108例の股・膝関節置換術後患者を対象に、術後2日目のTUGが在院日数と退院2週間後の機能(OARS-ADL)を有意に予測することを報告した。つまり術後早期の機能評価が退院後の生活機能の見通しと関係しており、PTが記録する評価値は退院判断の重要な根拠となる。
また退院先についても重要なエビデンスがある。Padgett et al.(2018, PMID:29352683)は、propensity score matchingを用いた大規模コホート(1213対)の検討で、TKA後の回復期リハビリ施設への転院は自宅退院と比較して6ヶ月時点の合併症・2年時点の機能・患者立脚型アウトカムに有意な差がないことを報告した。「自宅に帰れるならそれがベスト」という方向性の根拠になる一方、「回復期に転院すれば悪化する」わけでもなく、患者の状況に応じた適切な選択が重要だということだ。
退院判断の5項目チェックリスト

5つの評価項目のうち、特に確認が重要なのが歩行能力とROMだ。
歩行能力については、T字杖または歩行器を用いて病棟内を介助なく歩行できることが多くの施設での目安だ。「歩ける」だけでなく「転倒リスクが許容範囲か」という安全の視点で評価する。夜間のトイレ往復や、家の中を移動する動作が想定できるかどうかを確認する。
ROMについては屈曲90°以上が一つの目標だ。トイレ着座・椅子からの立ち上がりには90°前後の屈曲が必要で、これが確保されているかが日常生活の最低限の目安になる。伸展については−5°以内を退院基準とする施設が多いが、−10°以上残存する場合は歩幅・安全性への影響をDrに報告する。
TUGをどう退院判断に使うか
TUGはTKA後の退院判断で最も汎用性が高い評価ツールだ。立ち上がり→歩行→方向転換→着座という一連の動作が含まれており、歩行速度・安定性・下肢機能を一度に評価できる。
Poitras et al.(2015)の報告では術後2日目のTUGカットオフが在院日数・短期機能の予測に有意だったが、具体的な「退院可能TUG秒数」は施設・患者背景によって異なる。日本の急性期病院では20秒前後を目安とする施設が多い。重要なのは絶対値よりも「入院中の変化のトレンド」だ。「POD3では30秒だったが本日(POD12)は18秒に改善。安定した歩行パターン」という経過を記録することが、退院判断の根拠として機能する。
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・転院先の選択基準(自宅・回復期・療養型・施設)とPTが関与できるポイント ・PTからDrへの「退院可能」の報告の型(カルテ記載の文例) ・退院基準に達していない場合の対応(延泊交渉・転院の段取り) ・MSWとの連携と退院前カンファレンスでのPTの役割 ・ミニケーススタディ:退院日当日にTUGが基準を超えていた患者への対応
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