【第4回・バイオパンク小説の書き方】クローンは本当に『完全に同じ』なのか? 遺伝的な違いを創作に生かすキャラクター設計法
【あらかじめご了承ください】
本記事に登場する生体技術は、現実の分子生物学やクローン技術を参考にした創作上の設定です。
現実の科学や医療技術をそのまま解説・推奨するものではありません。
主に「創作の初心者から中級者へのステップアップ」を目指す方を対象として構成しています。
筆者は公的な専門家やプロ作家ではございません。
記述の正確性には細心の注意を払っておりますが、物語を面白くするためのアイデアとして、読者ご自身の判断で活用していただくようお願い申し上げます。
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参考
・『スタンフォード哲学百科事典(SEP)』の「Cloning」項目における、体細胞核移植などの一般的な説明
・世界初のクローン猫「CC(カーボンコピー)」などに見られる、エピジェネティクスや発生環境が個体差に与える影響の事例
本記事は、これらの一般的な議論や科学的知識をヒントに、創作向けに独自に整理したものです。
はじめに:「量産型のキャラクター」を主人公にしようとして、物語が単調になってしまった経験はありませんか?
前回の第3回では、鉄やガラスの代わりに巨大な生物をインフラとして用いる「有機インフラ」のアプローチをご紹介しました。
今回は、そうした生体都市などで労働力や兵士として使われやすい「クローン(量産型キャラクター)」をどのように描くかに焦点を当てます。
SFやディストピア小説の創作を始めたばかりの頃、次のような悩みを抱えることがあります。
「冷酷な管理社会を描くために『クローン兵士』を出したいけれど、全員が同じ顔、同じ性格をした無個性な集団にしてしまうと、主人公としての葛藤が生まれにくく、物語がうまく進まない……」
記号的で退屈になりがちな量産型の設定に、どのようにして「個性」や「ドラマ」を持たせればいいのか?
無理やり特別な能力を与えると、かえって世界観のリアリティが薄れてしまう気がして、手が止まる方もいらっしゃるかもしれません。
こうした悩みには、現実の科学的な視点を少しだけ借りることで、キャラクターに説得力のある個性を与えるアプローチがあります。
本記事でご紹介するのは、「クローン=100%完全に同じ個体」という先入観をいったん横に置き、遺伝的な仕組みや発生過程に潜む違いを創作のヒントとして活用する方法です。
この考え方のパターンを参考にすることで、完璧に制御されたクローン社会の中に、アイデンティティの葛藤や、階級社会を揺るがすバグ(不確定要素)を組み込みやすくなります。
まずは、クローンの仕組みに関する基本的な見方を整理していきましょう。
ー「バイオパンク」おすすめ作品ー
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
デヴィッド・クローネンバーグ(監督・脚本)
人類が痛覚と感染症を克服した近未来。
体内に未知の臓器を生み出す「加速進化症候群」のアーティスト・ソールは、パートナーと共に臓器を摘出する公開パフォーマンスで熱狂を集めていました。
肉体を傷つける行為が新たな表現となった世界で、政府の監視や「プラスチックを主食とする少年の遺体」が持ち込まれたことを機に、人類の進化を巡る思惑(おもわく)が交錯し始めます。
肉体の変容を通して、人工的な環境に適応しようとする人間の歪みを描いたSFサスペンス。
不気味でありながらも洗練された生体ガジェットの造形と、人間の尊厳やアイデンティティの本質を静かに問いかけてくる知的な作品です。
第1章:同じDNA、違う心。クローンに宿る「不完全な同一性」の正体
SF作品でクローンを描く際、「オリジナルと一寸の狂いもなくコピーされた存在」として設定されることがよくあります。
しかし、現実の科学的な視点を取り入れると、そこに面白い「揺らぎ」を見出すことができます。
SEP(スタンフォード哲学百科事典)の「Cloning」の項目などでも説明されているように、一般的なクローン作成技術の一つである体細胞核移植(SCNT)では、体細胞提供者の核を、あらかじめ核を除去した卵子(除核卵子)へ移植します。
SCNTでは、移植した体細胞の核に由来する核DNAを受け継ぎます。
一方、除核卵子の細胞質にはミトコンドリアが残るため、ミトコンドリアDNAは卵子側に由来する場合があります。
くわえて、発生時の子宮内環境や、遺伝子の働きを制御する仕組み(エピジェネティクス)の影響も無視できません。
たとえば、世界初のクローン猫「CC(カーボンコピー)」は、オリジナルと全く同じ核DNAを持っていたにもかかわらず、毛並みの模様や性格が異なる個体として誕生しました。
そのため、核DNAだけに注目すれば体細胞提供者と非常に近い一方、ミトコンドリアDNAの由来や発生環境まで含めると、クローンを「完全に同じコピー」と単純に表現するのは適切ではありません。
創作のイメージとして、次のような足し算で捉えてみると分かりやすいかもしれません。
共通の設計図(核DNA)+ 違う入れ物(ミトコンドリアDNA)+ 育った環境(発生・子宮環境)= クローン個体
本記事では、核DNA以外の要素や発生環境によって生じ得る個体差を、創作上の便宜として「不完全な同一性」と呼びます。
これは特定の学術用語ではなく、本記事のための整理です。
創作初心者がクローンの設定で行き詰まりやすいのは、「全員が全く同じだから、違う行動をとる理由がない」と思い込んでしまう点です。
しかし、こうした違いを創作上の設定へ発展させれば、主人公だけが他のクローンと異なる性質を持つ背景を考えるヒントになります。
ただし、その性質が現実の科学で説明できるとは限らないため、作品内ではSF的な仮定として扱うとよいでしょう。
💡案内人からのワンポイントアドバイス
「ミトコンドリアDNA」や「エピジェネティクス」といった専門用語を、そのまま作品内で長々と説明する必要はありません。
科学的な設定を細かく考えるのが難しいと感じる場合は、「同じ設計図で作られたはずなのに、入れ物の端っこに残っていた別の情報が少しだけ混ざってしまった」というイメージを持っておけば大丈夫です。
専門的なことはさておき、現時点ではこれだけ理解しておけば問題ありません。
手始めに、主人公が他のクローンとは違う行動をとる「ちょっとした言い訳」として、この形を目指してみましょう。
第2章:遺伝的な「揺らぎ」を物語のスパイスにする
ここまで説明したのは、現実の体細胞核移植(SCNT)における遺伝情報の由来や、個体差に関する事実です。
ここから先は、この事実をそのまま人間の性格や記憶に結びつけるのではなく、創作上の設定へ発展させるためのアイデアとして考えてみましょう。
「すぐれたSFとは、一つの偽の前提(嘘)から、論理的な事実を導き出すものである」という創作の格言があります。
SFや生命倫理の議論において、クローンを時間差のある双子になぞらえる考え方もあります。
遺伝的には極めて近い存在でありながら、生まれる時代や環境が異なり、さらには微小な個体差を持つため、彼らは完全にオリジナルと同じ運命を歩むとは限りません。
この視点をバイオパンク小説の創作に応用し、現実科学をベースにしながらSF的な嘘をブレンドしてみましょう。
個体差の表現
現実の科学では発生環境などの微差に留まりますが、SF的拡張として「他者とは違う特殊な体質や超感覚」の理由づけに利用してみる。
感情の表現
遺伝子だけで特定の感情が決まるわけではありませんが、SF的拡張として「生体調整のエラーや環境要因によって、自由意志に目覚めてしまった」というドラマにつなげる。
記憶の表現
クローンに記憶は引き継がれませんが、SF的拡張として「培養槽のデータバグや記憶転写技術の不具合によって、見たこともない風景がフラッシュバックする」といった仕掛けを取り入れる。
「自分は他のクローンと同じ無個性な部品のはずなのに、なぜか自分だけが違う感情や感覚を抱いてしまう」というアイデンティティの葛藤は、キャラクターを描く際の軸の一つになるでしょう。
そして、その微小な違い(バグ)が、遺伝的決定論で縛られたディストピア社会に疑問を抱き、自由意志に目覚めていくきっかけとなります。
小さな生物学的差異が社会全体を揺るがす、という対比を演出できるかもしれません。
☕ちょっと一息
「分子生物学の知識がないと書けないのでは」とプレッシャーを感じる必要はありません。
現時点では、次の二点だけを頭の片隅に置いておけば大丈夫です。
・クローンは、科学的な仕組みや環境から見ても「完全に同じ」とは限らない。
・そのわずかな違いをSF的な設定に拡張して、主人公に「他のクローンにはない個性や悩み」を持たせる。
まずはこれだけを前提にして、あなたが思い描く量産型キャラクターを想像してみましょう。
ここまで見てきたのは、クローンを「完全に同じ存在」と決めつけず、遺伝情報の由来や発生環境の違いを創作の発想へつなげる視点です。
次の章では、この考え方をキャラクター設計に落とし込む手順を紹介します。
第3章:クローンの「揺らぎ」をアイデンティティに変える3ステップ
「不完全な同一性」という設定を使って、量産型キャラクター(クローン)を主人公としてデザインするための手順を考えてみましょう。
ここでは、設定を整理しやすい3つのステップを紹介します。
ステップ1:クローン集団に与えられた「完璧な役割」を設定する
まずは、彼らがどのような目的で量産されたのかを決めます。
「感情を持たず、命令に絶対服従する兵士」や、「劣悪な環境でも文句を言わずに働き続ける鉱山労働者」などです。
この集団全体が、巨大企業や国家のもとで完璧に制御され、機械のように働いている様子を最初に描くことで、後から出てくる主人公の「異質さ」がより際立ちます。
💡案内人からのワンポイントアドバイス
主人公の「異質さ」を考えるのが難しい場合は、最初から「特別な超能力」を与えようとせず、「社会のシステムから見ればただの欠陥(バグ)」からスタートする方が良いかもしれません。
オリジナルより格段に身体能力が高い設定にしてしまうと、バイオパンクならではの「生々しいディストピア感」が薄れ、一般的なバトル物になってしまうことがあるからです。
まずは「ちょっとした不具合」を考えることから進めてみましょう。
ステップ2:「揺らぎ」による小さなバグ(個性)を与える
次に、主人公となる個体にだけ、オリジナルや他のクローンにはない「わずかな違い」を持たせます。
魔法の力を与えるのではなく、発生時の環境の違いや、独自のSF的生体技術によって生じるような、感覚的な違いを意識してみるアプローチです。
🔑ひらめきの鍵
クローンのバグから生まれる設定アイデアとして、次のようなものが考えられます。
・味覚のバグ:
全員が無味無臭の栄養ペーストを好む中、主人公だけが「焦げた味」を感じ、そこから「火」や「調理」という概念に興味を持つ。
・視覚のバグ:
特定の波長の光を見ると、網膜ディスプレイに一瞬だけノイズが走り、「過去の実験施設の風景」がオーバーレイする。
・睡眠のバグ:
脳内物質の分泌エラーで、他の個体が「昏睡」する時間帯に、主人公だけが「浅い夢」を見てしまう。
ステップ3:「小さなバグ」をきっかけに、決められた運命から逸脱させる
最後に、その小さなバグが原因で、主人公が管理社会のルールから外れていくきっかけを描きます。
「合成食料の味が耐えられず、こっそり天然の植物を育て始めたことで、監視システムに目をつけられる」
「夢で見た光景の場所を探したくなり、初めて持ち場を離れる」
世界を救うための革命ではなく、自分の内に芽生えた「この違和感の正体を知りたい」という個人的な欲求を動機にすることで、読者が状況を想像しやすい等身大のドラマを構成する手がかりになります。
📝書き手向けメモ
クローン同士の会話を描くとき、主人公の異質さを際立たせるための描写テクニックがあります。
それは「間と言い淀み」です。
・悪い例(説明的な地の文(じのぶん)):
「食事だ」とAが言い、Bも同意した。
Cは迷って返事が遅れた。
・良い例(間で見せる):
「13時、栄養摂取を開始する」とAが機械的に言い、Bも即答する。
「……あ、うん。そうだね」と主人公のCだけが言い淀み、不規則な間を作る。
このように、他のクローンが完全に同じテンポで話す中で主人公にだけ「間」を持たせることで、説明を増やさずに異質さを示すことができる場合があります。
まとめ
量産型のキャラクターを主人公にする際、全員が完全に同じであると無理に設定してプレッシャーを感じる必要はありません。
まずは現実のクローン技術などにも見られる要素をヒントにして、主人公にわずかなバグ(個性)を与える。
そして、そのバグがもたらす違和感から行動を起こさせる。
この手順を出発点にすると、記号的になりがちなクローンの設定に、アイデンティティの葛藤を組み込みやすくなるかもしれません。
ここまでの手順を、自分の設定づくりに当てはめてみましょう。
以下の「クローンキャラクター設定シート」を埋めると、基本設定を整理しやすくなります。
ぜひ試してみてください。
✍️ コピペで使える!クローン主人公を作るための3つの質問
【Q1. 核の共通点】:
クローン全員が共通して持つ「呪縛(共通の見た目や役割)」は何か?【Q2. 環境のバグ】:
主人公だけが持つ「揺らぎ(特定の感情や感覚のバグ)」は何か?【Q3. 社会の反応】:
周囲はその違いをどう捉えるか?(例:ただの不良品として廃棄しようとする)
ここまで4回にわたり、技術格差の対立、体細胞操作による一代限りの生体改造、巨大生物へのインフラ置換(ちかん)、そして今回のクローンの「揺らぎ」といった、バイオパンク的な設定を組み立てるための視点を積み重ねてきました。
「理屈や考え方は十分に理解できた。でも、頭の中にあるイメージ(魔獣、格差社会、有機都市など)をいざ文字にしようとすると一貫性がなくなり、設定の矛盾や説明セリフばかりの退屈な文章になって筆が止まってしまう……」
創作を始めたばかりの頃、特に忙しい大人が限られた時間で執筆に向かう際、こうした「設定資料集づくりで行き詰まる壁」に直面することがあります。
ここまで紹介してきた考え方を、毎回ゼロから整理するのは負担が大きいかもしれません。
次回は、これらの視点をもとに設定を整理するための対話型AIプロンプトを紹介します。
次回は、量産されたクローンを主人公として描く方法からさらに進んで、これまでの知識を統合した「AI用の対話型プロンプトテンプレート(※ChatGPTや各種AI対応)」を提供します。
AIを設定案を検討する補助ツールとして活用し、「この街の黒クリニックでは、何の遺伝子パーツが密売されていますか?」「インフラとなっている生体機械は、どんな分泌液を出しますか?」といったシンプルな質問に対話形式で答えることで、一貫性を持った世界観設定やキャラクターのたたき台を整理する手助けをするシステム(プロンプト)です。
設定資料集づくりの負担を減らし、約10分程度を目安に、あなたのアイデアをもとにしたバイオファンタジーの世界観を組み立てる方法を探っていきます。
※AIの出力には、事実と異なる情報、出典の誤り、既存作品と似た表現が含まれる可能性があります。
公開・利用する前に、事実関係、出典、既存作品との類似、利用するAIサービスの最新の規約・利用条件を確認してください。
また、機密情報や未公開原稿を入力する前に、利用中のアカウントに適用される規約とデータの取り扱いを確認してください。
次回は【第5回(最終回)バイオパンク小説の書き方】設定資料集づくりを効率化する──これまでの知識を統合し、対話型AIでバイオファンタジーの世界観を組み立てる方法です。
お楽しみに。
この記事を読んで感じた点や、実際に試してみた感想があれば、ぜひ教えてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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