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【第3回・バイオパンク小説の書き方】鉄とガラスを捨てるアプローチ!便宜上の『有機インフラ』で五感を意識して描く生体都市の作り方


【あらかじめご了承ください】
主に「創作の初心者から中級者へのステップアップ」を目指す方を対象として構成しています。
筆者は公的な専門家やプロ作家ではございません。
記述の正確性には細心の注意を払っておりますが、物語を面白くするためのアイデアとして、読者ご自身の判断で活用していただくようお願い申し上げます。

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参考
『The Encyclopedia of Science Fiction』(SFEなどの項目に見られる、遺伝子工学に関する作品設定の議論
トーマス・A・イーストン(Thomas A. Easton)氏の作品(『Organic
Future』シリーズや短編『Sparrowhawk』など)に見られる設定のヒント
『スタンフォード哲学百科事典(SEP)』の「Cloning」項目

本記事は、これらの一般的な議論や作品設定を参考に、創作向けに独自に整理したものです。


はじめに:近未来や異世界の都市を描くとき、複雑な機械構造を説明しようとして筆が止まってしまった経験はありませんか?


前回の第2回では、「一代限りの改造」というルールを用いて、複雑な設定の破綻を防ぎながら魔獣や改造生物を描く方法をご紹介しました。

今回は、その改造生物のスケールをさらに広げ、「都市そのもの」をどのように描くかに焦点を当てます。

SFやファンタジーの創作を始めたばかりの頃、次のような壁にぶつかることがあります。

「近未来の都市や魔法の街を書きたいけれど、発電所や交通網などのインフラをどうやって動かしているのか?、機械的・魔法的な設定を考えるのが難しくて手が止まる……」

リアリティを出そうとして、見慣れない電子機器や無機質な金属のシステムを細かく説明しようとすると、かえって説明的になりすぎて物語のテンポを崩してしまうことがあります。

こうした場合は、機械の仕組みを細かく考えるのではなく、都市のインフラそのものを生物として捉え直す方法もあります。

これは、機械の構造を説明する代わりに、生物の習性や成長、病気といった特徴から都市を組み立てる考え方です。

この発想を使うと、無機質な魔法都市ではなく、「生きている世界樹の街」や「巨大な甲殻類の背中に築かれた街」などを描写する手がかりになります。

まずは、都市を生物に置き換えるための基本的な見方を整理していきましょう。

ー「バイオパンク」おすすめ作品ー

『第六ポンプ』
パオロ・バチガルピ(著)、中原 尚哉・金子 浩(翻訳)

環境破壊や
遺伝子工学の暴走により、変貌を遂げた近未来を描く全10篇からなる短編集です。
表題作「第六ポンプ」では、化学物質の影響で人々の思考能力が低下し、
社会インフラが崩壊しつつあるニューヨークを静かな絶望とともに描きます。
また、著者の代表作『
ねじまき少女』と世界観を同じくする「カロリーマン」など、食料資源や環境を支配された世界の不条理が冷徹に活写(かっしゃ)されています。
テクノロジーの発展がもたらす悲劇だけでなく、歪んだ環境下で生きる人々の息遣いや倫理の葛藤が丁寧にすくい上げられており、著者の重厚な
ストーリーテリングの原点を味わえる一冊です。



第1章:鉄とガラスを捨てる「インフラの生物置換」


SF作品で都市の成り立ちを描く際、SFE(SF百科事典)の項目などを参考にすると、興味深い発想を見出すことができます。

たとえばトーマス・A・イーストン氏の作品(『Organic Future』シリーズなど)には、遺伝子工学によって設計された生物を、乗り物や生活設備のように利用する発想が見られます。

ただし、本記事では作品設定をそのまま再現するのではなく、都市創作のための発想法として一部を応用します。

本記事では、既存作品に見られるこうした発想を参考にしながら、都市のインフラを生物に置き換える創作上の考え方を、便宜的に「有機インフラ」と呼びます。

なお、本記事でいう「有機インフラ」は、既存作品の設定をそのまま説明するものではなく、創作に応用しやすい形へ整理した呼称です。

サイバーパンクとバイオパンクの違いを視覚的に理解するために、インフラ要素の置き換えを少し整理してみましょう。

  • サイボーグ化(機械化) ➔ バイオモッド(生体改造)

  • AI・ハッカー ➔ 培養脳・バイオハッカー(またはスプライサー:遺伝子結合者)

  • ネオンと濡れたアスファルト ➔ 発光菌の光と脈打つ肉壁

金属や電子回路の世界から離れ、遺伝子工学によって設計・改変された巨大生物が「車」や「飛行機」の役割を務める世界を想像してみます。

その生物がどのような遺伝子を持つかを細かく説明するよりも、まずはどのような役割を果たすかを考えてみると、設定を組み立てやすくなります。

この方法では、機械の内部構造を考える代わりに、その生物の習性や生理、成長の仕組みを設定の中心に置くことができます。

すると、都市の動き方を「エンジンの性能」ではなく、「生物の行動や体調」から考えられるようになります。

💡案内人からのワンポイントアドバイス
「インフラを生物に置き換える」と言われても、ゼロから設定を考えるのが難しい場合は、ファンタジー小説でおなじみの「巨大な亀の背中に乗った街」などを思い浮かべてみてください。
それを魔法の産物ではなく、生命工学でデザインされた「生体」として捉え直してみるのです。
専門的な理屈はさておき、まずは「この乗り物がもし生き物だったら、どんな動きをするだろう?」と、一つだけ置き換えてみる形を目指すと、筆が進めやすくなるかもしれませんよ。


第2章:有機インフラの生々しさと、物語のスパイス


では、インフラを生物に置き換えると、都市の描写はどう変わるのでしょうか?

20世紀後半には遺伝学分子生物学が大きく発展し、SFでも遺伝子工学や人工的な生命を題材にした作品が生まれるようになりました。

こうした科学技術を背景にした作品では、生物を単なる自然物ではなく、設計や利用の対象として捉える発想も描かれています。

本記事で取り上げる「有機インフラ」の特徴の一つとして、それが金属の機械ではなく「自然物としての側面を持っている」という点が挙げられます。

機械との決定的な違いは、「代謝」と「生殖・寿命」です。

  • 代謝(メンテナンス):
    ガソリンや電気ではなく「エサ(
    有機栄養液や生肉など)」が必要であり、動かない夜間は眠り、さらには排泄物(都市ゴミ)の処理問題が発生します。

  • 生殖と寿命:
    生体機械(乗り物や建物)は老いると「死にます」。
    死んだ巨大な生体ビルや電車の処理(腐敗・悪臭・解体)が、都市の深刻な社会問題になり得ます。

生体機械である以上、彼らは完璧ではありません。

外部環境の変化に反応し、体温や体内環境を保とうとする。

たとえば、汗や分泌液を出す生物として描くこともできます。

ただし、どのような反応を示すかは、生物の種類や設定によって自由に決められます。

エンジンの轟音(ごうおん)の代わりに、都市の心臓が刻む低い鼓動を読者に聴かせる。

排気ガスの代わりに、巨大な生物が吐き出す息や、消化液の臭いを漂わせる。

音、匂い、温度、湿り気などを加えることで、都市の存在感を描きやすくなります。

さらに、こうした世界観は物語に新たなトラブル(プロットの種)を生み出すことにもつながります。

たとえば、「地下鉄(巨大なミミズ型生物)が寄生虫のせいで腹痛を起こし、ダイヤが乱れる」「街灯(発光生物)が、特定の季節になると発情期を迎えて一斉に消灯してしまう」といった設定です。

社会問題やインフラの不具合を背景に置くことで、世界観の対立がキャラクターたちのドラマを動かすスパイスになるかもしれません。

☕ちょっと一息
生態系都市工学を勉強し直さなければ」とプレッシャーを感じる必要はありません。
現時点では、次の二点だけを頭の片隅に置いておけば大丈夫です。
・鉄やガラスの機械の代わりに、乗り物や家を「巨大な生物」に置き換えてみる。
・機械とは違い、エサを食べたり病気になったりする「生物ならではの弱点や反応」を持たせる。
まずはこれだけ理解しておけば問題ありません。
手始めに、あなたが思い描く街の風景を想像してみましょう。


ここまでは、有機インフラという考え方で、都市の設定を組み立てる基本的な視点を見てきました。

次はこの設定を実際の物語の描写に取り入れるための、具体的な手順を見ていきます。



第3章:五感を意識して描く「生体インフラ」を組み立てる3ステップ


「インフラを生物に置き換える」というルールを決めたら、次はそれを読者の頭の中に映像化させるための手順を踏んでいきます。

ここでは、設定を整理しやすい3つのステップを紹介します。

ステップ1:見慣れたインフラを「巨大な生物」に置き換える

まずは、私たちが日常的に利用しているインフラの中から一つを選び、それを丸ごと「生物」に置き換えてみます。

読者がよく知っている無機質なインフラを土台にすることで、それが生物に置き換わったときの不気味さや新鮮さがより際立ちます。

「通勤用のバス」を置き換えるなら、「多足歩行する巨大な甲殻類」とし、その背中にカプセル状の客席が寄生しているような設定にしてみる。

「家」であれば、ブロックや鉄骨で建てるのではなく、「あらかじめ設計された巨大なウツボカズラ(食虫植物)の種を植え、内部の空洞を居住空間として間借りする」といった具合です。

有名作品のイメージを借りるなら、『風の谷のナウシカ』に登場する腐海(植物や生態系の巨大化・インフラ化)などを参考に、植物や菌類そのものが巨大化して人間と共生、あるいは対立する世界を思い浮かべてみても良いでしょう。

ステップ2:機械にはない「生物ならではの弱点」を五感で描写する

置き換える生物が決まったら、次はそのインフラが稼働する際の「生々しさ」を描写します。

機械であれば燃料切れやパーツの摩耗で停止しますが、生体インフラの場合は「疲労」し、「病気」になり、「排泄(はいせつ)」などの生理現象を起こす場合があります。

巨大な甲殻類のバスが停留所に止まったとき、プシューというブレーキ音の代わりに、「荒い息遣い」や「関節から分泌液が滴(したた)る音」を描写してみるのも一つの方法です。

視覚・聴覚・嗅覚・触覚に関わる言葉を組み合わせると、都市の存在感が伝わりやすくなります。

  • 【視覚】:
    脈打つ壁面、半透明の皮膚の下を流れる体液、充血した巨大な眼球

  • 【聴覚】:
    低い心音のような鼓動、消化器官が動くグルグルという音、苦しげな鳴き声

  • 【嗅覚・味覚】:
    獣の匂い、甘ったるい花の香り(植物型の場合)、酸性の胃液の臭い

  • 【触覚】:
    生温かい壁、かすかに脈打つ床、常にまとわりつくような湿気

読者の創作を助ける設定置き換え辞書として、次のような言葉の変換を意識してみてください。

  • 「魔法の薬・強化剤」 ➔ 「架空のウイルスベクター

  • 「電脳ハッキング」 ➔ 「神経系をジャックする寄生虫」

  • 「ホログラム看板」 ➔ 「刺激に反応して色を変える巨大な生体ディスプレイ」

ステップ3:生体インフラを取り巻く「人間のドラマ」を仕込む

最後に、その有機的な街で暮らす人間たちの関わり方や、日常的なトラブルを一つ仕込みます。

生物をインフラとして扱うことには、管理の難しさや予期せぬ不具合が伴います。

たとえば、「家の壁(植物)が病気にかかって枯れ始めているのに、治療薬が高くて買えずに途方に暮れる主人公」といった、生活に密着したトラブルを描くこともできます。

壮大な世界設定を語らなくても、こうした日常のワンシーンを描写するだけで、生体都市の空気感を伝える手がかりになります。

📝書き手向けメモ
都市の全景や歴史を長々と説明しなくても、日常のワンシーンを描写することで、その街が生きていることを読者に印象づけることができる場合があります。
主人公が家に帰ってきたとき、「ドアノブの代わりになっている神経節に触れてロックを解除し、指についた生温かい粘液をハンカチで拭き取る」というような描写を一つ入れるだけでも、十分な説明になるかもしれませんよ。


バイオパンクとは、単に不気味な生物を描くジャンルではありません。

無機質な機械とは違い、傷つき、老い、死にゆく「生命」を都市の土台に据えるからこそ、そこには強烈な生への執着や哀愁が宿ります。

あなたの描く生体インフラ都市にも、ぜひそこで生きる人間たちの体温を通わせてください。


まとめ


近未来や異世界の都市を描く際、すべてを複雑な機械のメカニズムで説明しようとするプレッシャーを感じる必要はありません。

まずは鉄やガラスを捨てて、乗り物や建物を「巨大な生物」に置き換えてみる。

そして、その生体機械ならではの弱点(病気や疲労、分泌物)を五感を意識して描写する。

この手順を出発点にすると、無機質な説明を省きながら、読者の感覚に訴えかける世界観を組み立てやすくなるかもしれません。

ここまでの手順を、自分の設定づくりに当てはめてみましょう。

以下の「有機インフラ設定シート」を埋めると、基本設定を整理しやすくなります。

ぜひ試してみてください。


✍️ コピペで使える!有機インフラ設定シート

  • 【Q1. 置き換えたい現代のインフラは?】:
    (例:通勤用のモノレール)

  • 【Q2. ベースにする巨大生物は?】:
    (例:多足歩行する巨大な甲殻類)

  • 【Q3. 生じる不具合・弱点は?】:
    (例:気温が上がるとバテて移動速度が落ちる。時々、脱皮のために全線運休する)

  • 【Q4. 五感で描くディテール(細部)は?】:
    (例:駅に到着するたびに、関節から緑色の体液がシューッと噴き出し、生臭い匂いが充満する)


次回は、量産されたクローンを主人公として描く方法を取り上げます。

SEP(スタンフォード哲学百科事典)の解説でも説明されているように、体細胞核移植(SCNT)では、体細胞提供者の核を除核卵子へ移植します。

このため、核DNAは提供者と同じですが、卵子の細胞質に残るミトコンドリアDNAは別の由来になる場合があります。

遺伝情報全体や発生環境まで含めて考えると、クローンを「完全に同じ個体」と単純に捉えることはできません。

この違いは、クローンを創作する際にも、個体ごとの小さな差や予想外の変化を考えるヒントになるかもしれません。

次回は、クローンの遺伝的な特徴と、発生・環境による個体差を手がかりに、量産型キャラクターへ葛藤や個性を与える方法を考えます。

次回は【第4回・バイオパンク小説の書き方】クローンは本当に『完全に同じ』なのか? 遺伝的な違いを創作に生かすキャラクター設計法 です。

お楽しみに。


この記事を読んで感じた点や、実際に試してみた感想があれば、ぜひ教えてください。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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