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【note大学平和部×AI音楽コラボ部】短編小説・石ころのような僕でも




クリスマスの絶望


12月24日。

街は、光に溢れていた。

ビルの壁面を覆う巨大なイルミネーション。

赤、青、金色の光が、規則正しく明滅を繰り返す。

歩道には、カップルが肩を寄せ合って歩いている。

子供が、風船を持って笑っている。

デパートのショーウィンドウには、白いドレスを着たマネキンが立っている。

その足元に、プレゼントの箱が山積みされている。

「メリークリスマス!」

どこかから、声が聞こえる。

スピーカーから流れるクリスマスソング。

ジングルベルのリズムが、夜の街に響く。

レストランの窓からは、温かそうな光が漏れている。

テーブルを囲む家族。乾杯するグラス。笑い声。

僕は、その全てから取り残されていた。

人混みをすり抜けて、歩く。

誰も、僕を見ない。

透明人間みたいだ。

ポケットに手を突っ込む。財布には、300円しか入っていない。

両親は、5年前に交通事故で死んだ。

親戚はいない。施設で育った。

高校も出ていない。中卒だ。

バイトをしていた。コンビニで。

でも、レジの金額を間違えて、店長に怒鳴られて。

「お前、もう来なくていいよ」

そう言われた。

それが3日前。

アパートの家賃も払えない。

もう、どこにも行く場所がない。

橋に着いた。

川を渡る、古い橋。

欄干は錆びていて、ペンキが剥がれている。

下を覗き込む。

川の水面は、黒かった。

街の光が、水面に映っている。

でも、その光は揺れて、歪んで、まるで溶けているみたいだ。

水の流れる音が、聞こえる。

ゴウゴウと、低く唸るような音。

冷たい風が、顔を撫でる。

川の匂いがする。土と、錆と、何か腐ったような匂い。

欄干に、手をかけた。

金属の冷たさが、手のひらに伝わる。

ざらざらとした錆の感触。

一歩、足を踏み出せば。

全部、終わる。

痛みも、苦しみも、孤独も。

全部、消える。

足に、力を入れた。

体が、前に傾く。

水面が、近づいてくる。

黒い水。

吸い込まれそうな、闇。

「なにしてんのよ!」

声が、背後から響いた。

次の瞬間。

頭に、鈍い衝撃。

ゴツン、という音が、頭蓋骨に響く。

「いったっ!」

思わず、欄干から手を離す。

振り向くと、女の人がいた。

30歳前後だろうか。黒いスーツを着ている。

パンツスーツ。肩にかけた皮の鞄。

その鞄で、僕の頭を殴ったらしい。

女の人は、息を切らしていた。

「バカじゃないの、あんた」

声は、怒っていた。でも、震えていた。

「死ぬなら、もっと人のいないとこでやりなさいよ」

街灯の光が、女の人の顔を照らしている。

目が、大きい。でも、疲れている。

口紅は、少し落ちている。

「警察呼ばれたり、誰かのトラウマになったりするでしょうが」

「……すみません」

「謝ってどうすんの」

女の人が、僕の腕を掴んだ。

力が、強い。

「とりあえず、そこ降りて」

僕は、言われるまま、欄干から離れた。

足が、震えていた。

女の人は、ため息をついた。

白い息が、夜の空気に溶けた。

「お腹空いてるでしょ」

「……別に」

「嘘つき。顔に書いてある」

女の人が、歩き出す。

ヒールの音が、アスファルトを叩く。

コツ、コツ、コツ。

「ついてきなさい」

僕は、黙ってついていった。

背後で、クリスマスソングが、まだ流れている。

コンビニの灯り


近くのコンビニに着いた。

自動ドアが開く。ピンポーン、という電子音。

店内は、明るかった。

蛍光灯の白い光が、商品棚を照らしている。

冷蔵ケースのモーター音が、低く響いている。

女の人は、迷わず弁当コーナーへ向かった。

棚から、幕の内弁当を二つ取る。

それから、酒のコーナーへ。

ビールの缶を、6本つかむ。

レジへ向かう。

店員が、無表情でバーコードを読み取る。

ピッ、ピッ、ピッ。

機械的な音。

「1800円です」

女の人が、財布から1万円札を出す。

お釣りを受け取って、袋を持つ。

「行くわよ」

外に出る。冷たい風が、また吹く。

コンビニの駐車場。

街灯がひとつ。

その下に、車止めがある。

コンクリートのブロック。

女の人が、そこに腰を下ろした。

「座りなさい」

僕も、隣に座る。

アスファルトは、冷たかった。お尻に、冷気が伝わってくる。

女の人が、袋から弁当を取り出す。

ひとつを、僕に渡す。

「食べなさい」

「……いいんですか」

「いいから食べなさい」

女の人が、ビールの缶を開けた。

プシュッ。

炭酸が弾ける音。

その音が、妙に大きく聞こえた。

僕も、弁当の蓋を開けた。

湯気が、立ち上る。

白いご飯。焼き鮭。卵焼き。煮物。

湯気と一緒に、匂いが鼻をつく。

醤油の匂い。ご飯の匂い。

いつから、ちゃんとしたものを食べていなかっただろう。

箸を持つ。

手が、震えた。

「食べなさいよ」

女の人の声が、優しかった。

「……はい」

一口、ご飯を口に入れる。

噛む。

米の甘みが、口の中に広がる。

次に、鮭。

塩気が、舌に染みる。

涙が、出た。

ぽろぽろと、止まらない。

弁当の上に、涙が落ちる。

女の人は、何も言わなかった。

ただ、ビールを飲んでいた。

缶を傾けて、喉を鳴らす。

ゴクゴクという音。

それから、缶を下ろして、息を吐く。

「はぁ……」

しばらく、二人とも黙っていた。

風が、吹く。

コンビニの看板が、軋む音がする。

駐車場の隅に、自動販売機がある。

その明かりが、ぼんやりと光っている。

どこかで、車のエンジン音。

遠くで、笑い声。

でも、この駐車場は、静かだった。

女の人が、ぽつりと言った。

「生きてたらね、何度でも立ち上がれるのよ」

僕は、顔を上げた。

女の人は、空を見ていた。

街灯の光に、横顔が浮かび上がる。

「……そんなわけないです」

「そう?」

女の人が、僕を見た。

「あんた、ALSって病気知ってる?」

「知らない」

「私のお父さんがそうだったのよ」

女の人の声が、少し遠くなった。

視線が、また空に戻る。

「難病よ。意識はあるのに、全身の筋肉が動かせなくなって」

風が、女の人の髪を揺らす。

「最初はね、手が震えるの。箸が持てなくなる。それから、歩けなくなる。車椅子になる」

女の人が、ビールを口に運ぶ。

一気に、飲み干す。

「それでも、お父さんは笑ってた。『大丈夫だ』って」

缶を下ろす。

「でも、最後には」

声が、震えた。

「呼吸もできなくなって、死んだの」

僕は、息を呑んだ。

女の人が、また缶を口に運ぶ。

でも、もう中身はない。

缶を傾けても、何も出てこない。

女の人の手が、震えていた。

ふと。

缶が、女の人の手から滑り落ちた。

カラン。

乾いた音が、駐車場に響く。

缶が、アスファルトの上を転がる。

ゴロゴロゴロ。

止まる。

缶から、まだ少し残っていたビールがこぼれた。

アスファルトに、小さな水たまりができる。

街灯の光が、その水たまりに映る。

女の人は、それをじっと見ていた。

動かない。

まるで、時間が止まったみたいに。

「家族性ALSってね」

女の人の声が、ほとんど聞こえないくらい小さかった。

「遺伝するのよ」

僕は、女の人を見た。

女の人は、まだ水たまりを見つめている。

「私も」

その言葉が、夜の空気に溶けた。

「私も、なのよ」

時間が、止まった。

風も、止まった。

音が、消えた。

世界が、静止した。

僕は、何も言えなかった。

言葉が、出てこなかった。

女の人は、やっと僕を見た。

目が、濡れていた。

でも、泣いてはいなかった。

「半年前に、診断された」

女の人が、小さく笑った。

笑っているのに、悲しそうだった。

「あと何年生きられるか、わからない。10年かもしれないし、5年かもしれない」

「……」

「お父さんは5年だった」

女の人が、また空を見上げた。

空には、星がない。

街の光が明るすぎて、星が見えない。

「でもね」

女の人が、僕を見た。

「お父さんが死んだとき、思ったのよ」

その目が、まっすぐだった。

「生きてるだけで、意味があるって」

風が、また吹いた。

コンビニの看板が、また軋む。

こぼれたビールが、風に揺れた。

宇宙兄弟


女の人が、鞄から何かを取り出した。

漫画だ。

「宇宙兄弟って漫画、知ってる?」

唐突に、そう聞かれた。

「……アニメで、見たかも……」

「そう」

女の人が、漫画を見つめた。

その表紙には、二人の男が描かれている。

宇宙服を着た、二人。

「お父さんが好きだったの」

女の人の指が、表紙を撫でる。

「病室で、何度も読んでた」

「……」

「動けなくなっても、お父さんは本を読んでたの。私が、ページをめくってあげて」

女の人の声が、温かかった。

「お父さんね、言ってたの。『人間の可能性は、無限だ』って」

女の人が、僕を見た。

その目が、強かった。

「あんたさ」

「……はい」

「宇宙飛行士になって、宇宙に行って、この病気を治してよ」

「え」

僕は、目を見開いた。

女の人は、真剣だった。

「生きてるだけさ、なんだってできる。いくらだって挑戦できるんだから」

「でも、僕なんか……」

「『僕なんか』じゃないの」

女の人が、僕の肩を掴んだ。

その手が、震えている。

でも、力強い。

「あんたは、生きてる。それだけで、すごいことなのよ」

「……わかんないです」

「わからなくていい」

女の人が、手を離した。

「ただ、明日も生きてみなさい。それで十分」

女の人が立ち上がった。

ヒールの音。

コツ、コツ。

「私、真弓って言うの」

「……智です」

「智くん」

真弓さんが、僕を見下ろした。

街灯の光が、真弓さんの背後から差し込んでいる。

逆光で、顔がよく見えない。

でも、笑っているのがわかった。

「また会えるかしら」

「……わかりません」

「そっか」

真弓さんが、鞄を持ち直す。

「じゃあね」

そう言って、歩いて行った。

ヒールの音が、遠ざかっていく。

コツ、コツ、コツ。

やがて、聞こえなくなった。

僕は、弁当を見た。

まだ、半分残っている。

箸を持った。

そして、食べた。

今度は、味がわかった。

鮭の塩気。

卵焼きの甘さ。

煮物の出汁の味。

全部、味わいながら食べた。

食べ終わって、空になった弁当箱を見た。

それから、空を見上げた。

星は、見えない。

でも、その向こうに、宇宙がある。

真弓さんが言った。

宇宙に行け、と。

僕に、できるんだろうか。

わからない。

でも。

明日も、生きてみよう。

そう思った。


約束の言葉


あれから、どのくらい月日がすぎたのだろう。

何度も、面接に落ちた。

「学歴がね」

「年齢が」

「経験不足だ」

そう言われた。

でも、どうにか採用された倉庫で、必死に働いた。

寝る間も惜しんで、勉強した。

深夜、倉庫から帰ってくる。

体が、痛い。

足が、棒のようだ。

でも、机に向かう。

参考書を開く。

目が、かすむ。

時計を見ると、午前3時。

また5時には起きなければならない。

「僕は、生きている」

負けそうなとき、そう思った。

真弓さんを、思い出した。

あの日の川の暗さ。

黒い水面。

吸い込まれそうだった、闇。

ジングルベルの音。

街の喧騒。

コンビニの駐車場。

街灯の光。

卵焼きの味さえ、思い出せる。

甘くて、優しい味。

あの味が、僕を生かしてくれた。

高認試験に受かった。

次は、大学だ。

受験勉強を始めた。

予備校には行けない。

お金がない。

独学で、やるしかない。

図書館に通った。

参考書を借りた。

問題集を解いた。

わからないところは、何度も読んだ。

大学に合格した。

工学部。

航空宇宙工学科。

入学式の日、泣いた。

ここまで来られた。

真弓さん、ここまで来ましたよ。

でも、大学に通いだしても、決して順風満帆だったとは言わない。

それでも卒業して研究所に就職した。

航空宇宙医学の研究を続けた。

気づけば、33歳になっていた。

夕方の電車。

混んでいる。

立っている。

吊革につかまりながら、スマホを見ていた。

ニュースアプリを開く。

スクロールする。

政治のニュース。

経済のニュース。

芸能のニュース。

興味のない内容をただ目で追っていた僕に、ある文字が飛び込んできた。

「JAXA、宇宙飛行士候補者を募集」

その見出し。

体が、震えた。

心臓が、止まりそうになった。

記事を開く。

応募資格。

すべて、満たしている。

僕は、応募できる。

人のざわめきが、遠くなる。

電車の音も、聞こえない。

ただ、真弓さんの言葉だけが、リフレインする。

「宇宙飛行士になって、宇宙に行って、この病気を治してよ」

「生きてるだけさ、なんだってできる」

「いくらだって挑戦できるんだから」

その言葉が、頭の中で繰り返される。

何度も、何度も。

真弓さん。

真弓さん。

僕、ここまで来ましたよ。

涙が、出た。

止まらなかった。

人目も、気にせず。

電車の中で、立ったまま、泣いた。

周りの人が、見ている。

でも、構わない。

だって、生きているんだから。

僕は、生きている。

あの日、橋で死のうとした僕が。

真弓さんに助けられた僕が。

ここまで来た。

だから、僕の涙は、熱かった。

熱くて、止まらない涙。

スマホの画面が、涙で滲む。

でも、見える。

「JAXA、宇宙飛行士候補者を募集」

その文字が、輝いて見える。

真弓さん。

見てますか。

僕、挑戦します。

あなたとの約束、守ります。

何度でも、挑戦します。

諦めません。

石ころのような、ちっぽけな僕でも。

ここまで来られた。

僕は、生きている。



見上げた空
果てしなく広い
僕はここにいる

朝が来るたび 繰り返す日々の中で
何ができるんだろう
ちっぽけな僕に
でも諦めたくない
この手に掴んだもの

誰かの笑顔が 僕の力になる
小さな優しさが 繋がっていく
見えない糸で 結ばれている

石ころのようなちっぽけな僕でも
見つけたんだ、優しさを
喜びが重なって
いつか大きな山になることを 待っている

ありがとうに世界は包まれて
僕の悔しさも情けなさも消えていけ
涙は海に届くのさ
そしてまた空に帰るのさ
この星で生きている
それだけで意味がある

争いの絶えない
地球の片隅で 小さな声を上げる
届かないかもしれない
それでも歌うんだ 平和を願う歌を

傷ついた心も 憎しみの連鎖も
いつか終わりが来る 信じたいんだ
僕らの力で 変えられることを

一粒の雨でも 大地を潤すように
僕の想いも 誰かに届く
小さな一歩が 明日を作る

ありがとうに世界は包まれて
僕の悔しさも情けなさも消えていけ
涙は海に届くのさ そしてまた空に帰るのさ
この星で出会えた 奇跡を信じている

宇宙から見たら 国境なんて見えない
みんな同じ青い星で 生きている
なのにどうして 傷つけ合うんだろう

僕には何ができる?
武器も持たない 権力もない
でも持ってる 希望という名の光を
誰にも消させない

石ころのようなちっぽけな僕でも
諦めない、平和を 喜びが重なって
いつか大きな山になる その日を信じて

ありがとうに世界は包まれて
僕の悔しさも情けなさも消えていけ
涙は海に届くのさ そしてまた空に帰るのさ
繰り返す命の中で 僕がいた証を残す

小さな光でも 集まれば星になる
みんなの優しさが 平和を作る
僕はここにいる この星のために

ありがとう 生きているだけで


作者あとがき

短編小説「石ころのような僕でも」は2年前に書いたボツ作品でした。

ミイコさんと知り合い、「宇宙兄弟全国寄贈プロジェクト」を知り、もともと大好きだった宇宙兄弟を題材に小説を描きたかったのですが、ホラーとミステリ小説しか書いたことのなかったなぎには、どう書き終えていいのか分からなくなって放置していました。

平和部の部長のHIROMIさんとの会話でこの作品を思い出しました。

(この記事最高です!!)

そして、この作品から歌詞を書き、SUNOで楽曲にしてみました。
 
小説はこれから宇宙に行くという所までありましたが、全てカットしました。

「先は見えない」

「だけど、生きているだけで価値がある」

……そう思ったのでした。

不完全だから価値がある。

なぎにとってそんな作品になりました。

HIROMIさんとのやり取り、2人ともAI音楽コラボ部に参加してなければ、この小説はなぎのスマホの中で永遠に日の目をみることはなかったと思います。

HIROMIさん、ありがとうございます😊

クラさん、AI音楽コラボ部がなかったらこの歌を作らず、小説も完成しませんでした。

ありがとうございます✨


まだまだ伸び代しかない不完全ななぎ。

今日も生きて、熱い呼吸を繰り返します。

最後まで読んでくださってありがとうございます🍀

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