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第1章 「パパ、彼女いるんだよ」


「パパ、彼女いるんだよ」

日曜日の朝。
娘は、テレビの天気予報でも話すみたいに
淡々とそう言った。

元夫は寝室で寝ていた。
息子は廊下でプラレールを走らせている。
いつも通りの朝だった。

違ったのは、
娘のその一言を聞いた瞬間、
私の身体が動かなくなったことだけだった。

足がすくみ、
呼吸が浅くなる。
心臓の音だけがやけに大きく聞こえた。

「……何でそう思うの?」

やっとの思いで聞くと、
娘は真顔のまま言った。

「好き、大好き、会いたいって
女の人とLINEしてるよ。
私、パパの携帯見れるから
今見せてあげるね。」

そう言って寝室へ向かう娘の背中を、
私は動けないまま見ていた。

驚いたからじゃない。

“やっぱり”

そう思ってしまったからだ。

私は以前、
元夫の部下から
信じられない話を聞かされていた。

職場で私の悪口を言っていること。
複数の女性と関係を持っていること。
そして、
私を巻き込んだ異常な嘘を
平然と作り上げていたこと。

でも、その頃の私は
まだ夫を信じていた。

いや、
信じたかった。

毎日仕事をして、
家事をして、
育児をして、
必死に家族を回していた私にとって、

「夫はまともじゃない」

その現実を認めることは、
人生そのものが崩れるのと同じだった。

だから見ないふりをした。

気のせいだと思った。
疲れているだけだと思った。
部下の勘違いだと思おうとした。

でも、
娘のたった一言で、
今まで見ないふりをしていた違和感が
全部繋がってしまった。

そして私はこの日、
自分が結婚していた相手が
“普通の人間ではない”
という現実を知ることになる。

この時の私はまだ知らなかった。

このあと、
想像を超える裏切りに
向き合うことになるなんて。

でも同時に、
私は決めていた。

絶対に、泣き寝入りはしない。


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