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「俳人よ、「把握」を意識しろ!」 - 堀内晴斗(Vol.0.5)

はじめに

 最近の俳句を見ていて、僕はとある事にモヤモヤしています。それは、多くの俳人が「把握」を十分に意識していないように見えるという事です。
 本記事では「把握」について説明し、個人的な意見を述べます。読むことで、あなたの俳句ライフに活かしていただければ幸いです。それではどうぞ!


「把握」とは?

 「把握」とは、造語です。一般的な俳句用語ではなく、僕が便宜上使っている呼び名です。俳句における一つの技法のことなのですが、百聞は一見にしかず。例句を見てみましょう。

閑さや岩にしみ入る蝉の声

松尾芭蕉

 「しみ入る」がこの句の把握です。現実的に考えて蝉の声は音なので、岩にしみ入るなんてことはありえません。しかし芭蕉は「しみ入る」と表現し、句に深みを与えました。
 このように、通常であれば使わない表現を、作者の想像力で足して、句に魅力をもたらす。これを「把握」と呼びます(僕が勝手にそう呼んでいるだけです)。ただの現実にファンタジーを付け足す、とも言えるでしょうか。


「把握」があることを意識しよう

 僕たちが「好きだな」と感じる俳句には、結構高い確率で把握が含まれています。普段からあなたは、把握の存在をしっかりと意識できていますか?できている、と言える人はあまりいないと思います。把握を見ても、きっと無意識に脳内で処理をし、「面白い表現だな、ハハッ」くらいの軽さで流していることでしょう。STOP!それはもうやめるべきです。そうやって「把握」に対する意識が低いままだと、そのうち把握を乱用し始め、把握の質について考える機会を失ってしまいます。現にそういう俳人が沢山いるから、この俳句界はつまらない把握で溢れているのです。ここで、一つご提案します。これから俳句を見るときは、心の中で把握ムシメガネを構えましょう。

把握ムシメガネ

 これを使って、いま自分が見ている一句のどこに把握が含まれているかを、意識して見つけられるようになりましょう(超重要)。探偵ごっこの要領です。あとで、このムシメガネを使って把握を見つける練習をするので、ちゃんと持ってきてくださいね!


「把握」は大まかに分けて3タイプ

 練習の前に、把握の種類についてお話をしておきます。ひと言に「把握」と言っても様々な種類があり、探せば百種類は見つかると思います。ですがここでは、大まかに3つのタイプに分けます。①ノーマルタイプ ②比喩 ③その他(説明しきれないタイプ) の順に、それぞれ見ていきましょう。

【把握のタイプ①ノーマルタイプ】

閑さや岩にしみ入る蝉の声

松尾芭蕉

大根を水くしやくしやにして洗ふ

高浜虚子

雁渡し山脈力集め合ふ

村越化石

 最も多く見られる把握のタイプです。句の中に、さりげなく把握を入れ込んでくるのが特徴です。また、ここでは擬人法も把握の一つと見なし、このタイプに含めます。
 一句目は、先述の通り「しみ入る」が把握です。では、二句目はどこが把握でしょうか。……そうです、「くしやくしやにして」です。水を紙のようにくしゃくしゃにするという表現は、あくまで想像によって補ったオノマトペですからね。そして三句目、もうお分かりですね。「力集め合ふ」が把握です。山脈は生き物ではないため、力なんて持つわけがありませんよね。擬人法を使っています。

【把握のタイプ②比喩】

 先ほどの擬人法と同じく、比喩も「現実に想像力を足す働き」であることに変わりはないため、ここでは把握と位置づけますね。それでは、比喩の2パターンである直喩と暗喩、それぞれご説明します。
 直喩とは「〜のやうな」、「〜のごとし」などの言葉を使って、あるものを他のものにたとえる方法です。

手にのせて火だねのごとし一位の実

飴山實

炎熱や勝利の如き地の明るさ

中村草田男

ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに

森澄雄

 一句目だけ取り上げます。季語は「一位の実」。丸っこい赤色の実です。それを「火だねのごとし」と把握したことで、「一位の実」が実際よりもずっと魅力的に映っています。
 一方、暗喩とは「〜やうな」、「〜ごとし」などの言葉を省略し、あるものを他のものにたとえる方法です。

星空はおほきな時計山眠る

南十二国

湖といふ大きな耳に閑古鳥

鷹羽狩行

 一句目では星空を「時計」にたとえ、二句目では湖を「耳」にたとえています。どちらの句も暗喩によって壮大さや美しさが増していますね。
 直喩も暗喩も同じ比喩なので、特に違いはありません。が、敢えて言うなら直喩のほうが強く説得している感じはしますね。「ごとし」、「やうに」と言い切っていますから。

【把握のタイプ③その他(説明しきれないタイプ)】

 上記の①と②以外にも、把握は様々なタイプが存在します。数えきれないくらいあると思います。ですから、大切なのは、自分の目で「把握」が含まれている句かどうかを見極められるようになることです。では、その目を鍛える練習問題に参りましょう!

【練習問題】実際に「把握」を意識してみよう!

 全15問です。どの部分が把握なのか、できればそれがどういう効果をもたらしているか、お考えください。把握ムシメガネも、心の中でぜひ使ってくださいね!

【練習問題】

①水打てば夏蝶そこに生れけり 高浜虚子
②凍蝶の己が魂追うて飛ぶ 同
③去年今年貫く棒の如きもの 同
④囀りをこぼさじと抱く大樹かな 星野立子
⑤ぼろ市や空一枚を使ひけり 大木あまり
⑥パチンコ店滝の音なす終戦日 同
⑦よもぎ餅買ひて雲ゆく歩みかな 岡本眸
⑧涼風の一塊として男来る 飯田龍太
⑨鰯雲日かげは水の音はやく 同
⑩海に出て木枯帰るところなし 山口誓子
⑪去年今年猫は髭から眠るもの もふもふ
⑫かりかりと蟷螂蜂の㒵かほを食む 山口誓子
⑬春の水とは濡れてゐるみづのこと 長谷川櫂
はりつけの釘打つ如く咳きはじむ 野見山朱鳥
⑮紅梅や枝々は空奪ひあひ 鷹羽狩行

【答え】
太字が把握の部分です。一字単位で正確に合っている必要はありません。「どの部分がどういう把握をしているか」さえ理解できていれば大丈夫です!

①水打てば夏蝶そこに生れけり 高浜虚子
②凍蝶の己が魂追うて飛ぶ 同
去年今年貫く棒の如きもの 同
④囀りをこぼさじと抱く大樹かな 星野立子
⑤ぼろ市や空一枚を使ひけり 大木あまり
⑥パチンコ店滝の音なす終戦日 同
⑦よもぎ餅買ひて雲ゆく歩みかな 岡本眸
⑧涼風の一塊として男来る 飯田龍太
⑨鰯雲日かげは水の音はや 同
⑩海に出て木枯帰るところなし 山口誓子
⑪去年今年猫は髭から眠るもの もふもふ
かりかりと蟷螂蜂の㒵かほを食む 山口誓子
春の水とは濡れてゐるみづのこと 長谷川櫂
はりつけの釘打つ如く咳きはじむ 野見山朱鳥
⑮紅梅や枝々は空奪ひあひ 鷹羽狩行

 ③や⑬のように、どの部分が把握、とかではなく一句全体が把握になっている場合もあります。
 ⑨は、ほぼ限りなく現実に近い把握、と言えます。ほんのり把握です。
 ⑫は、先述の「水くしやくしや」の句と同様に、オノマトペのみの把握です。
 このように、把握には様々なタイプが存在します。難しくてもこれから鍛えていきましょう!

僕が思う悪い「把握」

 ここまでに挙げた例句は、どれも良い把握としてご紹介しました。しかし、世の中には悪い把握も大量に存在します。以下に、僕が思う悪い把握の特徴を3つ挙げます。

 ①共感しづらい
 ②類想がある
 ③モチーフと把握が近い

 例句を見てみましょう。

棺のうち吹雪いているのかもしれぬ

折笠美秋

 「棺」の死のイメージと「吹雪」の冷たさは近すぎます(③モチーフと把握が近い)。また、あるものの中に超常現象が起こっている、という把握自体よく見かけます。その数ある句の中でこの句が突き抜けているかと聞かれると、そうだとは思えません(②類想がある)。

滝落ちて群青世界とどろけり

水原秋櫻子

 「滝」の涼やかなイメージと「群青」という色は近すぎ、というかあまりに捻りがなさ過ぎます(③モチーフと把握が近い)。また、「世界」、「とどろけり」という大掴みな把握によって具体的な想像が省かれ、読者が置いていかれます(①共感しづらい)。単に大きい言葉を使えばいい、ということではないと思います。

蟻の道雲の峰よりつづきけん

小林一茶

 僕には「雲の峰」から続くという発想が少し飛躍しすぎているように感じます(①共感しづらい)。また、雲や空そらなどのビッグスケールなモチーフを使うときは、注意が必要です。「雲がふれる」、「星を掴む」、「夜の底」、みたいな把握は、ありふれた表現になりやすいからです(②類想がある)。
 把握の質が良いものでなければ、その俳句自体も良いものではなくなってしまいます。上記の悪い把握の特徴3つは、避けるようにしましょう。

良い把握とは

 じゃあ、良い把握って何なんだよ!って感じですよね。ズバリ言います。良い把握の特徴は、①分かりやすい ②独自性がある、この二つです!……いや、当たり前だろ!って感じですが、結局この二つなんです。読者が理解できなければ伝わらず、誰でも思いつく表現なら驚きが生まれないからです。だから、この①と②の両方を満たすことで、把握が強くなるんです。

ちなみに、把握を用いた句で、僕の好きな10句は以下の通りです。 

切株は木もれ日の的山開き

村上鞆彦『遅日の岸』

真闇より否とこたへて蟇

津川絵理子『津川絵理子作品集I』

舞台より見る客席は冬の海

藤井あかり『メゾティント』

とことはに後ろに進む踊かな

相子智恵『呼応』

夜は匍匐前進で来る沈丁花

神野紗希『光まみれの蜂』

やはらかき水に戻りしソーダ水

矢野玲奈『森を離れて』

新社員笑へり蝶を嚙むやうに

西生ゆかり『パブリック』

だぶだぶの皮のなかなる蟇

長谷川櫂『長谷川櫂自選五〇〇句』

鯛焼といふ詫び状に似たるもの

佐藤郁良『しなてるや』

一年の未来ぶあつし初暦

小川軽舟『朝晩』 

まとめ

 「把握」という言葉は一般的な俳句用語ではなく、僕が便宜上使っている呼び名です。
 本記事で一番言いたいことは、俳句の中に「把握」が含まれているかを、普段から意識するのが大切、ということです。今日から把握を意識して、じゃんじゃん句作していきましょう!実作あるのみです!

さいごに

 最後までお読みくださり、ありがとうございました!本記事で述べたことは、俳句だけでなく短歌にも川柳にも、さらには詩人や作詞家にも共通します。ですから、界隈を問わず色々な人たちに今回のお話を伝えていただければ嬉しいな〜と思います。
 次回の『三面鏡』ネットマガジンは30日、木村幸人の回です。お楽しみに!


堀内晴斗(ほりうちはると)
2006年愛知生。第16回石田波郷新人賞 準賞。「南風」所属。
誰が読んでも分かる俳句を書きます。俳人にはもちろん、俳句をやらない全ての人にも、句を読んで感動して欲しいからです。
E-mail:katsupan393939@gmail.com
X:@katsupan393939
note:https://note.com/joyous_liger9221

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