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過失運転致死傷罪における横断歩道と自転車の関係

交通事故解説動画(0711)への疑義と補足。

事案は、岐阜県瑞穂市、交通整理のされていない横断歩道併設交差点での自動車対自転車事故。
報道リンクは末尾参照。


はじめに

指摘対象の動画は以下のとおり。動画主様の最近の動画は、細かい誤りが点在するように含まれており、すべてを指摘しているときりがない状況にある。

今回は、横断歩道と自転車との関係が、刑事過失の観点でどのように扱われるのかを中心に見ていこうと思う。


事故態様

はじめに事故の態様を概説しておく。

交差点の状況は、優先道路と突き当たり路との丁字路。事故態様は、優先道路走行の自動車と、丁字路入口に併設された横断歩道で横断する自転車との衝突事故。

自動車から見て、横断歩道右方に駐車場出入口があり、歩行者の不存在が確認できないため、道交法38条1項前段の安全速度接近義務が課される状況。

約30m手前における右方5mの見通し状況
約30m手前における右方5mの見通し状況
約30m手前の位置
約30m手前における右方5mの見通し状況(上空図)
※ 2026/7/14修正

動画との照らし合わせ

テロップのなかに以下の説明がある。

責任判断のポイント
双方の速度・位置関係が、刑事責任と過失割合を左右する。

上記の動画 3:51 テロップ

テロップに記載されている内容を見ても、刑事責任という観点においては、的外れな観点か、無関係な観点か、曖昧すぎる観点しか見られない。各要素に対する観点説明を加えると、以下となる。

最大の争点:車側が発見・減速・停止で回避できたか。
 → ずれている。安全速度接近義務が中核である。
横断開始時の安全確認、自転車横断帯の有無が重要。
 → 刑事責任には関係しない
双方の速度・位置関係が、刑事責任と過失割合を左右する。
 → 正しいとも言い得るが、あまりにも具体性に欠ける。

上記の動画 3:51 テロップ + それぞれの説明の対する見解

刑事過失を考えるうえでは、注意義務違反とは何かを理解する必要がある。
詳細は以下の記事にまとめてあるところ、この記事ではざっくり解説する。

注意義務違反とは「普通の人であれば当然に履行する注意義務を怠ること」を指し、そのような注意義務違反のうち、事故が不可避となる直前の段階におけるものが、事故に対する刑事過失と扱われる。

これさえやっておけば事故にならなかった注意義務(①)があり、
そして、それを行うことは普通の人には可能であるが(②)、
それを怠ったために(③)事故となった、ということである。

補足
①は、直近過失論の観点を指す。
②は、通常人を前提に結果予見義務と結果回避義務を判断することを指す。
③は、通常人には可能なことを、当該人が怠ったこと、それによって死傷事故を起こしたことを以って刑責を科すという、過失犯一般の構図を指す。

さて、動画主様は東京高判平22.5.25をテロップに記している(13:10)。
過失運転致死傷罪における横断歩道と自転車の関係は、この裁判で示される観点が重要である。東京高判平22.5.25の要旨は以下のとおりである。

 上記東京高裁平成22年5月25日判決(確定:公刊物未掲載)は、この点について、「道路交通法38条1項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。」旨判示し、さらに、「多くの自転車が歩行者と同様に自転車横断帯の設置されていない横断歩道を利用して横断しているのが交通の実情である。このような交通の実情を踏まえれば、歩行者はもちろん、歩行者の通行を妨げることのない場合に徐行して自転車が横断歩道を利用して道路を横断するかもしれない、と予見することは十分に可能である。したがって、進路前方の交通整理の行われていない交差点に横断歩道がある場合には、適宜速度を調整し、横断歩道による歩行者及び自転車の有無並びにその安全を確認して進行するべき注意義務が認められる。」旨判示している。……

自動車事故犯罪事実作成実務必携 第3版』721頁

歩行者等がいないことが明らかでないかぎり、横断歩道手前の停止線で停止可能な速度域まで減速する義務(安全速度接近義務)が生じる。記事上部で示したとおり、今回の事故状況において、安全速度接近義務が課される。

このとき、横断歩道における法38条1項の保護対象、歩行者と重なる範囲で、横断歩道を利用する交通実態のある自転車に対しても、横断歩道に接近する自動車運転者には同様の注意義務が課されるということである。

そして、安全速度接近義務を履行していれば、事故を回避することは多くの場合に可能(結果回避可能性あり)なのだから、この不履行がそのまま、過失内容となる。

交通整理のされていない、横断歩道併設交差点において、直進車同士の自動車×自転車の事故では、法38条1項前段相当の注意義務が過失内容となることが一般的であることは、『自動車事故犯罪事実作成実務必携 第3版』の第5‐2編の犯罪事実記載例からも窺える。

 (前提状況)
被疑者は、○年○月○日○時○分頃、普通乗用自動車を運転し、○○先の交通整理の行われていない交差点を○○方面から○○方面に向かい直進するに当たり、

(状況)
同交差点入口には横断歩道が設けられていたのであるから、

(注意義務、懈怠)
前方左右を注視し、同横断歩道による横断歩行者等の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、

(過失内容)
前方左右を注視せず、同横断歩道による横断歩行者等の有無及びその安全を十分確認しないまま漫然時速約○キロメートルで進行した過失により、

(結果)
折から同横断歩道上を右方から左方に向かい横断進行してきた○○(当時○○歳)運転の自転車(に気付かず|を右前方約○メートルの地点に認めて急制動の措置を講じたが間に合わず)、

自動車事故犯罪事実作成実務必携 第3版』の記載例444、445、446をベースに記載

東京高判平22.5.25を正しく読みとけば、法38条1項の保護は自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではないが、過失運転致死傷罪における注意義務を考えるうえでは、対歩行者の注意義務と同等の注意義務が、対自転車にも課されることが分かる。

動画に戻ると、自転車の速度が小走りを超えるような爆走状態の場合には、上記の論が成り立たなくなることはあり得る。その意味において、「双方の速度・位置関係が、刑事責任と過失割合を左右する。」(3:51)とも言い得る。しかしながら、上記のような詳細説明なしに、この一文で「刑事責任」を適切に説明できているとは言い難いだろう。

他の場所には以下の説明がある。

通常の横断歩道を自転車に乗ったまま横断していた場合、38条は歩行者事故と同じ基準では判断しない点が重要。

上記の動画 11:42 テロップ

どういう意味で重要と解説しているのかよく分からないところであるが、

前節に記したとおり、歩行者であっても自転車であっても、刑事責任、注意義務、過失内容としては基本的に、違いは生じない。

ただし民事過失は別の話になる。そこまで保護されるわけではないどころか、優先道路通行車への進行妨害という要素が強く現れる。

刑事と民事の区別を示さずに「38条は歩行者事故と同じ基準では判断しない」(11:42)と説明するのは雑である。もっと言えば、そもそも道路交通法という括りで解説することが、刑事と民事、両者の区別を曖昧にした解説となっている根本原因といえる。


報道リンク


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