【上田】なじみすぎて、旅行というより、もはや帰宅 別所温泉・上松や
いつか書きたいと思っている歴史人物がいる。
全国的にはあまりに知名度がないけれど、
「書きたいと思っています」
とわたしが熱く語ると、とある人が、こう励ましてくださった。
「坂本龍馬だって、司馬遼太郎が書くまではマイナーだったから」
ありがたい……や、待って。それって、司馬遼太郎なみにすごいのを書けってこと……?
無謀な夢想はともかくとして、いつか小説に書かせていただくことをお伝えすべく、ご本人のお墓参りへ。
上田市街にある、月窓寺。
曹洞宗の寺院である。
まるで竜宮城のような門をくぐって、墓地へ。
前にここへ来た時、付き合ってくれた友達も墓石の位置を探してくれて、見事、見つけ出してくれたものだった。
「あったよー、のどかさーーん、こっちこっち!」
や、友達って、ありがたい。

今回もスーパーのツルヤの駐車場に停めさせてもらい、まずは花屋さんでお花を買う。
すぐ裏手の月窓寺へお邪魔して、お花をそなえ、
「あなたのことを、書かせてください……」
と手をあわせる。
……ちゃんと、魅力を伝えるような物語を、書けるといいな。
○
何かあった時には、そして特に何もなくても、やたらと行きたくなるのが、別所温泉・上松や。
上松やさんのことは、ことあるごとにこの「旅と美味美味」に登場しているので、いっそ、上田のことも含めて、タイトルを「上田の美味美味」に変えちゃった方がいいのではないか、とさえ悩んでいる。
上田の美味しいものを紹介しつつ、たまーに、他のものも食べて書く。
や、冗談だけどね。
今回の上松やさん訪問は、特別な意味を持つ。
なにしろ歴史小説でのデビューも決まって、そのお祝いなのだから。
入り口をくぐった途端、
「おめでとうございます」
の洗礼をうける。
嬉しいし、何より気恥ずかしい。
そのうち、原稿をかかえたまま上松やさんへ飛び込んで、執筆などをしてみたい。
もう、文豪気取りの文豪ごっこだ。
でも、これにはメリットがある。
チェックインしたら、まずは原稿。それを終わらせなければ、お風呂もご飯もおあずけなのだ。
必死になるし、超絶集中力も発揮できるに違いない。
そんな夢想はともかくとして……。
夕食は、いつもより豪華に「プレミアム会席プラン」だ。
信州産プレミアムりんご和牛の石焼がメインディッシュになるのだ。
しかも、もっと豪勢に、ジビエの鹿肉たたきもオプションで付けた。
クセがなく、脂も少なく、赤身の旨みがこもった、さっぱり風味の肉だ。

一品一品を噛み締める。
「これは、頑張ってきたことへのご褒美なんだなあ……」
いつも美味しい上松やさんの食事が、さらに何割もアップする。



なおかつ、甘酒つきだ。
これは支配人さんの心遣いなのだ。
3種類ある中で、
「やっぱり信州なので、りんご味っしょ」
一気には飲まない。
食事を終えた後も、ちびちびと舐めるように味わうのだ。

○
夜。
二度目のお風呂。
二種類あるお風呂のうち「大浴場ろくもん」の、赤い「陶器風呂さなだゆ」につかると、真上には柿の木の枝が生い茂っている。
秋になれば、これに赤い実をつけるが、今はまだ青々とした大きな葉っぱが拡がっているばかり。
……と思って、よくよく目を凝らしてみると、
「なんか、葉っぱの間に青いのがくっついてる」
小さな柿の実だった。
青くて小さく、そして硬い実だ。
まだ駆け出しの、どんなふうに熟すのかもわからない我が身を見るような気持ちで、じっとそれらの実を眺め続けた。
まあ、こんなこと考えるあたり、ほんと青いなー、て思うけどね。
……つづく


