ばいばい、フリード。
我が家の愛車、HONDA フリードの話をしたい。
つい先日GWの連休中に、突然のお別れになってしまった、私たちの相棒の話。
我が家のフリードは2代目だ。
1代目は紺色、2代目は銀色のボディを備えていた。どちらも中古で購入。なぜなら、とんでもなく狭い我が家への道すがらや車庫を鑑み、「どうせぶつけるから」「子どもも間違いなく汚す」という算段があったためだ。この令和の時代に突入して久しいのに、ずっと手でひねってエンジンをかけるタイプのソレだった。
そう、あいつは、硬派なヤツなんだ。
文句も言わずに。毎日保育園に通い。子どもには汚され。運転手の夫婦はたまに車体を傷つけちゃうし。そんな日々の中でも静かに仕事をまっとうし、昨年には香川までの往復1400㎞の旅だってがんばってくれた。
そんな彼を迎えてから、今年は3年目の春。世間はゴールデンウイークだ。
双子も小学生になり毎日がんばっているし。第6子妊娠中の私も、いつ動けなくなってしまうかわからない……
ということで、急遽宿をおさえて、伊豆にでも行くかあ。となった。
恐竜にハマっている双子弟。化石を掘ったりするのも大好きな彼が喜びそうな公園を発見し、初日はここに行こう! と決める。
双子兄は、双子弟がハマるものにいっしょにハマる傾向があるので、よくわかんないけど面白そう! と賛成だったし、姉たちも宿に温泉があると伝えたら「やった~」と腕を振り上げて喜んだ。私が妊娠中のため、夫が運転を担当した。フリードの車内ではみんなで音楽を聴きながら海を眺め、混んでいる道中も気長に楽しんだ。空いた道に躍り出れば、フリードはぐんぐん進んだ。

海のそばで休憩をはさんだりしつつ、無事にフリードは目的地「伊豆ぐらんぱる公園」に到着した。


特に双子がずっとはしゃいでいた


伊豆ぐらんぱる公園では、たくさん遊んで、たくさん写真を撮って、歩き回って。帰りにはかき氷を分けあって食べた。急遽予約したコンドミニアム式の宿は古いながらも広くて、夜と朝には温泉を優雅に楽しんで。
子どもたちは繰り返し「たのしいね」「来てよかったね」と口々に言い合った。それを聞いていると、お酒が飲めなくっても私は幸せな気持ちであふれた。「今日くらいはビールを飲んだら」と私は夫に言ったけれど、彼はオールフリーを2本飲んで、明日の運転に備え、末っ子の三男といっしょにすぐに布団で眠りに落ちた。
本当はお酒が好きなのに、なんて健康な男だ。推せる。

伊豆ぐらんぱる公園で買った望遠鏡で
いろんなものを観察する双子兄
素泊まりだったので、朝食は外で食べよう。ということになり、散策を終えて我々は愛車フリードに乗り込んだ。
「今日は動物園に行こう!」
「望遠鏡で観察するんだ。楽しみ~」
なんて会話をしながら、ひとまず近所のレストランに入るべく、右折待ちで停車していたときだった。
ガン!!!!!
大きな音とともに車体がぐわんと揺れて、頭ががくんと前に傾いた。
一瞬、なにが起きたのかと頭が真っ白になる。ハッとして後ろを振り向くと、黒い軽自動車の助手席だけがエアバックにまみれている。運転席で呆然とした男性が少し見えた。当たった瞬間からぶっ壊れたのか、クラクションが鳴りっぱなしになっている。
「だ、大丈夫?!」
我が子たちに声をかける。
だいじょうぶ……
と、驚いた様子で硬直しつつも、子どもたちは答えてくれた。
夫がすぐさま後続車の運転手に話をしに行き、そのままいっしょにレストランの駐車場に入る。フリードは、ゆらゆらゆら……と、不自然に揺れながら、なんとか私たちをレストランまで運んだ。
子どもの身体を確認するため、すぐに降りてスライドドアを開けた瞬間、後ろのライトがボロンと取れた。
フリードが身を挺してくれた結果、私たちは無傷だった。
そのあと、それぞれ警察や自分たちの保険会社、相手の保険会社とも連絡。すべての対応は夫がやってくれた。私は子どもたちがお腹がすいてしまうので、コンビニへの買い出しなどをバタバタとおこなった。警察や保険会社の対応もあって、目の前にあったレストランに入ることはできなかった。
突然の普段と違う雰囲気に、現状があまり呑み込めていなかった子どもたち。
けれど、車を降ろされて、フリードがレッカーされていく様を見た瞬間。もう、フリードには乗れないし、足もないからもう、動物園にも行けないことがわかると、双子はわんわん泣いた。双子兄の首にかかった望遠鏡が、このあと見るはずだった光景を思い起こさせ、よけいに悲しかった。
不幸中の幸いとしては、ぶつけた側の男性が誠実に対応してくれたことだ。泣きわめく双子を前に、申し訳ございません。と何度も頭を下げていた。
この人がもっと恨めしい人間だったなら、このどうしようもない気持ちをぶつけられたのかもしれない。けれど、どんな人間でも、事故は起こすのだ。今回は我々はたまたま被害者だったけれど、いつ加害者になるのかはわからないのだ。ということを、その姿勢がまざまざと感じさせた。
連休中ということもあったし、特約に入っていない。ということで、現地でレンタカーを調達することはできず。タクシーと電車をのりついで、そのまままっすぐに自宅へと帰った。お金はちゃんと相手側の保険会社が負担してくれるということを確認してから、迷いなく特急踊り子に乗ることを決めた。
いつもは乗らない特急電車の車窓から、来るときに通った海沿いの道路が見える。昨日、フリードと通った道。もうここを通ることはないのかもしれないな。と、ふと思った。
無事に帰宅して、たくさんのご飯を買い込んで、子どもたちの記憶が事故で埋まらぬよう、せめてもの気持ちでパーティをして。何度も、身体は痛くないかを確認した。子どもたちは、もうほんとに最悪だね! と、憎まれ口をたたけるくらいには心も回復していた。
いつもの寝室に入り、子どもたちを寝かしつけて。その、変わりない健やかな寝顔を見届けながら、急に身震いがした。
一歩間違えていたら。ここに、こうしてみんなでそろえていなかったかもしれない。と。
悲しいことに、死に近しい人生を歩んできたと思う。それでも、こんなことが起きないと、毎日の奇跡を見逃してしまう。
三男君のぷるんとした頬に触れて、涙があふれて止まらなかった。
「こわかったね」
声を押し殺して泣いていることに気づいた夫が私を抱きしめ、背中をさすってくれた。
そんな私に反応するように。
お腹の中の小さな命が、ポコポコ、と、その存在を知らせてきた。
それは、これまでの中でも一番大きな胎動だった。
あの瞬間から。ずっとずっとお腹もカチカチになっていて、6人目の我が子のことがずっと気がかりだった。どうしよう、動いている? ちゃんといる? ずっとずっとこわかった。
『大丈夫』『ここにいる』『生きてる』
すでに親孝行なその子が、そんな風に、知らせてくれたような気がして。ほっとして、私はまた夫の腕で泣いた。
その後、整形外科でも家族の無事を確認し。保険会社等々に夫が幾度となく連絡を重ねてくれて。連休が明けてようやく、地元に戻ってきたフリードの容態も確認してもらった。
「やっぱり、全損扱いになっちゃうみたい」
夫は悲しそうにそういった。
やっぱりそうだよね。古いもんね。と、私はいった。
子どもが増えるとしても。12歳未満の子供は「大人1人=子供1.5人」として計算する。つまり、我が子が6人になっても、あとしばらくはまだ、7人乗りのフリードが活躍できるはずだった。だけど。彼との日々は、ここでどうやら終わってしまうようだ。
彼に6人目の子どもを乗せたかったな。と思う。ぎゅうぎゅうと身を寄せ合って乗り込んで、やっぱり狭いねえ、と言いたかった。
だけど。この命をしっかりつないでくれたフリードには、感謝しなくてはいけない。
そういえば少し、不思議なことがあった。
Xで事故のことをポストした際に。フォロワーのミトシさんが、「フリードから電波を受け取った」というのだ。そのときは、彼がどうなるかはまだ、わからなかったけれど。
「十分愛されたから、次の世代にバトンを渡すぜ」
という、一方的な電波だったという。
#今こんな気分 #note pic.twitter.com/fHatP7h7FQ
— ミトシ|4月1日がこわいあなたへ 主催in note (@Mito_shi310) May 8, 2026
その翌日、全損の話を聞いた。
私にではなく、ミトシさんを介するあたりが、やっぱりうちのフリードは硬派だぜ、と思わせた。
かっこ悪い姿は見せたくないんだよな。
だけどなんだか、彼らしいそのメッセージをすでに受け取っていたからこそ、なんだか自然と受け入れることができたように思う。
たかが、車。たくさんある中の一台の、私たちのフリード。
しかも中古車で。古くてボロボロで汚くて。
でも。みんなが愛した車だった。
フリードよ。ありがとう。
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