ブームが去った朝に残るもの。 〜ヤクルト1000の失速に学ぶ「持続」の設計〜
こんにちは。 株式会社スプリングボード代表の足立晋平です。
突然ですが、「ヤクルト1000」を最後に飲んだのはいつですか?
私は健康的な生活を探求するのが趣味のような人間なので、あのブームのときは完全に踊らされました。
「睡眠の質が向上する」と聞けば、試さずにはいられない。
仕事帰りにスーパーを3軒ハシゴしても、棚は空っぽ。 ようやく見つけた日は、ちょっとした宝くじ当選気分でした。
それなのに、です。
いつでも買えるようになった途端、いつの間にか買わなくなっていた。
悪気はまったくありません。 ただ、静かに、習慣から消えていた。
先日、ヤクルト本社の決算ニュースを読んで、ドキッとしました。
私のような「静かに離れた客」が、数字になって表れていたからです。
📉 ピークから、わずか2年で
報道によれば、ヤクルトの国内事業は減収減益。
けん引役だったヤクルト1000シリーズは、ピーク時に1日319万本売れていたものが、282万本まで減少したそうです。
注目したいのは、ここからです。
ヤクルトは人気絶頂のタイミングで、供給不足を解消するための新工場を稼働させ、一気に販売を強化する計画を立てていました。
ところが、工場が本格的に動き出す頃には、ブームの波はすでに引き始めていた。
🏭 ピークの数字を前提に、大きな投資を決める
📈 ブームで来てくれたお客様が、定着すると見込む
🌊 そして、波が引く
この流れ、実は古今東西、驚くほど同じパターンで繰り返されています。
💡ちょこっと理論紹介💡
📊 平均回帰
極端に良い結果や悪い結果の後には、平均的な結果が来やすいという統計的な性質です。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、人間がこれを直感的に理解できず、絶好調の数字を「新しい実力」と錯覚してしまうと指摘しました。
営業成績でも、テストの点数でも、SNSのバズでも同じことが起きます。
つまり、319万本という数字は「実力値」ではなく、瞬間最大風速だった可能性が高い。
でも、渦中にいると、それが永遠に続くように見えてしまうんですよね。
🐟 海が白く染まった時代の「ニシン御殿」
歴史にも、そっくりな話があります。
明治期の北海道日本海側では、春になると海が白く染まるほどニシンの大群が押し寄せました。
網元たちは空前の豊漁に沸き、「ニシン御殿」と呼ばれる豪邸を建て、漁網や番屋にどんどん投資を重ねました。
この豊漁が、永遠に続くと信じて。
しかし昭和に入るとニシンは年々減り、1950年代には群れがぱたりと来なくなります。
残ったのは、豪壮な御殿と、使われない設備だけでした。
天の恵みを「自分の実力」と誤認し、ピークの数字を前提に資産を積み上げる。
新工場とニシン御殿は、100年の時を超えて、同じ構図に見えます。
では、なぜ優秀な人や組織ほど、この罠にはまるのでしょうか。
💡ちょこっと理論紹介💡
🪤 能力の罠/サクセス・トラップ
組織論の大家ジェームズ・マーチは、組織の活動を「探索」と「深化」に分けました。探索とは新しい可能性を探すこと。深化とは今の成功を磨き込むことです。
そして、成功すればするほど深化に資源が偏り、探索が止まると警告しました。うまくいっているものを強化するのは合理的に見える。だからこそ、誰も止められないのです。
売れているから、工場を増やす。 売れているから、営業を増やす。 売れているから、もっと売れる前提で計画を立てる。
一つひとつは正しい判断に見えます。
しかし全体としては、「ブーム後」への備えがゼロになっていく。
怖いのは、この罠が「正しい努力」の顔をしてやってくることです。
⚽ ブームの失速から立ち直った、数少ない成功例
ここで思い出したいのが、Jリーグです。
1993年の開幕は、まさに社会現象でした。
チケットは取れない。 テレビは連日Jリーグ一色。 子どもたちはこぞってクラブのユニフォームを着る。
各クラブは熱狂を前提に、高額なスター選手へ投資しました。
しかし数年でブーム客は去り、観客は激減。 1998年には横浜フリューゲルスが消滅する事態にまで至りました。
ここからのJリーグがすごかった。
初代チェアマンの川淵三郎さんたちが選んだのは、「ブームの再現」ではなく「百年構想」でした。
テレビの中のスターに頼るのではなく、地域に根ざしたクラブとして、住民の生活習慣の中に入り込む道を選んだのです。
その結果どうなったか。
あの開幕当初の熱狂は、もう戻っていません。
でも、クラブ数は当初の10から60まで増え、ブームなき安定成長を実現しました。
ブームを追いかけるのではなく、ブームで出会った人たちを「習慣」に変える設計へ舵を切った。
ここが分岐点だったのだと思います。
🌱 私たちの「ヤクルト1000」はどこにあるか
これは、大企業だけの話ではありません。
✅ たまたま大型案件が決まって、絶好調だった半期
✅ 上司や市況という「追い風」の中で出た好成績
✅ バズった企画、うまくいったプロジェクト
そのとき、私たちは自分にこう問えているでしょうか。
「この数字のうち、何割が実力で、何割が追い風だろう?」
私自身、独立してからずっと増収が続いていた時期、心のどこかで「これが実力だ」と思い始めていました。
その鼻っ柱を、コロナ禍が一撃でへし折ってくれたわけですが(笑)、あの経験以来、調子がいいときほど、こう考えるようになりました。
「風が止んだ朝に、何が残るだろうか」
ブームは止められません。 そして、狙って起こせるものでもありません。
でも、ブームの間に「習慣」と「信頼」を仕込むことはできます。
ニシン御殿を建てるのか。 百年構想を描くのか。
好調の最中の選択が、その後の30年を決めるのだと思います。
みなさんの周りにある「追い風」、最近どんなものがありますか?
よかったらコメントで教えてください。
🎦音声/動画解説/スライド資料はこちら(NotebookLM)
📚 関連記事
ブームの渦中でも「売上KPI」をあえて追わないポケモンの話です。
今回の記事が「ブームの後に何を残すか」だとすれば、こちらの記事は「そもそも何を追うべきか」という話。
表裏一体のテーマとして、あわせて読んでいただけるとうれしいです。
なぜポケモンは「売上KPI」を追わないのか? 〜伝説の編集者が語る『アラレちゃん』の失敗に学ぶ〜
📖 書籍のご案内
リーダー1年目の方に向けて、現場ですぐ使える考え方と行動をまとめました。
『リーダー1年目から結果を出す人がやっていること』
🎓 Udemy講座のご案内
動画で学びたい方はこちら。
リーダーシップやマネジメントのエッセンスを、いつでもどこでも学べます。
足立晋平のUdemy講座一覧
