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【Gorillaz The Mountain考察 #14】Casablanca | 虚構の独房、深淵、そして口づけ――現代社会に向けられた「あはれ」

To Gorillaz fans around the world:

What if the emotion at the heart of “Casablanca” is neither sorrow nor love, but both at once?

Through painted skies, open prison cells, savage fires, and a single kiss, the song creates a feeling that seems almost impossible to name.

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この曲はアルバムの13曲目です。
この曲では、現実社会のリスクをおそれ、虚構の世界に生きる人々が心象風景として描かれているように思います。
そしてその姿は、かつての「私」の姿と重なって見えます。

なお、この記事はあくまで僕個人の解釈であり、公式見解ではありません。
僕のフィルターを通したこの考察が、あなたに新たな視点をもたらすことを願っています。

また、この記事は長いので、気になるところだけを読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ブックマークなどして、何回かに分けて読むのも良いかもしれません。


アルバム内でのこの曲の位置づけ

1曲目"The Mountain"では、人生の修行場、タフな道のりとしての「山」が示されました。

3曲目"The Happy Dictator"では、「フィクションの幸福」を選び、「心の宮殿」に自らを閉じ込めてしまった人々が描かれました。

7曲目"The Empty Dream Machine"では、社会からの抑圧により心のつながりを失い、心が戦争状態になってしまった「私」が描かれました。

11曲目"Damascus"では、ついに「私」は力強く前に進みはじめ、新しい自分に生まれ変わろうとする姿が描かれました。

12曲目"The Shadowy Light"では、「私」は死や悲しみを受け入れて向き合い、心の平穏を見つけることができました。

この曲では、心の平穏を得た「私」から見た現代社会の風景が描かれているように思います。
そしてその姿は、かつての自分自身の姿なのだと思います。

概要

この曲には、もの悲しい愛おしさのようなものを感じますが、歌詞が抽象的でわかりにくくもあります。

チェコ公共放送 Česká televize(チェコ・テレビジョン、略称:ČT)の番組『Události v kultuře』によるインタビューで、デーモンは下記のような趣旨の発言をしています。

「僕はカサブランカへ向かう高速道路にいて、そこにはいくつもの火が燃えていた」
「しかし曲全体としては、異なる場所と異なるイメージをぶつけ合わせた『コラージュ』である」

この発言がこの曲にどう影響しているのかはわかりません。
もしかしたら、高速道路の火や、ほかの異なる場所のイメージをコラージュしたような作り方だったのかもしれません。

また、Rolling Stone Indiaの記事によると、ジェイミーはこの曲について以下のように話しています。
「スタジオでデーモンが“I don’t know anything that feels like this”と歌うのを聴いて涙を流し、『誰に対しても愛を感じるような、とても感情的な状態になった』」

なぜ我々はこの曲に心を動かされるのか、どうしてジェイミーはこの曲で涙を流したのか、その辺を焦点にしながらこの曲を読み解いていきたいと思います。

また、この曲にはジョニー・マーが作曲とギターで参加しています。
ジョニーはこの曲の他、"The Empty Dream Machine"、"The Plastic Guru"、"The Sweet Prince"に参加しています。

そして、この曲にはポール・シムノンがバック・コーラスで参加しています。
ポール・シムノンは元"The Clash"のベーシストですが、この曲では声で参加です。

ポール・シムノンは長年デーモンと交流があります。
デーモン、ポール、トニー・アレン、サイモン・トングで結成した"The Good, the Bad & the Queen"の他、アルバム『Plastic Beach』(2010)の“Plastic Beach”で追加ベースを弾いています。

今回この曲への参加経緯はわかりませんが、僕的には、"The Clash"と"The Smiths"と"Blur"が一緒にいるだけで興奮してしまいます。

テーマと歌詞の解説

テーマ

この曲のテーマは「現代社会に見る、かつての『私』の姿」というのが僕の解釈です。

歌詞解説

この曲の歌詞は多様な解釈が可能です。
ここでは、このアルバムの文脈に沿った、僕独自の解釈だけを記載します。
もちろん、この記事の解釈以外にもいろいろな読み方があり得ますが、ここではそれらについては省略いたします。
あくまで、多くの解釈のうちの一つとして楽しんでいただけると幸いです。

Verse 1

I'm here in the painted
俺は今、描かれた
World of the blue sky
青空の世界にいる

 "painted World"は、実際の現実ではなく、写真や
 メディアで描かれる世界をイメージします。「青空」
 と合わせると、「写真やメディアで描かれる自由、
 希望、開放感」といったイメージに思えます。
 「描かれた青空」は人工的で閉塞された空間が連想
 されます。例えば、後に出てくる独房、または映画の
 背景画などです。
 また、"painted World"は、ジェイミーによって描か
 れるGorillazそのものにもかかっているかもしれ
 ません。

Where the gamble is the runway
そこでは賭けが滑走路となり
Which leads to the mountain
山へと続いている

 「賭け」は不確実性の比喩だと思われます
 また、「滑走路」は出発、飛び立つなどの象徴と思わ
 れます。
 そして、「山」は「人生で越えなければならない
 試練」「人生の精神的な目的地」「頂上で得るであろ
 う新しい自分」などのメタファーだと思われます。
 このラインは様々な解釈ができますが、「目的に向か
 って飛び立つには不確実性(何が起きるかわからない
 こと)を受け入れなければならない」というのが僕の
 解釈です。

And the inmates' cells
そして囚人たちの独房は
Always remain open
いつも開け放たれたまま

 囚人は、閉じ込められていないのに独房に囚われてい
 ます。ということはおそらく自分を閉じ込めているの
 は自分自身です。

As they stare into the abyss
彼らは深淵を見つめている

 「深淵」には、未知、闇、深い自己といったイメージ
 があります。彼らは、未知、闇、自己を恐れている
 ように思います。
 また、「深淵」からはニーチェの「深淵をのぞく時、
 深淵もまたこちらをのぞいている」が連想されます。
 彼らは闇を覗き、それにより闇に囚われている、とい
 う解釈も出来ます。

Verse 1

Verse 1では「私」の視点から見た「彼ら」が描かれます。

彼らは、虚構の世界に生き、自らをそこに閉じ込めています。
そして、「山」つまり、修行としての現実の人生、次のステージへの自己更新に向かって歩き出す必要があるのに、危険を恐れてそれができません。
彼らが見つめるのは、現実ではなく未知への恐怖ばかりです。

ここで描かれるのは、現代社会に生きる人々であるように思います。
「私」は11曲目"Damascus"で不確実性を受け入れ、新たな人生を歩き出しました。
そして12曲目"The Shadowy Light"で悲しみと向き合い、恐怖を受け入れました。
そんな「私」が、現代社会に生きる人々を、かつての自分と照らし合わせて見ているように思います。

Chorus

I don't know anything
俺は何も知らない
That feels like this
こんな感覚をもたらすものを

 「私」は、何とも表現しようがない、これまで経験
 したことのない感情を味わっているのだと思います。

No, I don't know anything
いや、俺は何も知らない
That hits like this
こんなふうに胸を打つものを

No, I don't know anything
いや、俺は何も知らない
(I don't know anything)
(俺は何も知らない)
That feels like this kiss
この口づけのように感じられるものを

 「口づけ」からは愛おしさ、優しさといった印象を
 受けます。

Chorus

Chorusで「私」が感じている感情は「あはれ」なんだと思います。
「あはれ」とは日本の古語で、喜びや悲しみ、愛しさや切なさが同居した、しみじみとした感動の気持ちです。

「私」は、危険を恐れて現実世界での人生に向き合えない人々にかつての自分を重ね、悲しみと愛おしさを感じているのだと思います。
そしてその感覚は、これまで経験したことのないような愛おしく切ない感情なのだと思います。

Verse 2

Underlit by savage fires
荒々しい炎に下から照らされた
Motorway Casablanca
高速道路、カサブランカ

 「炎に下から照らされた」という表現は、成すすべも
 なく熱気に照らされた人々の顔が思い浮かびます。
 「高速道路、カサブランカ」は、デーモンが実際に
 目撃したと思われ、このラインはその時のデーモンの
 イメージが投影されていると思います。

Where the tunnel to suburbia
そこでは郊外へと続くトンネルが
Is opening soon
まもなく開通する

 「郊外」は日常生活、平穏といったイメージがありま
 す。厄災の現場から平穏な日常へのルートはまだあり 
 ません。でももうすぐ開通します。

And the lone shooter lies Alone on the rooftop
そして孤独な狙撃手は、ひとりきりで屋上に身を伏せ
And stares into the abyss
深淵を見つめている

 「孤独な狙撃手」は「深淵を見つめている」人でもあ
 りますから、Verse 1で描かれた人々を指しているの
 だと思います。彼らは虚構の世界で独房に自らを閉じ
 込めていました。それは人との心のつながりを失った
 状態です。自分にだけ目を向け、心のつながりを持た
 ない環境では人は攻撃的になるのではないでしょう
 か。それが、「屋上に身を伏せた孤独な狙撃手」なの
 だと僕は思います。
 これをニーチェ的に言うと、「闇を見続けることで
 心が闇に侵食され、自らもまた攻撃者(闇)になる」
 と言えるかもしれません。

Verse 2

「炎」「高速道路」は、Verse1で虚構の世界に自らを閉じ込めた人々の心情風景である、というのが僕の解釈です。
彼らは、虚構の世界に生き、自身の闇に深く目を向け孤立し、狙撃手であるかのように攻撃的になっています。
心の中では、高速道路の炎に下から照らされるように、常に災害が起きているような状態なのだと思います。

この人々はかつての「私」です。
「虚構の世界に自らを閉じ込めた人々」は3曲目"The Happy Dictator"で「心の宮殿」に自らを閉じ込めた人々と重なりますし、「孤独/災害が起きているような状態」は7曲目"The Empty Dream Machine"の「心のつながりを失った/心は戦争状態」を思わせます。
目の前の人々が繰り広げる風景は、かつて「私」がそうだった状態なのだと思います。

そして「郊外」は、平穏でリアルな日常生活を思わせ、現実世界での生活を指してもいるのだと僕は思います。
「まもなく開通する」という言葉で、目の前で苦しむ人々にもやがて心の平穏が訪れる、という希望を感じてもいるのだと思います。

Chorus

I don't know anything
俺は何も知らない
That feels like this
こんな感覚をもたらすものを

No, I don't know anything
いや、俺は何も知らない
That hits like this
こんなふうに胸を打つものを

No, I don't know anything
いや、俺は何も知らない
(I don't know anything)
(俺は何も知らない)
That feels like this kiss
この口づけのように感じられるものを

Chorus

歌詞まとめ

抽象度の高いイメージをコラージュし、不思議な悲哀と愛おしさが表現されています。
それは「私」の見た心象風景であるとともに、我々にも開かれています。
この曲を聴く我々にも、「あはれ」という、これまで味わったことのない感情を呼び起こします。

素晴らしい詩です。
ジェイミーが涙するのもわかります。
僕も胸がギュッとなって、感動で涙がこぼれます。

正直に言うと、はじめ僕はこの曲があまり印象に残りませんでした。
歌詞が抽象的で、地味なバラードといった感でした。

ところが、前曲"The Shadowy Light"の解説を終えてから聞くと、とてもしみじみとした想いを覚えるようになりました。
そしてこの曲の解説を終えた今では、とても言葉では言い表せない深い感動があります。

今ではとても大好きな曲です。
詩人の仕事とはこういうものかと、改めて深い敬意を覚えました。

サウンドとプロダクション

クレジット

《プロデュース》

  • Gorillaz

  • ジェームス・フォード

  • サミュエル・エグレントン

  • レミ・カバカ・ジュニア

《作詞作曲》

  • デーモン・アルバーン

  • ジョニー・マー

《楽器・コーラス》

  • バック・コーラス:ポール・シムノン、The Mountain Choir

  • ギター:ジョニー・マー

  • パーカッション:ヴィラージ・アチャリヤ

  • チェロ:イザベル・ダン

  • バイオリン:サラ・テューク、 佐藤琴乃

  • ビオラ:シアラ・イスマイル

解説

浮遊感のある、サイケデリックなスローバラードです。
どこか映画的でアーバンな響きがあります。

深いリバーブがかかったシンセに、ジョニー・マーのギターが美しく散りばめられています。
この曲のギターは、ジョニー・マーらしい絶妙な音階とトーンです。
実に素晴らしい。

曲の後半はストリングスとコーラスが重なって静かに盛り上がります。
エレクトリックビートで始まったこの曲が、ストリングスとコーラスでだんだんと精神性を帯びてきます。

ボーカルが良いです。
デーモン特有の気だるげな愛おしさが、とても「あはれ」です。
そこにポール・シムノンの柔らかなコーラスが儚げに響きます。
切なさと愛おしさが同時に鳴っており、心に沁みいります。

キーボードとギターの三連符フレーズの響きがどこかレトロで、なんとなく映画「カサブランカ」(1942、モノクロ映画)を思わせます。
この曲と映画「カサブランカ」は関係がないようですが、タイトルが同じなのでこの曲調になったのかな、と勝手に想像してしまいます。

この曲は歌詞もサウンドもどこか映画的に感じます。
“Casablanca”とは、人生を前に進むことを選んだ「私」が見た、かつての自分の姿を描いた映画のような心象風景なのではないかと思います。
もちろんこれは、あくまで僕の独自の解釈です。

最後に

最後まで読んでいただいてありがとうございます。

皆さんはこの曲をどう感じましたか?
音楽は開かれたナラティブです。
リスナーの数だけ解釈や感想があって良いと思います。
是非皆さんの感想をコメントや「スキ」で教えてください。

この記事の解釈をお楽しみいただけたなら、ぜひシリーズの他の記事もご覧ください。

僕の視点が、Gorillazファンに"The Mountain"への新たな入り口を提供できれば幸いです。


Thank you for staying with this quiet, elusive song.

Next, we continue toward the end of The Mountain with “The Sweet Prince.” I hope you’ll join me for the next chapter.

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