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炭酸ソーダのような恋

風まかせ文芸部の企画参加作品


俺は炭酸ソーダの缶を開けた。

プシュッ。

一口飲むと、炭酸が喉に刺さる。

今日も何百回、頭を下げたものか。

もう、頭を下げることが本能のように働いてやがる。

ちっ。
そんな人生とは、おさらばしたいぜ。
まったく。

夜9時過ぎの電車には、疲れた顔のサラリーマンが並んでいる。
酒を飲んだのか、座席に座ったまま寝ちまっているやつまでいる。

俺も同じようなもんか。

いつもの駅で降り、コンビニへ寄った。

炭酸ソーダ。
するめ。
おにぎり。

これが俺の最高の組み合わせだ。

マンションに着くと、入り口に女が立っていた。

俺は顔を見ないようにして、そのまま通り過ぎた。

「慎ちゃん」

俺は足を止めた。

久しぶりに、その名前で呼ばれた。

振り返ると、知らない女が俺を見ている。

ああ、きっと空耳だな。

俺はマンションのロックを解除しようと鍵を出した。

「慎ちゃん、あたしよ」

今度は、じっくり女の顔を見た。

長い髪。
少し透けたブラウスにジーンズ。

「俺のこと、知ってるのか?」

「もう私のこと忘れたの? ほら、よく見て」

俺は女の顔をじっと見た。

そして、思い出した。

「さくらちゃん……?」

高校時代、俺が憧れていた、さくらちゃんだ。

なんで、ここにいる?

連絡もなしに。

そもそも、なんで俺の住所を知ってる?

俺は考えた。

一日働いて疲れきった頭で考えられることを、全部考えた。

でも、分からなかった。

「さくらちゃん、なんで俺のとこ分かった?」

「うん。あんたの友だちに聞いた」

「俺の友だち?」

「ねぇ、私、お腹空いてるの。なんか食べさせて」

「さくらちゃん、俺の家に入るつもり? こんな夜に?」

「うん。今夜、泊めてくれへん?」

「さくらちゃん……俺も男やで」

「うん、知ってる」

知ってるって……。

俺は完全に、さくらちゃんのペースにはまり、そのまま二人でマンションの中へ入った。

「シャワー貸してな」

さくらちゃんは無防備すぎる。

俺かて男や。

しばらくすると、浴室から声がした。

「ねぇ、パジャマの代わりに何か貸して?」

俺の服まで借りるつもりか……。

俺は、きれいに洗濯してある服を選んで持っていった。

「ありがとう。なんか飲みたい」

俺は冷蔵庫から炭酸ソーダを取り出し、缶を開けて、さくらちゃんに渡した。

プシュッ。

風呂上がりの濡れた髪のまま、さくらちゃんは炭酸ソーダを飲んだ。

首筋を、一筋の汗が流れていく。

その汗が、俺の心臓を刺激した。

炭酸よりも強く。

その後のことは、よく覚えていない。

朝、目を覚ますと、
さくらちゃんはいなくなっていた。

「さくらちゃん?」

返事はない。

テーブルの上には、昨夜飲んでいた炭酸ソーダが残っていた。

俺はその缶を手に取り、一口飲んだ。

炭酸は、すっかり抜けていた。

昨夜の出来事まで、
泡のように消えてしまった気がした。

俺は空になった部屋で、
もう一度つぶやいた。

「さくらちゃん……」

答える声はなかった。

※この物語はフィクションです。

イラスト:ChatGPT


風まかせ文芸部のお題に書かせて頂きました。
iさん、よろしくお願いします。


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