掌編2「リリーさんとホーリーくんとマリコちゃん」【雪の結晶】#いつきちゃんのアドベントカレンダー

前回のお話は、こちら↓
「雪の結晶」
ところが、いつもならマリコちゃんが呼んだら、すぐに駆けつけてくれる翔太くんが、その日はいくら呼んでも現れない。
「あれ?お兄ちゃん、お出掛けかしら?もう学校は冬休みのはずなのに」
トントン⋯
ドアをノックして代わりに顔を出したのはマリコちゃんのママだった。
「マリコ、お兄ちゃんはね、ちょっと病院なの」
「えー!?お兄ちゃんも病気なの?」
マリコちゃんは自分の病気のことを差し置いて、泣きそうになった。
「ううん、検査をしているの」
「え?健康診断みたいなもの?」
「マリコ、よ〜く聞いてね」
「うん」
マリコちゃんのママは真剣になる時のクセで眉間に、ちょっぴりシワを寄せた。
「お兄ちゃんはね、春になったら十八歳になるでしょう?」
「うん」
「そうしたら、マリコを助けてくれるの」
「十八歳になったら?マリコを?」
「そう、そのための検査をしているの」
「ふ〜ん、お兄ちゃん、今もマリコを助けてくれてるよ」
「そうじゃなくてね、マリコの病気を治してくれるのよ」
「ふ〜ん。だから春になったら治るんだね」
マリコちゃんはニッコリと笑った。ママも一緒に笑うかと思ったら、眉間にシワを寄せたままだった。
「でも、このままじゃ、ホーリーくんが溶けちゃう」
マリコちゃんは窓の外のホーリーくんをずっと見つめ続けた。
その夜、病院の検査を終えた翔太くんが誇らしげにキッチンでパパとママに報告した。
「お父さん、お母さん、僕、マリコの骨髄移植に適合したよ」
「翔太、ありがとう」
ママは瞳を潤ませて翔太くんを抱きしめた。パパは優しい声で、しかし冷静に翔太くんに訊ねた。
「翔太、大学受験が一年先になるけど、それでもいいのかい?」
「パパ、大学は逃げないよ。マリコの命を救うのが先だろ?」
「ありがとう、翔太」
パパは翔太くんの手をしっかりと握り締めた。
「私達が適合しなかったのに、翔太だけが適合するなんて」
ママの眉間のシワはすっかりなくなって、優しい微笑みを浮かべていた。
その頃、庭ではホーリーくんとリリーさんが、また話していた。
「はぁ、はぁ、リリーおばあさん⋯僕⋯明日の朝陽で⋯ダメかもしれないよ」
ホーリーくんは、もう話す口元も溶けて息も絶え絶えだ。
「寂しくなるね〜、ホーリー」
リリーおばあさんは鼻声でハスキーな声を出した。
「僕が⋯決めたことだから⋯いいんだけど⋯」
「そうだけど、ホーリーは元々短い命なのにバカな子だよ」
「はぁはぁ、一つだけ夢が⋯近くでマリコちゃんに逢いたかったな⋯」
「マリコちゃんもホーリーに、逢いたかったさ」
「どんな子?マリコちゃん」
「そりゃあ、惚れたお前が一番分かってるだろ?可愛くてやさしい子だよ」
「やっぱり、そうか⋯一度でいいからそばで逢いたかったな」
次の朝、リリーさんが目覚めるとホーリーはすっかり溶けてペチャンコになっていた。
「いつか逢えるよ、きっとね」
リリーさんは凍った水たまりのようになったホーリーに呟いた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」
朝から窓辺で大声を張り上げたのは、マリコちゃんだった。
翔太くんは
「どうしたの?」
寝ぼけまなこで部屋に入って来た。
「ホーリーくんが、ホーリーが死んじゃった」
マリコちゃんはお兄ちゃんの胸をトントン叩いて泣きじゃくっている。
「お兄ちゃ〜ん」
翔太くんも窓の外に目をやった。
「あ〜!!見てごらん!!マリコ!!」
「イヤイヤ、だって、ホーリーくんいないんでしょう?」
「いいから見てごらん」
「わぁ~、きれい」
ホーリーが溶けた場所は、彼の目だった赤い実が溶け出して、雪の結晶が桜色に染まっていた。まるで一足早い春を告げる桜の花びらのように、キラキラと輝いている。
「ホーリーからマリコへのプレゼントだよ『桜が咲いたから、マリコちゃんは治るよ』って」
「ホーリーくん」
(ヤバッ1500字超えちゃった。始末書もんですかー泣)
(めんご、めんごで明日の最終回へつづく?)

おまけなし(笑)
