【上田】レトロな劇場・上田映劇
前回:【上田】レトロな喫茶店に、読書はよく合う 亜羅琲珈(あらびか)のホットサンド
いわゆるミニシアターと呼ばれる映画館がある。
「観客動員数◯◯万人突破!」とか「興行成績◯億円突破!」みたいは派手さはないけれど、観る者の心に、何かしらの波紋を残してくれるタイプの映画を上映してくれることが多い。

大学時代など、背伸びしたいお年頃の時は、ちょっとイキってそういう映画館に足を運んだこともある。
そんなミニシアターが、上田にはある。
しかも佇まいに味わいがある。
「浅草キッド」や劇団ひとりの「青天の霹靂」などで、ロケ地として使われるほどだ。
前を通るたび、
「渋いなあ……」
と、心惹かれるものがあった。

実は、わたしが出した青春小説「上田娘は動画で生きる」にも、この上田映劇をモデルにした映画館を出したシーンが、あった。
過去形なのは、そのシーンがボツになったからだ。
まあ……ボツになってよかった。
なにしろ、執筆時には、まだ一度も中へ入ったことがなかったから。
ちゃんとした取材もなしに描くのは、やはり不誠実だったと思う。
ただ、いつかはこの上田映劇をモデルに、青春小説を書けたらいいな……という想いがある。
◯
そんな上田映劇さんで、ついに映画を観る機会を得た。
いざ、中へ入ると、
「うわあ……」
そのレトロな雰囲気に、たちまち魅了された。
新しい映画館にはない、全体的に柔らかで暖かい雰囲気だ。
そこかしこに、スタッフさん達の愛情を感じる。
売店には書籍を扱う一角がある。
恐縮ながら、わたしの「上田娘」も扱ってくれている。
スタッフの方が「3〜4冊ほど出ましたよ」と言ってくれた。
書店ではない環境なのに、それだけ買ってくださった方々がいるのは、とても嬉しい。
わたしは「まちの映画館 踊るマサラシネマ」という本を購入した。
町の小さな映画館は、閉館するかどうかの崖っぷちで奮闘している──そんな一冊だ。

◯
上田映劇さんで選んだのは〔ガール・ウィズ・ニードル〕という映画。
第一次世界大戦を背景として、実際にあった殺人事件を元にした物語だ。
意味は「お針子さん」だが、直訳気味に解釈すると「針を持つ少女」となって、なにやら猟奇的な香りがただよう。
前編をモノクロで撮影したその物語は、戦争と貧困を軸に、人の良心が問われる出来事に見舞われ続ける。
ネタバレを避けつつ、わたしが抱いた想いを言うならば……。
その殺人鬼となった人物は、心の奥底に、ある種の善良さがあったからこそ、そんな凶行に及ぶしかなかったのではないか、という気がしてならない。
世の中の矛盾と無力を解決するためには、自分の手を汚すしかなかったのじゃないか……と。
解釈は、いくらでもできる。
ただ、最後まで真に善良さを保ち続けていたのは、主人公の夫だったと思う。
蔑まれ、忌み嫌われる存在になってもなお、彼の心根は優しく、厳しい現状と試練を受け入れつづけていた。
◯
大学時代の、いろいろと背伸びをしていた頃の自分を思い出しつつ、
(いい映画を観たな……)
そんな感慨にしびれながら、外へ出る。
外の世界は、溶けてしまいそうなほどの熱暑が待ち構えていた。
◯
さて、いよいよ帰宅態勢に。
人に勧められた〔鯉西〕で鰻を食べてみるのもよいけれど、同行の家族は、
「でっかいトンカツが食べたいな……」
となると〔六文銭〕に決まりだ。
今から向かえば、ちょうど開店時間になるし。
……と張り切ってみたものの、
「今日は、テイクアウトしか扱ってないんですよ」
そんなバカな……!
「それなら、洋食の〔倉坂〕でどうだ! ここからほど近いし」
洋食屋さんなら、カツレツもあるかもしれない。
前回は予約客の関係で入れなかったけれど、今度こそは……いや、念のために電話をしてみよう。
「すみませんね、今日は予約客で満席なんです」
こうなれば、やはり〔鯉西〕へ行くか……。
いや、もはや我が口はトンカツ系になりきっている。
上田の美味しい店リストを睨みながら、最終的に決めたのは……。
「キッチンカルラさんですか。今日はやってます? ……あ、では今から行きます!」
ネット情報は、あてにならない。結局は電話確認するのが一番確実だ。

食べるべきメニューは、レアで揚げたビーフカツレツに決まりだ。
焼き塩や山葵醤油で食べるのだ。
スープはおかわり自由。
小ぢんまりしたお店でカツを堪能し、外へ出ると、雨模様になっていた。
道中、まあ、ゆっくり帰ればいいや。




