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届かずとも、焦がれる┃風まかせ文芸部

遠くの夜空に花が咲く。

ドンという音は、花が散る雨の中に静かに響いた。

あの花々の下には、人々がひしめき合って、この熱帯夜を浮かれた気持ちで見上げているのだろうか。

人も虫も、灯りに群がる。

「……飛んで火に入る夏の虫、か」

昔は理解できなかった。

どうして蛾は燃える炎に身を焦がすのか。

それが本能と言われたら、それは逆らえない。

花火なんて数えるほどしか見ていない。 それなのに、この腹へ響く音だけは昔から知っていた気がする。

震えるスマホを開く。

“今日は行けない”

誘ってきたのはお前じゃないか。

丘の上でレジャーシートを広げて、アイスボックスにはビールが冷えている。

小さくても、静かなところで花火が見えると話したら、“行きたい”と言っていたのに。

待ち合わせ時間を過ぎてからのキャンセル。

さっきよりも大きな花が開く。

ドドンという音が重なって、胸を叩く。

…来ないような気がしていた。

それでも僅かな期待を抱いて来た。

気が変わって“やっぱり行く”という連絡が来ないかと期待を引きずって、すぐに立ち去ることができない。

アイスボックスから冷えたビールを取り出す。

「君の気まぐれに」

乾杯という言葉を飲み込んで花火にかざす。

ほろ苦い炭酸は何も流してはくれない。

「…俺も蛾だな」

分かっていても、その苦しみに胸を焦がす。

それが本能なら、抗いようがない。

遠くの夜空に花が咲く。

自分の気持ちが打ち上げられては散っていくように。

それでもまた見事な花を開かせては、人々の目を攫っていく。

恋なんて、そんなもの。


お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。




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