【noteでBL】いつの間にかドラゴンに追いかけられていた ~異世界転移して旅を始めることになりました~
まえがき
企画に参加させていただきます!この度も素敵な企画ありがとうございました✨
なぜか異世界転移を書いていました。
☆あらすじ
・ジャンル 異世界転移
目が覚めたらドラゴンに追いかけられていた……
鞘見伊積(さやみいせき)ーーイセキは突出した部分のない平凡なフリーター。いつの間にか突如巨大なドラゴンに追いかけられてしまっていた。あまりのパニックで頭の中では片想いのラブソングが流れていた。
目の前には崖ーー後ろから迫ってくるドラゴン。絶対絶命の危機が迫るイセキ颯爽と救ってくれたのは美形の旅人、エルト・ランドルトであった。イセはエルトと共に夜を過ごすことになるが……。
才能豊か美形旅人×趣味なし・特技なし・スキルなしド平凡(25歳)
特技も何も特にないイセキが異世界を旅して自分のやりたいことを見つけていく話(になるのかもしれない)
本文
お題 桃色片想い・旅・今そこにある危機
(約4600文字)
「うわぁああああああ……!」
今、鞘見伊積(さやみいせき)――イセキの身にとてつもない危機が走っていた。恐怖と焦りが混ざった表情を浮かべながら、坂道を下っていた。靴下越しに足裏に伝わり、走る度に激しい砂煙が立ち、固い地面を靴下で走る痛みが伝わる。イセキはちらちらと後ろを眺める。後ろから迫ってきていたのは、巨大なドラゴンであった。ファンタジー作品やアニメに出てきそうな巨大なドラゴン。
成人済みのイセキの身体を丸のみ出来てしまいそうなくらいに巨大な、アニメや映画でしか見ないようなドラゴンが追いかけてきていたのである。
どうしてこうなったのか全く分からない。目が覚めたらイセキはドラゴンに追いかけられていたのだ。もちろん最初は夢を疑った。けれども足裏に伝わる感覚が、後ろから聞こえてくる咆吼が、嫌というほどに「これが夢ではない」と訴えていたのであった。現に今、走っている感覚も、身体に当たる風も、嫌という程に現実のものであった。着ている服も昨日の夜、寝る前に身につけていた、ジャージとインナーのタートルネックで、その着ている感覚がしっかりある。
これまでのことを思い出そうとしても、あまりのパニックで全くも思いだせなかった。その代わりに、頭の中、防衛本能のようなものが働いていたのか、頭の中をぐるぐると回っていたのは夜、夕飯の買い物に行った時に流れていた曲。その店では懐かしの曲から流行の曲まで流れている。その時流れていたのは片想いのときめきを歌った有名な曲だ。可愛らしい歌詞が散りばめられたポップな曲。この状況とあまりにも不似合いなその曲が頭の中を延々と流れていたのだ。あまりにも危機的状況のために脳が走馬灯のようにこれまでのことを思い出すことも出来ないのかもしれない。
かわいらしい曲の歌詞と共に彼は必死に走った。しかし、ドラゴンは後ろから追いかけて来る。地面を揺らすような激しいドラゴンの足音。その足音はさらに速度を増していった。反対にイセキの足の動きは疲労と恐怖で鈍くなっていく。目の前は崖になっていた。ドラゴンに食べられるか、崖から落ちるか、の二択しかイセキには残されていなかった。
そして、イセキの背中のすぐ側、巨大なドラゴンの吐息と唾液混じりの口を開く音が聞こえてきた。そのまま、諦めたように目を閉じた。
もう、終わりだ……。
享年25歳。もしも自分が死んだら次は異世界転生してとてつもなく強いスキルを手にして、ドラゴンをばったばったとなぎ倒したい。いや、もう異世界に来ているか……。そんなことを考えながら、
瞬間、身体が宙に浮かぶ。
……。これが天に昇っていくという感覚……。死んだのか……。でも、幽体離脱、にしては先ほどと感覚が地続きな気がするし、食べられる痛み、もない……。
イセキは恐る恐る瞼を開けた。
「えっ……?」
気がつくとイセキは空を飛んでいた。目の前に広がるのは青空と夕暮れか、夜明け、か。橙色と紫色の混ざった空の色。激しく流れる滝、崖、広大な森……。動画の世界で見たような、自然いっぱいの広大な世界が広がっていた。視界の端に先ほど追いかけていたであろうドラゴンが見える。空を飛んで、その危機を脱出したのだと思った。けれども、どうして空を?
視線をほんの少し動かした。すると、横抱きにされた状態で空を飛んでいたことが分かった。横抱きにしている人間と目が合った。自身よりも背の高い、それでいて綺麗な顔をした男性に横抱きにされながら空を飛んでいた。綺麗な顔の男性は何かを持って空を飛んでいた。凧やカイトのような何か、であった。日本にはない何か、だ。
そして、イセキと彼の視線が合った。彼は、大丈夫だ、と言い聞かせるような柔らかな視線を向けている。怖い、という感覚は全くなく、イセキは横抱きのまま空を飛んでいた。
そのまま、安定した動きで美形の男性は地面に降り立った。何もない坂を超えてそのまま森の中へと入っていった。横抱きにされていたから分からなかったものの、彼は大きなリュックサックのようなカバンを軽々と背負っていた。
「あ、ありがとうございます……」
日本語で礼を口にしたイセキ。きょとん、とした彼。彼も何か言葉を話した。けれどその言葉は英語でも日本語でもない耳慣れない言葉。一言二言、目の前の美形の彼は喋るもその声は日本語には聞こえてこなかった。
彼は、何かを察したように、大きな荷物の中から、イヤリングのようなものをこちらに差し出した。そしてぽんぽん、と指で耳に付けるように口にする。
「僕の言葉がわかる?」
「は、はい……!」
途端に、魔法のように、彼の言葉がきちんと意味を持って耳に入ってきた。不思議だ。すると目の前の彼は全て納得がいったような顔をする。
「突然にごめんね。これは魔力がこもった不思議な道具でね。これを使うと知らない言語を読んだり話したり出来るようになるんだ」
「す、すごいですね……
「え、えっと……。あ、あなたは……、一体」
「僕は、エルト・ランドルト。旅人だよ。君は?」
「え、えっと…、サヤミ イセキです。イセキ、って読んでください」
「イセキ、か……」
イセキが名前を口にすると、エルトの表情が少し険しくなって、そのまま視線が下ろされた。
イセキも同じ動きで視線をおろす。足裏に痛みを感じる。靴下に血が滲んでいた。先ほどドラゴンから逃げていて、気づかなかったけれども足裏に随分とダメージが走っていたみたいだ。意識をすると急に痛みが走り、思わずイセキは顔を歪めてしまった。
「大丈夫? 少し待っていて欲しいんだ」
そのまま、エルトが呪文のようなものを唱える。すると、彼の足裏の痛みは一瞬で引いてしまったのだ。痛みが引く、というよりは、何事もなかったかのように痛みが消えてしまった。
「痛みはないかい?」
「は、はい……」
自身に起こったことを眺めながら思う。やっぱり俺は、魔法の世界に来てしまったようだ、と。信じられないながらも、これまで起こったことを思い出すと、そして、夢ではない、という感覚を味わうと、そうでしかなかった。
――
いつしか夜になって、イセキは森の中、エルトと共に野営することになった。
ここの時間経過、では夜のようだった。澄んだ空。キラキラとまたたく星がいくつもある。けれども月はなかった。
「あ、ありがとうございました……。いろいろ……」
「ううん。大丈夫。……そういえば、君はどこから来たんだい?」
「そ、その……、多分、日本、という国から……。その、朝、目を覚ましたら、急にドラゴンに追いかけられていたんです……」
エルトは少し首をかしげた後、「君も異界から来たのか……」と呟いた。日本が異界、ということは、やはりここは「異世界」と呼ばれる場所なのかもしれない。
エルトのその言葉で、イセキはやはり自身が異世界に来てしまった、ということを感じた。
「急に? それじゃあ、何か魔法を使った、とか……」
「いえ、特に、何も……。昨日、バイトのシフト、えっと……短期の仕事に入って」
「そうか……」
そのままエルトはリュックサックの中を軽く探り、本を取り出した。
エルトはパラパラとページをめくっていき、真ん中辺りのページでそれが止まる。するとイセキの目の前できらきらと何かが舞い、画面のようなものが現われた。スマートフォンを使っていた時に表示された、異世界漫画の中でよく出て来るスキルが書いてある画面のようなもの。先ほどのイヤリングがあったから、そこに書いてあるものははっきりと読み取ることが出来た。
漫画やアニメ、であればここに桁違いの数値や特別なスキル名が書かれているのかもしれない。ほんの少しの期待感を味わいながら、イセキは画面を眺める。
「……」
驚きも、悲しくも何もない感情がイセキの中に出て来る。まるで、学生時代の成績表を見ているような感覚になってしまった。全部が本当に平均値もしくは平均値以下。スキル欄にほんの少し、お情けのように元のスペックよりも若干丈夫、ということが書かれていた。
「なかなか珍しいね」
「というのは……」
「この世界に異界から来る人は、何かしらの特技だったり能力、を持っていることが多いんだ。けれども、君はそういう能力が一切なくて、珍しいと思ってね……」
エルトが言いたいこと、それは異世界転移や転生でよく題材となる「チート能力」だったり「すごいスキル」のことなのかもしれない。
「……そうですか」
まあ、予想はしていた。日本にいた時も特になんの特技も取り柄もない人間であったから。この世界でもすごい能力がある、ではないと思った。けれども、やはりショックがゼロ、というわけではない。魔法がある異世界に来た、からにはやはり何かしらの特別な能力が欲しい、と思ってしまったから。
思わずイセキは小さくため息をついてしまった。
「そんなに気を落とさなくてもいいさ」
「え……?」
「何もない、ということは、そこに詰め込めるものがたくさんある、ということだからね。僕も、昔は魔法が使えなかったし」
柔らかな笑みをエルトは浮かべていた。先ほどは「美形だ」という言葉しか出てこなかったものの、改めてみたらとてつもない美しい顔立ちをしている。柔らかな、それこそ月のような輝きの金髪。澄んだ夜空のような濃い青空のような瞳。美しい、いと言わずしてどう現わすのだろうか、というほどの美しさだった。
「そうだ、もしよかったら、手伝って欲しいことがあるんだ」
「手伝って欲しいこと、ですか?」
「うん、僕と一緒に旅をして欲しいんだ」
「旅、ですか……?」
「そう。僕は旅人。けれどもその中でいろんなことをしている。誰かの困りごとを解決したり、とか。珍しいものを集めたり、とかね。ある種の目的のない旅、とも言えるかもしれない。そういう旅をしているんだけれども、もしよかったら、君にもその旅に同行して欲しい、と思ってね」
「そ、それは、嬉しんですけれども、ど、どうして俺が……」
先ほど何もなかったところを二人で見た。役に立つ立たないではなくもう完全に足手まとい、という感じだろう。けれどもどうして。そんな想いがイセキの中に走っていたのだ。
戸惑うイセキに対してエルトは柔らかく微笑みかける。
「この世界で、君にとって何か素敵なものが見つかるかもしれない。その時の君が何を得て、そしてどんな顔をしているのか、気になったんだ」
瞬間、イセキの心臓に今まで味わったことのない感覚が走っていた。ドラゴンに追いかけられていた時の恐怖の激しい心拍ともまた違う。人生の中で可愛らしい子やクラスの人気者に憧れる気持ち、はあった。けれども、それを同性の相手に対して抱くとは思わなかった。
これは、先ほど頭の中で流れていた片想いの曲の影響か、それとも「吊り橋効果」が今来たのか、わからなかった。
「さあ、今日は遅いから休んで。疲れただろう」
「は、はい……」
柔らかな声。どこか安心するような心地で、イセキは眠りに就いた。
次の日の朝。イセキはエルトに着いて旅に出ることになった。
「ありがとうございます。服まで……」
「僕のおさがり、で申し訳ないけれど」
「い、いえ……! ありがたいです……!」
イセキはエルトのお下がりを身につけていた。昨日身につけていたタートルネックとジャージではこの世界を歩くのは危ない、ということで、対魔法対毒etc.な服をエルトにもらったのだ。お下がり、と言ってもほぼ新品同然、サイズがほんの少し大きいくらいで不便は全くない
「さあ、行こうか」
「は、はい……!」
そしてイセキの冒険が始まったのであった。
(続くかもしれないし続かないかもしれない)
