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#しくみのスキマ|余白を残す妥協力がしくみを動かす

「妥協」という言葉を聞いて、あなたはどのような印象を抱くでしょうか。
おそらく多くの仕事の現場では、手抜き、諦め、あるいは敗北といったネガティブな響きを持って受け取られがちです。

私たちは常に「より良くすること」を求められます。
だからこそ、新しいしくみをつくるときや、システムを導入するとき、誰もが完璧な状態を目指そうとします。

しかし、実際のプロジェクトを進めるとき、この妥協という行為こそが、しくみが現場に定着するかどうかを左右する最も重要な鍵になります。

仕事は、決して一人で完結するものではありません。
そこには、営業、製造、管理といった異なる立場の人がいて、それぞれが異なる要件や価値観、そして「こうしてほしい」という切実な願いを持ちながら、ひとつの成果物に向かって動いています。
そのような複雑な関係性の網目の中で、関わる全員が100点満点を取れる完璧なしくみをつくることは、現実にはほぼ不可能です。

むしろ、完璧な理想を追い求めるあまり、誰か特定の部署だけが大きな痛みを被るような妥協を強いてしまうことこそが、現場の体温を奪い、長期的なしくみの破綻を生み出してしまうのです。

逆に言えば、全員が少しずつ譲り合い、全員が「良(80点)」を取れるような妥協を設計できた案件こそ、結果的に現場が一番スムーズに呼吸をし、しくみとして長く回り続けます。

自分だけ100点は悪手。クレクレ精神は一番損をする

プロジェクトの要件定義の現場でよく見かけるのが、「自分たちだけ100点を取りたい」という無意識の思考です。

新しいシステムが入ると聞けば、現場はこれまでの不満を一気に解消しようとします。
入力項目はもっと細かく分けたい、あのデータも自動で連携してほしい、自分たちの部署専用の承認フローを組み込んでほしい。
そうした個別の要望を積み上げる行動は、一見すると自分たちの業務を最適化しているように見えます。

しかし、この「あれもこれも」というクレクレ精神は、実は組織全体で見ると最も損をする振る舞いになってしまいます。
なぜなら、ひとつの部署にとっての100点は、別の部署にとっては入力負荷の増大や、システム運用の複雑化というマイナスとしてのしかかるからです。

結果として、システムは身動きが取れないほど重たいものになり、周囲の他部署からの協力を得られず、孤立してしまいます。
自分たちの理想を詰め込んだはずのシステムが、誰にも使われなくなるという皮肉な結果を招くのです。

大切なのは、自分たちの要望をどこまで通せば、他部署も無理なく運用できるかという境界線を見極めることです。
自分も含めた全員が80点を取れるように、あえて自分たちの要望を少し取り下げる。
長い目で見れば、その「譲り合いの構造」こそが、自部署の業務を最も安定して回すためのプラスの力になります。

「全部システム化」という理想に対して、あえて残した“余白”

かつて私が、ある現場で新しいしくみづくりを進めていた時のことです。
しくみを導入して業務を可視化したい側の上級管理職や、推進担当者からは、このような強い要望がありました。

「理想は、現場の業務をすべてシステム化することです。
データを細かく漏れなく取れるようにし、外出先でもすべてシステム上で完結して動かせるようにしたい」

経営や管理の視点から見れば、その理想は論理的にまったく正しいものです。
データが一元化されれば、意思決定は早くなり、属人化も排除できます。

ですが、現場に目を向けると、そこにはさまざまなITリテラシーを持つ人がいて、長年培ってきた「手触りのある業務の進め方」がありました。
この現場の文法を無視して、すべてを一気にシステムという冷たい箱に押し込むのは、現実的には組織の呼吸を止めてしまうように見えました。

そこで私は、あえて「Excelでの運用を残す」という妥協を選びました。
業務のすべてをシステムに置き換えるのではなく、「結果の保存・管理」と「承認のワークフロー」という、どうしても統制が必要な部分だけをシステム化し、日常的な細かな計算や検討プロセスといったその他の部分は、現場が慣れ親しんだ従来のやり方を併用するハイブリッド構成にしたのです。

100点の完全システム化から見れば、これは明らかな後退であり、妥協です。
しかし結果として、現場の「今までのやり方を否定された」という拒絶感や抵抗は最小限に抑えられました。
使い慣れた道具を手元に残したことで、現場は安心感を持ち、少しずつ、しかし確実に新しいシステムへの移行と定着が進んでいったのです。

もしあの時、理想を掲げて一気にすべてを変えようとしていたら、現場の大きな反発を生み、プロジェクト自体が頓挫していたかもしれません。

これこそが、システムとしての要件を満たしつつ、現場の感情の逃げ場を用意する「スキマを埋めつつ余白を残す」という、戦略的妥協の効果です。

妥協は負けではなくスキル

妥協は、単なる手抜きでも、理想を諦めることでもありません。
むしろ、しくみづくりにおいて「どこをシステムでカッチリと埋め、どこに人間のための余白を残すか」を見極めることこそが、最も高度な設計の戦略なのです。

一部の人間だけが100点を取れる幻想のシステムを追うよりも、関わる全員が80点を取れる、少し泥臭い現実をデザインする。
その方が、現場の人間も、システムを管理する側も無駄に疲弊せず、結果として組織全体の成果が最大化されます。

妥協力とは、相反する論理の間に立って組織を滑らかに動かすためのスキルであり、しくみを持続的に発展させていくための、とても優しく、そして強靭な戦略なのです。

エピローグ(ご提案)

次にあなたが、何かのしくみづくりやプロジェクトの推進を任された時。
完璧な正解を描こうとして行き詰まったら、少しだけ立ち止まって、この言葉を思い出してみてください。

「どのスキマを埋めて、どこに余白を残すか」

システムの論理と、現場の感情。そのギャップをどのくらい見極め、どれだけの量を埋めるのかを意識的に選んでみてください。
きっと、あなたが選ぶ妥協は、単なる妥協ではなく、組織を動かすための確かな戦略的な力へと変わっていくはずです。

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