Steve Nichols
スティーブ・ニコルズ(Steve Nichols)は「秘密のクランクベイト」で読んだことがあっただけで、実物を見たことは無かったのですが、きれいなクランクベイトだったので、何となく覚えていました。
ところがその数年後、ある人物の記事で再び知る事になります。
その人物とは、当時新進気鋭のアングラー、オット・デフォー(Ott DeFoe)でした。その後オット・デフォーの活躍は周知の事実です。
今回は、その記事を探すところから始まりました。
本稿では自分なりに調べた内容を整理してまとめます。
イースト・テネシーという土壌
テネシー州東部、ノックスビル・ナッシュビル・チャタヌガを結ぶ三角地帯は、アメリカのバスフィッシング史において特別な意味を持つ地域です。
Major League Fishingはこのエリアを「フラットサイド・セントラル」と呼び、その理由を「Norris、Douglas、Cherokeeといったハイランドのインパウンドメント(貯水池・遊水地)、Fort Loudoun、Watts Bar、Nickajackなどのメインストリームレイク、さらにはDale Hollow Lakeのスモールマウス天国まで、これほど多様なフィールドが一か所に集中する地域は地球上でも他にない」と表現しています。(Major League Fishing)
この土地では、ハンドメイドのバルサ・クランクベイトが文化として根付いてきました。1960年代後半、オーク・リッジに住むフレッド・C・ヤング(Fred C. Young)が療養中にバルサを削って作り上げた「Big O」がその出発点です。
Big Oは1972年のバスマスター・トーナメントでスポーツ・イラストレイテッド誌に取り上げられ、「アルファベットルアー」ブームの火付け役となりました。(Louisiana Sportsman、Chattanoogan.com)
その後、ピート・レイノルズ(Pete Reynolds)、ソニー・マクファーランド(Sonny McFarland)、スティーブ・ブレイザー(Steve Blazer)ら数多くの職人がその系譜を受け継いできました。
Outdoor Lifeはこの継承をNFLの「コーチング・ツリー」にたとえています。師匠から弟子へ、口伝と手本で技術が受け渡され、それぞれが独自のスタイルを生み出してきた——スティーブ・ニコルズもその流れの中にいる一人です。(Outdoor Life)
「この地域は、国中のバスフィッシングシーンから来た最先端のタックルやテクニックを取り込みながら、同時に地元の知恵を後世に伝える文化がある」とトップアングラーのオット・デフォーは述べています。(Major League Fishing)
1980年代後半〜1990年代:ローカル・レジェンドとしての確立
スティーブ・ニコルズがいつからプラグ制作を始めたかは、今回の調査では確定できませんでした。ただし、1980年代後半から1990年代にかけてすでに地域内で高い評価を得ていたことは、複数の傍証から確認できます。
MLF誌(April-May 2022号)は、オット・デフォーのRapala OGシリーズ誕生の経緯を辿る記事の中で次のように記しています。
「It didn't take DeFoe long to learn, though, that hand-carved baits could be budget-busters. A friend's father, Steve Nichols, was a premier lure maker in the area. DeFoe figured that if he could learn to make lures like Nichols, he could save some serious cash.」
(要約)「デフォーはハンドメイドルアーが、自身の予算崩壊級の値段だったことをすぐに悟った。友人の父親であるスティーブ・ニコルズは、この地域でトップクラスのルアー職人だった。デフォーは、ニコルズのようにルアーを作れるようになれば、かなりの出費を抑えられると考えた。」
「ハンドカーブベイトは"予算崩壊"級の値段だった」という表現は、スティーブ・ニコルズのルアーが地域内で相応の価値を認められ、安くない値段で取引されていたことを示します。「友人の父が地元の一流ルアーメーカーだった」という記述は、彼が単なる趣味ビルダーではなく、地域のアングラーコミュニティで広く認知された存在だったことを裏付けます。
また、オット・デフォー本人がLouisiana Sportsman誌(2017年)で語った言葉も、この時期のスティーブ・ニコルズの存在を示す重要な証言です。
「One of the guys I used to fish with, his dad was into making balsa baits and he was nice enough to show me the ropes.」
(要約)友人の父がルアー作りをやっていて、親切にもコツを教えてくれた。
これがスティーブ・ニコルズのことを指すのは、違和感のない推論と言えます。
販売面では、Tennessee Homemade LuresグループのFacebook公開グループ内の投稿に、コレクターによる重要な証言が残っています。
「I started buying his homemade plugs in the early to mid 90's at the Fishing Place in Halls. It was during the time I was in the East Tennessee Bass Anglers club, and I won several Tournaments with his homemade plugs!!」
(要約)「90年代前半から半ばにかけて、『フィッシング・プレイス』で彼の手作りルアーを買い始めました。その手作りルアーを使っていくつかのトーナメントで優勝しました!!」
East Tennessee Bass Anglersクラブのメンバーが「彼のハンドメイドプラグで複数のトーナメントを制した」という証言は、実釣においても結果を出していたことを示します。
スティーブ・ニコルズの作風:3つの方向性
Tennessee Homemade LuresのFacebook投稿に残るコレクターや関係者の証言から、スティーブ・ニコルズの手がけた製品は大きく3つの方向性に整理できます。
第一に、バルサ製の完全オリジナル・ハンドカーブ・プラグです。
投稿内には「T plug」「G plug」といった呼称が登場しますが、正式な製品名は今回の調査では確認できませんでした。
下記に彼の作品をリンクします。
【写真①】 【写真②】 【写真③】 【写真④】
第二に、グルーブ加工を施したBanditクランクなどの改造ベイトです。Facebookの投稿者は次のように証言しています。
「Steve was one of if not the first to do the grooved bandits etc. I've got some others that he grooved as well. Norman Deep Little...」
市販のBanditクランクやNorman Deep Little Nなどの胴体に縦溝(グルーブ)を切り込み、波動と水掴みを変える改造です。テネシー〜アラバマ系のアングラーが80〜90年代から実践してきた技法で、スティーブ・ニコルズがその先端にいたという証言です。
ただし、この方法を「最初」に編み出したと断定することはできませんでした。
第三に、カスタムペイントを施したRapalaです。
同グループ内には下記のようなコレクターのコメントが残っています。
「I have so many of Steve's homemade plugs and many of his grooved Bandits and a few of his custom painted Rapala's in my personal collection NFS.」
(要約)「私のコレクションには、スティーブの手作りルアーや溝入りのバンディットや、カスタムペイントされたラパラもたくさんありますが、これらは一切売らないつもりです。」
制作技法については、MLF誌(April-May 2022号)がオット・デフォーの習得プロセスを通じて描写しています。
「Bodies were cut from balsa blocks, sides and shoulders rounded by hand. Bills were cut from LEXAN and circuit board using snips. Wire hook hangers were installed.」
(要約)バルサブロックからボディを切り出し、手作業で側面・肩を丸め、レキサンや基板材からビルを切り出し、ワイヤーフックハンガーを埋め込む
典型的なテネシーフラットサイドの工法と言えます。
2000年頃:オークリッジでの販売と評価の広がり
2000年頃になると、ノックスビルに隣接するオークリッジの「CT'S Minit Check Bass Pro Shop」(大手チェーンのBass Pro Shopsとは無関係の個人経営タックル店)でもスティーブ・ニコルズのプラグが販売されるようになりました。店主自身が次のようにコメントしています。
「Steve's plugs of all shapes, colors and sizes were, and or are still, Fish Catchers!!」
(要約)スティーブのプラグは、形も色もサイズも様々だが、魚を確実に釣る逸品だ!!
オット・デフォーとの関係
スティーブ・ニコルズを語る上で外せないのが、息子ジェイソン・ニコルズ(Jason Nichols)と、ジェイソンの友人オット・デフォーとの関係です。
オット・デフォーはノックスビル出身で、NITROプロプロフィール(Pro Bio)によれば12歳でEast Tennessee Bass Anglersクラブに加入しました。(NITRO Pro Team)その頃に出会ったのが、後にプロサーキットを転戦するトーナメンターとなった、当時20歳のジェイソン・ニコルズです。
オット・デフォーは2013年のインタビューで次のように語っています。
「I learned the most from my friend Jason Nichols. We fished together a lot growing up and still get on the water together occasionally. We fished in a club together, and he fished some Bassmaster Invitationals and Top 150s in the late 1990s and early 2000s.」
(要約)「私が最も多くを学んだのは、友人のジェイソン・ニコルズからでした。今でもたまに一緒に釣りに行きます。彼は1990年代後半から2000年代初頭にかけて、バスマスター・インビテーショナルやトップ150などの大会に出場していました。」
「ジェイソンから一番多くを学んだ」とオット・デフォーが言い切るほどの関係です。MLF誌の記事によれば、オット・デフォーは「ジェイソンがこのエリア初の「シャロー用のアルミフラットボート」を持っていた。実際はお父さんスティーブのものだったんだけど、そのボートからよく一緒に釣りをした」と回想しています。
スティーブ・ニコルズが単なるルアービルダーではなく、自らも本格的に河川バスを追うアングラーだったことを示す傍証といえます。
オット・デフォーはスティーブ・ニコルズのバルサクランクをこう振り返っています。
「There wasn't a tournament we fished where we didn't use some of his dad's baits. They seemed to do best in cooler weather. They would run 6 or 7 feet deep, and we would fish them along 45-degree banks and bluff banks. We caught a lot of fish that way.」
(要約)僕たちが参加したトーナメントで、彼の父親のルアーを必ず使った。それらは涼しいときに最も効果的だった。水深6~7フィートの急峻なバンクや岩盤でたくさん釣った。
スティーブ・ニコルズの指導を受けて自身でのバルサ制作を始めたオット・デフォーでしたが、最初の10本のうちまともに泳いだのは2本だったといいます。
それでも試行錯誤を重ね、フラットサイドのバルサベイトを武器にプロシーンへ昇り詰めました。2011年にROYを獲得、2019年にはホームレイクであるFort Loudoun/Tellico Lakeで開催されたBassmaster Classicを制覇しました。(Fox News)
その後もMLF Bass Pro TourでStage優勝を重ね、2025年のポトマック川でのBPT Stage 6優勝まで、9勝・生涯獲得賞金300万ドル超という実績を積み上げています。(Major League Fishing)
スティーブ・ニコルズの手が削ったバルサが少年オット・デフォーの感覚を形成し、それが後にRapala OG Slim・OG Tiny・OG Roccoというシリーズへと結実しました。今アメリカ中のバスボートに収まっているOGシリーズの源流を辿れば、ノックスビル近郊のガレージにたどり着きます。(Wired2Fish、Major League Fishing誌 April-May 2022号)
まとめ
スティーブ・ニコルズは、テネシー州ノックスビル近郊でバルサ・クランクベイトを制作したガレージビルダーです。1990年代から地元の釣り具店等で販売され、East Tennessee Bass Anglersクラブのトーナメントシーンで「使えば釣れる」と評されました。
その最大の遺産は、息子ジェイソン・ニコルズを通じてオット・デフォーにバルサ制作の哲学を伝えたことです。オット・デフォーが「最も多くを学んだ」と語るジェイソンの父として、スティーブ・ニコルズのバルサクランクはオット・デフォーのキャリアの礎を形成しました。
なお、本稿で取り上げたSteve Nicholsは、マグナムスプーンで知られるジョージア州の商業ブランド「Nichols Lures」とは関係ありません。念のため。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本稿は、公開されているオンライン情報源、フォーラム投稿、EC商品説明、追悼記事、そしてルアーコミュニティの証言をもとに作成しました。二次的な証言も多く用いているため、不正確な情報が含まれている可能性があります。
出典一覧
★★★(一次資料・本人発信・主要釣り専門メディア)
Wired2Fish / Brent Frazee「Crankin' for Fall Bass with Ott DeFoe」
https://www.wired2fish.com/fishing-tips/crankin-for-fall-bass-with-ott-defoe
Major League Fishing誌 April-May 2022号
https://majorleaguefishing.com/wp-content/uploads/2025/08/28115105/BassFishing_April_May2022.pdf
Major League Fishing「Bass Country: East Tennessee」
https://majorleaguefishing.com/archives/2015-12-10-bass-country-east-tennessee/
Bassmaster.com「20 Questions with Ott DeFoe
https://www.bassmaster.com/slideshow/20-questions-with-ott-defoe/
Louisiana Sportsman / David A. Brown「Bettin' on balsa」
https://www.louisianasportsman.com/fishing/bass-fishing/bettin-on-balsa-benefits-of-balsa-crankbaits-to-catch-bass/
Bassmaster.com / Bernie Schultz「The culture of custom crankbait builders」
https://www.bassmaster.com/column/bernie-schultz/the-culture-of-custom-crankbait-builders/
Outdoor Life / Pete Robbins「These Fishing Lure Makers Are Quietly Keeping an American Tradition Alive」
https://www.outdoorlife.com/fishing/custom-balsa-lure-makers/
NITRO Pro Team「Ott DeFoe」公式バイオ
https://www.nitro.com/pro-team/ott-defoe.html
Major League Fishing「Ott DeFoe」プロフィールhttps://majorleaguefishing.com/anglers/ott-defoe/
★★(本人・関係者SNS、コミュニティ一次情報、コレクター証言)
Facebook「Tennessee Homemade Lures」 https://www.facebook.com/groups/350808321308652/posts/364696693253148/
YouTube「OttDeFoe」公式チャンネル「I Got To Take My Mentor Fishing!」
https://www.youtube.com/watch?v=SKh0Tjn9zxc
NOEoutdoors公式Facebook(Fishing Expo出展者情報)
https://www.facebook.com/NOEoutdoors/posts/greenville-sc-its-almost-here-noeoutdoors-fishing-expo-presented-by-tbn-nation-g/1451851373611277/
BBCboards.net「Carolina crankbait history」スレッド
※二次資料 https://www.bbcboards.net/showthread.php?t=1109272
★(参考・文化的背景)
Louisiana Sportsman「An old crankbait becomes new again」
https://www.louisianasportsman.com/fishing/bass-fishing/an-old-crankbait-becomes-new-again/
Chattanoogan.com「'Big O' Hails From Oak Ridge」
https://www.chattanoogan.com/2005/1/17/61178/Big-O-Hails-From-Oak-Ridge.aspx
Fox News「Bassmaster classic winner takes $300g prize」
https://www.foxnews.com/great-outdoors/bassmaster-classic-winner-takes-300g-prize-in-super-bowl-of-bass-fishing
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