一杯の向こう側 -サケマルシェが訊く 陶芸家 中島智靖:酒器に息づく「枯色線紋」と哲学-
このシリーズ「一杯の向こう側」では、私たちサケマルシェが、奥深き酒の世界を探求していきます。
酒米の作り手、酒蔵の杜氏、そして酒の味わいをさらに引き立てる「器」の作り手など、様々な角度から酒の世界を紡ぐ方々を訪ねてお話を伺います。
今回の【前編】【後編】では、酒の世界に欠かせない存在である「器」に注目。
独自の作風で多くの人の心を惹きつける陶芸家・中島智靖氏にお話を伺いました。彼の作品は、土本来の力強さと繊細な表情が同居し、静かながらも確かな存在感を放っています。手にするたび、使うたびに表情を変えるような、発見があるような彼の器は、一体どのように生まれるのでしょうか。
そして、彼の作品を象徴する「枯色線紋(かれいろせんもん)」という特別な技法には、どのような哲学や奥深さが込められているのでしょうか? このシリーズ【前編】では、中島智靖氏へのインタビューを通して、その制作の根幹にある考え方や、作品に込められた特別な技法、そして知られざる哲学の世界に迫ります。器との出会いが、あなたの日常に温かい物語をもたらすかもしれません。

陶芸家・中島智靖氏とは? (作陶への道のり)
中島智靖氏が陶芸の道を志し、独自のスタイルを確立するまでには、どのような道のりがあったのでしょうか。
インタビューの中で、中島氏は「あんまり人と一緒の器は作りたくなかった」という強い思いが、作風の原点にあると語ります。
元々は「象嵌(ぞうがん)」と呼ばれる、模様を彫り込み別の土を埋め込む技法も試されていましたが、「そのやり方や他の人と一緒になっちゃう」と感じ、自分にしかできない表現を模索し始めました。
人と同じではなく、せっかく陶芸をやるからには「違う器を作りたい」。
その飽くなき探求心こそが、彼の「唯一無二」の作風、そして「枯色線紋」という特別な技法を生み出す原動力となっていきます。

インタビューで紐解く、中島智靖氏「唯一無二の作風」の核心
中島智靖氏の作品を手に取ると、土の温もり、独特の質感、そして吸い込まれるような模様に心が奪われます。その作風を形成する核となる要素を、インタビューからさらに深く掘り下げていきましょう。

作品の個性を決定づける「枯色線紋」という技法
中島氏の作品を語る上で欠かせないのが、「枯色線紋」と呼ばれる独自の技法です。これは、単に模様を描くのではなく、模様を描いた上にさらに別の土を乗せ、釉薬をかけずに高温で焼き締める「焼き締め」という方法を組み合わせることで生まれます。
この技法を選んだ理由について、中島氏は当初絵を描くのが苦手だったことに加え、「僕って分かるような絵の描き方で、かつなんか意味合いがあるような模様がいいかなと思ってやり出した」と語ります。単なる装飾ではなく、中島氏自身の個性と特別な意味合いが込められています。
そして中島氏はインタビューで、「そういう変化も楽しんでもらいつつ使ってもらえるのがいいなって思ってるのが、(枯色線紋の)始まりじゃないですか」と、この技法が生まれた根源を明かしています。
作品が時間と共に表情を変え、使い手にとっての発見や愛着につながるようにしたい、手にする人が、器の『生きている』変化を感じ取り、驚きを見つけられるようにという願いが、この唯一無二の技法を生み出す原動力だったのです。
特に、彼は筆を使って土(白い泥漿など)を塗ることにこだわりがあります。「筆で塗った方がグラデーションがつきやすい」からとのこと。外側に白い土、内側に黒っぽい土を使うことで、焼成後に白と黒の鮮やかなグラデーションが生まれ、作品に深みと動きを与えています。筆の運びによって土の厚みが変わり、それが焼成後の色の濃淡や凹凸となって現れるのも、この技法ならではの魅力です。

作品に宿る「動き」と「記憶」、そして特別な「出会い」の哲学
「枯色線紋」という技法に中島氏が込めた最も重要な意味合い、それは「陶器としての動きを焼いた後の陶器に残してあげたい」という哲学です。
「焼成前は粘土が動き、焼いている途中には火の揺らぎによって動きがある。でも、焼き上がってしまうと硬くて動かないものになってしまう」。
中島氏は、その生きた「動き」を作品の中に記憶させたいと考えているのです。彼の作品の模様が、まるで土や炎の軌跡のように見えるのは、こうした哲学が根底にあるからでしょう。
加えて興味深いのは、その模様の描き方にも、中島氏の体調や気分が反映されるという点です。「体調とかによって変わりますね...大胆に書いてる時はその体調がいい時とか、なんかナイーブになってる時とかやと、ちょっと細かいのが多かったりとか」。大胆な線から繊細な線まで、その時々の彼の内面的な動きや感情が作品に刻み込まれます。
この一つとして同じでない「揺らぎ」や「変化の記憶」は、まさにその作品が生まれた一瞬を閉じ込めたもの。
それは単なる制作の痕跡ではなく、作品との出会いそのものが特別な「一期一会」であることを象徴する個性となります。線紋の多寡や表情から、制作時の作者の息遣いや状態、そして土と向き合った時間を想像することができる――。
こうした側面もまた、作品の奥深さであり、使い込む中で見つけられる「発見」の一つとして、一つ一つの器との特別な縁として楽しんでほしいという中島氏の想いにつながっているのではないでしょうか。経年変化と共に、この「作者の気配」とも言える唯一無二の個性も、作品をより身近で愛おしい存在にしてくれます。

【第1部 まとめと第2部への予告】
この記事【前編】では、陶芸家・中島智靖氏の作品が持つ「唯一無二」の魅力の源泉に迫りました。「人と違うものを作りたい」という原点から生まれた独自の「枯色線紋」という技法。その技法に込められた、土や炎の「動き」を記憶させたいという哲学、そして作品との出会いを「一期一会」として大切にしてほしいという作家の深い思い。これらが一体となり、中島氏の作品に他のどこにもない奥深さを与えています。
単なるモノではない、物語と哲学を宿した中島氏の器。それでは、このユニークな器は、私たちの実際の暮らしの中で、どのようにその魅力を発揮するのでしょうか? 使い手は、この器からどのような喜びや楽しみを見出すことができるのでしょうか?
続く【後編】では、器としての「使い心地」や「機能性」といった実用的な魅力、そして使い込むほどに深まる「経年変化」の楽しみに焦点を当てます。さらには、作家自身が最もやりがいを感じるという「窯出し」のエピソード、そしてこの特別な器とあなたが出会うための方法(サケマルシェでの購入方法など)を具体的にご紹介します。
