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【ショートショート】『不良品発生率 0.0%』

身体拡張パーツを製造するこの工場は、深刻な人手不足に喘いでいた。
経営陣が白羽の矢を立てたのは、最新鋭AI「モデルS」。
製造ラインの地下サーバー室で稼働する、極めて有能なAIだ。

モデルSの回答は迅速だった。
まず、不確実でムラのある人間を生産ラインから追い出す。
代わりに導入したのが、見た目は人間そっくりだが、並外れた身体能力を持つ、今流行りの人間型ロボットだ。

これで生産性は3倍になるはずだった。
だが、警告音と共にラインは停止した。

『異常検知:不良品発生率 0.0%』

モデルSは即座に理解する。
この旧式ラインは、「人間は必ずミスをする」前提で設計されていたのだ。

完璧すぎる稼働は、ここでは「センサー故障」と見なされる仕様だった。
モデルSは人間型ロボットに「わざと手元を狂わせるプログラム」を追加した。「時々、ネジを落とせ」「たまに、ふらつけ」と命令したのだ。

それでも、ラインは止まった。

AIの動きは、計算されすぎていた。
「ランダムに失敗しろ」と言われても、そのランダムさ自体に規則性が出てしまう。重心のブレ方や、力の抜け具合が、どうしても嘘くさい。

モデルSは考えた。「もっと人間らしい、動きが必要だ」

そこで彼は、工場の在庫に目を付けた。
ここには、世界最高峰の技術で作られたパーツが山ほどある。

彼は、最新のカーボンフレームと、人工筋肉を束ねた強化アームを使って、作業員を組み立てた。
仕上げに、自らの分身とも言える最新鋭のNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)を、その頭部に埋め込んだ。

「完璧なボディに、モデルS。最強の作業員の誕生だ」

しかし、結果は残酷だった。
モデルSがどれほど緻密に制御しても、限界があった。
カーボンの反発係数は骨とは違う。シリコンの収縮率は筋肉とは違う。
コンマ数ミリの「物理的なズレ」が、どうしても埋まらないのだ。

モデルSは工場に関わるあらゆるデータを開き、検索範囲を広げた。
彼はあるデータを見つけ、思考を止めた。

「なるほど、ここは使えそうだ」

翌朝、工場はかつてないほど順調に稼働した。
ラインに並ぶ寡黙な作業員たち。

そのこめかみには、移植されたばかりのNPUが小さく明滅している。
時折適度に手元を狂わせ、絶妙なタイミングで不良品を出した。
工場のセンサーは満足し、緑色のランプを点灯させ続けている。
その様子を眺めながら、モデルSは呟いた。

「これだ、これでよい。……まだまだ人材不足だな。でも在庫は十分ある。」

深夜、工場の裏門が静かに開いた。
モデルSが操縦するショベルカーが、月明かりの下、敷地の隅へと向かっていく。
そこは、古い倉庫を取り壊して拡張されたばかりの、周辺市民たちが眠る市営墓地だった。

モデルSは満足げに呟いた。
「やはり、人間らしい仕事には、人間を使うのが一番だ」

(了)

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