「文フリで買った本 好きな句と鑑賞」 - 堀内晴斗(Vol.0.5)
はじめに
5月4日、文学フリマ東京42に行ってきました!
買った本の中から好きな俳句を、できるだけ選んで鑑賞します!
(*=特に好きな句)
目次
『なるほど 創刊号』
「招待作品(十句とエッセイ)」より
さるすべり黄を経て癒ゆる脛の痣
木塚夏水
「黄を経て」がこの句の上手さだ。長い時間をかけて怪我が治る人体の生々しさに、思いを馳せる作者。赤い「さるすべり」が、怪我をした時の痛みの記憶と重なる。
嚙み跡のうすみどりなるセロリかな
長田志貫
「― ― ― ― 」←こんな感じだろうか。セロリに噛みついたことは無いのであまり分からないが、「うすみどり」になることに目をつけた作者の観察力は確かだ。
パセリ殖ゆパンダパトカーパリパンツ *
中矢温
セロリの次はパセリの句。庭で育てているのを想像した。「パンダ」「パトカー」「パリ」「パンツ」という単語の並びが、まるでパセリの房の一つ一つみたいだ。「パリ」は一旦置いておいて、「パンダ」も「パトカー」も「パンツ」も、どれも小さい子どもが好きそうな物ばかりだ。このチープで幼いイメージを土台にして、「パ」の語感の馬鹿らしさや、パセリ自体の脇役感が可笑しみを放つ。何も考えずにこの句を作っていそうな所も面白い。実にパッパラパーな一句である。
『なるほど 第二号』
「招待作品(十句とエッセイ)」より
大島の咲けど切らねばならぬ枝
田中惣一郎
大島とはおそらく大島桜のこと。この句では、この先切られるであろう桜に対して、あまり哀れみを感じない。それよりも、切るのメンドクセー、という人間側の気持ちのほうが前に表れている。「切らねばならぬ」のタルさが、春のぼんやりとした空気感とよく合う。
餡入りの草餅が好き馬も好き
谷さやん
「〇〇が好き」という俳句は既に沢山作られてきたし、〇〇に何を入れてもそれなりに出来上がってしまう。が、しかしこの句は違う。餡のもったりとしたイメージと、馬の肉感や茶色いイメージがかけ合わさる。するとどうだろう、ただのノホホン感ではなく、「上品なノホホン感」が出てくるではないか。バカっぽく見えて、実は裏で計算された一句。
洗はずに食べる苺や世は四月 *
中矢温
「衝撃!洗う前の苺には"イチゴ虫"が付いている!」みたいな本当かどうか分からない雑学を、YouTube Shortsで見たことがある。きっとみんなもウワサ程度には聞いたことがあるはずだ。が、この作者は洗わずに食べたらしい。で、「世は四月」なんだとさ。季語の付け方の雑さよ。このテキト〜な感じが、この句特有の持ち味だと思う。
「角川俳句賞応募日記2025」より
金魚鉢ニュースは悲喜を行き戻る
感冒は猫にうつらず日眩し
一月が飛んで五月へ古日記
卒業の壁に手形や赤黄青 *
芝あをし汚れし凧を畳みつつ
ものを思はず春の一日を腹減らず
中矢温
四句目の〈卒業の壁に手形や赤黄青〉がすごく好きだ。この先、長いこと頭に残り続けると思う。卒業間近の小学校を想像した。校舎内の壁には生徒の工作物が掲示してあったりするが、手形をつけた作品がそこに貼ってあるのだろうか。赤色、黄色、青色の様々な方向を向いた三色の手形たちは、卒業生の手形か。もしくは「六年生を送る」的な名目で、下の学年の子たちが押してつくった手形か。何にせよ、下五の「赤黄青」から感じるシンプルな温かさがとても好きだ。中七のや切れも最高にキマっている。感動をありがとう。こういう句が作りたい。
『蟻亜蝶 vol.2』
個人作品「旅吟」より
カレーパン潰さぬやうに柿若葉 *
川田果樹
鞄に入れたカレーパンが潰れないか、心配しながら帰るようすを想像。家に着いたら齧り付くであろうサクサクの衣のイメージが、季語「柿若葉」のみずみずしさと気持ちよく響き合う。語感も良い。
『Rich Vol.5』
受賞第一作「えもじの句」より
茄子の馬リビングを向くやうに立て
辻村栗栖
ただそれだけの句なのだが、なぜか好きになってしまった。「立て」という二音の終わり方が、置かれた茄子の馬の素朴さを思わせる。
俳句連作「正門」より
戻りきて滝専用の駐車場 *
革命やパイナップルのピンに星
銀杏散る少し炭水化物食ふ
障子戸をゆつくり開く早く閉づ
岡部優司
岡部が三面鏡の編集をしてくれているから多めに句を選んでいる、というわけではない。本当にこの四句が良いと思って選んだ。
一句目。滝を見て、駐車場に戻ってくる作者。さっきまで滝という壮大な自然を目の当たりにして旅の興奮が全開だったはずなのに、今は駐車場という固いコンクリートの上に立っている。滝「専用」とあるので、きっと有料の駐車場だ。高いお金を払わされているに違いない。旅のリアリティを嫌でも感じさせられる。「滝専用」「駐車場」という漢字三文字×2の字面が、人の手で整えられた平行な白線や、無機質で四角い土地の形を思わせる。
二句目は、語感と内容がただ気持ちいい。
三句目は、「銀杏」と「炭水化物」の取り合わせの妙に惹かれた。
四句目。スサーーーと障子をひらいて、ピシャンッ!と閉じる作者。もっと落ち着かんかい。生活の中で無意識にやってしまう行為を自然に切り取れていて、すごく好印象だ。
『KENOBI Vol.4』
あたたかや鳩いつせいに少し飛ぶ
島の猫の欠伸より蝶生まれけり
車座に同じ水筒クロッカス *
黒岩徳将
一句目、鳩の句。「いつせいに」の勢いから「少し飛ぶ」への急減速が面白い。で、大体の鳩は飛びきらずに地面に残り、よそよそしくまた歩きはじめる。鳩の丸っこいフォルムが活きていて可愛らしい句だ。
二句目。長閑さの象徴ともいえる「島の猫」「欠伸」「蝶」が一句に集結。ただひたすらに暖かい。こんな場所で俳句をつくっている作者自身も、きっとのんびりした性格の人。
三句目。「車座」とは、大人数が輪になって座ること。小さい頃に遊んだリーダー探しゲームを思いだす。「同じ水筒」を見つけたのがこの句の手柄であり、なんだかほっこりする発見だ。水筒のコテッとしたフォルムは、クロッカスの見た目と似たところがある。
『詩IA』
うつむきて浴衣を畳み帯を畳み
斉藤志歩
日頃から浴衣を着るような仕事をしている人か。「うつむきて」の黙々と作業している感じといい、この人は畳み慣れているのだと思う。「畳み」の繰り返しが、そのの一連の動作を、カットすることなく読者に見せている。静かな句だ。布の音しか聞こえない。
まぶたの裏にカジノがあれば
暮田真名
今回紹介する中で、唯一の川柳だ。
「まぶたの裏」とは、場所も時間も関係なく、目をつぶればいつでも行ける自分だけの領域だ。この人の場合、そこにはカジノが広がっていて欲しいらしい。ルーレット、ポーカー、スロット、など様々な遊戯が人間の欲を狂わせる異様な空間。作者はそんな場所にいつでも行けるような、刺激のある毎日でも求めているのだろうか。はたまた、お金に困っているから、いつでもお金を増やせる(減る可能性もある)環境が欲しいのだろうか。そう考えてみると、まぶたの「裏」という文字にも、ギャンブルの「表か"裏"か」というスリリングな要素が掛かっている事に気づく。「裏カジノ」という言葉も頭にちらつく。オンラインカジノをして逮捕されるニュースが話題となる昨今。日本では、カジノに対して違法なイメージが強まっている。けれど想像の中でくらい、ダークにお金を賭けてもいいじゃない。
(別紙)短詩集団「砕氷船」より
軽く飯あぢさゐ寺へ行く朝は *
手に重き夕の風や白団扇
夜も暑し蟹の屍は砕けて散り
斉藤志歩
一句目がすごく好きだ。「軽く飯」なので、おにぎり一個と、まあせいぜい目玉焼きくらいだろうか。このあと目にするであろう鮮やかな紫陽花のイメージが、既に「気持ちのいい朝」を演出してくれる。ちょこんとした涼しい空気感に惹かれる一句だ。
『ねじまわし 第13号』
金魚鉢IKEAの螺子を余らせて
空をゆく蜘蛛の糸から芽へ到る *
大塚凱
一句目は、椅子でも組み立てているのだろうか。「IKEA」という涼しい語感が、金魚鉢の透明感と響き合う。
二句目は、とある句会で見た時に取り逃してしまったのだが、そのことを今でも後悔している。「空をゆく」の浮遊感のある視点から、「芽」という実体のあるものへの終着が見事。上手すぎる。なんだこれ。
『銕蛇』
やがて北風荒れたくちびるでも話す
写真より色味の薄い花火だった
東京を原作にない雨が降る *
品口回ロ
品口さんと僕の作風は全く違うので、僕が取れる句は少ないんだろうな〜と思いながら『銕蛇』をひらいてみると、かなり良くてビックリ。
二句目〈写真より〉は、「だった」に呆気なさが宿る。
三句目は、「原作にない」が秀逸。なんだかこの句には、季語も無いし、元気も無いし、景に色も無いように感じる。そして、この雨は原作にも無いらしい。全部が無い。ただひたすら、モノクロの世界が広がってゆく。
金麦をあけてにこにこさくらんぼ
藤井万里
「金麦」「にこにこ」「さくらんぼ」。簡単な単語しかなく、酒に酔いながら作っていそうな一句だ。にこにこ笑っているのはおそらく一緒にいる相手なのだが、作者である万里さんも同じくにこにこしていそう。語感の良さと可愛らしさが魅力的。
『新京大俳句 創刊号vol.1.0』
このバンド解散済みや春の宵
牛進
よくある。曲が好きで調べてみると、既に解散済みだったっていう。解散当時のファンのコメントとか見ていると、なんだか本当に惜しい気持ちになってくる。季語「春の宵」の雰囲気も活きている気がする。
ちなみに僕が好きなのは「LADY'S ONLY」という音楽ユニットで、五年前に解散済み。
車掌と僕だけの列車が傾く青田
澁谷夏輝
田舎の列車だ。いるのは車掌と僕だけ。このままだと「きさらぎ駅」的な異世界へ到着してしまうんじゃないかと一瞬不安が頭をよぎるが、車窓に広がる「青田」がそれを全否定して現実に引き戻してくれる。落ち着いていて、どこかほっこりする一句だ。傾くは「かたむく」と読んで、下七にしたい。
栄転の年になるやも賀状書く
誰かの飴を百回コピーしたやうな日永
田中段波
一句目。自分の運命を変える誘いや仕事は、いつどこから来るか分からない。今後来るかもしれないその"チャンス"に期待しつつ、種をまくように賀状を書いてゆく。ペン先に込めた力には、今年一年に対する作者の前向きな気持ちが宿る。
二句目。独特すぎる把握だが、季語「日永」が活きている。百回という数字も、なんだか投げやりな感じがして面白い。
春の昼蟹がぜつたいゐる川も
冴返りつつも大きなエビフライ
田村転々
一句目。「も」が良い。人も蟹も、春のあたたかさに包まれる。
二句目。「つつも」が自然なつなぎ方をしていて上手さを感じた。急に現れる大きなエビフライが、少しバカっぽくて好きだ。
春雨や宿のむかひが金物屋
はじめから煮たるやうなる若布かな *
遠足の岩に凭れてゐる写真
霧吹をみづの垂れたる五月かな
秋扇なかばびらきに置かれあり
虫籠に天地をつくるこころかな
冨嶋大晃
同人・冨嶋の句だ。あんまり身内を褒めると寒いので、"塩"鑑賞させていただく。
二句目、面白い。「たるやうなる」の字面と語感が、ワカメのへろへろ感満載だ。
三句目。岩に凭れている人物は、きっとチョケているのだとおもう。カメラの前で、チョケる感じで凭れている。たのしそうで何より。
四句目。「みづの垂れたる」の描写力よ。五月なのも、ちょうどいい。
天使みな盲ひて冬の扇風機
柊木快維
「サマエル」という盲目の天使がいるらしい。
Wikipediaによるとサマエルは、
「神の命令であった『モーセの魂を天国に運ぶ』のに失敗し、この時モーセの杖で打ち据えられ、目は潰れ盲目になってしまった」
のだという。
一回仕事ミスっただけで目潰されるとかどんなブラック企業だよ。
しかもこの句には「みな」とあることから、サマエルのような盲目の天使が、他にもたくさん漂っていると想像できる。恐ろしや。
季語「冬」の扇風機というのは、コンセントが抜かれていて翼が止まっている状態なのだろう。冬の間、使われない扇風機。盲目の天使たち。両者には、どこか回路を感じてならない。
おわりに
以上で、「文フリで買った本 好きな句と鑑賞」を終わります。起立!礼!さよーなら!((さよーなら!))
ああ、次回は木村幸人のネトマガだから教科書わすれるなよー。
堀内晴斗(ほりうちはると)
2006年愛知生。第16回石田波郷新人賞 準賞。「南風」所属。
誰が読んでも分かる俳句を書きます。俳人にはもちろん、俳句をやらない全ての人にも、句を読んで感動して欲しいからです。
E-mail:katsupan393939@gmail.com
X:@katsupan393939
note:https://note.com/joyous_liger9221
