途中の一口|風まかせ文芸部
「ねぇ、何でいつも
ちょっと残すの?」
旦那がカップを指差す。
コーヒー、一口分が残っている。
「何でかと言われると、
何でかなぁ?」
「昔から一口残すんだよ。
で、“じゃあ行くか”の
タイミングで飲み干すの」
旦那は珍しいものを見るように、
私を見る。
「へえ…本当に最後の一口なんだ」
私はその最後の一口を飲む。
「“じゃあ行くか”の一口がない時って、
なんかズレるんだよ」
旦那「締め、かな?」
「そうだね。
切り替えみたいなもの」
旦那「コーヒーだからなの?」
「うん、主にコーヒーか紅茶。
ジュースでは…どうだったかな?」
自分の癖に気づいて、
ふと過去を辿る。
「ウチはお茶することが多くて、外から帰ったら、とりあえずお茶なんだよ。
何かやり終えると“お茶にしよっか〜”ってなってたから、それを切り上げる一口だったのかもね」
「座ると嫌になっちゃうもんな」
「お宅はどうだった?」
旦那「ウチは全然。
だから、この人よくお茶するなぁ
って思ってた」
旦那は笑いながら、
コーヒーカップを見つめる。
「食後のお茶もかかさないもんな」
私「あれしなかったら、ベッドに入ってもなんか残るんだよ。
今日、飲まなかったなって」
旦那「やっぱ、切り替えなんだよ」
子どもがやってくる。
「ママ〜、もうお茶の時間よ?」
小さな娘は食後に私がしていた
お茶会に、早々に参加を決めて
毎晩お誘いがある。
旦那「お茶する?」
子ども「パパはあっちに行ってて」
「ごめんねぇ、女子会なのよ」
旦那は肩を落としながら、
去っていく。
私「お茶のみ文化って
遺伝子と関係あるのかな」
「ママ〜、今日のお菓子は?」
ニコニコと手を繋ぐ子どもと
キッチンに行く。
手にとるクッキーを見て
2人で微笑む。
この楽しみは、なぜか娘と
分かち合える。
そして、数年後には娘のカップもまた、
一口残っているのかもしれない。
お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。
