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#しくみのスキマ|SaaSと外部知見がしくみを進める

会社の基幹システム。たとえば会計や販売管理、勤怠管理といった仕組みについて、多くの組織では「自前で作るべきだ」と語られます。

「会社の心臓部にあたる重要な業務なのだから、自分たちの手の届く範囲でコントロールしたい」

そう思うのは、組織として極めて自然な感覚であり、生存本能でもあります。自分たちの手で作り上げたシステムには、独自の業務フローや、長年培ってきた企業文化が隅々まで反映されているからです。そこに安心感を覚えるのは、決して間違ったことではありません。

ただ、ここにこそ、しくみを設計する者としての「手放す勇気」が必要になります。

なぜなら、お金周りや制度周りの環境は、毎年のように法律や社会のルールが変わっていくからです。たとえば、新しい税制への対応や、働き方改革に伴う複雑な勤怠ルールの変更など、外部環境のアップデートに自前で追従しようとすると、まず法律の解釈から始めなければなりません。結果として、本来なら新しい価値を生み出すために使われるべき社内の貴重なリソースが、ただ「現状を維持するため」の設計や運用に吸い込まれていくことになります。

SaaSがもたらす価値は、単にサーバーが不要になることや、どこからでもアクセスできるという機能的な利便性だけではありません。 その本質は、煩雑な法対応や最新の外部知見を、「パッケージ化された思考」として受け取れることにあります。

SaaSを利用するということは、その領域の専門家たちが常にアップデートし続ける知見を、自社の仕組みの一部として組み込むことと同義です。インフラの減価償却を気にする必要がなくなり、属人的なトラブルでシステムが止まるリスクも小さくなります。この「外部の知性」をうまく雇い入れることができれば、私たちが支払う利用料以上の、大きな余白(時間とリソース)を組織にもたらすことが可能になります。

もちろん、SaaSという「世間の標準」に完全に業務を乗せるということは、世の中のコモディティ(一般化されたもの)に合わせるということでもあります。

会社としての独自性や、これまで大切にしてきた細やかなフローは、その分だけ制約を受けることになります。現場からは「前のやり方のほうが使いやすかった」「この入力欄がないと困る」という声が必ず上がるでしょう。

ここで陥りがちなのが、現場の要望をすべて叶えようとして、SaaSに対して無理なアドオン(追加開発)を乱発してしまうことです。これをやってしまうと、外部知見のアップデートを享受できるというSaaS本来のメリットを食い潰し、バージョンアップのたびに改修コストがかかるというデメリットだけを抱え込むことになりかねません。

だからこそ、設計者の視点が必要になります。

SaaSという標準の枠組みの中で、どこまでを受け入れ、どこに自社独自の設計を残すのか。その境界線を意図的に引くことです。

・標準を素直に受け入れる部分(法対応や一般的なバックオフィス業務など)
・自社独自性を絶対に守り抜く部分(顧客価値や競争力に直結するコア業務)
・外部の補助を最大化する部分(API連携などによるハブとしての活用)

この3点を整理し、システムと業務の間に疎結合な関係を築くこと。自由と制約のバランスをどう取るかというこの問いにこそ、業務設計者としての判断の核心があります。

あなたの組織では、SaaSの標準と、自社が持つ独自性のバランスを、意図的に設計できているでしょうか。

「重要なものだから自社で抱え込む」のではなく、「重要だからこそ、あえて外部の知見に委ねる」という選択。時には、そうした静かな勇気が、組織の重力を解き放ち、思いのほか大きな成長のサイクルを回し始めることがあります。

一度立ち止まって、自社で残すべき独自性の輪郭と、外部に任せて手放すべき部分のバランスを、一緒に考えてみる価値はあるのではないでしょうか。


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