第10章 「生活の中にいた女」
娘はもう、
テレビの中のプリキュアに夢中だった。
さっきまで泣きながら
「パパを取り返して」
と言っていた子とは思えないほど、
いつもの調子で話しかけてくる。
「今日のプリキュアどうやった?」
そう私が聞くと娘は、
画面を見たまま答えた。
「今日はちょっと変な悪者やってん。
やっぱり騙すのってあかんよね。」
その言葉に、
一瞬だけ胸が詰まった。
でも、この子はもう切り替えている。
隣では息子も、
何事もないみたいにプリキュアに釘づけだった。
じゃあ、私も進めよう。
泣いてる場合じゃない。
まず整理しなければいけないのは、
元夫の女たちだった。
誰が一番本命なのか。
娘が言っていた
“あの女”は誰なのか。
私は、撮っておいた動画の中のLINEを
ひとつひとつ確認していった。
女は全部で6人。
でも、その中にひとりだけ、
明らかに扱いが違う女がいた。
深夜。
「今日家行っていい?」
「もちろん!」
そんなやり取りが何度も出てくる。
しかも週3ペース。
他の女たちは違った。
「来週空いてる?」
「次どこ行く?」
普通にデートの日程を決めている。
でも、この女だけは違った。
生活の中に入り込んでいる。
“会う”じゃない。
“帰る”に近い。
元夫にとって、
都合のいい場所。
都合のいい女。
名前は、
まゆたんまん♡
……いや、アホそうな登録名だなと思った。
そんな登録の仕方、
mixi全盛期の高校生以来見てない。
でも、中身は笑えなかった。
はじめまで遡った。
LINEは途中でトークが消されていて
出会ったところからは見えなかったが、
約1年前に「引越し完了!」と女から来ていたのがはじめ。
「お疲れ様!まゆは頑張りすぎたから休んでください」
それの前から家に行ってる感じではない。
元夫のために引っ越した感もなさそう。
どうやらシングルマザーらしい。
「子どもら」という文字もあった。
表現からすると、
子供も2人以上いる。
実家から、別の家に引っ越したのか?
1つの情報で数千の可能性が出てくる。
しかも住んでいる場所は、
うちと同じ市内だった。
「スシロー〇〇店」が共有されてて
今日はここ行きたい!と言っているのを見た。
元夫の会社からそのスシローは、15分。
家からも近い。
他の女の子たちは、
会ったあとに「ご馳走様でした♡」
と言ってきているのに対して
この、まゆたんまん♡はそんな言葉がない。
恐らく自分と自分の子供が食べた分は
出しているタイプなんだろう。
何時に行っても歓迎してくれる。
寝泊まりもできる。
家から近い。
子供もいるから、
“家族ごっこ”もしやすい。
お金は自分で食べる分だけ。
なるほど。
こりゃ、条件がいい
と思った。
LINEにはこう書かれていた。
「今から向かう」
「今日の車、子どもら乗れるー?」
その瞬間、
頭の中で何かが繋がった。
車。
元夫が乗っている社用車は、
元々、私たち家族で使っていたファミリーカーを
会社に売ったものか、
会社の別の社用車だった。
社用車を私用で使うのが、
許されていたので
私も休日使うことがあった。
つまり。
私と子供たちが乗っていた車に、
女と、その子供たちを乗せていた可能性がある。
頭金、私が出したっけ。
売却金はちゃんともらった。
でも結局、
差し引き90万くらい損してたんだよな。
そんなことを思いながら、
私はLINEをさらに遡った。
すると、
途中から違和感が出てきた。
結婚。
奥さん。
嫁。
そういうワードが、
一切出てこないのだ。
むしろ元夫は、
仕事が休みの日ですら
「今仕事終わったー」
「今帰ってきたー」
と送っている。
いや、
今日ずっと家で寝てたやん。
思わず携帯にツッコミを入れた。
こんな時間に急に連絡がきて、
深夜に突然来て、
帰る時間もバラバラ。
おかしいと思わないのか。
そう思った。
でも、その瞬間、
少しだけ冷静になる。
……いや。
違うな。
私もずっと、
“信じたい側”だった。
週2回ほどしか帰ってこず、
生活費を入れない。
家ではずっと寝るかゲーム。
仕事だと言われれば信じた。
疲れてると言われれば信じた。
家族を裏切るような人じゃないと、
信じたかった。
だから、
この女も騙されている可能性の方が高い。
そう思った。
隣の部屋で寝ている元夫は、
プリキュアの悪者よりタチが悪いかもしれないな。
私は床に脱ぎ捨てられていた元夫のズボンから、
車の鍵を取った。
「公園行くから用意するよー」
子供たちにそう声をかける。
元夫が今日乗って帰ってきた車。
まずは、そこから調べることにした。
衝撃の第1章は、こちらから。
