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「カレー俳句の話─心に残る10句」 - 堀内晴斗(Vol.0.5)

🍛はじめに🍛

 カレー。それは、多くの人にとって身近で、どこか懐かしさを感じる料理です。俳句の題材としても親しまれ、カレーを詠んだ魅力的な句も数多く生まれてきました。本記事では、そんなカレーの歴史を振り返りつつ、印象に残っている句や、カレーという題材の面白さ、そして俳句にする難しさについて語ります。

カレーはいつ日本に伝わった?

 カレーが日本に伝わったのは、幕末から明治初期にかけてといわれています。インド発祥🇮🇳の料理がイギリス🇬🇧で独自に発展し、「カレー粉」として日本へ渡ってきました。その後、「ライスカレー」が洋食屋のメニューに並ぶようになると人気を集め、次第に家庭にも広まっていきました。家庭では、じゃがいも、玉ねぎ、にんじんなどを使い、小麦粉でとろみをつけた「日本風カレー」が定着していきます。また、1968年(昭和43年)には世界初の市販レトルトカレーが発売され、さらに身近な存在となりました。こうして見ると、日本のカレーの歴史は意外と新しく、現在のようなカレーが広く親しまれるようになったのは、ここ100年ほどの出来事だと分かります。

昔の俳人も味わった「ライスカレー」

 今では「カレーライス」と呼ぶのが一般的ですが、明治から昭和初期にかけては「ライスカレー」という呼び名が広く使われていました。正岡子規夏目漱石種田山頭火といった著名な作家たちも、当時「ライスカレー」と呼ばれていたこの料理を食べていました。
 正岡子規は、明治34(1901)年の著書『仰臥漫録』の中で、次のような記録を残しています。

九月十七日 晴 ひやひやする(中略)
夕 ライスカレー三碗 ぬかご 佃煮 なら漬

正岡子規『仰臥漫録』(岩波書店、1983年)48頁

 夕食には「ライスカレー三碗」とあり、3杯も食べたことが分かります。"カレーは飲み物"を明治の時点で先取りしていたようですね。福神漬けではなく奈良漬けと一緒に食べたそうで、次のページには「奈良漬の秋を忘れぬ誠かな」という句が載っています。しかし、カレーの句はどうやら見当たりません。子規のカレー俳句、見てみたかったです。
 夏目漱石もまた、カレーに縁のある作家の一人です。漱石の作品『三四郎』には、ライスカレーが登場する場面があり、作品の中に自然に描かれていることからも、当時すでにカレーが人々の暮らしに馴染んでいたことが分かります。
 さらに時代が進むと、種田山頭火もカレーを味わっています。山頭火は、旅で草津を訪れた際に、カレーを食べた記録を日記に残しています。

五月廿一日 快晴。(中略)
熱い湯にはいつて二三杯ひつかけて、ライスカレーを食べて(これが宿の夕食だ、変な宿だ)ぐつすり寝た。


種田山頭火 『旅日記』 青空文庫

 草津の宿にケチを付けつつも、カレーを食べて旅の時間を満喫しています。また、こうした記録だけでなく、山頭火はカレーを題材にした句も詠んでいます。

これが別れのライスカレーです

種田山頭火『層雲』(1930年)

 もっと古いカレー俳句もあると思いますが、僕が調べた限りでは、この句が最も古いものでした。何だかもの悲しい一句です。

心に残るカレー俳句 10選

 今まで読んできたなかで、特に惹かれたカレー俳句を10句紹介します。

南風吹くカレーライスに海と陸

櫂未知子『カムイ』

 カレー俳句といえば、ほとんどの人が最初にこの句を思い浮かべるのではないでしょうか。僕は俳句を始めたばかりの頃に読んで、軽く衝撃を受けたのを覚えています。「海と陸」というポップな詠みぶりが、俳句に対する堅苦しいイメージを吹き飛ばしてくれました。

カレー喰ふ夏の眼をみひらきつ

涌井紀夫

 一心不乱にカレーを食べる人物が見えます。見開いた「眼」から、静かながらも底なしの食欲が伝わってきます。スプーンで口にかき込むというより、デッカい口をあけて、ゆっくりと食べるようすを想像しました。また、下五が対照的な句に〈汗の人ギューッと眼つぶりけり/京極杞陽〉があります。どっちも面白い。

カツ見えぬほどにカレーや海の家

稲葉守大

 第9回俳句四季新人奨励賞「暇」の作品です。カツカレーといい、海の家といい、夏の季節感をまっすぐに活かしきった気持良さに惹かれました。中七のや切りの力強さから、盛られたカレーの豪快さや、それに対して作者が注目している感じを受けました。

汗たのしスープカレーの鶏ほぐし

いかちゃん(@ikkaoka)の投稿

 Xで見た句です。ただでさえ暑いのに、スープカレーの熱気が顔に押し寄せ、汗をかきながら鶏肉をほぐす作者が想像できます。フォークやスプーンを使って大きな鶏肉をほぐす作業は、普通なら面倒に感じるものです。しかし、その汗や手間すらも前向きに受け止める上五の「汗たのし」が何とも軽快です。「し」の分かりやすいリズムとともに、食に対する喜びや高揚感が伝わってきます。

秋風やカレーにソースかけて父

小澤實『澤』

 「ソース」というひと癖と、「父」という体言止めが、父親像というものを"ドンッ"と提示してくれます。秋風のただ流れるだけの感じも心地良く、カレーとソースの匂いが、秋風に乗って読者であるこちら側にまで匂ってくる気もします。無意識に口ずさみたくなるような語感の良さも、この句の好きなところです。

カレー粉と 蝉の匂いの 夏休み

伊丹公子

 5年ほど前にこの句を知ってから、ずっと頭の隅に残っていました。カレー粉と蝉は、どちらも乾燥しているものだからか、不思議と相性の良さを感じます。それらの匂いを通して夏休みという時間全体を大きく捉えている感じが、カレー俳句として新鮮です。「蝉の匂い」に関しては、どんな匂いなのかは分からないし、あまり想像したくはないけれど気になります。個人的には、生きている蝉というよりも蝉の"殻"のイメージが先に浮かびます。

カレー食うて口中辛き花火かな

青木重行

 口に残るカレーの辛さ。目の前にあがる花火の光。両者に関係がなさすぎるのが、この句の魅力だと思います。リアリティのある関係のなさ、という感じがたまりません。こういう、読者のツボを突いてくるような句には何とも憧れます。良い句を作ろうとしていないがゆえに生まれる良さ、というか…。

鳥渡る午後のちからのカツカレー

加藤静夫

 渡り鳥を見ながらカレーを食べ、しかもそれが「自分の力になるんだ」と思っている健やかさ。この人は、絶対に良い人ですよね。そして何より、「午後のちから」という表現に惹かれました。活力というものを「ちから」と表し、そこに「午後の」を付けて生まれた「午後のちから」という言葉。こういう単純そうに見えてなかなかできない言葉の組み方は、僕もどうにか真似したいなと思っています。

大試験子と新宿でカレー食ぶ

栗田やすし

 大試験が終わり、新宿の洋食屋でゆっくりとカレーを楽しむようすが浮かびます。さまざまなことの転換期である春の時期。親子で落ち着いてカレーを食べるこのひと時とこのカレーは、きっと良い記憶として残るんでしょうし、それを分かりながら食べている感じも、ほんのりとクるものがあります。新宿という場面設定が、何だか安心するというか、良いんですよね…。

養花天咖喱にカツの衣散り

岩田奎

 カレーを漢字で書くと「咖喱」です。漢字だと重厚感があるからか、黒いカレーを僕は想像します。お洒落な洋食店のほの暗い空間で食べる、黒いカレーを。さて、この句に惹かれたのは、養花天(花曇り)を取り合わせているところです。散った衣の素朴な見た目や、食事の間つねに薄々抱いている食への喜びが、養花天の明るさの具合と絶妙に合う気がします。カレーの句にしては珍しく、カッコ良さを感じる、というのもこの句の好きなところです。

詠み尽くされたカレーをどう詠むか

 このように好きな10句を挙げましたが、彼らのようにカレーを句として新鮮に詠むのはとても難しいことだと思います。国民食として数多く詠まれてきただけに、新しく詠める側面がかなり減っている気がするんですよね。もちろん、これは他の題材にも言えることですが、カレーは特に「類想」に陥りやすい題材だと感じます。

 そこで意識したいのが、季節によるイメージの違いです。カレーは1年を通して親しまれる料理ですが、季節が変わるだけで、その魅力や受ける印象も大きく変化する不思議な題材です。以下に、四季それぞれにおけるカレーのイメージを記しておきます。

 🌞は、まさに「カレーの季節!」といった印象です。その日を生きるための「活力・エネルギーとしてのカレー!」といったイメージが強く、また、相性の良い季語も多い気がします。

 🍁になると雰囲気は変わり、「食を味わう」という文化的なイメージが前に出てきます。家庭のカレーというより、洋食屋でゆっくりと楽しむカレーを僕は想像します。夏と同じく、相性の良い季語が多い気がします。

 ⛄️は、やはり温もりが主役になる感じがします。寒さの中の憩いとして、一息つかせてくれる存在としてのカレーをイメージします。湯気がよく見え、匂いにも釣られる感じがあります。

 🌸は、これといったカレーのイメージが僕には思い浮かびません。「新生活!桜!明るい!」という感じの題材が多いためか、カレーと春の結びつきはあまり強くないように感じます。

 四季のなかでは比較的、がカレー俳句を作りやすい季節だと感じています。実際に自分で作ってみても、ほとんどが夏の句か秋の句になります。一方、で作るのは、なかなか難しいように感じます。その分、成功したときの句の飛び具合は大きそうですけどね。

 このように、四季によるカレーの印象の違いを意識することで、多少なりともカレー俳句は作りやすくなるはずです。僕は、まだまだカレー俳句の修行中ではありますが、句集を出すまでにはナンとしてでも良いカレー俳句を作りたいと思っています。自分の句でカレーの名句を持っていたら、カッコイイじゃないですか。

🍛さいごに🍛

 今回はカレー俳句について、自由に長々と書かせていただきました。キーボードで何十回も「カレー」と打つうちに、自分は今なにを書いてんだ?と分からなくなる瞬間もありましたが、最後までまとめることができた今、けっこう満足しています。今後、もっとカレー俳句に関する知識を貯めたら、第二弾の記事もいずれ書きたいと思っています。それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。充実したカレーライフを!

カレー特集ギョウザ特集半ズボン
本の如く夏のレトルトカレー積む
甚平着て器用にカレー食ふ男
葉桜のキッチンカーはスープカレー
エイプリルフールの国のチーズナン

堀内晴斗

【おまけ】また食べたいカレー3選

🍛新宿駅『咖喱屋ボングー NEWoMan新宿店』
▶︎「ビーフカレー」+「ハーブチキン3個」

🍛名古屋駅『タンドゥール』
▶︎「インドカレーとご飯 中辛」

🍛松坂屋名古屋店『サンマルコ』
▶︎「カツカレー」

【参考文献】
・ハウス食品グループ「日本のカレー カレーが国民食になるまでの歩み」https://housefoods.jp/data/curryhouse/know/trends01.html(2026年7月18日閲覧)
・PUBLIC RELATIONS OFFICE GOVERNMENT OF JAPAN「日本の味「カレーライス」の変遷」
https://www.gov-online.go.jp/hlj/ja/august_2025/august_2025-04.html(2026年7月18日閲覧)


堀内晴斗(ほりうちはると)
2006年愛知生。第16回石田波郷新人賞 準賞。「南風」所属。
誰が読んでも分かる俳句を書きます。俳人にはもちろん、俳句をやらない全ての人にも、句を読んで感動して欲しいからです。
E-mail:katsupan393939@gmail.com
X:@katsupan393939
note:https://note.com/joyous_liger9221

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