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認知症の親が夕方になると「家に帰る」と言い出す。玄関に立つ前に知っておきたい、その理由と声かけ

夕方5時。台所で夕飯の支度をしていたら、背後で物音がする。
振り返ると、母がコートを羽織って、玄関でこう言う。

母:わたし、そろそろ帰るわ。
あなた:えっ、ここが家だよ?
母:違うわよ。うちはもっと向こう。お父さんが待ってるから。
あなた:お父さん、10年前に亡くなったでしょ…!

——この会話、認知症の介護をしていると、必ずと言っていいほど通る道です😢
自宅にいるのに「家に帰る」。矛盾しているようで、ご本人の中ではまったく矛盾していません。

今日は、この「帰宅願望」の正体と、玄関先での声かけのコツをお話しします。

⭐︎ 「家に帰りたい」は、場所の話じゃない


まず、いちばん大事なことから。

「ここが家だよ」と証拠を並べて説得しても、ほぼ通じません。
なぜなら、ご本人にとっては"ここは家ではない"のが、その瞬間の現実だからです(出典:いえケア)。

認知症の専門家は、こう説明しています。
「家に帰りたい」は、安心できる居場所を探し求める訴えであり、不安な感情の表現の一つ。場所の見当識障害のために、どこにその安住の場があるのか、本人にも答えが見つからない状態だとされています(出典:認知症ねっと/今井幸充先生コラム)。

つまり「帰りたい=この不安な状況から抜け出したい」。
"家"は、地図上の建物ではなく、"安心"そのものを指す言葉なんです。

⭐︎ なぜ、夕方に多いのか(夕暮れ症候群)


外が薄暗くなる夕方に、そわそわと落ち着かなくなる——これは「夕暮れ症候群(夕方症候群)」と呼ばれます(出典:朝日生命)。

夕方は、昔の記憶では"帰る時間""夕飯を作る時間""子どもを迎えに行く時間"。
その記憶がよみがえって、「帰らなきゃ」「支度しなきゃ」という気持ちにつながることがあると言われています(出典:朝日生命)。

ただし正直にお伝えすると、夕暮れ症候群のはっきりしたメカニズムは、まだ解明されていない部分も多いとされています(出典:いえケア)。
日が沈む不安、自律神経の乱れ、夕方の家の慌ただしさなど、複数の要因が重なると考えられています。

⭐︎ やってはいけない対応


つい、やってしまいがちなこと。でも逆効果になりやすいものを挙げます。

❌「ここがあなたの家でしょ!」と事実で論破する
→否定されたと感じ、不安と反発が強まります。

❌「お父さんはもう亡くなってるよ」と現実を突きつける
→その事実を、ご本人は毎回"初めて"聞くことになります。喪失の痛みを何度も味わわせてしまいます。

❌力ずくで引き止める・鍵を見せつけて閉じ込める
→「閉じ込められた」という恐怖が、興奮や徘徊をかえって強めることがあります。

責めているのではありません。私も現場で、つい「違うでしょ」と言いたくなる気持ちは痛いほどわかります。ただ、事実の訂正は、この場面ではほぼ効きません。

⭐︎ 玄関に立つ前の、声かけ4つ

ポイントは「否定しない・不安に寄り添う・気持ちをそらす」。

🔹① まず、いったん受け止める
「そう、帰りたいのね」と、まず気持ちを肯定する。
専門家も、「ここが家です」と言い聞かせるより「私がいるから大丈夫」と寄り添う対応をすすめています(出典:認知症ねっと)。

🔹② "帰る"を止めず、少し一緒に付き合う
「じゃあ、お茶を一杯飲んでから行こうか」「暗いから明るくなってからにしよう」と、時間をずらす。
少し経つと、帰りたい気持ちそのものを忘れて落ち着くことがあります。

🔹③ 役割・用事に気持ちを向ける
「その前に、これ手伝ってくれる?」と、洗濯物たたみなど簡単な作業をお願いする。
"頼られる"ことで安心し、意識がそれることがあります。

🔹④ 一緒に少し外を歩く
どうしても収まらないなら、危なくない範囲で少し一緒に散歩し、ぐるっと回って戻る。
「帰ってきたね」と言うと、すっと落ち着くこともあります。

⭐︎ これは「徘徊」の入り口かもしれない


帰宅願望が強まると、実際に外に出て行こうとする=徘徊につながることがあります(出典:認知症徘徊GPSセンター)。

行方不明になりやすい時間帯は昼から夕方(12〜16時ごろ)に多いというデータも紹介されています(出典:同)。
「まだ言うだけだから」と油断せず、早めに備えておくと安心です。

・玄関のドアに、開けると音が鳴るセンサーやチャイムをつける
・服や持ち物に、名前と連絡先を書いておく
・GPS端末(靴に入るタイプもあります)を検討する
・地域包括支援センターに「見守り・SOSネットワーク」があるか相談しておく

備えは「疑い」ではなく「保険」です。準備しておくほど、こちらの気持ちにも余裕が生まれます。

⭐︎ 最後に


夕方の「帰る」に毎日付き合うのは、本当に消耗します。
夕飯時という、ただでさえ忙しい時間に重なるのも、しんどさに拍車をかけます🍚

でも、覚えておいてください。
あの「帰りたい」は、あなたへの拒否ではありません。
不安でたまらない気持ちが、たまたま"家に帰る"という言葉になって出てきているだけ。

論破しなくていい。解決しなくていい。
「そばにいるよ」——それが、今日いちばんの正解です。

一人で抱え込まず、ケアマネジャーや地域包括支援センターにも、遠慮なく相談してくださいね。

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