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経年変化は設計できるのか。― 時間建築論 第1章

経年変化という言葉は、しばしば「劣化」と同じ意味で語られる。

建物は新しいほど美しく、
時間が経てば価値が下がる。

そう考える人は多い。

しかし本当にそうだろうか。

建築は、完成した瞬間から
ただ劣化していく存在なのだろうか。

それとも、その瞬間から
時間を生き始める存在なのだろうか。


私が日本で設計をしていたころ、
よく使っていた外壁材がある。

ウェスタンレッドシダー。
いわゆる米杉である。

一般的に外部に木材を使うことは敬遠されがちだ。
雨や日差しによって変色し、劣化が早いと思われているからである。

しかし私は、建築主が嫌いでなければ、
なるべく外部に木材を使うことをすすめてきた。

雨風の当たりにくい場所の一部だけでもよい。

家の内部に木を使うことは多いが、
私はむしろ外部に木を使うことを好んできた。

多くの場合、この材料にはオイルステインなどの塗装を施す。
だが私は、できるだけ塗装をせず、
そのままの状態で仕上げることをすすめていた。その材料が十分に乾燥されたものである前提ではあるが。

もちろん時間が経てば、
日光の当たる場所と当たらない場所、
雨風にさらされる場所によって
色の変化は大きく現れる。

それは避けられない。

しかし私は、その途中の変化を楽しんでほしいと思っている。

そして完全に色が変わりきった頃、
その外壁材はようやく本来の表情を見せる。

もし塗装をしてしまえば、
その瞬間はきれいに見えるかもしれない。

しかし時間が経てば色の差が生まれ、
また塗り直しを繰り返すことになる。

塗装とは、
時間を止めようとする行為なのかもしれない。

しかし建築は、時間から逃れることはできない。


ウェスタンレッドシダーの外壁と同材で製作した玄関ドア。木は時間とともに色を変え、建築に静かな変化を与えていく。

最近、私自身にも白髪が増えてきた。

以前は気になって染めていた。
落ちてきたらまた染める。
それを繰り返していた。

しかし最近は、それをやめた。

白髪のままでも、それが年齢相応の姿ではないか。
むしろそのほうが自然なのではないか。

そう思うようになった。

建築の経年変化も、
それに似ているのではないかと思う。

時間を重ねることで、
建物は少しずつ表情を変えていく。

特に外壁や屋根など、
外の空気に触れる部分ほど、その変化は大きい。

しかしそれを、私はむしろ愛おしく感じる。

人が年を重ねるように、
建物にもまた時間が流れている。

鉄やコンクリートに比べ、
木は特に生き物に近い素材だ。

呼吸し、湿気を吸い、
環境に敏感に反応する。

だからこそ、その変化を大切にしたいと思う。


私たちは「古びる」ということを、
必要以上に恐れているのかもしれない。

新築は美しく、
古い建物は価値が下がる。

そうした考え方が、
いつのまにか当たり前になっている。

しかし日本の建築文化は、
本来、時間と共に生きる建築を育ててきた。

神社仏閣は何百年も手入れされ、
古民家は修理されながら使われ続ける。

建築は「完成」で終わるのではない。

人の手によって、
時間の中で育てられていく。


ある住宅で、庇の下に杉材を使ったことがある。

木肌は淡いピンク色で、
木目がとても美しかった。

その光景は、
今でも私の記憶に残っている。


建築の経年変化とは、
劣化ではなく、時間の痕跡なのかもしれない。

設計とは、
時間の受け方を決める行為ではないだろうか。

建築は完成した瞬間に終わるのではない。

むしろその瞬間から、
風に触れ、湿気を含み、光を受け、
少しずつ変わり続けていく。

建築は、時間の中で完成する。


本稿は「時間建築論」というシリーズの一章である。
建築を「時間」と「記憶」という視点から考えていく試みだ。

完成した瞬間の美しさだけではなく、
時間を重ねながら人の記憶に残る空間とは何か。

その問いを、少しずつ考えていきたい。

次章では、
素材が時間をどのように受け取るのかを考えてみたい。


木の外壁の前に置かれた小さなポスト。こうした細部の存在が、日常の風景をつくっていく。

シリーズ目次

時間建築論 — 記憶を編む空間

第0章
建築はいつから記憶になるのか

第1章
経年変化は設計できるのか

第2章
素材は時間をどう受け取るのか

第3章
手入れという文化

第4章
建築はなぜ壊されるのか

第5章
五感の空間論

第6章
建築の時間スケール

第7章
記憶を生む建築

第8章
未来を設計するということ

第9章
時間と共に生きる建築

最終章
建築は記憶の装置である



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