問い合わせは、タスクではなく、関係性の接点でもある
先日、あるコンタクトセンターで通話モニタリングに同席しました。住所変更の手続き自体は、2分で終わっていました。でも、オペレーターはそこから40秒、電話を切らなかった。お客様の「実は引っ越しの理由がですね…」という話に、相づちを打ち続けていたからです。
この40秒は、ムダでしょうか。
AIエージェントの議論をしていると、どうしても「タスク実行」の話になりがちです。この業務を自動化できるか。人を介さず完了できるか。何ステップで解決できるか。2025年にはSierra AIが大手ECの返品処理を自動化し、SalesforceはAgentforceで「人を介さない解決」を前面に打ち出しました。国内でも当社含めて各社がタスクの完遂率を競っています。
それは重要です。住所変更、返品手続き、契約確認、パスワード再設定。明確なゴールを持つ業務において、AIエージェントによる自動化の価値は非常に大きい。
ただ、最近あらためて考えていることがあります。
問い合わせは、本当に「解決」だけを求めているのだろうか。
「手続きが完了しました」では満たされないもの
お客様は、問題を解決したい。それは前提です。でも、解決だけを求めているわけではないケースも多い。
不安だから確認したい。自分の理解が合っているのか知りたい。納得できないので説明してほしい。怒っているけれど、まずは気持ちを受け止めてほしい。
こうしたニーズは、「手続きが完了しました」という結果だけでは満たされません。むしろ「ちゃんと聞いてもらえた」「雑に扱われなかった」という体験そのものが、大きな価値になることがあります。
AIが進化すると、私たちは目的思考、ゴール思考になりがちです。(自戒をこめて)
用件を特定する。必要な情報を聞く。システムを操作する。完了を伝える。業務処理としては正しい設計です。
しかし、ゴールへの最短到達が、最高の顧客体験とは限りません。怒っているお客様に正しい手続きを即座に実行しても、気持ちは収まらないかもしれない。何度も同じことを確認しているお客様に必要なのは、追加情報ではなく「そこがご不安なのですね」のひと言かもしれない。
タスクのAIと、コミュニケーションのAIは設計思想が違う
問い合わせには、少なくとも2つの価値があります。タスク実行の価値と、コミュニケーションの価値です。
優れたオペレーターは、問い合わせ内容だけを処理していません。声のトーン、沈黙、言い直し、迷いを受け取りながら応対を進めている。冒頭の40秒が、まさにそれです。あの時間で扱われていたのは手続きではなく、お客様との関係でした。
この前提に立つと、ボイスエージェントの設計は変わります。
手続き、検索、登録、変更、外部システム連携のような処理は、タスク実行に最適化されたAIが担えばいい。そこで重要なのは、正確性、権限管理、監査性、エラー制御です。一方で、お客様との会話を担うAIに必要なのは、相づち、間、聞き返し、言い換え、納得の形成。そして、お客様が「ちゃんと話せた」と感じられること。
タスク実行に強いAIと、コミュニケーションに強いAIは、設計思想が違う。 だから、分けて考える必要があります。
GeNで「後からわかった」こと
この考え方は、当社のテキストAIエージェント「GeN」で、半ば偶然に検証されました。
GeNは、いきなり答えを出すAIではありません。「それはこういうことですか?」「この点でお困りですか?」と必要に応じて深掘りし、問題を一緒に特定していくAIです。正直に言うと、当初の設計の主眼はハルシネーション(AIがもっともらしい誤答を生成してしまう現象)への対策と、RAG(社内文書を参照して回答する仕組み)の精度向上でしたw。
ところが、導入企業からのフィードバックで驚いたのは、解決率だけでなく満足度も高かったことです。「お客様が『ちゃんと聞いてもらえた』と言っている」という声が、精度の数字と並んで返ってきました。
ユーザーは、最初から正しい質問ができるとは限りません。自分が何に困っているのか、言語化できていないこともある。そこに伴走するプロセス自体が、価値だった。後になってわかってきたことです。
結論
結論、タスク実行の自動化は2026年から2027年にかけてさらに進みます。手続き系の問い合わせは、人が触れる前に処理されるのが当たり前になる。各社が競っているタスク完遂率も、いずれ横並びになるでしょう。
そのとき差がつくのは、コミュニケーションの価値をどう設計したか、です。
いや、「差がつく」というより、ここを落とすと効率化と引き換えに顧客との関係が静かに痩せていく、というのが正しいかもしれません。
問い合わせは、タスクではなく、関係性の接点でもある。
地味な論点です。でも、AI時代のカスタマーサポート設計の分岐点は、ここにあると考えています。
当社カラクリとしては、ボイスエージェントでもこの「分けて設計する」思想を実装していきます。ステマぽいですが、この論点を一緒に考えたい方、ぜひお声がけください。
