「全員挙手」はやらせだと思った。私の教員人生を決定づけた45分
実習生だった20年前。 私はあるベテラン先生の教室で、 自分の目を疑うような光景を目の当たりにしました。
「これは、実習生が来たから『やらせ』ているのではないか?」
そんな疑念から始まった出会いが、 私の教員人生を決定づけることになりました。
今回は、私が小学校教員として歩む原点となった「ある先生」のエピソードと、そこから学んだプロとしてのマインドセットを共有します。
1. 疑いから始まった「全員挙手」の衝撃
実習中に出会ったのは、50代のベテラン女性教師(4年3組担任)でした。
1週間、自分の担当クラス(4年1組)のみの見学だった私を、 彼女はさらりと自分の授業に招いてくれました。
その懐の深さに甘えて教室に入り、 授業が始まった瞬間、衝撃が走ります。
算数の最初の発問で、クラス全員の手が挙がったのです。
自分の担当クラスでは一度も見たことがない光景に、 当時の私は「やらせ」だと思い込んでしまいました。
「実習生の先生が見に来るから、みんな元気に手を挙げてね」 と、事前に打ち合わせをしていたに違いない――。
そう疑ったのです。 しかし、今振り返ればそれは大きな間違いでした。
なぜ、全員の手が挙がったのか。 そこには、緻密な計算に基づいた二つの土台がありました。
自身の指導スキルを磨き続けた結果としての「日常の授業の面白さ」
前向きな姿勢を引き出す「学級経営力」
この光景を目の当たりにした私は、 「この先生のような教師になりたい!」と心に誓い、 指導技術を磨く情熱に火がつきました。
2. 教師がいない場所で、子どもがどう動くか
授業の素晴らしさと同じくらい驚かされたのが、給食時間の様子でした。
実習先のクラスとは対照的に、 子どもたちが驚くほど主体的に動いていたのです。給食の準備の速さはもちろんですが、 特に目を見張ったのは、給食配膳までのスキマの時間に行われていた「図書係」の活動でした。
子どもたちが自ら執筆した「自作の本」が、 クラスの共有財産として本棚にずらりと並んでいたのです。
誰に指示されるでもなく、 自分たちの「やりたい」がクラスの仕組みとして機能している。
それは今考えると、
管理による統制ではなく、 子どもの主体性を価値付けし、子どもたちをやる気にする「学級経営の技術」の高さそのものだったと思います。
3. 子どもに「ズルい」と言わしめる、圧倒的な人間力
放課後、学年の代表者の子どもたちと卒業式に向けた作業をしていた時のことです。 4年1組の子どもに、「〇〇先生(4年3組担任)から材料をもらってきて」と声をかけると、それを聞いた4年3組の子どもたちから、思いがけない言葉が返ってきました。
「いいな、ズルい! 〇〇先生に会えるなんて羨ましい!」
毎日顔を合わせている担任なのに、 放課後に他クラスの子が会いに行くことさえ羨ましくてたまらない。
その反応に驚くとともに、 これほどまでに慕われているのかと、信頼の厚さを痛感しました。
授業の腕(スキル)があるからこそ、信頼関係(マインド)が強固になる
教師としての「理想の循環」を、私はその時初めて肌で感じたのです。
4. ベテランから授かった「時間とお金の投資術」
実習の最後、その先生からいただいた言葉は、今も私の背骨となっています。
「若いうちに、時間とお金を自分に投資しなさい」
この言葉を胸に、私は20代・30代を 「趣味は研修」と言えるほど研鑽に捧げました。
専門書を買い、週末はあちこちの勉強会へ足を運ぶ。 そうして培った「教師としての指導技術」こそが、 子どもの成長を左右する唯一の武器であると、今では確信しています。
5. 未来を切り拓く、日常の「5分」という投資
私は教師生活22年間、一貫して 「自分をアップデートする時間を確保すること」 を大切にしてきました。
そのために、まずは事務作業を最短で終わらせる工夫を続けています。
5分早く事務を切り上げ、その5分で本を読むかアウトプットをする
5分早く作業を終え、その5分で教材研究を一歩深める
5分早く帰り、週末の研修へ行くエネルギーを充電する
そのわずか5分の積み重ねが、 自分を「子どもたちから必要とされる先生」へと変えてくれる。 そう信じて、ここまで歩んできました。
教師として20年以上が過ぎた今も、 あの日の先生の背中は遠く、眩しいままです。
それでも、いつかあのような「理想の教師」に一歩でも近づけるよう、 私はこれからも歩みを止めることなく、 学びを積み重ねていきたいと考えています。
